大丈夫。
君は可愛い。
きっと、うまくいく。

…結局、口先ばかりで。
俺が彼女にしてやれたプロデュースは、そんな妄言を吐き散らすだけのくだらないものだった。




俺が283プロでアイドルのプロデューサーを初めて、もうそろそろ駆け出しの文字が取れる頃になってからだった。
アイドルにしてくださいと迫る、七草にちかという少女に出会ったのは。
見せられた彼女のパフォーマンスは一言で言うのなら、平凡だった。
見様見真似で、自己流で、素人っぽくて。
けれど、アイドルへの憧れと懸命さは伝わってきて。
後日。迷った末に、俺は彼女の姉の反対を押し切り面倒を見る事に決めた。
WINGが優勝できなければ諦めさせる。
その制約を架されて。


……意識して担当アイドルよりも自分の能力を評価した事は誓って一度もないが。
今思えば、心のどこか、ほんのわずかに自惚れがあったのかもしれない。
今の自分のプロデューサーとしての能力なら大丈夫だと。
多くのアイドルを送り出してきた自分なら…この少女もきっと、と。


結果だけ言えば、俺は彼女に殆ど何もしてやれなかった。
レッスンがうまくいかず思い悩む彼女に指標となる言葉も与えられず。
時に彼女が自分にぶつかって来ても諌める事も向き合うこともできず。
ただただ、七草にちかという平凡な少女が過酷な現実に擦り切れていくのを隣で見ているだけしか、できなかった。

しかし、それでもにちかは独りで戦い続けた。
彼女は聡い少女だ
きっと、誰も心の底から彼女に期待していなかったのには気づいていただろう。或いは、彼女自身すら。
それでも彼女はステージから逃げなかった。そして、結果を出し続けた。


彼女が文字通り命を燃やして抗い続けてもまだ、俺は彼女の力を信じる事ができなかった。
八雲なみというかつての伝説に憧れ、苦し気に模倣を繰り返す彼女とどうしても向き合うことができなかったのだ。
寄り添う事も、突き放す事もできず、歪な関係は続いた。
運命の岐路となる、WING本戦まで。


そして、にちかは敗れた。
あと一歩の所で優勝を逃した。
だが、あと一歩と言っても敗北は敗北。
アイドルの道を諦めねばならない。その約束だった。


此処でようやく俺は動くことができた。
君はアイドルになれると。君の姉は必ず俺が説得すると。君は最高のアイドルだと。
そう告げるつもりだった。
何もかも、遅きに失したとも知らないで。

彼女が、自らのシューズをゴミ箱に捨てる姿を見るまでは。


……その先の事はよく覚えていない。
だが、俺は事務所を去るにちかの背中を魂が抜けたように見送っていたらしい。
そして、俺は彼女が去ってから、以前にも増してプロデュース業に熱を入れるようになった。
休日など一日とて要らなかった。疲れなど知らなかった。
ただ、七草にちかという名前から逃げる様に日々の仕事にまい進した。
そうすればきっと苦くも己の糧となった過去になる。そう信じていた。


だが、いつからか、俺の見る風景はどんどんとくすんで、色を喪っていた。
今までは鮮やかに思えた街並みも、セピア色になり、灰色の世界へ変わっていく。
プロデュースするアイドル達は変わらず鮮明だったが、以前とは違いその輝きは網膜を灼くギラギラとした毒々しいものに思えてならなかった。
まるで呪いの様に、俺は他のアイドルとも向き合う事ができなくなっていく。


それでも何とか取り繕って日々を過ごしたが―――崩壊は呆気なく訪れた。
283プロダクション唯一の事務員であり、にちかの姉であった七草はづきが倒れたのだ。
病院に緊急搬送された先で社長と共に医師から聞いた言葉は、過労の上に相当な心労が祟ったらしい。
臓器の働きが弱っており、暫く入院しなければならないとのことだった。


後日、社長と共に見舞いに訪問した時、彼女は虚ろな瞳で茫洋と天井を見上げていた。
そして彼女の口から、にちかが失踪したと聞いたのはその直後の事だった。
まるで神隠しにあった様に消え失せ、今も見つかっていないらしい。
『夢を見て、ごめんなさい』
その書置きだけが残されていたそうだ。
語るうちに、はづきさんは泣いていた。
紛れもなく、妹を追い詰めた自身への悔恨と絶望に彩られた涙だった。
そして、彼女は妹の名を呼びながら謝罪し続けた。
…いつも優秀で朗らかな彼女が見せる、初めての涙だった。


影響が出たのは、はづきさんだけではなかった。
俺が尊敬する社長も、かなりの精神的ショックを受けたらしい。
にちかとはづきさんの父親と親友だったと言うのは聞かされていたため、そこまで驚きはなかった。
しかし親友の娘を二人とも壊してしまった自責の念は、彼の肩に重くのしかかった。
そして、はづきさんがこなしていた仕事量は俺や社長がどれだけ身を粉にしても埋めるのは不可能だった。
283プロダクションが機能麻痺に陥ったのはその直ぐ後の事だ。
―――この事務所はしばらくの間、活動を休止する。
そう俺や所属するアイドル達に告げる彼の背中は、いつもより酷く小さく見えた。


彼女たちにとって、そのロスがどれだけの混乱と遅れになるのは理解していた。
何しろ、進学を控えた子もいるのだから。
それでも…俺は止められなかった。
機械になったように淡々と仕事をこなし、既に入っていた分の仕事を消化し、或いは断った。
キャンセルの連絡を入れる際契約先のなじる様な言葉も、謝罪し続ける俺にはなにも響かなかった。


所属するアイドル達は本当に聡い子ばかりで、一様に不安そうな表情をしつつも俺を、283プロを信じてくれた。
また変わらずすぐに活動できる様になる。
そんな俺自身信じていない俺の言葉を、多少の問答はあったが皆最後には信じてくれた。
だだ、彼女たちが自分に抱いてくれていた信頼を利用した様な、べったりとした後味の悪さだけが俺の胸中を満たしていた。


そして、事務所が休止して以降、俺はずっとにちかを…彼女を探し続けた。
日中夜を問わず、彼女が向かいそうなCDショップやホテルを虱潰しに探す日々。
手がかりさえ得られず、時間はただ無為に過ぎていく。
結局、見つけることはできず、七草にちかは本当の意味で彼女が憧れていた『八雲なみ』になった。
少なくない数のファンを得ながら、独りでは抱えきれない悲しみを抱き姿を消したアイドルに。




―――俺は一体、何がしたかったのだろう。そればかりを、考える。
護りたかったものはもう、無くなってしまったと分かっているのに。
色の喪った世界で、彼女から逃げる様にプロデュースをしていたくせに。
何もかもが手遅れになった今になって、無意味に彼女を探して。

何ともまぁ、
惨めで
滑稽で
つまらない話だ。


…けれど、話はこれで締めくくられない。




弱いやつが嫌いだ。
弱いやつはすぐに人を頼る。醜い。辛抱が足りない。
大切な人が持っている力を、信じてやれない。

殺してしまおうと思った。
こんな弱い男、喰う価値もない。そう、思っていた筈なのに。





一人の青年がいた。
青年は罪人だった。
病気の父親のために盗みを繰り返したが、救えなかった。
それでも青年はとある武術の師範と出会い、心を、行いを入れ替えていく。


そして、青年は病床に伏せていた師の娘さえ救って見せた。
未来すら想像できなかった少女が未来を望める様になって。
…そして二人は結ばれる。
きっと、お互いを支え合って生きていくのだろう。
その予想を裏付ける様に、力強く青年は言葉を紡いでいく。


―――はい、俺は誰よりも強くなって、一生貴方を護ります。


その時、あぁ。そう言う事なのかと想った。
何故、俺が彼女をプロデュースしようと思ったのか。
俺は、きっと彼女に。七草にちかに。
幸せになってもらいたかったのだ。
ようやく…理解することができた。


それが俺がマスターとして目覚める直前に見た一幕。
苦難を乗り越えハッピーエンドに到達した、とある青年の記録。


そして、その事を俺に教えてくれた青年は今、聖杯が用意した自室で、目の前にいる。
風貌は大分変わっていたが間違いない。培ってきた自分の審美眼がそう告げている。
界聖杯を巡る聖杯戦争。願いを叶えるための戦い。
事態はまだあまり呑み込めていないが…失われた時を求める手段が、目の前にある。
ならば、手を伸ばさない選択肢は、今の俺には存在しなかった。


頭を下げ、祈るように俺は聖杯を目指す協力を求めた。
この青年なら、彼女を幸せにしてやれた彼とならば、きっと戦い抜けるはずだと、信じていた。
青年は複雑そうな顔で俺をじっと見つめて、そして俺に告げた。


―――あぁ、分かった。マスター、と。


望んでいた筈の言葉を告げる彼の顔は、何故か酷く悲しげに見えた。



【クラス】ランサー
【真名】猗窩座
【出典】鬼滅の刃
【パラメーター】
筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:D 宝具:C

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】

対魔力:C
魔術詠唱が二節以下の魔術を無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】

反骨の相(鬼):A 
かつてランサーが死に際に見せた呪縛の開放を象徴するスキル。
鬼種が放つ「カリスマ」を無効化する。

無窮の武練:B 
いついかなる状況においても体得した武の技術が劣化しない。
ランサーは人間の頃においても素手で人間を殺戮せしめる武術の達人だった。

戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、首を落されない限り、或いは首を落とされても生き延びる。

鬼種の魔:A
鬼の異能および魔性を表すスキル。
鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキルで、ランサーの場合魔力放出は"闘気"となる。

捕食行動:A
人間を捕食する鬼の性質がスキルに昇華されたもの。
魂喰いを行う際に肉体も同時に喰らうことで、魔力の供給量を飛躍的に伸ばすことができる。
猗窩座の捕食対象は主に男性。男を喰った場合は若干だが供給量が上昇する。

【宝具】
『上弦の参』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大補足:1~2人
 多くの人間を喰らい、命尽きるその瞬間まで人に恐怖を与え続けた"上弦の参"の肉体そのもの。
 非常に高い再生能力を持ち、急所である頸を切り落とす以外の手段で滅ぼすのは非常に困難。
 本来であれば"日輪刀"で頸を落とす必要があるが、英霊の座に登録されたことにより弱点が広範化。
 宝具級の神秘を持つ武装であれば何であれ、頸を落として鬼を滅ぼせるようになっている。
 またランサーは"血鬼術"と呼ばれる独自の異能を行使することができ、相手の闘気の視認が可能となる羅針、自身の鬼の身体能力を飛躍的に向上させる破壊殺を組み合わせた技で戦う。
 しかし欠点として日光を浴びると肉体が焼け焦げ、浴び続ければ灰になって消滅してしまう。
 このため太陽の属性を持つ宝具、それどころかただの太陽光でさえ致命傷になり得る。

【weapon】
鍛え上げた己の肉体。

【人物背景】
鬼舞辻無惨配下の精鋭、十二鬼月。“上弦の参”の数字を与えられた最上位の鬼。
事実、百年以上にも渡って上弦の座を不動のものとしている鬼であり、過去には鬼殺隊最高位である“柱”を幾人も葬ってきている。
強者との闘争を好む武闘派であり、武器や搦手を用いずに正面から敵に挑む戦い方をする。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを成就させる。


【マスター】
プロデューサー@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
七草にちかを、幸せにするための仕事をする。

【能力・技能】
20人以上のアイドルを輝かせてきた非常に高いレベルの審美眼とコミュニケーション能力及びプロデュース能力。

【人物背景】
アイドルマスターシャイニーカラーズ」における、プロデューサー。
推定年齢20代後半でありながら高いプロデュース能力を有しており二十人以上のアイドルをアイドルの登龍門である「WING」優勝に導いてきた名プロデューサー。
たった一人の少女を除いて。

【方針】
界聖杯の獲得に向けて動く。

【備考】
七草にちかシナリオ、WING決勝敗退ルートより参戦です。

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最終更新:2021年09月27日 15:37