破滅とは転がり落ちる雪玉のような、と。
かつて何処かで聞いたことがある。
雪玉は斜面の雪を纏い、やがては巨大な塊に成長を遂げ、最後は全てを押し流す雪崩へと変じる。
時の経過という"雪"を食らい、肥え太っていく不可抗力。
食い止めるのは、早いに越したことはない。
だが、誰もが始まりの時点では看過する。
雪玉の小ささを侮り、致命の種を斜面へと解き放ってしまうのだ。
七草にちかの住まうアパートの一室に集まった面々は、事態の推移が自分たちの想定をはるかに超えていることを否応なく理解させられていた。
その表情は皆、固い。二人のにちかは元より、
田中摩美々は猶更であった。平時ならばからかい上手の裏側で他者を気遣う優しい笑みを浮かべる彼女は、しかしそんな余裕を全て取り払われたように、思い詰めた顔をしているのだった。
田中摩美々からもたらされた情報、すなわち彼女のサーヴァントであるアサシンとの念話内容は、それだけの重みが存在した。
状況が芳しくない、どころの話ではない。
端的に言おう。絶望的状況である。
自分たちの側でも、現状を察して余りある情報は入ってきていた。
プロデューサーの拉致から始まり、その当人からの声明。更にはDOCTOR.Kを名乗る人物からのリーク。283プロは四面楚歌に陥り、果ては襲撃者の魔の手が今まさに自分たちに迫りつつあるという事実。
盤面の加速が余りにも速過ぎる。それこそ、つい先日まで市井を生きた少女たちが順応できない程度には。
(アサシンの話では、協力者が襲撃を受けたということだったが)
東京都内における戦火の足音はここまで聞こえている。夕刻の新宿事変に続き、直近で言えば豊島区での大規模破壊。否応なく耳に入ってくる情報だけでこの有様であるならば、小中規模の戦闘や駆け引きに至ってはどれほどの数になるのか。
あらゆる感情を度外視して言おう。ここに集った面々、283プロの陣営はあまりにも"遅かった"。
取るべき選択を間違え、優先すべき事項をはき違えた。大局的な事実のみを羅列すれば、きっとそのような答えになる。
たとえそこに、少女たちの譲れぬ想いがあったのだとしても。
彼女らがこれから先の人生を歩むに際して、決して避けては通れぬ道であったのだとしても。
世界はそんなものを勘案しない。ドラマの有無は運命に寄与しない。力とは物質が起こす事象であればこそ、世界とは子供でも分かる単純な法理によって運営される。
曰く、力のない者は死に方さえ選べない。
蜘蛛の巣は風雨に容易く引き千切られる。智慧を巡らせた権謀とて、力に劣れば屏風の虎に終わる。戦場に努力賞なんてものは存在しない。力という単純な足し算の領域で、自分たちは最初から未来などありはしなかったのだと。
───そんな道理を認められなかったから、自分は境界線を進んだのだ。
「情報を整理しよう。現状自分たちと敵対関係にある陣営はグラスチルドレン、皮下医院、峰津院の三つになる。それぞれ別個に対処しなきゃいけないけど、まず目下の脅威としてはグラスチルドレンになるな。プロデューサーを事実上の人質として提示してきた陣営になるわけだが、アサシン経由のざっくりとした陣営評価以上の詳細情報がないから、送られてきたメッセージの内容から凡その人物像をプロファイリングして」
「ライダーさん」
遮るように、アシュレイのマスターである七草にちかの声。
「それ、意味、あるんですか?」
絞り出すような声音だった。
顔色は、悪い。俯きながらも目は開かれて、ぎゅっと握りしめた拳に視線を落としているのだった。
「殺しに、来てるんですよね。もうすぐそこまで。じゃあこんなこと、してる場合じゃないでしょ。
無駄なんですよ。こいつらにだって言われたじゃないですか、無駄な努力だって……」
「ああ、そのメッセージは無視していい。完全な感情論でぶちまけただけだろうから、単なるノイズとして処理可能だよ」
へ?とにちか。アシュレイは努めて柔らかな表情を心掛けながら、言葉を続ける。
「俺達への精神的な削りを入れるなら、端的に事実だけを羅列すれば済む。それだけ切迫した状況なのは確かだしな。
それでもこんな煽りを入れてきたのは、このメッセージの送り主が加虐趣味の持ち主か、あるいはそれが有効手段だと認識してる人間だってことになる。
文言から読み取れる感情は嫌悪と自己陶酔。もっと根深い憎悪や、あるいは組織的対立から生じる必要手段じゃない、表面的な欲求と感情から出た反射的な言葉だよ。
正直最初はそういうブラフかとも思ったんだが、仮にも殺し屋っていうビジネスを束ねる組織の長がやるにしては稚拙すぎて、なんか素でやってそうというか」
多分協力者的な立ち位置の人間なんだろうな、と締め括り。にちかはぽかんとした表情でこちらを見つめていた。
七草にちかは、我がマスターながら中々難儀な性格をしている。あるいは思春期の少年少女は案外こういうものなのかもしれないが、ともかく彼女は相手の言葉尻を捕らえてしまう悪癖があった。相手を傷つけたいとかマウント取りたいというわけではなく、自己嫌悪や不安といった感情を上手く処理できずに他人へ出力してしまうというものではあるのだが。
だからこういう時は、まず不安を取り除いてあげるといい。
彼女が不安に思う根拠を潰し、感情の落としどころを作ってあげる。この際大事なのは、決して嘘やごまかしは言わず事実のみを伝えること。彼女は自分で思っている以上に聡い。下手なごまかしはすぐ見抜いてくるし、そうした不義理は別に彼女に限ったことではなく人間関係においては不和の元だ。時として優しい嘘も必要だろうが、少なくともそれは今ではなかった。真実のみを並べ立て、多少言葉を飾ってやれば、にちかはそれで納得できる。それだけの客観性を、彼女は有しているのだ。
あと実際に、この手の輩というのは本当にたくさん存在するのだということもある。
いわゆる野次馬やクレーマーと同類の人種という奴で、多数票の討議を行う際に必ず一定数存在するのだ。ある意味、最も「普通の人間」に近いと言っていいかもしれない。
そしてこの手の人種は、実のところ交渉相手としては楽である場合が多い。良くも悪くも感情と利己で動くため、落としどころと利益を提示すれば意外と話になるのだ。
本当に厄介な相手とは、逆に一切の加虐がないタイプだ。不要に痛めつけることがない代わり、容赦も躊躇もなく、根本的にこちらの話を聞かないどころか、対等な相手として認識してすらいないタイプの人種は、実に厄介なタイプと言える。交渉の場に引きずり出す、ということ自体が非常に難しいのだ。
そして、得てしてそのタイプの人間は、普遍的な利潤や誠意ではなく、当人自身の価値観による「何か」を重んじる傾向にある。それは例えば力であったり、正しさであったり、生来の立場であったりする。まず顔を合わせて言葉を交わす以前に、相手は一体何を重視しているのか。まずそれを見極めなければ、そしてそれを用意できなければ、言論による攻略はまず不可能と言っていい。
あるいは峰津院やグラスチルドレンの長がそうしたタイプの人間なのかもしれないな、と。そこまで考えて。
「結局のところ、なるようにしかならないんですよ。ならやれることはやっとかなきゃ」
臆面もなくこういうことを言えるこの子は、本当にたくましいな、と感じた。
アーチャーのマスターであるところの七草にちかは、テーブルの上で頬杖をついて、真顔のまま言い切ってみせた。やや険のある表情。しかしそれは自分たちへの敵意や悪意ではなく、単純に状況の悪化に対するものであることが分かる。
余裕がある、というよりは悲観的な状況に慣れていた、と言ったほうが正しいか。先ほど七草はづきからの連絡があった際も、こちらのにちかが碌に対応できなかったのを見かねて、簡潔ながらもメールの返事を代筆していたくらいだ。
観客・七草にちかの経歴について、アシュレイたちも簡単にではあるが聞き及んでいた。アイドルになるという夢に破れた、だけではない。母が死に、姉が死に、全てを失った。偶像・七草にちかにはあった出会いすら、彼女にはなかった。
悲劇だ。そうとしか言いようがない。それは紛れもない事実であり、最早変えようのない過去だ。
哀しみは癒えていないだろう。悔いも痛みも当然ある。大きすぎる喪失は影を落として消えることはない。
それでも、彼女は立ち上がった。歯を食いしばり前を向いた。現実を受け止めて当人なりに納得した。諦観や自棄の側面も当然あるだろうが、彼女の有する「苦難への適応」という強かさは、そうした過去に由来するものなのだろう。
……市井に生きる幼い少女が手にするには、あまりに悲しい強さではあったが。
「ぎゃーぎゃー言っても起きたことは変わらないんですから。建設的な意見が言えないならせめてお口チャックしててもらえませんかねー?」
「……あーもー! イヤミな正論ありがとうございますー! おかげで落ち込んでる暇もなくなりましたよ!」
「そういえば田中さん、アサシンから何か追加で情報は来てないか?」
すったもんだと言い合って頬を膨らませる自分のマスターを宥めながら、摩美々へ振り替える。
彼女は瞼を伏せ、どこかに聞き耳を立てるようにしていた。それが今ここにはいないアサシンとの念話であることは察せられた。
「……んー。特にはありませんよー。けどぉ」
声音が、いくらか柔らかいものになっていた。
静かに目を開け、答える彼女の表情が、最初に会った時と同じ、優しさを感じさせるものになっていることに、アシュレイは気づいた。
「アサシンさんも、肩の荷がちょっと降りたみたいですー」
「……そっか。それは良かった」
揶揄ではなく、忌憚なく、心から素直にそう言えた。
摩美々が言うアサシンの心境の変化が、どのようなものかは分からないが。
そして絶望的な状況にも変わりはないが、けれど。田中摩美々が「そう」と言えるだけのことが、きっとアサシンにあったのだろう。
ならばそれは歓迎すべきことであり、あるいは好転の一助でもあるのだ。
精神論は万事に通じる魔法の言葉ではないが、状況に呑まれてしまうようでは勝てる戦いも勝てなくなってしまうのだから。
「というか、アーチャーさんは何やってるんです? さっきから全然姿が見えないんですけど」
「ああ、彼には少し手伝ってもらってることが───」
だが、和やかな空気は長く続かない。
ここは東京内界、聖杯戦争の表舞台。血で血を洗う戦場であり、力なきものは無慈悲に狩られる非情の都であるのだから。
それは突然のことだった。
電灯に照らされたアパートの一室、突如として破砕音が鳴り響いた。
窓、玄関、そして壁。四方を囲むような形で突っ込んできた「それら」は、物理的な障壁を苦も無く破壊して、すさまじい速度で部屋の中へと雪崩れ込んできたのだ。
少女たちは反応できない。何があったのか、突然すぎて姿を見ることさえ。
そして、押し入ったそれらが、手にした長物を振り上げようとした、瞬間。
部屋が、爆発した。
◇
「な、ななな、な……」
ぷるぷると、小動物のように震えながらにちか(準決勝敗退)が声まで震わせていた。
「なんなんですかあれはー!」
勢いよく、背後に向かってびしっと指をさす。そこには、上半分を派手に吹っ飛ばして吹き曝しとなったアパートが、派手に大火をあげているのだった。
燃えていた。アパートが、派手に。
轟々と燃え盛る赤い炎が、漆黒の夜天によく映えていた。
「アーチャーと相談しててさ。俺の星辰光を利用して即席の地雷原、というか感知式のトラップを仕込めないかって話してたんだ。早速役に立ったようで何よりだよ」
「そうじゃなくて! いや間違ってませんけど、でもですねぇ!」
「ああ、もちろんあっちの七草さんには許可を取ってあるし、付属性の応用でマスターたちには無害だから安心してくれ。電車でやったバックドラフトみたいな感じだ」
「やだー! あれもうやだー!」
事のあらましはこうだ。いきなり誰かが押し入ってきたと思ったら、部屋が爆発した。ものすごい眩しくてものすごい五月蠅かったので目と耳が数瞬利かなくなって前後不覚となり、あれよという間に抱きかかえられて2階から地面にダイブ。そして今に至るというわけだ。
残る二人も無事である。にちか(正論がうざいほう)と摩美々も、ようやく目と耳が慣れてきたのか「うぅん……」と呻きながら目の焦点を合わせていく。にちか(今まさに暴挙かました野郎のマスターやってるほう)は、前に一回同じようなことをやられたからほんの少しだけ復帰が早かったというわけである。
「だが、彼らは一体……」
と、燃える大火の中から飛び出てくる複数の影による攻撃───手にした槍による刺突や薙ぎ払い───を刀で切り払い、あるいは蹴り飛ばして無力化しながら、アシュレイは呟く。
人の形をしていたが、明らかに人間ではなかった。背丈はおよそ小学生程度か、身長に倍する長槍を用い、言葉なくこちらの命を刈り取ろうと刃を振るう様は、まるでパニックホラー映画のクリーチャーめいた不気味さがあった。
一体、二体と切り伏せ、しかし個の力では敵わぬならば数で押し切ると言わんばかりに、次々と新たな影がそこかしこから飛び出してくる。そのうちのいくらかは仕掛けられた罠───アシュレイの爆縮星辰光以外にも、圧力鍋を利用した爆弾やら、ワイヤートラップやらがところ狭しと仕掛けられていた。アーチャーの努力の賜物である───に引っかかり自滅していたが、それでもトラップを切り抜けた数体が四人へと斬りかかり……
大上段に振り上げられた槍が振るわれるより先に、その頭部に衝撃を受けて後ろへ吹っ飛んでいくのだった。
「無事だったか、マスター」
「え、アーチャーさん……?」
かけられた声に、彼のマスターであるにちかが振り返ると、そこには今まさに銃弾を放ったのであろう、ライフルの銃口から硝煙をあげて佇むアーチャーの姿があった。
が、困惑の声はそこに起因したものではなかった。アーチャーはどこから持ってきたのか、やたら武骨な大型バイクに跨り、車体を傾けて片足を地面につけた状態でライフルを構えていたのだった。
「え、それどうしたんですかアーチャーさん」
「アサシンが用立てた奴だ。それより状況は」
「正体不明の襲撃者複数。サーヴァントの気配なし、魔力反応あり。似たような姿が複数個体確認されてるから、恐らく使い魔に相当する連中だろう」
会話の間にも新たに出現し、あるいは起き上がってくる襲撃者に淡々と銃弾と刃を浴びせながら、二人は端的な情報交換を実施する。発砲音と剣戟の甲高い音が夜の住宅街に鳴り響き、炎に照らされていることも相まって、その一帯はさながら中東の戦場めいた惨状となっていた。
「アサシンの言っていた襲撃か。悠長に合流を待つのは無理だな。よし、乗れマスター」
「わ、ちょ」
言うが早いか、アーチャーは自分のマスターの手を引くと、そのまま自分の前部分に跨らせる。「田中さんも」という指示に従って、更に摩美々がアーチャーの後ろに座る。
「これから強引にアサシンたちと合流する。悪いがアサシンと念話のチャンネルを繋げて、リアルタイムで俺に指示を出してほしい。厳しそうなら俺達の座標と方向だけあちらに伝えてくれ」
「……まぁ、そうなりますよねー」
摩美々はそのまま無言でアーチャーの腰に手を回し、アシュレイもまた己のマスターであるにちかに歩み寄る。
あ、嫌な予感。
「そういうことで、マスターは俺と一緒に行こうな」
「あ、やっぱり」
言うが早いかアシュレイはにちかを横抱きにし、そのまま勢いよく地を蹴った。上方向への凄まじい加速がかかり、思わず目を瞑った次の瞬間には浮遊感、からの落下に伴う感覚が文字通りに肝を冷やす不快感と共ににちかに襲い来る。
「うわーーーーー!!! うぎゃーーーーーーー!!! ぎゃーーーーーーーーー!!!!」
「舌を噛むから、あまり喋らないほうがいいぞ」
言ってるは分かるんだけど、でもこの状況に文句の一つも言いたくなる気持ちだってわかってほしかった。
端的に言おう。絶叫系アトラクションなんか目じゃないくらいにヤバイ。
にちかは今、アシュレイに抱きかかえられる形で彼にしがみつきながら、民家の屋根から屋根へと凄まじい速度で飛び移り、疾走する形となっているのだった。ジェットコースターなんかの乗り物と違って、小回りが利くからかかる負担は凄いし、足場も悪いってレベルじゃないのがまた乗り心地の悪さに拍車をかけていた。
とはいえ、残る二人のように大型バイクに乗って、というのも天国というわけじゃないことは、彼女にも察することができていた。夜に駆ける羽目になったにちかの視界には、今まさに急発進したバイクの姿が映っていたが、出された速度が明らかにおかしかった。言うまでもないが、ここは住宅街のど真ん中であり、細い路地が入り組んでいる都市構造をしている。真っすぐな大通りではないのだ。にも関わらず、アーチャーは初速から既にトップギアをかけ、数秒も経つ頃には時速にして100㎞を超える速度を叩き出していたのだ。そんな速度で細い道を爆速で通り抜け、曲がり角を何度も何度も急カーブで切り抜けていくのは如何なドライブテクニックの為せる技なのか。機甲猟兵のサーヴァントである彼は、当然ながら軍用車両の扱いにも精通しており、そういった側面からライダークラスの適性も有しているのだろう。ステータスの額面上には現れない騎乗スキルやサーヴァント化に際する技能向上の恩恵を受けているのだった。とはいえ相乗りしてる二人にとってはまさしく最悪のドライブだろう。摩美々に至っては振り下ろされないようにするだけで精一杯なはずだ。この状況でナビゲートまでしろというのは、流石に酷というものじゃなかろうか。
けれど、そうも言ってられないのも事実であり……尚も迫る襲撃者たちが、アシュレイとメロウに追いつけずその姿が遠くなっていくのが見えた。だがそれも本当にぎりぎりのところであり、あと少しでも速度が遅ければ、持つ槍の切っ先が引っかかっていたかもしれない。
それでも、逃げ切れた。このまま距離を開け、撒いた後にアサシンたちと合流する───そんな希望がすぐそこまで見えていた。
だから、アトラクションもかくやの移動に叫びたい気持ちとは別に、安心のようなものがあった。むしろそうした安堵があるから、高揚して叫びたがったのかもしれない。
……破滅とは転がり落ちる雪玉のような、と。
どうして、忘れていたのだろう。
雪玉は斜面の雪を纏い、やがては巨大な塊に成長を遂げ、最後は全てを押し流す雪崩へと変じる。
時の経過という"雪"を食らい、肥え太っていく不可抗力。
食い止めるのは、早いに越したことはない。
だが、誰もが始まりの時点では看過する。
雪玉の小ささを侮り、致命の種を斜面へと解き放ってしまうのだ。
依然絶体絶命の状況であることに変わりはないのに。
目の前の危機を脱しようとしているだけで、どこか安心してしまった。
だから、それは必然の破滅だったのだ。
「見つけたぞ、羽虫共」
───世界から、音と光が消し飛んだ。
◇
何が起きたのか、分からなかった。
勢いよく投げ出されて、地面に転がって、手も足も頭も思いっきりぶつけながら吹っ飛んで。
目も耳も全然利かなくて、痛む全身を抱えてよろよろと起き上がったにちかは、状況を理解するまでにそれなりの時間を要した。
霞む視界が徐々に戻りつつある中、ようやく悟ったのは、また同じことがあったということ。爆発。けれど先ほどのそれとは違い、自分たちを気遣うような付属性(やさしさ)は一切ない、剣呑なものであるということ。
攻撃を受けたのだ。
その事実を、およそ現実味のない思考に叩き込まれながら、にちかはようやくの再起を果たす。
「ライダー、さん……?」
彼は、自分の前方にいた。膝立ちに蹲り、しかし刀は構えたまま真っすぐ前を見据えている。
ふと視線を横にやれば、そこには同じく巻き込まれたであろう摩美々ともう一人のにちかの姿。どうやら大きな傷はなさそうで、既に立ち上がっているが、場を離れようとはしていない。アーチャーが斃れているのだ。塀に頭を打ち付けたように、夥しい量の鮮血をばら撒いて、壁に寄り掛かるようにして斃れていた。恐らく二人を庇った結果なのだろう、彼女らの必死で叫ぶ声が、ここまで木霊するように聞こえてきた。
そして。
それらを見下ろすように立つ、黒衣の男。
───それを、にちかは『悪魔』と認識した。
少女は、自分の視線の向こうに仁王立つそれを、ただ一言、『悪魔』であると認識した。
心を圧し潰し、息が詰まるほど、暗く巨大な空洞が如き夜闇の中央に、それは君臨していた。
それは人の姿をしていた。偉丈夫と呼ぶに相応しい屈強な体躯をしていたが、形は人間だった。
だが違う。これが人間であるはずがない。発せられる圧と気配が、明らかに非現実のそれであった。
瞼を閉じてもそこに在ると容易に分かり、はっきりと輪郭を描けてしまうほどに強い存在圧。ただそこにいるだけで、こちらの心臓を握りつぶしてしまうかと思えてしまうような、圧倒的な威風。その、"銃砲火器を備えた長大な戦列を一人に凝縮したような"異様極まる気配を持つ男が、まさか人間であるはずもないのだ。
悪魔。
七草にちかの拙い語彙と知識と直感は、辛うじて悪魔としか表現できなかった。
ベルゼバブという、男の真名も知らぬまま、にちかは彼をそう認識したのだ。
「こちらに戦闘の意思はない、お前は、───ッ!?」
焦燥の色を含んだライダーの言を、一切聞かぬとばかりに男は動く。にちかの眼には、男の姿が一瞬にして掻き消えたようにしか見えなかったが、実際それは貫手を放つための攻撃動作であった。ライダーは辛うじてそれを認識し、炎を纏わせた刀身を盾のように射線上へ滑り込ませた。回避が間に合わないがための、苦肉の防御策であったが、しかし。
「がッ、ァあ……」
「………………………は?」
ライダーの背から血に濡れた手刀が突き出した光景に、にちかは呆けたような声をあげることしかできなかった。
それはあまりにも単純な話だった。男の手刀が、ライダーの剣を一方的に粉砕し、その先の胴体を豆腐か何かのように刺し貫いたのだ。柔いはずの人体が硬質の金属を逆に打ち砕くという不条理。ずるり、と引き抜かれた男の腕はライダー自身の血で真っ赤に染まり、支えを失ったライダーの肉体は、最早声なく力なく、無情にも地に落ちるのだった。
二撃。
たったの二撃で、七草にちかたちの陣営は崩壊した。
蹂躙どころの話ではない。力に差がありすぎて、そもそも戦闘として成立さえしていなかった。
「なに、これ……」
「下らぬ」
初めて男が口を開いた。その気配と同じく、重厚で威厳さえある声音であった。
びくりとにちかが身を震わせ、畏怖と恐慌の眼差しを向けるが、それを全く意に介さず、ともすれば認識すらしないまま、男は続けた。
「なんだこれは。惰弱、脆弱、取るに足りぬ。
カイドウ、そしてあの忌々しいサムライめに比肩し得るとは、余とて最初から考えてはいなかった。だが……」
男は、その足元に伏せるアシュレイの腹を、まるで路傍の石をどかすように、そのつま先で蹴り上げた。肉と骨を打つ不快な水音と共に新たな血反吐がぶちまけられ、アシュレイはゴム毬のように宙を舞い、10メートル先の地面へと強かに叩きつけられた。悲鳴も、苦悶の声もなかった。それを出せるほどの生命力は、既に彼から失われていたのだ。
「無様に過ぎるぞ羽虫共。害虫にさえ劣る矮小な塵芥の分際で、聖杯戦争の舞台に参するサーヴァントなどと、よくも余の敵であると臆面もなく名乗れたものだ。
闘争を恐れる敗北主義の蒙昧共。耳障りな言葉で我が身の軟弱を覆い隠すその醜悪さ、見るに堪えん。弱者は弱者らしく己が身の程を知り、せめて自らの首を裂いて自害するが相応であろうが」
そこでようやく、男の意識が明確に"少女"を認識した。
「だが───貴様らは"狡知"ではあるまい」
「ひっ……」
意識を向ける。ただそれだけで、にちかは卒倒寸前まで追い込まれた。蛇に睨まれた蛙とは、このような心境であるのか。決して敵わない絶対強者が向ける敵意とは、それだけで弱者の心を粉砕する劇毒と化すのだ。
にちかは最早、泣き叫ぶどころか呼吸さえ満足にはできなかった。体が隅々に至るまで石のように硬直して、目を閉じることさえ叶わない。男を見つめる視線を外すこともできず、虚ろになっていく意識の中、ただただ男の告げる言葉だけが頭の中に入ってきて。
「出せ、蜘蛛を。今も隠れ潜む忌々しき狡知の徒を。
彼奴だけは確実に、余がこの手で縊り殺さねばならぬ。言葉、想い、利得に奸計、どれも不要だ。策と甘言を弄する類は、存在そのものが万死に値すると知れ」
「が、ひ、ぃ……あ……」
男は、恐らくにちかに問うているのだろう。今この場で、自分たちを皆殺しにすることなど、彼には容易い。然る後、この一帯を根こそぎ破壊せしめ、隠れる他の陣営を屠ることもまた。けれど彼は"絶対"をこそ欲していた。彼が何より憎み、嫌悪し、この世から消し去りたいと希う類の狡知を、確実に殺し尽くす。そのために彼はにちかから情報を引き出そうとしていたのだ。
端的に言って、これは男の気まぐれに等しかった。殺すことなど、彼にとっては本当に容易いことなのだ。状況的にも戦力的にも、ただ漫然と力を使って辺りを破壊するだけで、きっと彼の思惑は叶う。だがそれでは確証を得られない。彼はそれが許せなかった。これは本当に、ただそれだけのことなのだ。
「答えろ。貴様らに下らぬ智慧を与えていた羽虫の居場所を」
「──────ぁ」
そして当然、にちかにそれを答えることはできない。単純に知らなかったし、そもそも物理的に口を動かすことができないのだ。
このままでは、男が手を下すまでもなく、呼吸不全によってにちかは死に至るだろう。その未来は絶対だ。厳然たる力の差とはこういうことであり、その前には想いや祈りは意味を為さず、劇的な奇跡や逆転劇が起きるはずもない。
「囀ることもできんか。下らぬ、無価値な塵が。ならば無意味に死ぬがいい」
けれど、いいやだからこそ。
「プリキュア───スターパァァァァンチッ!!」
そんな道理を知らぬとなぎ倒す者こそが、英雄と呼ばれるのではなかったか。
◇
「多少はできる羽虫がいたようだな」
突如として飛来した黄金光の一撃を受けて、男は事もなげに呟いてみせた。
無傷だった。直撃すれば三騎士級サーヴァントであっても致命傷を免れぬであろう魔力を秘めた一撃、広域破壊に用いれば周辺区画を崩壊させることもできるだろう一撃を、彼は右腕一本で迎撃し、その拳で以て相殺。純粋な魔力エネルギーの放出を逆に粉砕してみせたのだ。
なんという不条理の具現であるのか。宝具を抜かず、スキルも使わず、魔力強化すら伴わない素手のみでこの所業。一サーヴァントの霊基が再現し得る限界を極めた存在であり、聖杯戦争という舞台においては紛れもなく最強と言って過言ではない。それだけの実力を厳として有する、そんな事実の発露であったが。
「……離れてください。ここから、早く」
闖入者である少女、アーチャー・
星奈ひかるは、未だ地に伏せるにちかたちへ、言葉少なく告げた。
常の彼女を考えれば簡素に過ぎる言葉であり、つまりそれだけ、今のひかるに余裕はないということの表れであった。
アサシンと、そして
櫻木真乃から、283の少女たちのことは聞いている。ならばこそ、今この場で彼女らを守ることに否はなかった。
その表情に、怒りはなかった。
殺意も、憎悪も、嫌悪さえなかった。少しの焦燥と、決死の決意と、そして尽きせぬ哀しみが、少女の顔に感情となって表れていた。
「どうして、こんなことをするんですか」
「……」
そして口火を切ったのは、ありふれた、そしてあまりにも今更な疑問。
「サーヴァント同士の戦いを、私は否定しません。けどどうして、無関係の人たちまで巻き込むことが許せるの?
どうしてそんな酷いことができるんですか。あなたは───」
「驚いたな」
え、とひかる。男は本当に、驚いたという言葉通りに口を歪ませていた。
そして。
「口から糞を垂れるのか、このゴミは」
「ッ!」
そのあまりにもあんまりな返答に、やりきれなさと"ああやっぱり"という諦観を込めて、ひかるが動く。
力強く地を蹴り上げ、一息でベルゼバブへと肉薄。身体の隅々にまで魔力を行き届かせ、その拳を振り上げる。手加減も出し惜しみもなし、全力でかからねば勝てる相手ではないことなど、最初から分かり切っていた。彼我の相対距離8メートルをコンマ秒以下の時間で駆け抜け、すり抜けるように男の胸元へ突き出す。
ぱしん、という乾いた音と共に、その一撃はベルゼバブの掌で受け止められた。その事実を認識するより先にひかるは身を翻し、空中にて回転し男の側頭部目掛け蹴撃を放つ。
踏み込んだ足が地を削り、加速度が全身を水のように伝う。教科書のような理想的な一撃であった。
閃く軌跡は一条。星の光を纏った回転蹴りは更に逆の掌で受け止められ、その威力を無力化される。
流れるように放たれた二連撃が悉く阻まれ、ベルゼバブの体は一歩とてその場から動いてなどいなかった。まるで相手の動きが分かっているかのような反応。
それは単純明快にして絶望的なまでの真実。ただただ圧倒的に、ベルゼバブが強すぎるという、そんな事実によるものだった。
動体視力、身体能力、戦闘技術、積み上げられた鍛錬の質と量、潜り抜けてきた死線の数。そのどれもが他の追随を許さない。
ベルゼバブの左手が僅かに揺らめき、次の瞬間ひかるの足にかかっていた圧力が消滅する。
危機を感じ、後方に跳躍しようとした瞬間には既に遅く、無拍子で放たれた拳打の一撃はひかるの腹部を直撃、その小柄な体躯を吹き飛ばす。
そのあまりに軽々しく放たれた一撃でさえ、ひかるにとっては致命的な一撃だった。吹き飛ぶ体は音の壁を越え、地面を大きく抉りながら何度も地に打ち据えられ、およそ50メートルほどの距離を転がってようやく動きを止めた。
痛む腹をかばってひかるが手をついたその瞬間には、既にベルゼバブが目の前に悠然と屹立していた。自分で殴り飛ばしたひかるを、彼は軽々と追い越して移動したのだ。音速さえ、彼にとっては牛歩のそれに等しい。
咄嗟に飛び起きようとしたひかるより早く、男の丸太のような足が強かに少女を踏み抜いた。金切りめいた悲鳴を掻き消すように穿たれる破壊、少女の体は地面にめり込み、それさえ知らぬとベルゼバブは何度も何度も少女を踏み抜いた。
まるで再起など許さぬと言わんばかりに。
まるで見るも不快なゴミをすり潰すように。
「ああ、そうだったな。思い出したぞ」
そこで彼は、踏みつぶす反復動作を止めることなく、言葉を紡ぐ。
「貴様のような羽虫は、自分以外が死ぬと泣く習性があったのだったな」
「っ、づぁ……!」
余興を思いついたと言わんばかりのベルゼバブの声音に、ひかるはさせぬと奮起するも、その顔面を踏み抜く無慈悲な一撃によって強制的に地に落とされた。
止められない。防げない───守れない。
その事実を認識し、ひかるの表情が真に絶望の色を帯びて。
「疾く死ね、屑共が」
無情なる宣誓と共に、漆黒の棘翅がひかる以外の者らへ向けて放たれた。
空を裂き、飛来する死の黒羽。
地に倒れ、あるいは力なき少女たちに、それを避け得る道理はなく。
あまりにも当然すぎる末路が、彼ら全員に等しく降りかかって───
そう、この時点で全ての運命は決定づけられた。
あらゆる祈りは意味を為さず、あらゆる想いは無為に帰す。
それは必然にして世の道理。力で劣る者は何も為せないのが戦場の掟であり。
「かつてお前は言った。世界の美しさを俺に示してみせるのだと」
「ならばこそ、俺も約定を果たすとしよう。さらば蝋翼、我が半身。焔の総てを担う時だ」
「さあ───創世神話を始めよう」
『天昇せよ、我が守護星───鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため』
瞬間、核爆発もかくやという凄まじいまでの爆炎が、周囲一帯を吹き荒れた。
その波濤は鋼翼の嵐を打ち払い、されどひかるや283の少女たちには何の影響も与えず、轟々とうねりを上げていた。
その時ベルゼバブは、恐らく初めて瞑目した。爆炎にではない、その発生源についてだ。
胴体を貫かれ、最早死ぬしかなかったはずの羽虫(アシュレイ)。それが再び、膨大な魔力の奔流と共に立ち上がる。
爆風によって鋼翼が弾かれた───それはいい。有象無象では抗えぬ死の具現なれど、避けられたことも防がれたことも、あるいは手にした刃で切り裂かれたことだとてある。けれど。
今まさに立ち上がった青年のように、中空にて素手で掴み取り、あまつさえ握り潰されたことなど、ベルゼバブでさえ初めての経験であったのだ。
『愚かなり 無知蒙昧たる玉座の主よ
絶海の牢獄と 無限に続く迷宮で 我が心より希望と明日を略奪できると何故貴様は信じたのだ』
それは最早アシュレイではなかった。
その瞳は圧倒的なまでの熱情を帯び、声音は険しさを極めている。想いの方向性は悪の根絶という破滅的な属性に極端に特化され、人々の明日を奪うベルゼバブへの赫怒に充ち満ちていた。
紡がれるは遥か高次元より響き渡る、遍く闇を討ち滅ぼす浄滅の詠唱(こえ)。
極限まで圧縮された覚悟、勇気、決意の波動。嚇怒と共に地を蝕んで轟く殺意の奔流が、あらゆる邪悪を呪いながら死の光を氾濫させていく。
『この両眼を見るがいい 視線に宿る猛き不滅の焔を知れ
荘厳な太陽を目指し、高みへ羽ばたく翼は既に天空の遥か彼方を駆けている
融け墜ちていく飛翔さえ、恐れることは何もない』
一歩、一歩と踏みしめる度、激震と共に刻まれるのは蜘蛛の巣状の巨大なひび割れに他ならない。
地に穿たれる不可逆の破壊。ただ歩みを進めるだけで、揺るがぬはずの大地が揺れ、崩れぬはずの文明の尖塔が衝撃と共に崩壊する。それはまさしく、アシュレイの肉体が有する質量が見た目通りのものではないことを示していた。
まるで骨肉が鋼鉄に置き換わったように……いいや否、それでは足りない。見上げんばかりの霊峰や、水平線の彼方まで広がる大海を、そのまま人間大の器に極限圧縮して無理やりに詰め込んだかのような。
『罪業を滅却すべく闇を斬り裂き 飛べ蝋翼───怒り 砕き 焼き尽くせ
勝利の光に焦がされながら 遍く不浄へ裁きを下さん』
敗亡の淵に増幅される嚇怒の波濤が炎となって、陽炎のように立ち昇りながら青年の体躯を己が星へと貪り新生を果たしていく。
比翼連理を食らいつくし、呼応しながら羽ばたく様はまさしく捕食。
発生する膨大な熱量が天を衝く巨獣の顎門となり、その大口を開いてアシュレイの体躯を容易く呑み込み、咀嚼する。
膨れ上がる業火は自身さえも焼き尽くしながら広がり、その様はさながら不死鳥の羽ばたきのようで。
『我が墜落の暁に 創世の火は訪れる』
加速度的に増大する圧力と共に軋みを上げ、捻じれ歪んでいくアシュレイの肉体。
骨肉が砕け、腱が切れ、血管は破裂し血霧を噴出させるも、"それがどうした"と言わんばかりに前進を続ける。
止まらない、止まらない。常軌を逸した意志力は、物理法則さえも捻じ伏せて目を疑う不条理すら現実のものとする。
際限なく膨れ上がる勇気、勇気、勇気、勇気勇気勇気勇気勇気勇気勇気勇気勇気勇気勇気勇気───誰も彼を止められない。
肥大化する精神は肉体の致命崩壊を代償として、
アシュレイ・ホライゾンの霊基を恐るべき高みへと導いていく。
それは脱皮、それは変貌。進化、超越、あるいは覚醒。
"守るために殺す"という人類最強の宿業が、星の覇道を塗り潰して創世神話へと染め上げる。
『ゆえに邪悪なるもの一切よ ただ安らかに息絶えろ』
故に彼は優しい境界線(アシュレイ・ホライゾン)ではなく。
流転する両翼(アンサラー)でも、縛鎖断ち切る白翼(ペルセウス)でも、まして嘆きに狂う滅奏者(ケルベロス)でもあり得ない。
そう、彼こそ───
『擬装超新星(Imitation)───狂い哭け、末路に墜ちた蝋翼よ・烈奏之型(Mk-Braze Hyperion)』
その一声で、大気に鉛の質量を架せられたとすら思わせる威圧と重圧が消し飛ばされる。
爆轟する黄金の輝きが、核の爆発すら凌駕する極大の狂飆となって周囲一帯に吹き荒れたのだった。
最早悲劇は幕を閉じた。涙(おまえ)の出番は二度とない。
さあ刮目せよ、いざ讃えん。その姿に諸人は希望を見るがいい。
そう、彼こそ真なる救世主。
光のため、未来のため、希望のため、自分以外の誰かのため。
前へ、前へ、前へ、前へ───命を燃やしてさあ逝こう。
最終更新:2022年05月03日 12:36