いい奴だったぜ、お前。
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メロウリンク・アリティにとって、惨めな死を目の当たりにするのは既知のものだ。
己より優れた者が、先に死んでいくのも。
お前はついていく者を間違えた、と言われるのも。
お前には世界をどうにもできない、大局的にはお前の敗けしかない行き止まりに着くのも。
――メロウリンク自身はその仲間たちに、誇りと敬意を抱いていたことも。
あぶれでた雑魚。
彼をそう評価するのは、実力のことを言うなら間違っている。
そも英霊(サーヴァント)として認められた時点で『雑魚』を名乗るなど烏滸がましい……という見解もある。
生前に成し遂げたことが、世界に爪痕を残すに足りるものだったからこそ、英霊として登録される。
それが下手な自己卑下をすれば、『本当は強くて凄い人が、自分の事を凄くないだとか言うな!!』と怒鳴り返されても仕方のないことだ。
しかし、生きざまのことを言うならそれは正しい。
メロウリンク自身にも自覚はある。
旧式のライフル銃のみを抱えた生身の人間が。
数々の殺傷兵器で武装した歴戦のAT乗りを、八騎も立て続けに討ち落とした。
そういう事ができる者は、雑魚どころか『コンマ1パーセントをものにする男』と呼ばれる。
時に、メルキア方面軍で屈指の実力を持ったAT操縦士の将校にして標的からでさえも。
『判断力、行動力、その他どれをとっても良い兵士』であり、『部下に欲しかった』という掛け値なしの評価を受けている。
間違いなく兵士としてのメロウリンク・アリティは突出した個の性能を持っていた。
異能の因子は持たない。
神の後継者、あるいは神殺しにはなれない。
遺伝確率250億分の1の星の元に生まれたわけではない。
けれど、憧れていた『立派な軍人』になれる可能性がなき者でも、決してなかった。
ただ、その憧れを目指すには、彼はあまりにも挫折を知りすぎた。多くを失い過ぎていた。
『お前は優秀な兵士であっても、性質が軍の中で生きるには向かない』と、ある情報将校から指摘された時に。
ああ、俺はそういう者にはなれない負け犬なんだなと、挫折者である自分を肯定した。
そして、最後にはたった一人、親身に寄り添ってくれた女性と連れ添い、凡俗に身を落とし、ただ生き延びることを選んだ。
俺とマスターの彼女は、そこが似ていたのかもしれないと思う。
『アイドル』になりきれなかった普通の女の子。
『軍人』になりきれなかったお人好しの青年。
『憧れていたもの』に対して、二人は『なれない』という結論を出した。
懲罰部隊に落とされるのも必然のような生き方しかできない、『軍』という社会からのはみだし者。
仲間の仇だと吠えながら、復讐のためにただそこにいた兵士を殺して自らも『仲間の仇』になった自己満足野郎。
生前から、メロウリンクの戦いに『誰かのためになる』という大義などなかった。
失われた仲間たちは、誰一人『仇をうってくれ』などと願っていたわけではなかったのだから。
まして巻きぞえになった兵卒たちからすれば、その動機が拗らせた病理だろうと仲間の復讐だろうと、大きな違いはあるまい。
けれど。
その自己満足に、とことん懸けた生き方をしたことは、後悔していない。
憎しみを晴らしたところで、むなしかったけれど。
憎しみによって復讐を企てたわけではなかったと、気付かせてくれる善意が旅路にはあった。
ろくに与えられず、しまいには女に引っ叩かれるような生き方だったけれど。
誰かから愛や信頼といったものを与えられるのは、失う前も、失った後も、好ましく思っていたのだと。
結局のところ、メロウリンクは。
大切だった者達がいなくなり、独り生き残ってしまったことに何かを果たしたかった。
その名誉が踏み躙られ、生きた証がなくなってしまうことに耐えられず、逆襲者になった。
覚えている。
シュエップス少尉。
スタルコス軍曹。
スカルベス准尉。
ブリエル上級兵。
セプレス一級兵。
コビニーチン上級兵。
ヤペスティン伍長。
カットレー曹長。
その戦友たちの名前と同じように。
マスターの、七草にちか。
たった一人の少女だった。ふたたび相棒を持つのは、悪くなかった。
櫻木真乃の、アーチャー。
鋼翼から救われた。幼い姿で現界した身で、立派だった。
田中摩美々の、アサシン。
約束の同盟相手だった。当人は認めないだろうが、守護者で、英雄だった。
偶像・櫻木真乃。
アイドルたちの真ん中にいた。誰にも優しく接して、誰をも優しい顔にさせていた。
偶像・七草にちかのライダー。
戦友だった。同年代とは思えないほど、人間のできた、いい奴だった。
星のような連中だった。
死にざまを見れなかった者もいたが、壮烈な最期だった。
だから、ここから先の戦いは、仲間の未来を切り開く戦いではない。
消えていった仲間たちに手向ける、昔も今も、自己満足の弔い。
『仲間の返り血を浴びたこと』を表わす四本の血の爪痕にかけて。
走ることで、生きた証を。
爪痕を刻むことで、彼らがいたことの重みを。
◆◆◆◆◆◆◆◆
田中が、意識を取り戻したのは。
真の意味で、これまでを振り返って冷静になれたのは。
そして、ふらつかずに歩けるようになったのは。
「なぁ……アイ」
「どしたの? 『死んだかと思った』以外のこと、言えるようになった?」
「ほっとけよ。真下が『地下鉄駅構内』だなんて思わなかったんだよ」
悠長ではあったが、そこから数分後。
彼女に問いかけたくなった時点でのことだった。
何が起こったのか、タネそのものは単純だった。
崩落がたやすく起こったのは、もともと局所的に地盤が薄いところだったから。
真下で、渋谷区を網の目のように走るもう一つの交通路。
地下鉄に直通する地下街が走っていたから。
「もしかしてさっきの大音響、まだ怒ってる?
あれは本当にごめん。地下で使うことを考えてなかった」
「いや、とっさだったし……あれでアイツを遠ざけなかったら、撃ち殺されてだろ。
おかげで、潜伏するアイツとの鬼ごっこに、変わっちまったけど」
どこまでが狙ってのことだったのか、田中たちには見通せない。
落ちてきた天井は、瓦礫や屋外広告の蓋によって、塞がれた。
携帯端末は破壊され、手近な地上改札口もまた崩れている。
それだけで、死柄木と隔離されたことに歯がゆさはある。
アイの力があれば、瓦礫の撤去ぐらいはできたのかもしれないが。
瓦礫と向き合っている間は田中が無防備になり、ならば先に敵を倒さねばとなる。
「じゃあ、何を言おうとしたの?」
「あの人に、子どもがいたって、本当か?」
「ああ……さっきのサーヴァントが言ってたことね」
ホーミーズ・アイの探査方法は反響音だった。
音波が物体にぶつかることで、背景に埋没しない何かがそこにあると特定する。
裏を返せば、反響音の届かない場所、壁に囲まれた空間、『屋内』は、探査範囲に含まれない。
彼らはこの場所に、地の利が無い。
本来なら、それで問題無かった。
仮に『屋内も含めて』渋谷区を総ざらいしていたとしたら、到底数分では足りなかっただろう。
既にして倒壊した物件も数多いとはいえ、屋内面積は屋外面積の何倍も何十倍にもおよぶ。
もし主要なビルディングや地下通路を一つ一つ検めでもしていれば、その間に標的はたちまち別地点に移動していただろう。
そもそも地下街の入り口など、渋谷の近辺では先んじて目に留まりにくく潰されていた。
そこはとっくの朝方に百獣海賊団が破壊の限りを尽くした跡地だ。
大看板が一般人の『逃げ場』塞ぎに専念したことで、地下鉄へと降りる地上改札口の多くは倒壊している。
元より、そこを蹂躙した集団の目的は一般人の『魂食い』だった。
他の区へと幾本も張り巡らされた地下鉄道など、獲物の数を減らす邪魔な死角でしかない。
「本当だよ。私は偶像のホーミーズだから、お仕事に関係ない記憶はそこそこぼんやりだけど」
「その子ども……もしかして、アクアとルビーって、名前か?」
「うん。双子の男の子と、女の子。……記憶では、そうなってる」
「そっか」
名前は、
星野アイの最期の独白で耳にしていた。
友達か、恋人か、親族兄弟か、もしかすると我が子か。
だが、ホーミーズのアイと対面した田中は、これまでその答え合わせをしてこなかった。
彼女は――生前の知識記憶だけはあると、知っていたのに。
「どうしたの? また、元の私への未練?
はいはいあの子は特別です。私はお星さまの生まれ変わりAです」
「違うって。むしろ俺の方の問題だ。
もっと早くお前に聞いときゃ、簡単だったってだけさ」
おそらく、これまでは無意識にでも避けていたのだろうと思う。
なぜって、本当なら『星野アイ殺し』を吹っ切るための、最短手はそれだったのだ。
もともとの星野アイの記憶を引っ張り出してもらい『アクアとルビーって誰だ』と真実に対面し。
『つまるところ星野アイとはそういうヤツだった』と納得して、『もう終わったこと』として過去にしていく。
それができなかったのは、しばらく『偶像のホーミーズ』の笑顔を正視できなかったのと同じ。
一時は仲間であり、そして確かに惹かれていた、『推し』という感情を持ちかけていたアイドルと、向き合う覚悟がなかった。
死柄木弔のために、彼女を殺したことは、もはや後悔していないけれど。
『仲間との離別』にあたっては、もっとマシな別れ方があったんじゃないかと。
少なくとも『推していたアイドルにだまされた』なんて、相手のことを分かってない逆ギレをしなかったら。
彼女には彼女の行きたい道があるんだと、向き合った上で訣別をしていたなら。
あの現場にいたしおと
デンジのように、その後も引きずることなく進んでいけたはずなのだから。
「俺はたぶん、あの人に対しては、最後はただの『厄介ファン』に成り下がってた。
お前の言ってた、ナイフを刺してアイドルを襲うようなストーカーと同じにな。
だから、お前の推し方は、もう間違えない。あの人の代わりって意味じゃないぞ。
仲間に、推しに、同じ間違いはしでかさないってことだよ」
単純な話だ。
誰かに認められたかったというなら。
じゃあお前は誰かを認めたり、興味を持ったことはあるのかよ、って話だった。
こいつとなら、仲良くやっていけるかもしれないと。
都合の良い信奉者としてではなく、生身の人間に愛着を覚えられるかもしれないと。
たったそれだけに気付く為だけに、ずいぶん遠回りした。
全財産を課金に捧げて、拳銃を手に入れ、人を殺して、思えばはるか遠く、魔王軍の仲間入りまでして。
その幸せを手に入れるために、
田中一という男はそこまでかかった。
もう、一方的な信奉者として『完璧じゃない君以外は許せない』なんて逆上することはしない。
田中一は、推しのアイドルと対等に戦場に立って、この戦場を勝ち残るのだ。
死柄木だってきっと、今頃は壊したいものを壊し、前に進んでいると信じながら。
「……なんか、やっぱり田中って真面目だよね。
内省とか鬱屈とかしながら生きてきたんだろうなって感じがする」
「どうせ相談したり発散するような友達なんてろくにいなかったよ。悪かったな」
「そこまでは言ってないんだけどなー。
まぁ、この戦いに勝って、そんな田中をまた元気にさせてあげるよ、見てて」
「お前も、変わって来てないか?」
「そう……?」
「前は、アイドルは仕事じゃなくて役目だ、とか。俺より死柄木の優先順位の方が上だ、とか言ってただろ」
「まぁ、それはあれだ…………前の私も、言ってたみたいじゃん。アイドルは、欲張りだって」
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ライダーが、いなくなった。
にちかの独白を、機械的にアーチャーに伝えて。
指示された言葉で、ぼそぼそと令呪を切った時だった。
「わたし……考えないように、して……違う……」
近くで、ライフルの発砲音が、聴こえてきたことにも。
続けて、ものすごい地響きが聴こえてきたことにも。
にちかは、聴こえないみたいに上の空だったけれど。
その言葉はまるで懺悔みたいに、小さくも心は宿っていた。
「考えなおすように、してました。
宝具を使えば、ライダーさんは消えるって……そっちの話題になるたびに」
必ず、私のところに帰ってきてください。
世田谷区を熱と光の暴風雨が吹き荒れる中で、彼があさっての宇宙に行ってしまった時も。
港区のめちゃくちゃな戦いの一番ぐちゃぐちゃになってしまう所に、交渉しに行ってしまった時も。
それだけは守ってほしいと訴え続けてきたにちかが、それにも関わらず受け入れていた話。
ライダーが使おうとしていた≪界奏≫が発動する時に、ライダーとは別離するのだという話題。
「でもそれは、みんなが帰れるハッピーエンドなんだからって……考えなおして。
その時は、きっと嬉しくて『おめでとう』を言ってもらう時なんだから、わたしも喜べるって。
バカだったから……ハッピーエンドの想像とセットにしないと、お別れが怖くて、怖くて……」
この七草にちかは、喪失を受け止めることに耐えられない。
審査の直前にどのアイドルよりも緊張してきたのは、自信の無さだけではない。
負けた時のこと、人気の低下や周囲の失望といった喪失を恐れるあまりのことだ。
幼い頃、にちかを囲んで愛してくれた大家族(ファン)の皆は、一人また一人と帰って来なくなった。
いつのまにか大切な人が取り戻せないところに行ってしまうことは、またいつ訪れるか分からない恐怖だった。
悪癖の八つ当たりだって『見放されたかもと怯えて過ごすぐらいなら自ら見放されよう』というやけっぱちの裏返し。
だから、彼との別離はハッピーエンドに至るための出来事なんだからと、もの分かりよく塗装してきた。
にちかが望み、ライダーも望んでくれた夢を叶える為の航海なんだから、悲しむことではないんだと。
ハッピーエンドは無いんだと夢を剥がされるのとセットで、怖れていたことが訪れた。
「もう……なにもしたくない……」
だから、七草にちかはそれを結論にしてしまった。
もう宝石と、石ころどころの話じゃない。
風吹けば飛ばされる、崩壊が起これば呑まれる、その程度の存在でしかないなら。
それはもはや石ころですらない、塵や埃と呼ばれるものと同じ。
「令呪あったのに……倒れたから援護しませんでしたって、どのみちマスター失格でしょ……」
想いの力は、弱い。
摩美々はそれを痛感して、何も言葉を返せない。
『そんなこと言わないで』と口にしても、絶望に隔てられて届かないと分かってしまう。
「ファンができても、すぐに取り零してく」
にちかの未来を守るための手段を、摩美々は持たない。
それを覆す手段を持っていた英雄は、力で上回る相手に敗れ去った。
最後の手段、界聖杯の願いの利用だって、彼が敗れた相手に勝つことが前提のもの。
だから、七草にちかが聖杯戦争を生き残れる手段は、存在しない。
七草にちかは、もうすぐ吹き飛ぶ名も無き人達(NPC)の一人でしかない。
この無力さも、性格の悪さも、愚かさも、全部嫌い。
でも、嫌いと思うことにすら、もう疲れた。
「家族だって……」
どころか、心の底から疲れたと顔に表れているにちかを見て。
同じように倒れてしまおうかとさえ思う、動けない摩美々がいる。
現相棒(アーチャー)がまだ戦ってくれていることも、分かっていて。
それでも摩美々自身が、行き止まりに来たことを痛感しているのに。
どうしてにちかに、『それでも』なんて言える?
「お父さん……お母さん……」
もう何もかも放棄して、還りたい場所。
それを呼ばざるをえないくらいに、彼女は戦えなくなっている。
手をとってくれる意思さえ持てないほど疲れた女の子を、摩美々は救うことができない。
「おじいちゃん、おばあちゃん………」
航界の旅へと出航できなくなってしまえば。
宇宙(ソラ)は遠くて。
そこに居るのは、ただ虚ろな太陽。
澱んだ空気の中で。
心が、言葉が、隔てられて霞んで見えない。
双眼鏡を覗いても。
「お姉ちゃん……ライダーさん……」
でも、ひとつだけ。
会いたい人、家族のことを呼んでいく中で。
最後に、ライダーの名前を呼んだ。
本当にそれだけだった。
それだけのことで。
心が揺れた。
はっとした。
……いや。
だめだよ。
ずるいって。
その呼び方は。
その呼び順は…………ずるい。
まるで、家族のことを思い出す中に、ライダーさんも入ってるみたいに。
家族の次に身近な人が、ライダーさんであるかのように。
そんなのは、まるで……。
――アサシンさんだって、私の家族ですから
名前を挙げた中に入っていた、という偶然でしかないけど。
にちかとライダーの関係の本当のところ、心の繊細なところまでは分からないけど。
この子は、『あの人とちゃんとお別れできなかった摩美々』なのかもしれない。
283プロ解散で、アイドルじゃなくなって。あの人のおかげで、またアイドルになれて。
かつては摩美々も、一緒にいた人達がいなくなるなんて、考えたくもなかったけど。
今は、なくしてしまったら無意味になるなんて、思いたくなかった。
――勝手にいなくなるのは、もうなしですからね
にちかとライダーの、二人でいたときのことを思い出す。
本当に、航界船が飛べなくなって、誰よりも無念だったのは。
にちかがこうなることが、きっと摩美々よりも悲しくて、でも悲しむことさえできないのは。
ここにはいない、にちかの為だけの味方だった彼だ。
だって、ウィリアムだってアイドル皆に優しかったけど、まず一番に摩美々の味方だった。
最後の最後まで、マスターのことをよろしく頼むと、アーチャーやライダーに頭を下げていた。
いつも取り繕って気丈そうにしていたのに、摩美々を置いて逝くことには泣いていた。
――あなたのせいだなんて、絶対に考えないで
もしライダーがここにいたなら、戦う力がまるで全然なかったとしても。
大切な人の泪ぐらいは止められる英雄(ヒーロー)に、なっていた。
そんな風に、自分を嫌いになって泣くことは無いんだって、伝えてみせた。
このままじゃ、ライダーさんが、あの青年が、報われない。
心の蒸気機関(スチーム)が、点火する。
胸のコアが、なけなしの稼働をする。
「にちか」
これは、余計なお節介だけど。
心の弱っている子をかえって傷つけるかもしれない、悪い子で、エゴだけど。
それでもアンティーカの田中摩美々は、かつての自分を、絶対に見捨てられない。
自分を救うすべを知らない、孤独な泪をほうっておけない。
「とりあえず、こっちの建物の中、入って。あと、水分とって。
せっかくアーチャーさんが、大通りで大きな音を出してくれたんだし」
それに、この一か月で答えは出ていた。
たとえ行き先が奈落の底で、二人そろって落ちることになるのだとしても。
誰かが手を掴んであげなきゃいけないなら、それは絶対に離さない。
どんな犯罪の仕掛けよりも、摩美々があの教授から学んだことはそれなのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆
そして。
『最後の令呪を使って、お願いします。アーチャーさん』
『帰らない人達を胸に刻んで、敵連合の偶像(アイドル)を倒して』
その令呪が行使されてから、しばらくのことだった。
メロウリンクの元に、ふたたびの念話が繋がった。
『アーチャーさん、わたし、そっちに行けますか? ……地下でゲリラ戦真っ最中?』
『防衛線を作ってる時に、使える改札が一個だけあるって言ってましたよね。
渋谷原宿はもう庭みたいなものなんで。裏路地経由でそっから降ります』
……にちかなら、路地の横のカラオケハウスですよ。力尽きて寝てます』
『まぁ、死柄木さんの勘がよかったら即バレかもですが。
……私から、言えるだけの事は言いました。
にちかは取り零したんじゃなくて、プロデューサーを救ったんだよ、とか』
『……いや、令呪を使い切った一般人マスターの脆さは分かってますケド。
でもそっちは二対一ですよね。私にも考えはあるし……それに、二対二にするぐらいはさせてほしいんで』
『その人達、放っといたら皆を、にちかも含めて、うんと絶望させるって言ってたでしょ。
だったら、それは止めます。アイドルとして、やられっぱなしも口惜しいので』
こうして。
アイドルたちと、あぶれ者の雑魚と呼ばれた者たちは、ラストステージに集う。
最終更新:2023年11月09日 00:49