負け札ばかりを、続けて引いてたね
 しまいも、車輪の下さ


◆◆◆◆◆◆◆◆


「――いちおう仲間だろ。俺達」

 敵連合の偶像と、敵連合の一般人(ファン)が、本質的な交流をかわしていた傍らで。

 鏖殺の鋼翼に追いつかれて、あと一歩で八方ふさがりだった昨晩の窮地。
 その遭遇の時と、大差ない顔色をしたメロウリンクが戻ってきた時。
 田中摩美々の心臓は、悪寒でわし掴みにされていた。

(にちかの具合……悪かったんだ)

 顔色だけで、判断したわけではない。
 もしにちかが幸運にも大事なかったようであれば、メロウリンクはすぐにそう念話してくれただろう。
 その悪寒は、仲良くなった七草にちかの安否の心配もまずあった上で。 
 彼女の命か、令呪かが脅かされるなら、全員の未来が閉ざされるという恐怖でもあった。
 それは、終末へのカウントダウンがぐっと早まったことを意味する。

 だが、それでもまずはと、メロウの念話は摩美々を労った。

『時間稼ぎに感謝する。君を信頼してよかった』 
『どーも。……でも、謝らないといけないかも、ですね。
 敵の歌を、強くした、のかな?
 私が言ったことが、余計なことだったかもしれないので』

 二人の男女になった襲撃者が、こちらを殺そうと遣り取りしているのを聴きながら、詫びる。
 新たに姿を見せた男に対して、星野アイの姿を象った少女は、表情をはっきりと変えていた。

 ほっとしたような、でも、とても嬉しそうな。

 まるで、初コンサートに会場入りしてくれるファンの姿を見つけた、新人アイドルみたいな顔。
 プロデューサーがかつて言っていた『誰かのための笑顔』のように。

『それは、心境の変化があって歌の威力にまで響くかも、ってことか?』
『想像入ってますケド。攻撃の時にアイドルらしく歌うことに意味があるなら、今の方がそれらしいので』

 仮に、彼女が実在するアイドルの歌を再現することで力の底上げを果たしているのだとすれば。
 ただ攻撃のために歌うのではなく、『誰かのために歌う』ほうが、本来のアイドルとしての歌には近づく。
 大事なのは技術的な歌の上手さだけでなく、心をこめて歌うかどうかだから、とまで言い切ってしまうと陳腐だけれど。
 アイドルの歌は、『お手本の模倣(カラオケ)』ではなく、『誰かに見せる為の表現』として歌われるものだから。
 彼女にも歌を届けるべき誰か(ファン)がいる自覚は、その歌声がより研がれることを意味するのではないか。
 と、戦闘が再開するきざはしを見せている中で、念話とはいえそこまで言葉にすることはできなかったが。

『さっきより強くなった可能性。考慮しておく』
『それで私は、何をした方がいいですか?』

 メロウリンクもまた、摩美々の予感が意味することのすべては分からない。
 しかし、アイドルという分野では彼女たちの方が玄人(プロ)だと自覚はあるため、考慮すべき忠告だと受け止める。
 藪蛇だったかは考えるだけ時間の無駄だ。
 そもそも摩美々が声をあげなければ、にちかの応急手当ても令呪の確認もできなかった。

『――――』

 摩美々に対し、なるべく短い言葉で現状について告げる。
 その間も会話を終えた男女に対して臨戦態勢を取ったところ、それをどう受け取ったか。
「殺してくる」とこちらを向き直った女の後ろで、男が口の端をゆがめた。
「ヒ」という笑い声の出そうな、そんな笑みの形だった。 

「なんだよ、その眼は。
 お前らを追い詰めてるのが俺みたいな屑で、ショックだったか?」

 こいつは凡人だと、初見でそう見抜かれることなど分かっていたと言わんばかりに。
 その上で、もはやそれは劣等感ではない。繕ったりしないとばかりに無造作な口ぶりで。

「まぁ、俺だって連れが強かったから優位に立ってるのを、自分の戦果みたいにひけらかすほど恥知らずじゃない。
 あんたらはともかく、もう一人のアイドルは俺の撃ったライフルで今ごろ死んでるかもしれないけどな」

 今まさに破滅をカウントダウンする凶弾を放ったのは己だと、暴露した。

「――っ!!」

 七草にちかの、そのアイドル生命の危機を嘲弄する言葉に対して摩美々が鼻白んだ瞬間。
 まさに、相手の感情が驚きから憤怒へと移り変わる、その間隙を縫うように。
 心を抉る言葉と、驚愕とを同時に撃ちこんで、こちらのペースだとダンスに巻き込む、『彼ら』のやり口を模倣するように。
 その男は、サイリウムを振る仕草のように腕をさっとかざし、アイはすぅ、と発声前のひと呼吸を終えていた。

「摩美々っ!!」

 メロウリンクがその機を読めたのは、事前に忠告があったからこそだった。
 心機一転、にあたることが彼らの間で生じたのだとすれば、再戦の初撃では誰しもが勢いに乗りたくなる。
 ならば、明らかに挑発らしきことを口にし始めた男が、それを言い終わる時こそが攻撃のきざしだと。
 逆に彼らの虚を突き返すようなタイミングでアスファルトを蹴り、摩美々を庇うようにして後方へと後ずさった。
 気を反らすフェイクのためだけに火炎瓶を投げつけ、『強くなっているかも』という忠告を受けて射程の延長も視野に入れて。

 だが。


 ――ここではないどこか知らない世界に


 歌いだし、その歌詞が告げられる始まりの一音の時点で、劇的に変わっていた。
 傍聴。認識。既視感。色彩。
 圧倒的情報量。非実在と理解。本能は理解否定。

『一緒に帰りますよ』

 先刻の呼びかけが、蘇る。
 メロウリンクの、足が止まった。
 正確には、その場に、脚を縫い止められた。
 まるで、疲労極大の時に戦友から、お前はよく頑張ったから休めと優しく言われたような抗いがたさを、加重されたように。
 かろうじて、メロウリンク自身はともかく、摩美々は逃がさねばと体は動き、突き飛ばす。

 先刻、七草にちかが、『もう自分を燃やさなくて、無理をしなくていいんだよ』と、ある男に伝えるために歌った曲。
 その場にいたメロウリンクもまた、何曲も聴くことになった『櫻木真乃から受け取った輝き』と、類似した色彩。
 プロデューサーがそれを聴かされて脳を揺らし、色彩を取り戻した『アイドルの表現』が、そのまま標的を射止める為に使われていた。

 そして。
 一撃で仕留める毒をもった蛇が、鎌首をもたげるように。
 歌いながらのアイドルは、あごのラインを引いて、メロウリンクという観客ひとりに視線を追いつかせて、ウインクをひとつ。
 歌声の有する『衝撃波』の破壊槌が、機銃掃射のように地面を抉って標的を追いかけ、メロウリンクの座標に追いつき。


「ガッ――――!!」


 ゲリラライブに巻き込まれた機甲猟兵の身体を、正面から存分に蹂躙した。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 極道技巧(スキル)の中には、『歌』や『踊り』のような芸術分野への表現力を開花させたものも複数存在する。
 踊り――バレエの持つ表現力によって、本物だと思わずにはいられない幻覚を見せる極道技巧、『夢幻燦顕視(むげんさんけんし)』。
 あるいは、歌を聴かせることで人間の大脳を直接的に破壊せしめる”殺戮歌(ころしうた)”という八極道の極道技巧。

 ホーミーズであるアイは、そういった技巧(スキル)を、英霊にさえも通用する幻覚や催眠として昇華する薬物の服用者ではない。
 しかし、薬物による身体能力の拡張はなくとも、『創造主の魂を多く注がれたホーミーズ』としての、人間の枠を超えた身体性能はある。
 そして。
 瓦礫に隠れたNPCたちを相手に歌った時は、『恐怖の喚起』ぐらいにしか揺さぶれなかったそれは。
 歌の学習(ボーカルレッスン)を繰り返し、何より『推してくれる誰かを元気づけたい』という心の一端を理解した、今となっては。
 彼女を推しながら見つめる田中にとっては、『怯えなくとも、アイを信頼して構えればいい』という落ち着きを喚起して響き渡り。
 彼女が覚えたてのアイの為に殺そうとする者にとっては、歌声に胸を打たれる間に、衝撃波に晒されるという劇毒(アピール)を刃物(オト)に宿す。

 敵技巧(ヴィランスキル)。崩壊歌(こわしうた)。
 詞(ウタ)を聴かせて動きを封じ、音波(オト)で抉る。

 あくまで彼女の素体は『国民的アイドルを目指せるトップアイドル』ではあっても、『世界的な歌姫』というほどの水準ではなく。
 また、歌によって聴衆を魅了するために不可欠である『感情』も掴みはじめであった故に、『強制力』とまで呼べるほどの力はなかったが。
 近似値によって音波破壊の透き間をくぐるよう回避していたメロウリンクの、その足にステップが遅れるほどの重りをぶら提げるには十二分となった。


 「…………っ。アーチャー、さん……!」


 とっさの退避手段としてサーヴァントの膂力によって押し出され、地面を転がることになり。
 折れた右腕をかろうじて左腕で覆ってかばいながらも。
 ふしぶしの打撲をどうにか無視して顔をあげた摩美々が目の当たりにしたのは。
 かろうじて身を起こしただけで、地面にマンホールほどの血だまりを作り。
 たくさんの車に轢かれたようにズタズタになったマントの背中を見せて膝をつく、瀕死のメロウリンクだった。

 絶望のあまり発狂して塹壕からとびだし、機銃掃射に撃たれて血みどろになった兵士。
 そのような光景だとしても大差ないほどの姿だった。
 全身強打、血管破裂が多数で、傷口を広げた既存の負傷も併せれば満身創痍。
 懐から取り落とした工具が、致命打の衝撃を代わりに受けたかのようにひしゃげて血だまりに浮いている。
 霊核に直結する部位だけは守れたことが奇跡。逆に言えば、それ以外はすべて相応の機能低下と痛みをともなう。
 何より筋繊維の破壊による敏捷性の喪失は、かろうじて成立していた回避が効かなくなったことを意味する。
 この場を打破するには致命的だった。

「むなしいもんだろ? どんな夢を見てアイドルになったか知らないけど、こうなっちゃお前らもモブと同じだ」

 バカにするというよりは、むしろ。
 どこかの誰かが味わった絶望を、お前らも平等に味わうべきだと言うような、そんな冷淡な声で。
 これでは、この先はとても……と。
 仲間の安否を案じるどころか、己の命を刈り取る鎌が喉元まできた恐怖が、改めて摩美々の心臓をつかんだ。

「楽しかっただろ?
 さっきまで、仲間たちがそこにいてさ。
 さっきまで、笑いながら希望を語ってさ。
 でも、残念だったなぁ。お前らみんな、キレイには死ねないよ」

 メロウリンクは重傷を負い。
 七草にちかは命に関わる怪我をしたまま地面に転がされ。
 アシュレイ・ホライゾンはここに駆け付けられないほどの強敵――おそらくは敵連合の首魁に猛攻を受けている。

 受け身として銃弾や歌声の奇襲に晒されてばかりだった摩美々にも。
 その絶望的な包囲は、じわじわと数歩の距離まで来ているのが見えた。

「死ぬ時はあっけなく、そのへんの暗くて汚いとこで死ぬんだ。
 トイレの床とか、死体だらけの道路とか、そんな所でさ」

 語られる具体的なイメージに、去来する違和感と、実感。
 感情で言い返してはいけない。
 もし声が震えているのを聴かれたら、精神的窮地を見抜かれるから。
 そんな、狼狽を隠すような、とっさの知恵は浮かぶのに、『声は震える』という恐怖を打開するすべがない。
 囲まれた現実は、今度こそ行き止まりだと、確かに予感させるもので――


 ――手で掴めるほど近くに、壊れた金色の懐中時計が転がっていた。


『敢えてこう呼ぶぞ。マスター、走れるか?』


 続けて、『久しぶりに』その呼び方で呼ぶ声がある。
 身体はずたぼろで、「ぜぇはぁ」と喘鳴が止まらない有り様なのに、念話はふてぶてしい矛盾。
 なぜ懐中時計を落っことしたのかと言えば、ずっと持ち歩いてくれていたからだろう。
 リンボへの逆襲(リベンジ)に使った後も、回収してくれたから。
 懐中時計を拾う。ひんやりと冷たかった。

『走れますケド。あと、気付いた事が一つ――』

 しかし、相手の言葉から思ったことを伝えようとする、説明の時間も遮るように。

「だんまりかよ。アイドルなのにMCの一つもできないのか。
 それとも念話で作戦会議中か? だったら、もうマスターを狙うか」
「りょーかい。摩美々ちゃんをだんだんお肉にしていけばいいんだね?」

 彼らが盟主と仰ぐ王は、敵をなるべく苦しませず殺すような恩情など決してかけない。
 殺す時は決定的な敗北感を相手に刻んでからだろうと彼らはその手並みを信頼しており。
 ならば、彼の代行として敵を敗北させるために赴いた自分たちは、それをなぞるべきだろう。
 彼らを動かしている芯の軸はその忠誠心であり、悪口も慢心からではなく模倣からくる言葉だ。
 優位にたって踏みにじる台詞を口にする一方で、念話で相談されることも、令呪の使用も警戒する。

「狙うのは両手からな。手の甲に令呪は見えないけど、隠し方を心得てるだけかも――」

 この状況を打破するためにこうしよう、などという念話を交わしきるだけの猶予は与えない。
 標的を絞るだけの精密性がある歌声の矛先を田中摩美々へと向けて、まず両手に激痛を与えることで思考を奪う。
 偶像のホーミーズが、先ほどその言葉に撃ち抜かれた少女を、逆に撃ち抜こうと視線を向けた時だった。

「アイドルに、詳しいんだな。本物の星野アイもそうだったのか?」

 まったく面識のないアイドルの名前を口にした。 
 青息吐息のサーヴァントがかろうじて喋れるまで息を整えて。言うことがそれ。
 敵からすれば滑稽だと見下げ果ててもおかしくないその混ぜ返しに、しかし男は眉をひそめた。
 しかし、それだけだ。崩壊をもたらす星の声を、それを撃たせる指令を止めさせるものではない。

「揺さぶりは無駄だぞ。今推してるアイドルがいるのに、他のアイドルの名前に引っ掛かる奴がどこにいるんだよ」

 もはや、星野アイと、今ここにいる新たな偶像を重ねて見ることはしない。
 そして己は弱者で周りは強者だという一線を、もう間違えることもしない。
 ゆえに、『こいつはどこまで知っているんだ』という動揺も、『サーヴァントなら俺より察しが良くてもおかしくない』と乗り越える。

「その手で殺したアイドルのことは吹っ切ったのか。敵(ヴィラン)としちゃ立派だな」

 だが、続く言葉は『察しが良かった』どころではなかった。

「星野アイは、子どもの所に帰る為にお前らを裏切って、殺そうとしたんだな。
 そんな星野アイを、トイレで殺し返したのがお前だろう」

 なぜ、そんなことまで分かる。
 あまりに具体的な言葉の羅列に、田中一という男の思考が硬直した。
 たとえカマかけなのだとしても、なんで『星野アイの方から殺そうとしてきた』なんてことまで。

 星野アイを殺したことに、もう後悔はなかった。
 それだけなら、指摘されてもああその通りだと開き直れた。
 だが、『敵連合から裏切りが出ることは分かっていた』なんて言われたら、えぐられるものがある。 
「あれ? なんで知ってるの?」とホーミーズのアイは首をかしげる。
 攻撃に発声を必要とする彼女は、疑いを声に出している時は、攻撃を停止させる。
 そして、すぐそばに控える相棒(ファン)である田中の動揺は、それ以上であるとアイは気付いた。

「俺たちの……何を知ってんだよ……」

 まさか、あの時俺たちの誰もが、死柄木さえ予想できなかった、星野の裏切りを。
 敵連合の絆なんて知らないこいつらは、『どうせ星野アイは裏切る』と想定内だったとでも言うのか?
『マスターが同じアイドル同士だから』とか、そんな理由で?
 馬鹿にするな。
 敵連合は最後には殺し合う関係でも、それでも仲間なんだ。

「知った風な探偵ごっこをしやがって! アイ、こいつを――」

 相手を激昂させて隙をつくり、動揺のまま奇襲を打ち込む。
 田中自身も行おうとしたその手口を、弱ったサーヴァントは行使した。
 襤褸になって半ばアスファルトに広がるマントの下から、黄色の噴煙が吹き上がる。

「ガス……!?」

 それまでは使わなかった細工にアイは眼を丸くし、田中を顧みる。
 同時に、示し合わせたように遠ざかっていく少女の足音も聴こえた。
 視界が悪くなったことも、摩美々が逃げようとしていることも、どちらもアイには些事でしかない。
 反響音(ソナー)を持っている彼女にとって、景色が煙で染まったことはちっとも支障にならないから。

「ひっ……」 
「田中! 大丈夫、たぶんこれ発煙筒……」

 アイの判断を迷わせたのは、田中がマスターからサーヴァントに矛先を変えろと言いかけたこと。
 そしてアイはまだしも、田中は眼前で色付きの煙が炸裂すれば動揺して後退せずにはいられなかったこと。
 いくら覚悟を決めていても、動揺した時に不測の事態が起こればショックは生まれる。

 ――ガキン! 

 地に取り落とした工具――歪んだペンチがサーヴァントの身体能力で剛速球として田中の頭部に投擲された。
 アイはこれまでの攻撃でもそうしたように腕をはらってそれを阻止する。

「……べつに悪いとは言わないさ」

 膝立ちから立ち上がる気配がある。
 満身創痍にも関わらず、その兵士はライフルに弾込めをしている証のスライド音を聴かせてきた。
 戦場の蛭(リーチャーズ・アーミー)は、全滅の包囲網が出来上がったことを知った上で、極細の活路にしがみつく。

「生き残る為に仲間の死体だって利用する最低野郎(ボトムス)以下は、俺だって同じだ」


◆◆◆◆◆◆◆◆


 偶像・星野アイの裏切りが絶対的な必然だと予見できた者は少ない。
 なぜなら、その言葉を聴いた者は限られていたからだ。

 ――分かんないんだよねー。帰った先に、私の席があるのかどうか
 ――私ね、死んでるの。元の世界だと

 田中もホーミーズのアイから『元の世界ではナイフで死んだ』と聴いたが、あくまで死後になってから。
『星野アイは、優勝しなければ生還できるか分からない』ことを、櫻木真乃とひかる、殺島だけがあらかじめ知っていた。
 だから真乃は戦線後の学校で、東京タワーの『崩壊』を聞いて、仲間たちの前でもアイを案じていた。

 アイさん、ああいう力を持った人にも、最後には戦うのかな……と。
 優勝のみを狙わなければ、生きて帰れないという言葉をそのまま受け止めて。
 ならば彼女はこれからのどこかで、同じ陣営にいる人達とも戦うのだろうかと。

 そこに田中の発言によって、『どうせトイレの床で死ぬ』という具体的な指定と。
 明らかに星野アイを由来とする存在を田中が従えている、という様子があれば。
 そして『連合(おれたち)のアイドルだ』と、本物の星野アイはもういないことを示唆されてしまえば。
 半ばハッタリではあれど、とっさの連想、そして想像はできる。
 彼女は敵連合に戦いを挑み、そしてトイレの床で敗れたのかもしれないと。
 ただ、それだけのことだった。



 懐中時計を握りしめて、走っていた。
 折れてる右腕はずっと痛むけど、握りしめればマシになる気がするから。
 打合せもなしに走り出せたのは、あらかじめ指示を受けていたからだ。

『それで私は、何をした方がいいですか?』
『なるべく早いうちに隙を作る。それで、すぐにちかの元に向かってくれ』

 メロウリンクと入れ替わりで、裏路地に向かうこと。そこでやってほしい事があること。
 そして摩美々もまた、『もしかして本物の星野アイは……』という仮説を相談している猶予はもらえなかった。
 だから、思いついた言葉をそのまま念話した。メロウリンクは、それを復唱してハッタリにしただけだ。

『戦いのどこかで、最後の令呪を切る必要がある。
 効果を最大限に引き出すには、具体的な目的を絞らなきゃいけない』

 塗りなおしたファンデーションで隠された下には、プロデューサーから返却された最後の令呪がある。

 大通りを走らずすぐ別の路地に入って、遮蔽物に身を隠しながら向かった。
 リカバリーソーダを調達した自販機に寄り道して、スポーツドリンクを拾う。
 霧子の趣味に付き合う形でふたり献血に行った時に、聞いたことがある。
 たくさんの血を失った時に、すぐできることは水分の補給。
 失血した上ですぐに輸血ができないなら、せめて体液、水分だけでも補っていた方がいい。
 献血所に無料のハンバーガーやドリンクが置いてあるのは、血を抜いた後は飲食した方がいいからだと。

『七草にちかを……無理は承知だが起こしてほしい。
 ライダーとの念話が繋がるかどうか、繋がるならその戦況しだいだ。
 重傷者を抱えて撤退戦をするか、意地でも迎撃戦をする令呪になるかが変わる』

 たぷたぷと水音がするボトルを揺らし、息を切らして。
 事前に提示された、そんな教えのことを反芻しながら。

 ――大丈夫、すぐにちかの所に着く。霧子から教わったことも全部思い出して、手当するから。

 ここに至るまで、ずっとやせ我慢をしている自覚はあった。
 寮を出た時に、サーヴァントたちもすぐに気付いた上で、眼をつぶってくれただけだ。

 ――にちかのライダーさんは、きっと大丈夫。だって世田谷でも東京タワーでも、にちかの為に帰ってきた。

 相手が『あの』死柄木弔なんじゃないかという予感はあった。
 それが意味するのは、割れた子ども達や海賊を殲滅して、光月おでんを食らい、話をするだけで魔王だと悟らせた者が。
 いよいよ、この人が失われたら後がないという、最後の希望にさえも追いついたということも。

 ――もう、紫色を曇らせたりしない。できることは全部やる。余計なことは考えない。

 取返しのつかない、カウントダウンが進んでいる。
 ふたたびの銃声からずっと予感はあったし、心もまた折れる寸前だと分かっていた。
 形見の時計ひとつ握ったところで、プラシーボなんてたかが知れていることも分かっていた。

 でも、いくら先は無いと言われたって、今になって足をとめられない。
 だって、もういないあの人は、私たちを生かすために、あんなに頑張ってくれたんだから。
 彼が自らを棄て札にし、全てを捧げるように遺してくれた成果を、摩美々が無駄にするなんて、
 絶対に、そんなこと、摩美々がやってはいけないことで―― 


「にちか! ただいま――」


 声をかけなきゃいけないから、呼吸はちゃんと整えて。
 血の海と、重体のにちかを目にすることはできるだけ覚悟して、その路地裏に駆け込んだ。
『ただいま』という挨拶になったのは、それが摩美々にとって一番安心する呼びかけだから。


 そこにあったのは、絶望とでも題するほかない光景だった。



 日の当たらない真っ黒な舗装が、血溜まりと混ざり合った茶色い汚れで視界を刺した。
 それは覚悟していた。覚悟していても、『その意味を見たくない』という拒絶が心を占めたけど。

 右手が、茶色く変色した鉄錆の匂いの真ん中にあった。
 正確には、右手『だけ』が、そこにあった。
 にちかの、これからステージで、ハンドマイクを持つための手が。
 絶句して、そう思う。
 それ以外……令呪の使用不可が意味することまで考慮したら、思考が破裂するから。

 右手をなくしたアイドル・七草はすぐ近くにいた。
 路地の壁に背を預けるようにして、横になっていた。
 路地から路地へと逃げ延びて、そして右手と腕を繋いでいた皮一枚が切れたらしい。

 右肩の少し先、右腕上腕部には、きつく巻かれた白布が目についた。
 保健体育の教科書で図解だけは見たことがある。
 止血帯止血法とか書かれていた方法だ。
 五センチぐらいの太さにまで畳まれたタオルが、もう一枚の当て布ごしに結び付けられる。
 更にその上から、リレーバトンほどの棒が布を締め上げるハンドルのように絡んで巻き付けられ固定されていた。
 さすがは本職の人というべきか、あの短時間で手際よくしっかりと縛られている。


 そして、何より大事なことに、生きていた。


 意識が、あった。 
 細められた眼は、小刻みなまばたきを繰り返していて。
 たった今、目覚めたばかりという様子に見えた。

 それはとても、本来であれば、それだけでも破顔するほどに嬉しいことのはずで。
 けれど、それは希望ではなく絶望と破滅なのだと、そう思わせる有り様だった。

 にちかからは、生気が失われていた。
 生命として虫の息、というわけではない。
『――あなた、誰?』と問いたくなるような、そんな顔をしていた。
 さっき、にちか自身が『うわ、ひっっっどい顔』と形容した時のプロデューサーと、そう違わないぐらいに憔悴していた。

「にちか……?」

 歩み寄り、摩美々の靴がにちかの血だまりを踏む。
 正面から向き合えば、細い筋となった泪が眦から糸を引いていた。
 それは苦痛による泪ではなく、孤独の泪だ。
 虚ろな空っぽの瞳と目を合わせた摩美々は、そう直観する。

 これは絶対に、手を失った激痛とショックだけのせいではない。
 そして、七草にちか自身以外のことで、彼女がここまで弱弱しくなる心当たりなんて。
 彼女をここまで揺さぶってしまう人の心当たりなんて、摩美々は一人しかしらない。


「ライダーさん……いなくなっちゃった……」


 アシュレイ・ホライゾンは、死柄木弔に敗死した。

 にちかを慰めるために道中で用意してきた、数十はあろうかという励ましと軽口。
 走りながらも考えてきた言葉が、バベルの塔みたいにがらがらと崩れて消えていった。

「わたし……幸せになる、約束もしたのに……」

 ああ。
 私も……プロデューサーと、ウィリアムさんに、約束したのに。
 あなたたちの想いも、乗せていくって。
 そんな共感の言葉さえ、今は遠い。
 言葉が、霞んでいく。
 世界の空気が、またたく間に澱んでいく。



 宇宙船は、もう飛べない。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 田中摩美々が狙われるリスクが消えたことは、焼石に水ほどしか結果を違えなかった。
 端的に言ってしまえば、戦況は早いか遅いかの違いでメロウリンクが消える。
 その一択でしかない。

 ――ワクワクする方へと、勝手に動き出すよ。言うこと聴いてくれないハート

 衝撃波(オト)によって身体を削られ、皮膚を裂かれながら、じわりじわりと後退する。
 まるで噴煙がたちのぼる、銃撃戦の荒野だった。
 塹壕から塹壕へと。後退を繰り返しながら、前線を押し上げられる。
 それはすべてが比喩ではなかった。
 渋谷区のその通りは、文字通りの意味で噴煙の壁ができあがっていた。

「なぁ……この火事って、なんかアイツにメリットあるのか?」
「わたしがあの男の子の相手をしてる間に、田中に突破されたら困るからじゃないの?
 拳銃で摩美々ちゃんを追っかけて撃ち殺されたら、逃がした意味がなくなっちゃうから」
「そりゃお前ならともかく、俺ならただの火事でも怖いけどさ……」

 その噴煙は、先刻に使用した改造スモーク花火の噴煙だけではない。
 スモーク花火による隙をついて、工具を投げつけた直後に。
 ライフルを背負い直したメロウリンクが投げつけたのは火炎瓶だった。
 アイたちを狙ってではなく、圧力鍋などの他の火器燃料とも併せて地面に投下し、散らばるような火の手をあげる。

「あと、歌声の射程と威力がびみょーに鈍ってた。煙のせいだと思う」

 火炎瓶は、もともと爆発よりも焼夷を目的として作り出された兵器だ。
 アイへの武器としては通用せずとも、機甲猟兵スキルによる改造補正もついて、発火すれば相応の火力でしばらく燃え続ける。
 手持ちのそれをありったけ消費し、メロウリンクが苦肉の策として作り出した『噴煙によって酸素濃度が薄くなった壁』だった。
『歌う』ということは『空気を利用している』ということになるのだから。
 同じ場所にいる者から一人を狙えるほどの精密性があるなら、大気状態が変わることによってもその条件は左右される。

 ――はやる心、焦らさないで。輝きのたもとに

 と、そこまでやって、手持ちの武装をほぼ使い切って。
 これでも、正面からの蹂躙をさけるための一時しのぎ。
 小刻みに刻まれる歌声の、その歌詞がもつ魅了の凶悪さは変わらず。脳を攪拌し意識を持って行きかける。
 総重量30キログラムのATライフルを顔の前に差し出し、かろうじて致命となる音波を弾く。
 弾き切れなかった音波は、両腕や胴にさらなる裂傷を刻み付けた。

「ぐっ……!」

 もう何度目になろうかといううめき声。
 まったく、ろくな戦い方ができない。
 勝ち筋など、とっくにコンマ1パーセントさえも割りこんで久しい。

 そのむなしい抵抗は、敵の側にしても、首をかしげるところではあり。
 焼夷瓶の燃焼がやがておさまれば、そのサーヴァントは万策尽きる。
 そんな中で、少しでも歌唱力の低減をはかるようにじりじりと後退するアーチャーの意図はアイたちにも分からなかった。

 マスターを少しでも遠くに逃がすための時間稼ぎが目的……と考えるのは、かえって良くない気がする。
 ホーミーズのアイは田中ほど考えを煮詰めることはできなくとも、素体である星野アイのしたたかさは受け継いでいる。
 聖杯戦争の終盤でひたすら戦地から隔離しても、死期はそう変わらないと分かっていた。

 ――見失わないで 夢がある限り

『崩壊歌』のもたらす負荷によって、破壊音をかいくぐるやり方は潰された。
 勝ち筋は途絶えた。 
 ならば、あのサーヴァントにとっての最後の希望は、別の戦地で戦っている仲間が、勝って加勢に加わることか。
 仲間の勝利を信じて、『その後の反撃を見越した』上での、時間稼ぎ。
 そして、そうだったとしても問題ない。
 死柄木が負けることは有り得ないと田中は信じているし、アイも無いだろうなぁと思っているから、考慮しなくていい。

 だから――火の手が自然鎮火に向かいつつあるのを観察して、トドメに移るだけの余裕がある。
 一方で相手は、気が気ではないだろう。
 火の手が小さくなり、破壊音が正常の威力を取り戻すまでに戦況が変化しなければ、詰みが確定するのだから。

 そしてメロウリンクは、たしかに読みどおりに期待をしていた。
 摩美々との念話が繋がり、ライダー側の戦況が確定し、それが朗報であるという、一縷の望みに。

 そして。
 火の手がゆらぎ、田中にさえもメロウの立ち姿が見えるほどになった瀬戸際で。
 その通信は届いた。
 期待は叶わなかったと、摩美々の暗く沈んだ念話が。
 それは、『方舟の出航は叶わない』と言う、大局的な敗北宣言であると同時に。


『――――』


 七草にちかのサーヴァントにして、方舟陣営の小隊指揮官――ライダー、アシュレイ・ホライゾン。
 その、戦死を告げる通信だった。
 もはや、塹壕代わりだった火の手はわずか。
 どっと身体が重くなるような喪失感が、メロウリンクへと圧し掛かった。
『畜生』と『くそったれ』という絶叫で肺が膨らむ。
 しかしその言葉さえも今は吐き出せない。

 勝機を見つけたとばかりに、偶像のホーミーズがひらりと突撃して。
 上方からの歌声を撃ちこむべく、跳躍していたから。

「ついていく相手を間違えたみたいだね、兵隊さん」

 どこまでも軽やかに、終焉を告げる。
 念話の内容は悟られずとも、『助勢が来なくて残念だったな』と嗤われているのは分かる。
 火の手が弱くなったと見て構えていたライフルを撃つも、その狙いは上方へと逸れる。アイには当たらない。

「いや、立派なやつだよ」

 負け惜しみだと、そうとしか聞こえないことはアイの表情から分かった。
 敵連合が磨きぬいた宝石(アイドル)が、ひときわ大きな発声のために息を吸う。
 ひかりのdestination(行き先)。その詞(コトバ)を、奈落の底への導きとするために――。



 アイの背後から、それも頭上から。
 ぎしぎしと、金属が軋み合うような音がした。



「それに、俺の戦いは」

 不穏で、いやな音。
 何故かそう感じた軋みの音を、アイの鋭敏な聴覚がわずかに拾う。
 振り向かずには、いられなかった。
 最後の一撃を不用意に中断すると分かっていながら。  

「まだ終わっちゃいない」

 田中がいる。アイのことを推して見守っている。
 それはいい。だが、問題は田中の頭上にあった。

「上っっっ!!」

 叫ばれて、どうしたと田中は見上げる。
 ほぼ同時に、その周囲に『大きな長方形の』影が落ちた。
 それは、渋谷区市街の大通りの横幅を、占領しそうな大きさの影だった。

「自己満足にしか見えない、むなしい抵抗も」

 たとえ設定(ロール)に殉じた作り物で、もうすぐ無くなる世界だとしても。
 そこが『東京都渋谷区』である限りは、そこかしこに設置されているもの。

 ぎぎぎ、と。
 ぎしぎし、と。

【建物の最上階部に据え付けられた屋外広告】が、十数メートル四方の液晶を田中へと傾けていた。

 何が起こった。
 そう思ったのはアイと田中とで、同時。
 正解を閃いたのは、アイの方。
 直前に発射された、メロウリンクの流れ弾。
 あれが、ハズレではなかったとしたら。

「泥に塗れた名誉も」

 元からそこにあったビルや広告看板は、トラップではない。
 だが度重なる渋谷区を襲う震災、とくに鬼ヶ島という『城』一つが墜落したことによる、大地震。
 それによって脆くなった建物や広告塔を、把握するぐらいのことはしていたなら。
 たった一発のライフル弾が、それを支える決定的な接合部を撃ったのだとしたら。
 密かに後退していたのは、『ライフルで撃ち抜くための最適な位置』につくためだとしたら。

「死が横たわる地獄も」

 間に合え、と走る。
 田中を落下地点から、逃がすために。
 峰津院大和と相手にして、田中が殺されそうになった時のように。
 感情は、あの時と違っていた。
 あの時にアイを動かしていたのは、仕事をしなきゃという焦りのみだった。
 今は、失ってはならないものを、失ったら『推しの子』じゃなくなると、守ろうとしている。

「踏み躙られる戦いも――――」


 間に合っ――――――轟音――――――った。


 田中を回収するように抱きかかえ、跳躍する。
 その足元をほとんど霞めるように、勢いをつけた金属塊がアスファルトへとめり込んだ。
 地面がたわむ。アスファルトの振動が眼に見えて、田中がひゅっと息をのむ。
 追撃のようにライフル弾が放たれたけれど、これも致命にならず。
 田中が拳銃と逆の手に握りしめていた連絡用携帯が手からこぼれ、それが撃ち抜かれたのみ。

「俺は、とうに知っている」

 砕かれたアスファルトで、粉塵が立ち込める。 
 田中を降ろした足元が心なしかおぼつかないのは、余震か、驚愕の余波か。
 ともあれ追撃を警戒して田中を庇い、視線をアーチャーのサーヴァントに向ければ。
 男は何をしていたのか、その形相をまったく別のものへと塗り替えていた。

 血の筋が、フェイスペイントとして描かれていた。
 右頬から鼻梁をまたいで左頬へと、四本の大きな爪痕が走っていた。


「機甲猟兵(おれたち)の、戦場(いつもどおり)だ」


 アイも、田中も。
 その視線に想起したのは……錆びついたナイフだ。
 いつ欠けてもおかしくないほどボロボロなのに、旧式の時代遅れなのに。
 新品のきれいなナイフよりもギザギザして、触れることが恐ろしいと、思わせるもの。

 お前は何を言っているんだ。
 渾身の奇襲は不発に終わった。
 お前にとって絶望的な戦いであることに変わりないんだぞ、と。
 田中が、そう言い返そうとした時だった。

 奇襲は、終わっていなかったと悟る。
 何故なら――座り込んだ田中の、腰から下で。
 重力が、消失したのだから。

「え――?」

 がくんと。
 田中の眼線が、激しくぶれた。
 認識できたことは、一つだった。
 揺れていた地面に、液晶看板の落下を起点として、たくさんの地割れ(ヒビ)が走っている。

 いや、確かに大地震の後って、液状化とか、道路の地盤が崩れたりとか、あるらしいけど。
 でも、いくら何でも、重量物の弾丸が直撃しらからって、こんなこと狙えるわけが。
 そんな常識がぐるぐると頭を回る頃には、身体が落下に呑まれる。
 しかし、しっかりと受け止めるものがあった。
 例によってアイの身体と腕が、田中の視界と安全を固定する。

 田中が認識できたのは、二つ。

 一つは、アイに守られる直前、粉塵の向こうに魔力光が見えたこと。
 土埃に遮られた上でなお鮮やかに判別できるそれは、令呪が使われた証だった。
 満身創痍であったメロウリンクの傷跡を、出血を、塞いで立て直すための光。

 いま一つは、回復をはかる仇敵に対して、アイが退けるための音波を放ったこと。


「――――――!!」


 歌をうたう暇もないと、圧縮して放たれた衝撃音。
 田中は、たまらず耳を塞いだ。
 認識できたのがその二つで終わったのは、脳震盪を起こしたため。
 アイが攻撃を放ったそこは、地下だったから。
 音波は色々な箇所に反響し、その跳弾を起こした余波が田中にも響いた。
 くわんと意識が遠くなり――そしてもうろうとしている間に、地上戦は、終わっていた。


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最終更新:2023年11月09日 00:48