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道化師とマリオネット - (2006/05/08 (月) 01:18:14) のソース

ローゼン「…というわけで、これ以上授業が遅れるのはまずいと思うんだよね。だから、当分の間は水銀燈が学校を無断欠席しても、君はそれを追っかけに行かないで欲しいんだ…。極力でいいからさ。」 
ある日の昼休み、校長室でこんな話がなされていた。 
それをたまたま外にいた水銀燈は、複雑な気分でそれを聞いていた。 
サボれる確率が一気に上がることは嬉しいが、裏を返せば私なんてどうでもいいという事に他ならないのではないか? 
それに、自分のせいで薔薇水晶が大変な思いをしている点にも気が引ける。しかし…。 
水銀燈「でも…これだけは止められないのよねぇ…。」 
誰に言うでもなく、職員室に戻った水銀燈は1人そう呟いた。 
大体、この学校には休みが少なすぎる…。 
週末はほとんど部活のせいで潰れるし、朝も早く起きなきゃいけないし… 
そんな事を考えていたとき、ある人物が彼女に話しかけてきた。 


?「やあやあ、何かお悩みですか?水銀燈先生。それが誰への悩みなのか、それとも自分自身の悩みなのか…。貴女の悩みはどちらですかな?」 
水銀燈「教頭…。悪いけど、あなたに構ってる暇はないの。どいてくれる?」 
そう言って、足早に立ち去ろうとする水銀燈。そんな彼女に背を向けたまま、彼はこんなことを言い出した。 
ラプラス「おや、いいんですか?そのせいで自分の大切なものを失ったとしても…」 
水銀燈「…引っかかる言い方ね。で、何が言いたいのよ?」 
再び教頭であるラプラスのほうに振り返ると、彼女はそれに詰め寄った。 
しかし、当のラプラスはというとそれに屈することなく、むしろマイペースにこう言ってのけた。 
ラプラス「何かを得るためには何かを失わなくてはいけません。美味しい食事を頂くには、それを買うためのお金を…。お金を貯めようと思えば、その美味しい食事を我慢しなければならないように…。それが正しい、因果律のあり方…」 
水銀燈「…言いたいことがあるのなら、はっきり言えば?あなたにかまってる暇は無いって言ったでしょう?それとも、その立派なお耳は飾りって訳?」 
言葉のあちこちに鋭い棘を含ませ、それを差し出す水銀燈…。そんな彼女に、ラプラスはやっと本題を切り出した。


ラプラス「…でも、貴女には教師としての役目がおありです。話は先ほど聞かれましたよね?これ以上、薔薇水晶さんの授業を遅らせるわけにはいかないんです。彼女にとっても…そして、私たちにとっても…。」 
どうやら、先ほど盗み聞きしていたことは、教頭にはばれていたらしい。 
しかし、そんな事にひるむほど彼女は弱くはなかった。 
水銀燈「…でも、私をここに縛り付けることは誰にも出来ないわよぉ?私は来たい時に来て去りたい時に去る…。文句があるのなら、いつでもかかって来なさぁい。」 
対してラプラスの方はと言うと、その挑発には乗らず、終始マイペースでこう言ってのけた。 
ラプラス「…私は別に強制する気はありません…。ただし、先ほど言ったように失うものもあるかもしれませんので、その行動には責任をお持ちになりますように…」 
『責任』という言葉に、思わず身構える水銀燈。その彼女に、ラプラスは続けてこう言った。


ラプラス「一昨年、貴女はマンションを購入されているようですね。しかも一括で…。源泉徴収表に、しっかりその証拠が記載されていましたよ?」 
そう…それは水銀燈が必死に隠し通してきたことの1つ…。 
そのマンションは、『馬鹿な男たち』から貰った別のマンションや高級外車等を売り払い、自力で購入したものだった。 
当然、この事は『いい子ちゃん』の薔薇水晶にはまだ知られておらず、知られたらその運命は先に奪われたランボルギーニと同じ道をたどることだろう…。 
そんなラプラスの発言に対し、水銀燈は高ぶる感情を隠すことなく、はき捨てるようにこう言った。 
水銀燈「…この私を脅そうというの…!?いい手を考えたものね…!反吐が出るくらいに…!!」 
しかし、そんな彼女の言葉をもってしても、ついに彼の鉄面皮を崩すことは出来なかった。 
ラプラスは、ふぅとため息をつきこう言った。 
ラプラス「私はただ事実を述べているだけ…。個人の問題なので、私は立ち入る気はありませんが、これを薔薇水晶さんが知ったら…。それに、彼女の昼休みの行動までは制限してませんので、お忘れなく…」 
水銀燈「…ッ!!」 
その言葉に、彼女は目の前にある真紅の机を思い切り蹴飛ばし、その側面をへこませると力任せにドアを開け職員室を後にした。 
そして翌日… 


薔薇水晶「え…!?銀ちゃん、どうしたの…!?まだ8時前なのに…」 
水銀燈「…うるさいわね…。一体、誰のせいでこんな事になってると思って…」 
薔薇水晶「…え?」 
水銀燈「独り言よ…。あーあ…教頭のヤツ、早く死なないかしら…?」 
その一言に「教頭にまた何か言われたんだな…」と直感すると、薔薇水晶はため息と共にその場を後にした。 
その後、水銀燈は定時どうりにきちんと学校に来るようになった。 
…『ある事件』が起こる、その日まで… 


完 

[[数日後のある事件の話>逃げ出した先に見つけたもの]]

 
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