時刻は午前12時過ぎ。
そこは今が夜であることを忘れているかの如くに明けていた。
高い天井に規則的に並んだ照明からの光が、空間を余さず照らしつけている。
男が1人、金属製の平らな床の上を歩いている。
空間にある音といえば、その高い足音のみ。
明らかに人工建造物内であるにもかかわらず、人の気配がまるで存在しない。
非現実的とも思える不気味な静寂の中を、男は怖じる様子もなく歩む。
その静寂に、突如轟音が割り込んでくる。
今歩いている床の横、一段床が低い空間に巨大な金属の塊が列を連ねて侵入してきた。
男の持つ膨大な知識で検索せずとも分かる。それは電気を動力にする列車、電車だと。
つまりこの空間は男が推察した通り、地下鉄の駅のホーム上だったわけである。
それを裏付けるように、歩み続ける男の視界に看板が表れた。
看板には『C-2駅』と書かれている。日本語で……。
「これで一応、支給されていると言われた地図と照合して現在位置も分かりそうなんだが…………。
ン~~~……、どうやら本当に瞬間移動しちまったらしい」
平静に見えた男が、ここに来て初めて眉を釣り上げ表情を作る。
ただそれだけで男の顔を構成する分厚い筋肉が動く。
顔だけではない。
頭部全体に、胴体に、腕に、脚に、全身のあらゆる部位に肥満と見紛うばかりの莫大かつ高密度な筋肉が搭載されていた。
骨格に対する限界値に挑戦するが如く筋肉をつけた男。
男の名はビスケット・オリバ。
アメリカ合衆国アリゾナ州立刑務所収監されている囚人ながら、その刑務所を自由に出入りし
好きなものを着、好きなものを食べ、超規格外の筋力と知力に物を言わせ
刑務所の所員並びに自らが捕獲してきた囚人達の上に、そして法の外に君臨する。
地球上で最も自由に振る舞い生きることから、ミスター・アンチェイン(繋がれざる者)と呼ばれている男だ。
「俺はこれでも科学信奉者なんだぜ、アメリカ人だからな。しかし同時に体験主義者でもある。
だから信じるしかあるまい。自分が体験した、超常現象の数々。このわたしが、事態を受け止めるのに逼迫している現実」
オリバとて幾多の修羅場を潜ってきた猛者だ。少々のことでは、動じるはずもない。
しかしこの事態はオリバの超知力を持ってしても、理解を超えた状況。
全くの未知の事態。
それでもオリバは怖気づくこともなく、しかし途方に暮れていた。
全てが理解の外ならば、自分の取るべき行動の指針さえ掴めない。
「まァ、とりあえずこのちっぽけな安物のバックの中身を見てからだな」
オリバはこの場に来てからずっと背負っていたデイパックの中身を検分することにした。
光が晴れてこの場所に移動した時には、なぜかすでに背負っていたのだ。
肩紐の部分がきついが、そもそも一般的なデイパックのサイズではオリバに背負うことができない。専用に用意された物と思われる。
死神博士の話によると、中には様々な支給品が入っているらしい。
とにかくそれらを調べて、少しでも現状を把握する材料にすべきだ。
背中から降ろし金属製のジッパーになっている口を開け、中から荷物を取り出していく。
磁石が針になっている円形のコンパス。金属製のふたを開ける円形のアナログ時計。黒い表紙に閉ざされたメモ帳。ボールペン。
水がいっぱいに入ったペットボトルが3本。色や匂いを確かめても不審なところは無い。中身はただの水のようだ。
そしていくつもの人名が連ねられた、名簿と思しき紙片。自分の名前も確認できたので、ほぼ間違いない。
知った名前が幾つかある。
ジャック・ハンマー、本部以蔵、花山薫、烈海王。
ジャック・ハンマー、本部以蔵、烈海王の3人はそれぞれ世界でも屈指の格闘家だ。
花山薫は彼等に素手で対抗しうる戦力を持つ暴力団組長。
もっとも、彼らのことは知識として知っているだけで人格的な部分はわからない。
烈海王とは大擂台賽で面識はあるが、人格を判断できるほどの付き合いではない。
この4人に関しては、殺し合いの中でどう動くかの判断は保留する。
そして友人の名前もあった――――範馬勇次郎。
「オーガ、こいつも同じ殺し合いに参加してるとなると…………大問題(シリアスプロブレム)だな」
その圧倒的な暴力によって、あらゆる国家の軍事力を凌駕しそれを蹂躙する。
地上最強の生物と呼ばれる男。
あの男が殺し合いに乗るかという疑問を持つほど無意味なことはない。
闘争への欲望と殺傷本能の赴くまま格闘家を兵士を、歯向かうならば如何な力無きものも殺してきた男。
あの平時から殺し合いを生きているような男が、殺し合いに参加して変節するなど有り得ない。
彼とは長く友人として付き合ってきたが、今の状況では勇次郎ならそんなことお構いなしだろう。
つまり殺し合いに対しどんなスタンスを取るにせよ、勇次郎とは敵対するということだ。
戦いとなれば如何な相手でも勝つ自信があるが、勇次郎は話が別だ。何らかの対策を考えなければならない。
「…………そして問題はこいつらだ。曹操に劉備に関羽に孔明だって? 常なら下手なジョークだと笑い飛ばすところなんだが……」
関羽雲長、許チョ仲康、荀イク文若、諸葛亮孔明、曹操孟徳、張遼文遠、董卓仲穎、劉備玄徳、呂布奉先。
いずれも古代中国の歴史書『三国志』に記録されている人物。
そうあの古今様々な創作の題材となった、『三国志』の主要登場人物の名前だ。
そして最初に参加者が集められた場所。そこで「中華の英雄董卓仲穎」と呼ばれた男。確かに中国人の、それも北方系に見えた。
しかし当然三国志の人物であるということは、はるか昔に死んだはずの人間ばかりだ。
だからここにある名前も、歴史書の人物とは同名の別人と考えるのが自然だ。
本来ならそれで済む話。
だが……ここでは既に科学を超越した現象が何重にも起こっている。
自分の知識を基準に物事を判断できる状況ではない。
彼らの存在と本当に歴史の人物である可能性は、頭に入れておくべきだろう。
他に知っている名前は無い。
名簿全体で気になる点といえば、日本人名が多いこと
そして日本語で書かれていて、名前があいうえお順に並んでいることか……。
名簿を置き、今度は地図を見る。
縦横に線で区切られて、縦の列にAからJまでのアルファベット、横の列に1から10までの数字が振ってあった。
地図上を斜めに走り交差する、列車のものと思しき線。その線に5つの点、駅がある。
縦横の区切りの記号からC-2に当たるエリアにも、名前はふられていないが駅があった。
そこがオリバの現在位置ということになるのだろう。
そしてアルファベットと数字のエリア分け。
おそらく実体や実線のない、地図上だけの区分けだろう。
では何のための区分けか?
死神博士の説明に『立ち入り禁止となるエリア』の存在があった。
同じく説明にあった『放送』で指定されるものと思われる。目的は参加者を動かすためと推測される。
そして例えばそれがこの建物であるとか、この地点から半径何mの円周の範囲とか指定しても伝わりにくい。
地図上のエリア分けは、その『立ち入り禁止となるエリア』として分かりやすく指定する為のものだろう。
そして地図の全体を見て建造物や地形などを大まかに把握して、名簿の横に置く。
建造物から日本であると推測されたが、それは実地を見てから判断すればいい。
日本であるとしても、気になる点があったが……。
「……で、これとこれはなんだい?」
デイパックから出てきた如雨露と長方形のカード。
如雨露の方は全体が金色で、豪華な装飾がされている。
妙に小さいと思えたが、オリバはそもそも自分に見合ったサイズの如雨露など見たことは無いのでそこは特に気にしない。
カードの方は全体が桃色で、これも意味は分からないが凝った意匠が描かれている。
よく見ると「THE FIREY」という文字が書かれている。火という意味か?
それぞれには紙片が添えてあった。記載されている内容を読んでみると、各々の説明書きのようだ。
やはり日本語で書かれている……。
それによると
『庭師の如雨露』。心の樹に水をやる為の物。
『ファイアリーのさくらカード』。火の魔法を使用することができる。
如雨露はともかくカードが本物かは、今この場で試すことができる。
説明書によると本来使用には杖と魔力が必要らしいが、今は使用者が名前を唱えるだけで使えるそうだ。
「ファイアリー」
掲げたカードからバスケットボール大の火球が飛び出した。
設置されてあったベンチに接触し、赤橙色に輝く炎で包む。
金属製のベンチを高熱で焼き、火勢は床や壁にまで広がって行く。
火炎放射器をも上回りそうな、兵器と呼ぶのが相応しい威力。
それ以上に驚くべきは、本当に『魔法』の道具だった点か。
改めてここは、自分の固定観念が通用しない場所だと思い知る。
カードの方は武器として使用できる。如雨露もどこかで使い方が分かるかも知れない。
武器。オリバにとって己の肉体以上に信頼できる武器はない。
しかし今はこんな状況だ。物理的な力が通用しない事態を迎えるかもしれない。
魔法の道具も手札として確保するに越したことはない。
そしてデイパックに残っていた物を、逆さにして掻き出していく。
多種多様な缶詰が出てきて、山を作った。
魚、肉、野菜、米飯などの調理缶詰や果実やスープもある。どうやら食料として支給された物らしい。
一般的な成人男性なら優に3食は賄える量だが、オリバにすれば1食分にも足りない量だ。
しかも缶詰は大量にあるのに、なぜか何処にも缶切りがない。
もっともオリバにとっては何の不都合もないが。
オリバは試しにコンビーフの缶詰を手に取って
プルトップの付いていない蓋を力付くで摘まみ、そのまま造作もなく開ける。
そして中身を一気に口の中に流し込んだ。
「量はみみっちい上に味も論外。人を招待しておいてこれとは、死神博士とやらの格(レベル)も知れるな。
……それにしても…………デイパックにまで魔法が掛かっているのか?」
デイパックの中身は全て外に出して、確認してみたが
その荷物の総量が、デイパックの内容量を明らかに超えていたのだ。
全ての荷物をどう無理やり押し込もうとしても、絶対にデイパックの体積には納まりきらないはずなのだ。
それでも荷物を順番にデイパックへ入れていく。全て入りきった。
オリバは近くの高さがデイパックの全長の2倍以上ある、ゴミ箱を手に取ると
それをデイパックの口に入れていく。やはりゴミ箱は全て入りきった。
ゴミ箱を取り出し中を覗き込む。特に不審な点は見当たらない。
「やれやれ……いよいよこれは、不思議の国に迷い込んだアリスの気分だ」
荷物が全て詰まったデイパックを背負う。但し時計だけは取り出した。
そしてホームの天井から吊るされる様にある時計と、手元の時計を照合する。
2つの時計の進みは秒針まで一致していた。
オリバはホームを後にして、駅の各所を観て回ることにした。
と言っても、極めて大雑把な検分だ。
待合室も売店も自動改札口もコンコースも券売機前も駅務室も一通り観て回ったが、全て無人。
無人と言うより、元から人が居た気配がない。
どこの床も汚れ1つなく、自動改札機や券売機にも傷1つなく、駅務室の机も椅子も今日用意されたばかりのように整然としていた。
そして時計を3つ見つけた。その内2つはアナログ時計だったが、全てが秒針までオリバの時計と一致する。
他に気になった点といえば、銘板や案内図などで使われている文字が日本のものだということ……。
出入り口となる階段を上り、地上に出る。
地下とはまるで異なる空気とその流れ。開放感。
歩きながら空を見上げた。星明りが瞬く夜の闇が広がっている。
「アルデバラン、ベガ、アルタイル……星は北半球から見える物で合ってるな。
ちゃんと角度を測れば、ここの正確な位置も割り出せるかもしれないが…………そいつは後でいいか」
天測をしても不審はない。
コンパスを取り出し照合。やはり方角と星は合っている。
「ン~~~……、 幾ら目を凝らしても米国(ステーツ)の偵察衛星の有無が分かるわけでなし……か。
眼球にも、ウエイトトレーニングさせとくんだったかな」
オリバと範馬勇次郎は、アメリカ合衆国に人工衛星から24時間体制で監視されている。
その監視の目は世界中のどこに行こうと、外れることはない。
つまり今もオリバと勇次郎は、衛星から監視されているはずだ。
しかし殺し合いを主催する者が、外から監視される状況を許すだろうか?
それでは何時殺し合いに武力介入を受け、自分も制圧されるか分からない。
ではどうする?
衛星による偵察を妨害したか? 偵察衛星そのものを破壊したか? それともアメリカ自体が殺し合いの黒幕に居る?
どれも不自然な想定に思える。
衛星にトラブルが生じれば、その線からアメリカは殺し合いを主催する者を追うはずだし
アメリカが勇次郎に首輪を嵌められるほどの、千載一遇のチャンスを得たなら
悠長に殺し合いなどさせず、さっさと手段を選ばず殺すに違いない。
いっそここがオリバにとって、文字通りに未知の場所だとでも考えた方がよほどすっきりする……。
思案に耽っている間に、近くのパチンコ店に辿り着いた。
シャッターが下りて鍵が掛かっていたが、力付くで持ち上げる。
金属製のシャッターが、じゃばらの如くひしゃげて持ち上がった。
店内は暗く、人も居ない。
照明のスイッチを見つける。押してみるが、明かりはつかない。
壁掛け時計を見る。アナログ時計だったが動いていなかった。
事務室まで入る。机に時計が置いてあった。
その時計も、オリバの物と秒針まで一致していたことを確認。
それを済ますと、さっさとパチンコ店を出る。
夜の町並みを見渡しながら、オリバは何の恐れも抱いていない様子で悠然と歩く。
看板を標識を電柱に張り付いたポスターを観察するも、ほとんど日本語が使用されている。
信号機もシンプルな赤と緑が縦に並んだ日本のもの。
要するに、どう見ても日本の町並みと言うことだ。
その中から無作為に一軒の民家を見繕い、入ってみる。
玄関に鍵が掛かっていたが、オリバには関係ない。あっけなくノブをひねって壊し、中に入れた。
そこは予想通り、無人の闇が支配する空間。
玄関の照明は点かない。
台所に行く。電気、ガス、水道、全てが止まっている。
壁掛け時計があるが、それも止まっている。
となりの部屋に入る。そこは個人部屋らしい。
洋式のベッドが置いてあり、その枕もとには目覚まし時計。動いていた。
おそらく電池などの、内部電源の時計は生きているのだろう。駅以外のところでは。
やはり秒針まで、これまでの時計と一致している。
「日本人が時間にうるさいのは有名だが……こいつはさすがに、異常ってもんだぜ」
嘆息したオリバはベッドに座り込んだ。
布団がはね飛び、土台部分がギシギシと悲鳴を上げる。
そんなことはお構いなしに、オリバはこれまでの疑問点を頭の中でまとめ始める。
この不思議の国の、あまりに異常な様相を――――。
問題の要点は2点。
1.言語の問題
2.地利の問題
まずは言語の問題。
オリバは複数の言語を日常会話が可能なレベルで使用できる。
しかし母国語はあくまで英語(アメリカンイングリッシュ)だ。
それなのに、先程から口をついて出る言葉は日本語だ。それも母国語の自然さで。
あまりに自然なので、しばらく疑問にすら思わなかったほどだ。
そこで思い出されるのが、最初に集められた場所に居た『董卓』だ。あの男も確かに日本語で喋っていた。
死神博士は男を『中華の』と称した。
そこから『董卓』を死神博士が本物と認識しているか、死神博士が意図的に『董卓』の偽者を本物だと誤認させようとしているか
どちらかだと推測される。
しかし『董卓』の偽者なら、日本語で喋るような真似はすまい。失策だとしたら噴飯物の話だ。
ではなぜ、『董卓』が日本語で喋っていたか?
自分の状態と照らし合わせて、もっとも有力な仮説。
それは『董卓』が主催者による外的要因で、普段と違うと意識できないほど自然に日本語を喋らされていたからだ。
そしておそらくはオリバも含め、全ての参加者に同じ措置がされているのだろう。
つまり支給品に使われている日本語を全員が読め、殺し合いの会場となる日本の町並みも比較的不便は少なく
更には参加者同士の会話も不自由なく行えるよう、主催者によって処置されていたということだ。
次に地理的な問題。
殺し合いの会場となる町並みは、どう見ても日本のもの。
しかしそれでも疑問は残る。
規格外の知力を持つと称されるオリバの脳内には、膨大な知識が詰め込まれている。
そこには地理の知識も含まれる。
世界中の地理を把握しているといっても、過言ではない。当然、日本のものも含めて。
しかし支給された地図のような場所は、日本のどこにも存在しないのだ。
それどころかオリバの脳内で世界中のあらゆる場所を検索しても、該当する場所は無い。
そもそもこれだけの規模の会場を、どうやって作り出したのか?
殺し合いの舞台となるのだから、当然地図全体が無人でなければならない。
しかしこれだけの規模の都市から人払いする方法となると、意外なほど難しくなる。
強制移動させる権力など、日本政府に持っているはずがない。
何らかの方法で神隠しの如く人を消したとしたら、それこそ社会問題となって大規模な調査がされるはずだ。
更に疑問点がある。
駅以外の場所のライフラインが止まっていたのだ。
地図の部分だけライフラインが抜け落ちて、他は通常運転など考えられない。やはり社会問題となるはず。
日本中のライフラインが止まったとしたら、なお更だ。
つまり単純に予め存在する都市を、殺し合いの会場に転用したというのはありえない。
疑問点はまだある。
会場内の時計が、極めて正確に一致していることだ。
偶然では絶対ないと言い切れるほどに。
意図的なものかどうかはともかく、原因は人為的なものに違いない。
これら3つの疑問点に対し、オリバが用意できる解答は1つ。
この会場は既存の都市ではなく、殺し合いのために創られた場所なのだ。
しかも時計を持ってきて指定の場所に設置するのではなく、予め設定された時間に合わせ時計を創るような
まずデータありきで、そこから超常的な方法で実体を創るようなやり方で。
おそらく地図に記載されている施設のみ、ライフラインを通しているのだろう。
そしてここは少なくとも地上のどこかではない。
地下か海底か時空や次元の壁に阻まれているか、いずれにしろ衛星の偵察が届かない場所。
これなら都市が無人であることも、ライフラインが一部しか生きていないことも、時計の一致も説明がつく。
アメリカ合衆国の監視も届かない、超常の街。
それがこの会場の正体だ。
「ハハ……気分どころじゃねェ。本当に不思議の国(ワンダーランド)のアリスになっちまった訳だ」
意識すれば英語も使えるんだなどと思いながら、オリバは自嘲の笑みを浮かべた。
この世に縛る法も繋ぐ鎖も閉じ込める部屋も存在し得ない。
ゆえに『繋がれざる者(アンチェイン)』と呼ばれていた。
そのアンチェインが、いま不思議の国に囚われている。
アンチェインが束縛され、『チェイン(繋がれし者)』とされた。
オリバはその事実を受け止め、そして――――歓喜した。
「久しくなかった。このわたしが囚われている……。このわたしが、また自由を求められるなど夢のようだ」
長く刑務所を自由に出入りできる立場になり、今やそれが当然となった。
オリバの前に立とうなどという強者は、居なくなって久しい。
ジュン・ゲバルや範馬刃牙の挑戦を受けているが、彼らは余りに小さすぎる。所詮、自分を脅かす存在ではない。
そんな自分に、不自由が与えられた。自分が脱出のために、力を尽くすに足る不自由が。
ここを脱けられれば、更なるアンチェインとしての高みに立てる。
逸る気持ちのままに、民家を出発する。
とりあえずは情報を集めながら西に向かい、地図の西端の状態を見る。
地図の外の景色はどうなっているか? 地図との境に何か異常は? エトセトラ
殺し合いの会場の、極めて重要な情報を得られるだろう。
そうしながら他の参加者を捜す。そしてもし殺し合いに乗っているなら、遠慮なく首輪を頂く。
解除用のサンプルなどに使うために。
殺し合いから脱出するためには、当然首輪を解除しなければならないからだ。
オリバの目的は決まった。いや最初から、殺し合いに参加するずっと前から決まっていた。
首輪を解除し、この場から脱出する。
殺し合いなど知ったことか。たとえ誰かを殺すことになっても、それは殺し合いのルールとは関係ない。
そして見事、殺し合いから脱出できたあかつきには
この素敵な殺し合いに囚えてくれた死神博士、あるいはその黒幕を
最大の感謝を込めて殺してやる。
何より重要なのは、誰よりも早く殺し合いから脱出しなければならないことだ。
この殺し合いからの脱出の扉。
それを最初にあける者は、絶対に地上最自由(アンチェイン)でなくてはならない。
わたし以外の殺し合いの参加者71名――――
彼等に――――
わたし以上の自由は許さない!!!
【C-2/市街地/一日目-深夜】
【ビスケット・オリバ@バキシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:無し
[持物]:支給品一式、庭師の如雨露@ローゼンメイデン、ファイアリーのさくらカード@カードキャプターさくら
[方針/目的]
基本:殺し合いからの脱出。
1:殺し合いの主催者を殺す。
2:他の参加者より早く脱出の方法を得る。わたし以上の自由は許さない!!!
3:地図の西端部分へ行き、地図の外の様子を調べる。
4:首輪を手に入れる。
[備考]
※範馬刃牙原作第18話終了後からの参戦です
最終更新:2010年02月19日 09:16