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憎まれる風の馬鹿(上) 「なんで私(わたし)まで勾留されるのか納得いかないんだけど。まったくもって。」 「暴れすぎですのよ。」 第7学区の警備員の詰所でツインテールの少女、白井黒子は隣の椅子に座らされている別の少女に呆れたように言った。 白井と同じぐらいの年頃に見える少女は中途半端な長さの黒髪を後頭部で束ねた髪型をしている。 銀色のチェーンについた胸元のネックレスは縁が金色で中心部は鮮やかな青をベースとしたデザインとなっている。 一見してお洒落なアクセサリーに見えるが、実はこれは携帯音楽プレイヤーである。 アクセサリーと音楽機器の融合というテーマでとある企業が作った試作品だが、 値段の割に操作性や液晶の広さなどが今一歩というなんともな品である。 ヘッドフォンをネックレス部分に収納しているためやや厚ぼったいのも客がつかない理由の一つである。 少女は座らされているといっても別に取り押さえられているわけでも拘束されているわけではない。 ただ頭にタンコブを一つ作っているだけである。 「だって100パーもってあっちが悪いじゃない?」 「街中で派手にドンパチする迷惑を考えなさいな。」 一応任意同行となっているが半ば勾留という態で少女はここにいる。あまり良い意味ではない。 事件の発端は二十分ほど前。 最近、同一の能力者によるものと思われる事件が多発していたため、 風紀委員も警備員も見回りの回数をいつもより増やしていた。 見回り中の白井はひったくりの現場に遭遇し、被害者に怪我がないことを確認した直後、 風紀委員(ジャッジメント)ですの!と逃げる不良たちの前に立ちはだかった。 風紀委員だとなんだガキじゃねえかお嬢ちゃんどかないとケガしちゃうぜーと 一通りお約束(死亡フラグ)を果たした不良達をさてどうあしらって差し上げましょうかと考えていたら さっきの被害者が「アックソックザアァァァァァァァン!!!」とか叫びながら突撃しつつ 衝撃波を不良達(プラス白井)に向けて放ってきた。吹っ飛ぶ不良達。白井は空間移動で難を逃れた。 そこで終わっていれば良かったのだが不良の一人がそこそこ(おそらくLV3程度)の能力者だったらしく ふははは俺様の真空断熱(ゾージルシー)を使う時が来たようだな!!とか言い出して超能力バトル勃発。 最終的に巨乳の警備員が「派手に喧嘩してる馬鹿はどこじゃーん!」と(若干楽しそうに)拳で二人ともぶっ飛ばして終結した。…なまはげ? 「くそう…善良な一般学生が手助けしたのにこの仕打ち。感謝状ちょーだいよ諭吉の絵のついてるやつ。」 「一般人が危険に飛び込んでいくのは感心しませんの。更に騒ぎを大きくするのはなおさらですわ。」 「風紀委員だったらいいんだ。私も風紀委員になろうかな?」 軽いノリで言いながら指をピストルのようにしてバーンバーンとふざける少女に白井はやれやれと呆れたような溜息をついた。 「私たちは別に力を振り回したくて風紀委員をやっているわけではないですわ。誤解なさらないでくださいな。」 「…てゆうか風紀委員の権限ってたしか校外じゃ通用しないんじゃ…。  でもあなた、えー名前は?」 「白井ですわ」 「白井さん、テレポートってかなり便利なんでしょ?  普通に生活してるだけじゃ持て余すんじゃないの?」 「別にそんなことはありませんわ…多少できることの幅が広がりますけれど。」 そう白井が答えた時、巨乳の警備員が不良を他の警備員に引き渡し、現場を確認し終わったのか戻ってきた。 「おっ待たせじゃーん。そんじゃちゃちゃっと状況聞かしてもらおうじゃん?」 風紀委員第一七七支部 「昨日も警備員によってスキルアウトが倒れているのが発見されました。」 パソコンの前の初春は白井に最近のスキルアウト返り討ち事件について報告していた。 襲撃事件、ではなく返り討ち事件。である。 犯人の手口はこれ見よがしにブランド物のバッグなどを持ち歩きながら治安の悪そうな場所をうろうろし、 タチの悪い連中が関わってきたら返り討ちにして身ぐるみ剥ぐというものである。 発覚したのは一昨日だが、事件の性質上被害者から証言が得にくいという点や よからぬ目的でわざわざ監視カメラの死角に犯人を追い込む「被害者」も多いため、 被害者の数は発覚していないところで数倍はいるだろうと推測される。 「被害者は昏倒、全身への打撲、ひどい耳鳴り、吐き気などの症状を訴えています。特に耳が痛いと言っています。」 「犯人の目星は?」 「単独犯か複数犯かはまだ判りません。  他には大きな音がして被害者が吹き飛んだという証言ぐらいですね。これだけだと何とも言えないです。  あと衛星からの観測で周囲の大気の不自然な揺らぎが観測されたらしいので、  おそらく大気操作系か音波操作系の能力者かと。  とりあえず絞った学生のデータが……あっ」 初春は画面の右下に開いていた監視カメラの映像を分割していたウィンドウを画面一杯に広げた。 「どうしましたの?」 「ここ、この人、なんか怪しくないですか?」 分割された映像の一つを拡大すると、確かに怪しい人物が映っていた。 もうすぐ五月だというのに、スカーフ、サングラス、マスク、耳あて、ニット帽子という出で立ちだ。 極めつけに、晴れだというのに体格に合わないレインコートを着ていて、体のラインもはっきりとしない。 「…………怪しすぎますわね。」 「あっ!この派手派手なバッグ、ブランドものですよ。」 「でもこんな浮いた格好している方って普通はスルー…って絡まれてる!?」 「あ、逃げてきますねー。追ってますねー。この先は監視カメラとかないですねー。」 「はぁ…初春。私はこの地点に行ってきますの。衛星から大気の揺らぎが観測されたら警備員に連絡を。  彼らの行き先を予想してナビをお願いしますわ。」 その裏路地に白井が到着すると、不良達はいきなり現れた白井に狼狽したが、 『むぅ…こいつは!!』『知っているのか、山本!!』 『こいつは噂に聞く風紀委員のテレポーター女狂戦士(アマゾネス)白井!!  まさか本人をこの目で見ることになるとは…!!』『な、なんだってー!!』 とか大騒ぎして勝手に逃げていった。 (名前まで広がってるんですの…。)白井はややげんなりとしながら駆けていく彼らを見送った。 「やぁー。まったくもって助かった。ありがとね。ヤバかったよ。昼にも合ったよね?」 そう言う女は先ほどまで不審者不審者してた(と思われる)女だ。 つけていたゴタゴタとした小道具は地面に散らばっている。不良達に脱がされたのか、もしくは自分で脱いだのだろう。 レインコートの下は上下のデニムだった。上が水色、下が藍色である。アクセサリー型音楽機器はつけていない。 ただ首に巻いている赤色のスカーフだけは外していない。 「…巌霧砕戸(いわきりくだきと)でしたわね。」 「砕(くだき)でいいよ。」 「そんなに親しくなった覚えはありませんし、するつもりもありませんの。」 えぇーと岩霧が残念そうな声を出す 昼の時も感じたがどうやらこの少女、結構馴れなれしい性格らしい。 「主に度重なるスキルアウトへの暴力的な能力使用の容疑などで拘束しますわ。」 そう言われて岩斬は「む」と短く唸った。 「できるだけ注意深くやってたんだけどなぁ。やっぱいつかはバレるもんだね。まったくもって」 「特に証拠も無いハッタリでしたのに。お認めになるんですの?」 「しまったぁぁぁぁあああ!!」 (馬鹿ですの…) 頭を抱えオウマイガーッ!!と天を仰ぐ岩霧を見て心中で呟く白井であった。 「いや、ちょっと待て…私別に悪い事してなくない?正当防衛じゃん。」 「明らかに過剰防衛ですの。他にも器物損壊や窃盗などの容疑がてんこもりですわ。申し開きは警備員の詰所でしてくださいな。」 「やだね」 即答すると岩霧は一歩白井へと踏み出し、勢いよく右手を突き出す。 それだけでギイイイン!という飛行機が滑空するような轟音が裏路地に反響し、路地に面した窓ガラスが砕け散る。 Lv3の(ソニックブーム)というのが彼女の能力だ。 対象物に向かって極高圧と極低圧による圧力の波を放射する。簡単に言えば衝撃波を操る能力である。 衝撃波は彼女の手の平数センチで拡散してしまうのだが、拡散して音波となった状態でも 至近距離なら人を吹っ飛ばし、昏倒させる程の威力をもつ。 ちなみに窓ガラスは固有振動数による共振によって割れたのではなく、 気圧が急激に変化した結果、内側または外側に向かって弾け飛んだのだ。 たかが音、と侮るのは危険である。 紛争地帯の兵士には、戦争後も頭痛や記憶障害に悩まされるケースが多く起こる。 戦争によるストレスの結果、というのもあるのだが、その大きな要因の一つとして外傷性脳損傷(TBI)がある。 これは『目に見える外傷はないが、脳組織の一部が破壊される』ケースである。 その原因は戦場で繰り返し爆弾の攻撃を受け、超音速の爆風がもたらす圧力変化の波が脳組織を破壊するために起こるのだ。 このように、音というのは案外危険なものであったりもするわけだが 「そうですの」 当たらなければどうということもない。 一瞬で岩霧の背後に空間移動した白井はそのまま岩霧に触れ、 次の一瞬で岩霧は地面に組み伏せられていた。 ドカドカドカッ!!という音とともにデニム生地の袖を貫通した金属矢がコンクリートに突き刺さる。 岩霧が気がついたときには既に勝負がついていた。 「それ以上抵抗すれば体内に空間移動させますわよ?」 「うわぁ…まったくもって風紀委員はえげつない。  私はただ世のため人のため自分のために持ってるアドバンテージを有効活用しただけなのに。」 要は力を振いたくて仕方のない能力者か。と白井は結論づける。 「まったくもってどこが悪いのか判らないんだけど。教えてよ。」 「それを考えるのが反省というものですわ。  私個人としては取り返しのつかない事態になる前にやめておけというところですわね。」 この「返り討ち」が繰り返されれば被害者に後の人生を潰すような大怪我を引き起こすかもしれないし この犯人が返り討ちにあって酷い目に合うかもしれない 全く関係のない通りすがりが巻き込まれる可能性だってある だから止める。ただこの街に住むみんなを守るために。 白井は初春に連絡して、もう警備員に連絡したことを確認した後このまま待機することにした。 「わーすごーい風紀委員だー。ナマ捕り物ー?」 その時、裏路地になんとも間延びした声が響いた。 そちらを見れば制服姿の女生徒がこちらを見ている。おそらく高校生ぐらいだろうと白井は推測した。 「危険ですから近づかないで下さいな。」 地面に縫い付けているとはいえ危険な能力者である。一応注意を呼び掛けるが、 女生徒は「わーい写メール写メール。ケータイケータイ……」と手提げ鞄の中をゴソゴソとやっている。 地面の岩霧が逆上して暴れるのではないかと警戒していると、顔だけ白井に向けた岩霧が女生徒を無視して話しかけてきた。 口元には笑みが浮かんでいる。 「ふふふふふ。」と、わざとらしく笑うというより発音するように言い、 「私だけが犯人だと思ったが大間違い…。  私たちのグループは四人や五人ってもんじゃない…。  それに私たちのボスは……………」 最後の方は小声でごにょごにょと言っていてよく聞き取れない (組織的な能力者によるスキルアウト狩りですの?…いや、ハッタリかもしれませんの。  後で読心能力者(サイコメトラー)が読めばハッキリしますわ。) それでも気になって白井は地面の能力者に話しかけた。 「そのボスの名前は?」 「―――――――――」 岩霧は少しの沈黙のあと口を開いた。 ところで、白井黒子は一ヶ月ほど前に常盤台中学に入学したばかりで、 風紀委員として実戦に投入されるようになったのもその頃からだ。 高いポテンシャルを持つ彼女の活躍(と始末書の数)は風紀委員の中でも特に目を見張るものであったが。 踏んだ場数の数というのはそんなに多くない。 結果として  白井黒子の背中に何かが刺さり、強烈な電流が流れた。 「なっ…!」 意識の落ちる前に白井が見たのは銃のようなものをこちらに向けている先ほどの女生徒だった。 おそらく離れたところから電極を相手に発射するたタイプのスタンガンだろう。 「―――は――――――――た」 女生徒が何か言っていたが、その前に白井の意識は落ちていった。 続く
憎まれる風の馬鹿(上) 「なんで私(わたし)まで勾留されるのか納得いかないんだけど。まったくもって。」 「暴れすぎですのよ。」 第7学区の警備員の詰所でツインテールの少女、白井黒子は隣の椅子に座らされている別の少女に呆れたように言った。 白井と同じぐらいの年頃に見える少女は中途半端な長さの黒髪を後頭部で束ねた髪型をしている。 銀色のチェーンについた胸元のネックレスは縁が金色で中心部は鮮やかな青をベースとしたデザインとなっている。 一見してお洒落なアクセサリーに見えるが、実はこれは携帯音楽プレイヤーである。 アクセサリーと音楽機器の融合というテーマでとある企業が作った試作品だが、 値段の割に操作性や液晶の広さなどが今一歩というなんともな品である。 ヘッドフォンをネックレス部分に収納しているためやや厚ぼったいのも客がつかない理由の一つである。 少女は座らされているといっても別に取り押さえられているわけでも拘束されているわけではない。 ただ頭にタンコブを一つ作っているだけである。 「だって100パーもってあっちが悪いじゃない?」 「街中で派手にドンパチする迷惑を考えなさいな。」 一応任意同行となっているが半ば勾留という態で少女はここにいる。あまり良い意味ではない。 事件の発端は二十分ほど前。 最近、同一の能力者によるものと思われる事件が多発していたため、 風紀委員も警備員も見回りの回数をいつもより増やしていた。 見回り中の白井はひったくりの現場に遭遇し、被害者に怪我がないことを確認した直後、 風紀委員(ジャッジメント)ですの!と逃げる不良たちの前に立ちはだかった。 風紀委員だとなんだガキじゃねえかお嬢ちゃんどかないとケガしちゃうぜーと 一通りお約束(死亡フラグ)を果たした不良達をさてどうあしらって差し上げましょうかと考えていたら さっきの被害者が「アックソックザアァァァァァァァン!!!」とか叫びながら突撃しつつ 衝撃波を不良達(プラス白井)に向けて放ってきた。吹っ飛ぶ不良達。白井は空間移動で難を逃れた。 そこで終わっていれば良かったのだが不良の一人がそこそこ(おそらくLV3程度)の能力者だったらしく ふははは俺様の真空断熱(ゾージルシー)を使う時が来たようだな!!とか言い出して超能力バトル勃発。 最終的に巨乳の警備員が「派手に喧嘩してる馬鹿はどこじゃーん!」と(若干楽しそうに)拳で二人ともぶっ飛ばして終結した。…なまはげ? 「くそう…善良な一般学生が手助けしたのにこの仕打ち。感謝状ちょーだいよ諭吉の絵のついてるやつ。」 「一般人が危険に飛び込んでいくのは感心しませんの。更に騒ぎを大きくするのはなおさらですわ。」 「風紀委員だったらいいんだ。私も風紀委員になろうかな?」 軽いノリで言いながら指をピストルのようにしてバーンバーンとふざける少女に白井はやれやれと呆れたような溜息をついた。 「私たちは別に力を振り回したくて風紀委員をやっているわけではないですわ。誤解なさらないでくださいな。」 「…てゆうか風紀委員の権限ってたしか校外じゃ通用しないんじゃ…。  でもあなた、えー名前は?」 「白井ですわ」 「白井さん、テレポートってかなり便利なんでしょ?  普通に生活してるだけじゃ持て余すんじゃないの?」 「別にそんなことはありませんわ…多少できることの幅が広がりますけれど。」 そう白井が答えた時、巨乳の警備員が不良を他の警備員に引き渡し、現場を確認し終わったのか戻ってきた。 「おっ待たせじゃーん。そんじゃちゃちゃっと状況聞かしてもらおうじゃん?」 風紀委員第一七七支部 「昨日も警備員によってスキルアウトが倒れているのが発見されました。」 パソコンの前の初春は白井に最近のスキルアウト返り討ち事件について報告していた。 襲撃事件、ではなく返り討ち事件。である。 犯人の手口はこれ見よがしにブランド物のバッグなどを持ち歩きながら治安の悪そうな場所をうろうろし、 タチの悪い連中が関わってきたら返り討ちにして身ぐるみ剥ぐというものである。 発覚したのは一昨日だが、事件の性質上被害者から証言が得にくいという点や よからぬ目的でわざわざ監視カメラの死角に犯人を追い込む「被害者」も多いため、 被害者の数は発覚していないところで数倍はいるだろうと推測される。 「被害者は昏倒、全身への打撲、ひどい耳鳴り、吐き気などの症状を訴えています。特に耳が痛いと言っています。」 「犯人の目星は?」 「単独犯か複数犯かはまだ判りません。  他には大きな音がして被害者が吹き飛んだという証言ぐらいですね。これだけだと何とも言えないです。  あと衛星からの観測で周囲の大気の不自然な揺らぎが観測されたらしいので、  おそらく大気操作系か音波操作系の能力者かと。  とりあえず絞った学生のデータが……あっ」 初春は画面の右下に開いていた監視カメラの映像を分割していたウィンドウを画面一杯に広げた。 「どうしましたの?」 「ここ、この人、なんか怪しくないですか?」 分割された映像の一つを拡大すると、確かに怪しい人物が映っていた。 もうすぐ五月だというのに、スカーフ、サングラス、マスク、耳あて、ニット帽子という出で立ちだ。 極めつけに、晴れだというのに体格に合わない男物らしい不審者のような濃紺のトレンチコートを着ていて、体のラインもはっきりとしない。 「…………怪しすぎますわね。」 「あっ!この派手派手なバッグ、ブランドものですよ。」 「でもこんな浮いた格好している方って普通はスルー…って絡まれてる!?」 「あ、逃げてきますねー。追ってますねー。この先は監視カメラとかないですねー。」 「はぁ…初春。私はこの地点に行ってきますの。衛星から大気の揺らぎが観測されたら警備員に連絡を。  彼らの行き先を予想してナビをお願いしますわ。」 その裏路地に白井が到着すると、不良達はいきなり現れた白井に狼狽したが、 『むぅ…こいつは!!』『知っているのか、山本!!』 『こいつは噂に聞く風紀委員のテレポーター女狂戦士(アマゾネス)白井!!  まさか本人をこの目で見ることになるとは…!!』『な、なんだってー!!』 とか大騒ぎして勝手に逃げていった。 (名前まで広がってるんですの…。)白井はややげんなりとしながら駆けていく彼らを見送った。 「やぁー。まったくもって助かった。ありがとね。ヤバかったよ。昼にも合ったよね?」 そう言う女は先ほどまで不審者不審者してた(と思われる)女だ。 つけていたゴタゴタとした小道具は地面に散らばっている。 この乱雑ぶりを見るに自分から脱ぎ捨てようだ。ニット帽やサングラスだけでなくトレンチコートも脱ぎ捨てられたまま放置されている。 トレンチコートの下は上下のデニムだった。上が水色、下が藍色である。アクセサリー型音楽機器はつけていない。 ただ首に巻いている赤色のスカーフだけは外していない。 「…巌霧砕戸(いわきりくだきと)でしたわね。」 「砕(くだき)でいいよ。」 「そんなに親しくなった覚えはありませんし、するつもりもありませんの。」 えぇーと岩霧が残念そうな声を出す 昼の時も感じたがどうやらこの少女、結構馴れなれしい性格らしい。 「主に度重なるスキルアウトへの暴力的な能力使用の容疑などで拘束しますわ。」 そう言われて岩斬は「む」と短く唸った。 「できるだけ注意深くやってたんだけどなぁ。やっぱいつかはバレるもんだね。まったくもって」 「特に証拠も無いハッタリでしたのに。お認めになるんですの?」 「しまったぁぁぁぁあああ!!」 (馬鹿ですの…) 頭を抱えオウマイガーッ!!と天を仰ぐ岩霧を見て心中で呟く白井であった。 「いや、ちょっと待て…私別に悪い事してなくない?正当防衛じゃん。」 「明らかに過剰防衛ですの。他にも器物損壊や窃盗などの容疑がてんこもりですわ。申し開きは警備員の詰所でしてくださいな。」 「やだね」 即答すると岩霧は一歩白井へと踏み出し、勢いよく右手を突き出す。 それだけでギイイイン!という飛行機が滑空するような轟音が裏路地に反響し、路地に面した窓ガラスが砕け散る。 Lv3の(ソニックブーム)というのが彼女の能力だ。 対象物に向かって極高圧と極低圧による圧力の波を放射する。簡単に言えば衝撃波を操る能力である。 衝撃波は彼女の手の平数センチで拡散してしまうのだが、拡散して音波となった状態でも 至近距離なら人を吹っ飛ばし、昏倒させる程の威力をもつ。 ちなみに窓ガラスは固有振動数による共振によって割れたのではなく、 気圧が急激に変化した結果、内側または外側に向かって弾け飛んだのだ。 たかが音、と侮るのは危険である。 紛争地帯の兵士には、戦争後も頭痛や記憶障害に悩まされるケースが多く起こる。 戦争によるストレスの結果、というのもあるのだが、その大きな要因の一つとして外傷性脳損傷(TBI)がある。 これは『目に見える外傷はないが、脳組織の一部が破壊される』ケースである。 その原因は戦場で繰り返し爆弾の攻撃を受け、超音速の爆風がもたらす圧力変化の波が脳組織を破壊するために起こるのだ。 このように、音というのは案外危険なものであったりもするわけだが 「そうですの」 当たらなければどうということもない。 一瞬で岩霧の背後に空間移動した白井はそのまま岩霧に触れ、 次の一瞬で岩霧は地面に組み伏せられていた。 ドカドカドカッ!!という音とともにデニム生地の袖を貫通した金属矢がコンクリートに突き刺さる。 岩霧が気がついたときには既に勝負がついていた。 「それ以上抵抗すれば体内に空間移動させますわよ?」 「うわぁ…まったくもって風紀委員はえげつない。  私はただ世のため人のため自分のために持ってるアドバンテージを有効活用しただけなのに。」 要は力を振いたくて仕方のない能力者か。と白井は結論づける。 「まったくもってどこが悪いのか判らないんだけど。教えてよ。」 「それを考えるのが反省というものですわ。  私個人としては取り返しのつかない事態になる前にやめておけというところですわね。」 この「返り討ち」が繰り返されれば被害者に後の人生を潰すような大怪我を引き起こすかもしれないし この犯人が返り討ちにあって酷い目に合うかもしれない 全く関係のない通りすがりが巻き込まれる可能性だってある だから止める。ただこの街に住むみんなを守るために。 白井は初春に連絡して、もう警備員に連絡したことを確認した後このまま待機することにした。 「わーすごーい風紀委員だー。ナマ捕り物ー?」 その時、裏路地になんとも間延びした声が響いた。 そちらを見れば制服姿の女生徒がこちらを見ている。おそらく高校生ぐらいだろうと白井は推測した。 「危険ですから近づかないで下さいな。」 地面に縫い付けているとはいえ危険な能力者である。一応注意を呼び掛けるが、 女生徒は「わーい写メール写メール。ケータイケータイ……」と手提げ鞄の中をゴソゴソとやっている。 地面の岩霧が逆上して暴れるのではないかと警戒していると、顔だけ白井に向けた岩霧が女生徒を無視して話しかけてきた。 口元には笑みが浮かんでいる。 「ふふふふふ。」と、わざとらしく笑うというより発音するように言い、 「私だけが犯人だと思ったが大間違い…。  私たちのグループは四人や五人ってもんじゃない…。  それに私たちのボスは……………」 最後の方は小声でごにょごにょと言っていてよく聞き取れない (組織的な能力者によるスキルアウト狩りですの?…いや、ハッタリかもしれませんの。  後で読心能力者(サイコメトラー)が読めばハッキリしますわ。) それでも気になって白井は地面の能力者に話しかけた。 「そのボスの名前は?」 「―――――――――」 岩霧は少しの沈黙のあと口を開いた。 ところで、白井黒子は一ヶ月ほど前に常盤台中学に入学したばかりで、 風紀委員として実戦に投入されるようになったのもその頃からだ。 高いポテンシャルを持つ彼女の活躍(と始末書の数)は風紀委員の中でも特に目を見張るものであったが。 踏んだ場数の数というのはそんなに多くない。 結果として  白井黒子の背中に何かが刺さり、強烈な電流が流れた。 「なっ…!」 意識の落ちる前に白井が見たのは銃のようなものをこちらに向けている先ほどの女生徒だった。 おそらく離れたところから電極を相手に発射するたタイプのスタンガンだろう。 「―――は――――――――た」 女生徒が何か言っていたが、その前に白井の意識は落ちていった。 続く

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