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とある『未元物質』の再出発

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匿名ユーザー

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「――――あァ??」
一方通行は困惑していた。
たとえ脳に傷を持とうと、その頭脳は学園都市“最高”であることに変わりはない。
しかし、そんな彼でも、どんなにシミュレーションをしても、完全解答にたどり着けなかった。
「あぁわりぃ。もう一度言ってくれるか?
お前は、俺に、何を求めてるって?」
コミュニケーションは大切である。もし勘違いで殺してしまっては、相手に失礼といえよう。
だから一方通行は、目の前でよくわからないことになっている人物に再確認を兼ねて尋ねることにしたのだ。
「だから、俺は、垣根帝督で、元に戻る方法を一緒に探してくれないか、っていってるのよ………んだよ」
頭が痛い。
どうやら先ほどの戯言は本当らしい。
それならそれで十分面倒くさいのだが。
一方通行は改めて目の前の人物―――(自称)垣根帝督を見やる。
茶髪のセミロングで、目つきは悪い。美少女と言えるが、なんとも取っつきにくい雰囲気のせいで台無しだった。
体に関しては何とも言えない。
なぜならダボダボのパーカーやらズボンやらのせいでラインがさっぱりだからだ。
極めつけは右手だ。
肘あたりから先がなく、だらんとたれているのがなんとも痛々しい。
総合的に判断をした一方通行は、目の前の(自称)垣根帝督に告げる。
「おめぇアホぅだろ?」
そう告げて踵を返した。
「あ、てめぇ!今の信じてないだろ!!」
「バァーカが。そもそもあのチンピラは男だっての」
というかこの間殺したばっかだ、と心の中で付け足す。
元々、学園都市で超能力までのランクに上がった奴らの情報は乏しい。
一方通行や、御坂美琴など、暴れている連中などは有名であるが、他は情報が規制されているためわからないのだ。
大方垣根帝督と偽り、自分に取り入ろうとでもしたかったのだろうが、超能力が超能力を知らないはずがないのだ。
馬鹿らしいと、ある“物”を作るための機材製作を再開しようとする。
「冥土返しだ」
ピクリと、一方通行の手が止まる。
「あいつが俺をこんなにしたのよ……んだ」
そういうと彼女は手のひらに小さな羽根を作り出した。そしてそれは、一方通行には、忌々しいが見覚えのあるものだった。
「これ見てもまだ信じられない、ってか?」
手のひらで羽根が風の抵抗を無視したように飛び回っている。
「………てめぇ、なんで生きてやがる」
この際垣根帝督が女であろうが関係ない。
あの時の自分に意識はなかった。
だが、奴を潰し、なぶり殺した、という記憶はあるのだ。
なのに帝督がいるのは明らかにおかしい。
「ふっ、こんなこともあろうと学んでいた通信講座が俺を救ったのよ……んだ」
何を言っているんだこいつは。
「ただ瀕死だったのは事実だ。あの時俺は死にかけていたし、死ぬだろうと思ってたしね……な。
その時あいつがきやがった」

冥土返し。
死人でなければ、たとえどんな状態でも救い上げる狂った医療人。
一方通行もお世話になった人物だ。
「チッ、余計なことばかりしやがって……んで、なんでてめぇは“女”になってやがんだよ」
少なくとも殺し合いをしたとき、垣根帝督は男だった。
「ぐ、……俺の意識が回復する前に冥土返しがやりやがったのよ……んだ!」
「後そのキモい言い回しなんとかしろ」
「仕方ないじゃ……だろ。体だけじゃなくて精神もいじりやがったみたいね……だ」
あの女は人間の根底のDNA配列を書き換えるだけでなく大脳にまで細かい影響を与えられるというのか。
もはややっていることは人間の書き換えだ。
「俺の時はされなかったからな……できたのは最近か」
「とにかく!なんでもいいから元に戻る方法を探してくれよ!!」
こいつは誰に頼んでいるのだろうか。
一方通行は聖人でもなければ善人でもない。
一流の悪党で、悪人だ。
そんな奴に頼み込むなど愚の骨頂。
「何日和ってやがんだおめぇ。俺ぁ、悪人だぜ?どっかの善人じゃねぇんだ、誰が助けるかってんだ」
一方通行は帝督を鼻で笑うと、そのまま先程までの作業に戻ろうとした。
「お前が何を作ろうとしているのか、俺は知っている」
その時の一方通行の行動は速かった。
振り向いた時の遠心力をそのまま利用し、右手を帝督の首に食い込ませ、左手は首の電極を切り替えた。
即座に“能力者”へと移った一方通行は、そのまま右手に力を入れつつ帝督を睨みつけた。
「せっかく生き長らえたってぇのにせっかちな奴だな。死ぬか?」
「ぐ、ま、まて、俺の、話を、聞け」
どこで知った、などというくだらない質問は意味をなさない。
奴以外はグループのメンバーしか知らないことだからだ。
だから、たとえ漏れたとしても、こいつを消せば全て解決するのだ。
人体など容易く崩せる。それに、殺すだけなら血液の流れのベクトルを逆にするだけで人はすぐ死ぬ。
「俺は、お前の、手伝いを、等価に、するって言ってるのよ!!」
「あ゛ぁ?てめぇがなんの役にたつってんだ?」
確かに頭脳は良いのは認める。しかし、一方通行ほどではないのだ。
それに知識のない奴に一から説明して、仲良くやりましょうなんて時間はないし、する気もない。
「お前、忘れ、たのか!俺の能力を!!」
『未元物質』。
それは、存在しているとされているが、観測不可能の物質を指しているのではない。
垣根帝督は、本当にこの世に存在しない物質を生み出すのだ。
いつしか一方通行の腕の力は解かれていた。
「だから、お前が必要としているもの、欲しい素材をも創り出してやる!!」
必死な表情。
そこから伝わる熱意は、確かに戯れ言でも虚言でもないと、一方通行は本能的につかんだ。
ため息を吐き出すと、口元を吊り上げ、右手を胸元まで引き寄せ、鼻がぶつかるほどの至近距離で、
「オーケークソったれ。今からお前は、俺に従え」
一方通行は胸中で笑う。

思わぬ収穫だ。
素材集めでも苦労するとふんでいたが、こいつがいればオールオーケーだ。
しかも、だ。
こいつは学園都市第二位の『未元物質』。戦力増強は計り知れない。
一方通行が黒い算段をしている間、垣根帝督は顔を真っ赤にしたまま、開いた口が塞がらない状況だった。
彼はまだ精神的には男である。しかし、彼自身が言ったように、その精神は徐々に女性へとシフトされつつあった。
故に、今の彼にとって、目の前の一方通行は、憎き敵でも、計画に必要な手段でも、助けてくれた人でもない。
“異性”なのである。
故に混乱した。
顔を真っ赤にする今の自分の精神が理解できない男側の精神と、恥ずかしいという気持ちを理解している女側の精神がせめぎ合い、彼(彼女)を混乱させたのだ。
だからだろう。
混乱が最高潮に達した帝督は、一方通行の手を払いのけて走り出した。
呆然とする一方通行を放り出し、力の限り脚を動かす。
しかし、彼(彼女)は焦るあまり、自分の体のパーツが少ないことに気づいていなかった。
人体というのが、とても綺麗な割合で成り立っているのは有名なことである。
二足歩行を可能にし、必要最低限だけの負担だけでたち続けられるのは、人間だけである。
だが、そのバランスが崩れたら?
後遺症というものは、何も怪我をした箇所だけに残るものではないのだ。
「うぁ、」
裏路地に走り込んだ帝督は人にぶつかりそうになる。
普通の人ならば、よほどではない限り、すぐにバランスを取り戻す。
“手を使うことにより”だが。
今の彼(彼女)は、片腕が肘から先がないのだ。
故に、バランスを取り損なった彼(彼女)は、振り回されるように倒れてしまった。
「いってぇな。んだこのアマ」
「うわだっせぇ。そんな体してっから小さな衝撃で痛がるんだっての」
二人の若者。
最近の学園都市は、スキルアウトの壊滅により、またしても治安が悪くなっている。
元々大きな暴力の前に尻尾を振っていただけの連中が、目上がいなくなったことにより、好き放題暴れているのだ。
この二人も、そんな枠の一部であった。
「おいてめぇ、一体誰にぶつかってやがんだよ?あぁ?」
片方の恰幅のいい―――わかりやすく言えばピザデブが、帝督を見下すように見下ろしてきた。
そんな相手に、錯乱していた精神が落ち着きを取り戻す。
「くそったれ。なんで俺が逃げるなんて真似を……」
「おい!てめぇ何無視してんだ!!」
苛々と、よくわからない感情が爆発している帝督は、目の前の物体が邪魔で邪魔でしかたなかった。
だからだろう。いつものように、対処していた。
「俺は一般人には何もしねえ。だがな、敵には容赦しねえ。
そしてムカついた。死ね」
うまく計算処理と演算処理ができないので、六対の翼は呼べないが、目の前の奴には不必要だろう。
カタカタと震える自分自身の体なんて気にせず、ただただ呼びたいものを呼ぶ。
法則なんてものに、彼(彼女)は囚われていないのだから。
ドスッと、見下ろしていた男の背中に刃物ような、それでいて鋭く大きな物体が生えた。
そのまま男は何もわからずに意識を手放した。
目の前の出来事に呆然としていたが、相方がやられたのを知ると、もう片方は怯えるように逃げた。
くだらねえ、と吐き捨てると、『未元物質』を削除した。
足下で倒れている男は死んではいない。
傷は目立つが、その自前の脂肪が守ってくれたのだ。
一方通行のところにどう戻ろか思案を始めた帝督。

しかし―――
「あ!健司!田子作がやられたんだ!!
能力者だ!助けてくれ!!!」
気がついたら、仲間を呼んだ男が戻ってきて、憎悪のような瞳で帝督睨みつけてきた。
その付近には10人を超える人の数が。
男の表情は余裕を含んでいた。
「馬鹿らしい。こんなの物の数にもなんねえよ」
吐き捨てる帝督の言葉が逆鱗に触れたのか、健司と呼ばれた男が懐から銃を取り出し突きつけてきた。
それでも帝督の余裕は崩れない。そもそも、彼(彼女)にとって、無能力者など数に入っていないからだ。
いっそ吹き飛ばそうか、と大質量のハンマーを創りあげようとしたのだが、帝督はようやく自身の異変に気がついた。
(震えている………?)
カタカタと、ガタガタと、指先だけでなく全身が震えていた。
そして気がついてからでは遅かった。
むしろ帝督は、それに気づくべきではなかった。
精神的に優位だったはずの男の精神が、異常なほどに恐怖を感じている女の精神に塗りつぶされてしまったのだ。
なぜいまさら恐怖を感じるのか。
それは、冥土返しが原因である。
彼女は帝督の体だけでなく精神にも手を施した。
それは、擬似精神の作成。
新しい体になっても、帝督が困惑しないようにと、女性としての精神を帝督にアップロードしようとしたのだ。
ここで誤算が生まれる。
冥土返しはうまくいったと思ったが、超能力者である帝督のメインブレインがそんな柔なはずがない。
無意識下のプロテクトでアップロードを免れていたのだ。
結果として、女性と男性の精神が2つ存在することにより、帝督の頭脳処理能力を格段に低下させ、情緒不安定にしていたのである。
先程の一件で暴走した女性側の精神は、一時的に機能が停止していた。
故に、帝督は普段ほどではないが、『未元物質』の行使が可能だったのである。
だが時間が経つにつれ、女性側の精神も覚醒した。
故の震え。故の恐怖。
事実としても、精神的にしても誕生したばかりの精神は幼かった。
そもそも精神というのは、人が積み重ねてきた歴史だ。
それを生み出すということは、新たに一人の人間を生み出すということと遜色ない。
幼い者というのは、感情の流れに敏感である。
だから自身に向けられた敵意に過剰なほど反応してしまったのだ―――恐怖に。
そして、その恐怖を自覚してしまっために起こった現象―――垣根帝督の、精神のアップロード。
それはどんなに鍛えても、どんなに頭脳がよくなっても不可避の攻撃。
カリカリと、頭の中が書き換えられていくのが知覚できるのがなお恐ろしい。
超能力者たるからか、強靭な精神の持ち主である垣根帝督ですら、なんとか自我の一部を残すことだけで精一杯だった。
そして新たに生まれた『自分だけの現実』価値観などは残せても感情は不可能なほどに書き換えられた。
「あ、あぁ……あぁア………」
恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖

圧倒的な敵意と、それを敏感に感じとる自身の恐怖心。
それを目の当たりにした帝督は、もはや何もすることができなかった。
「お、見ろよ。こいつさっきまであんなに息まいてたのに、こいつ出した途端黙りやがったぜ?」
「はん。能力者っつったって人の子なんだよ。やっぱ銃は怖いんだな」
「ぎゃははははは、だっせぇの。見ろよ。あいつ泣きそうだぜ?」
「あれ中々の上玉だしよ、いっそ飼わねえ?」
「うわこいつ鬼畜ー。でもさんせー!あはははは」
見えない聴こえない感じない。
恐怖が世界を塗りつぶす。
帝督は、すぐ目の前で自分に触ろうとしてくる者達を知覚しているが、それを放棄した。
この後自分がどうなるか。闇に生きてきた自分にはよくわかる。
わかるからこそ余計に心が恐怖で塗りつぶされる。
嵌った沼は、底なしだ。
暴れようと、もがこうと、心が塗りつぶされながらも抵抗していた最後の最後の男性としての精神も、いつしかその上塗りされていく恐怖に屈していた。



「――――なぁに馬鹿みたいな壊れた玩具やってんだてめぇ?」



なぜか。
目の前で騒いでいる男達よりも小さいはずのその声が、帝督には聞き取ることができた。



「てめぇにゃきっちり働いてもらうってのに、こんなとこで油売るってのは、いい度胸じゃねぇか」



自然に、あたかも風のように、男達をすり抜けて自分の目の前に立つ男を、帝督は現実味なく見上げていた。
「あぁ?……てめぇ誰だ?」
楽しげに笑っていた男の一人が気づく。
それに従って、周りの奴らも不振な目で見てくる。
男は特徴的な存在だった。
髪は白く、肌も血が通っていないかのようなほど白く、右手に持った杖と、首に巻かれたチョーカー。細い体は、少し力を入れたら壊れてしまいそうで。
そんな不思議な男が、自分達の獲物の前に立っていた。
「てめぇそいつの仲間か?」
そう言いながら先ほど帝督に向けた銃を男に向ける。
「お、能力者様をも黙らせた銃のお出ましですか!!」
そう茶化すと、みな一斉に爆笑した。
「そりゃすげえ。超能力者(レベル5)すら黙らすなんて、そんなもんが学園都市で開発されてたのか」
「はははは、は?」
男達は目の前の男が何を言ったのか最初理解できなかった。
それもそうだろう。
学園都市でいう、レベル階級は“絶対”だ。
レベルが高ければ高いほど、それは化け物じみてくる。
そして超能力者(レベル5)というのは、230万いるうちでも7人しかいない人外だ。
だから男達は理解できなかったし、信じなかった。戯言だと、虚勢だと思ったのだ。
「おぅよ。こいつぁ、あの超能力者様すら黙らせられる代物だ。
わかったらそこの女をよこしな。痛い目みるぜ?」
そういうと、また男達は笑い出した。
「そうかい。――――だったら、俺にでも試して見ろや」

振り向いた男―――一方通行と呼ばれる、学園都市第一位の超能力者(レベル5)は、不適に笑う。

それをどう受け取ったのか、男達はいつまでもどかない男にキレた。
力ずくで、排除してしまおうと。
銃を持った男―――健司は馬鹿にしたような目つきで、目の前の邪魔な優男に、向けていた銃口の引き金を、引いた。
サイレンサーも何も付けてない剥き出しの銃口から出た弾丸は、迷うことなく一方通行へ向かった。
パァンと、裏通りに銃声が響く。
そして面倒くさそうに何度か引き金を引こうとして―――銃が爆発した。
「へ?………がぁああああ!?!?!?!?」
「え?え?健司?」
「な、何が!?」
急に暴発した銃と、それによる被害を受けた健司を見下ろしながら男達は慌てるばかりだった。
「簡単だ」
そこに、撃たれたはずの一方通行が口を開ける。
「俺に向かってきた弾丸を、ただ銃口に戻るように“反射”しただけだ」
簡単に言ってのけた単語の一つに反応したのか、一人が震えた悲鳴を上げた。
「ま、まま、まさか、一方通行!?」
「正解だバーカ」
短く吐き捨てると、一方通行は足下に落ちていた空き缶を蹴る。
すると、急加速した空き缶は、男の腹に“突き刺さった”。
「ぎ、ぎゃあアあああ!!!」
腹を抱えながらのたうち回る男を見た後、一方通行はゆっくり周りを見回す。
「お前らはこっちきたばかりの奴らか。ま、俺を知らない時点で新参者だぁな」
ニヤニヤ笑う一方通行と、顔色が恐怖に染まる男達。
「俺ぁ悪党だが無駄な悪さはしねえし、一般人には手ェださねえ。
だがな、てめぇらは破っちゃいけねえもんを破りやがった」
ニヤニヤ笑いながら、殺意を込めた視線で男達を突き刺す。
右手を高くあげ、周囲から風が集まってくる。
様々なゴミを集めながら。
「それは……―――――俺の“者”に手ェ出したことだ」
ベクトル操作で作り上げた竜巻を、男達に向けて振り下ろす。
方向性を与えられた竜巻は、様々はゴミや破片などを内包しながら男達を切り刻み、どこかへと吹き飛ばしていった。


「てめぇなんで『未元物質』を使わなかった」
「う………使え、なかった」
どこまでも落ち込む姿は、まるで幼子のようで一方通行を困惑させる。
とてもじゃないが、その姿は、かつて学園都市第二位として君臨していた垣根帝督とあまりにもかけ離れていた。
「まぁ、いい。さっさと帰るぞ。てめぇをグループの連中に報告しなきゃならねえからな」
踵を返す一方通行の服の裾を、後ろから帝督が引っ張る。
嫌々ながらも振り返った一方通行が見たのは、今にも泣きだしそうな垣根帝督。
「…………好きにしろ」
それだけ伝えると、帝督は一方通行に抱きつくようにしながら、彼の胸の中でも泣き出した。
その様は、迷子が見つけられて、母に泣きつく子供のようで、一方通行はため息を吐き出すしかなかった。
(……まーた守るもんが増えちまった。くそ)
いつまでも泣き続ける帝督の頭を撫でるしかなかったのである。




後日談
「こいつが新しくグループ入りを―――」
「一方通行の妻の垣根帝都(ていと)よ。よろしく」
「「「は?」」」
「てめぇ!何勝手なこと言ってやがる!!」
「でもあんた、打ち止めには欲情とかしないんでしょ?」
「あんなガキに欲情なんかするか!!」
「なら決まりね」
「ふざけんな!!」
「……にゃー。対極だと思ってたが、変なところは共通項目みたいだにゃー」
「……まぁ節度を守ってくれればかまいませんよ」
「馬鹿らしい。馬鹿女とか足引っ張りそうなんだけど?」
「ふん。トラウマ抱えが、お前はどっかで膝でも抱えてな」
「……あぁ?はっ、貧相な体のくせに」
「………ムカついた。てめぇは俺が殺してあげるわ」
「上等。表でなさい」
「格の違いを見せてあげるわ」
「……あの野郎俺との約束放棄しやがったか?」
「おいおい一方通行。一体どんな約束なのかにゃー?是非知りたいすぐ知りたいにゃー?」
「僕も興味ありますね」
「てめぇら殺す!」

本日は所により天使が舞い、無機物の嵐が降るでしょう。






おまけ
「滝壺!なんか俺能力に目覚めたみたいだ!!」
バァンと病室に入ってきた浜面のすぐ脇の壁にメスが刺さる。
少しかすった。
「君、病室じゃ静かに」
「ハイゴメンナサイ」
「うん、よろしい。
一応毒素は抜いたけどまだ安静なんだからね?わかった?」
「あ、はい……」
それだけを浜面に伝えると、クールビュウティーな女医は部屋を退室していった。
「はまづら……」
「お、どうした滝壺」
手でちょいちょいとやってくる滝壺のベッド近くまでくると、彼に浴びせられた最初のものは優しい言葉ではなく鋭いチョップだった。
「いてぇ!何すんだ滝壺!!」
「はなし、全部きいたよ」
それだけで彼女が何を言わんとしているのかがわかった。
だが、―――
「俺は後悔してねえよ」
力強く、不安そうな彼女に告げる。
「確かに俺は無能力者だ。だがな、能力行使が死につながる奴を、絶望的な状況で助けようとしたやつを、見捨てるなんてできねえんだよ」
結果としてよかったが、それはただの自殺願望にしか聞こえない。
蛮勇とは無謀な馬鹿か、死ににいく馬鹿のことをさすのだ。
だがしかし、滝壺はついつい笑ってしまった。
ただのチンピラだった彼が、何があったのか、とても晴れやかな青年になっていたのだ。
「それで、なぜはまづらは能力にめざめたの?」
「あー多分麦野が俺の耳ん中傷つけたときに回路が傷ついたから、とかそんなもんだと思うぜ」


日溜まりの中で、彼らはやっと手に入れた平穏を楽しむ。
のちにここから、二人目の努力で超能力者にまで上りつめたとかなんとか、それはまた別のお話。



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