「おっ。見えて来た、見えて来た」
夜の街を歩く界刺。『学舎の園』を後にした彼は、事前に連絡したある少女に会うために蒸し暑さが覆う夜の世界を1人歩いていた。
「やっぱ、暑いな。しかも、蒸し暑い。今夜も熱帯夜かなぁ。成瀬台(ウチ)の寮って、エアコンが無いんだよなぁ。本当に学園都市にある学生寮かよって言いたくなるぜ」
カッターシャツの第1ボタンを外し、襟をパタパタさせる。
ロングコートを左脇に挟み、左手には成瀬台の制服が入っているビニール袋を持ち、歩を進める界刺。
目当ての花盛寮は、もうすぐ・・・
ドン!!
「お待たせしました、界刺さん」
「・・・・・・早いね、涙簾ちゃん」
花盛の制服を着た碧髪の少女、『
シンボル』が一員である
水楯涙簾がキャリーバッグを片手に現れた。
「界刺さんからの連絡を受けて、すぐに数日間に渡る外出許可を得ましたので。界刺さんの部屋に泊まる準備は、既に完了しています」
「それって、全然答えになってないよね?普通お泊まりってのは、結構な準備が要るし。
というか、俺の寮に泊まるってのはあくまで検討してくれないかって話なんだけど?」
「こういうこともあるかもしれないと思っていましたから、準備は万全でした」
「何それ!?」
ツッコミ所満載の水楯の行動に、唖然するしかない界刺。
「さぁ、早く行きましょう。・・・界刺さんの部屋に泊まるのも久し振りですね」
「・・・そうだね。そんじゃ、行こっか」
「はい」
それ以上のツッコミは許さないとばかりに界刺を促す水楯。それに根負けし、界刺は水楯と共に夜の道を歩き始めた。
「流麗が・・・。クスッ、ようやくあの娘も勇気を出したんですね」
「気付いていたの?」
「はい。というか、界刺さんが鈍過ぎですよ。・・・しかし、一度に5人から告白されるなんて・・・。その上、キスも・・・さすがですね」
「・・・気が重いけどな。これから、あいつ等が何を仕掛けて来る気かって戦々恐々状態だし」
「モテる男の宿命・・・ですね」
「・・・ハァ」
共に夜の街を歩く2人。その片割れである界刺は、同じ片割れである水楯に今日1日の出来事を全て打ち明けていた。
「次は、春咲さんですかね?」
「かもな。桜は、最近俺に容赦しなくなって来てるからな。こっちも戦々恐々だね」
「少し、苛め過ぎたんじゃないですか?」
「その反動ってヤツ?あぁ、嫌だ嫌だ」
界刺は、春咲の顔を思い浮かべる。今日のことを春咲が知れば、絶対に彼女も動く。そう思えてならない。
「・・・昨日の件ですけど」
「・・・あぁ」
水楯の声が低くなる。それを予期していた界刺も、平然と応える。
「界刺さんの分析も含めて考えると、その殺人鬼はかなり強いようですね」
「かなりって言うか、滅茶苦茶強いって感じかな?」
「・・・余り無茶しないで下さいね。いざという時は、私も参戦しますから」
「・・・俺的には、それが嫌なんだけど。『本気』を出している場面に、顔見知りが居たらやりにくくてしょうがねぇ」
「・・・それは、無理ですね。あなたを傷付ける人間は、この私が潰しますから」
水楯の声が更に低くなる。
「全く・・・。不動先輩や仮屋先輩は、何を考えているのかな・・・!?幾ら界刺さんの指示だからって、そんな危険な奴を界刺さん1人に任せるなんて・・・!!」
「真刺や仮屋様を責めないでやってくれよ?俺が無理矢理頼んだんだから」
「・・・わかっています。界刺さんは、現に無事ですし。そこまで言うつもりはありません。唯・・・」
「・・・涙簾ちゃん。“毎度”の質問だ。行くよ?」
「・・・」
「もし、俺が誰かに殺されたら?」
界刺が、水楯に問い掛ける。それは、“毎度”の質問、否、“毎度”になってしまった質問。だから、水楯も“毎度”の返答を行う。
「その誰かを殺して、私も死にます」
「その誰かは、俺が知っている奴だ。その場合は?」
「それでも殺します」
「そいつは、俺の仲間だった。さて、君はどうする?」
「関係ありません。仲間であっても殺します」
「その仲間は、涙簾ちゃんとも親しい人間だ。それでも?」
「はい。何故、界刺さんを殺した人間を生かさなければならないんですか?」
「具体的に聞くよ?真刺、仮屋様、バカ形製、サニー、桜であっても?」
「必ず息の根を止めます。邪魔する者も全て。そして、私も死にます」
蒸し暑い夜の空間を切り裂くように、冷たい風が吹き抜ける。
「・・・これで18回目かな?」
「はい」
何時しか、2人は立ち止まっていた。
「んふふっ・・・。君は変わらないねぇ。あの時からずっと。ここまで手強い女性は、後にも先にも君だけかもしれない。俺にとって、君は本当に“特別”な女性だよ」
「光栄ですね」
「別に褒めてなんかいないんだけどねぇ・・・。まぁ、以前に比べたらそのストーカー的思考も大分マシにはなって来たかな?」
「そうですね。界刺さんと共に過ごすようになってから、色んなものを見るようになりました。
流麗やサニーという後輩や、春咲さんという先輩を仲間として持つことができるようになったのは、すごく嬉しいですね」
「やっぱり、まだ完全には治っていないんだね?君の男性恐怖症は?」
「・・・はい」
水楯が患うソレ―男性恐怖症―は、彼女の過去に原因がある。彼女は、かつてスキルアウトに属する幾人もの男達に凶器で脅され、乱暴されかけた。
「んでもって、自分を含む生物の命ってヤツへの頓着も薄いままか・・・。スキルアウトに対する憎悪も変わらず・・・かい?」
「はい」
「その代わり、俺への執着が凄まじいものになった。君を助けた俺に対する・・・ね」
「・・・これでも、以前に比べれば大分マシですよ?」
「だね。あの頃は、そりゃあ凄まじかった。何せ、四六時中俺に纏わり付いて来たからな・・・君は。学校や寮にまで押し掛けて」
去年の夏休みのある日、かつて自分を乱暴しようとしたスキルアウト達を殺した―そして、正当防衛として処理された―水楯に、そのスキルアウトの仲間が強襲した。
自身男性恐怖症を患い、それにずっと苛まれて来た水楯はまたもや幾人もの男性に襲われた。
最初は、男に対する恐怖で碌に身動きも取れなかった。相手は、そんなことはおかまい無しに水楯に対して暴力を振るった。
彼女が抵抗できないことを見て取ると、男達は性的な欲求を刺激され水楯の服を破り捨てていった。
『や、やめて・・・!!やめて下さい・・・!!!』
『うるせぇ!!黙ってろ!!』
『ガハッ!!』
上半身を裸にされ、スカートも剥ぎ取られた。男達の手が、舌が水楯の体を侵略していった。
『嫌・・・嫌あああぁぁ!!!』
『へへっ!お前に殺された仲間の分だ!!しっかり、俺達を楽しませろよ!!おい!!』
『わかってる!!ほらっ!!』
『な、何っ!?・・・あ、ああああああぁぁぁ!!!』
媚薬で無理矢理性的感覚を刺激され、ローションが体に塗りたくられる。その間にも、男達の手は緩まない。
男達に体中を舐められ、触られ、握られ、噛まれ、弄ばれ。薬等も手伝って、まともな思考能力が失われつつある中、水楯の心に宿ったのは・・・憎悪。
男性恐怖症に端を発する、それは尖り過ぎた刃。当時はレベル3であった水楯の『粘水操作』。
それに必要なのは水分。自分に触れている水分。そして、今男達の手によって自分の体には水分が塗りたくられている。
『(殺す・・・!殺す・・・!!殺す!!!)』
水楯の瞳に、殺意が灯る。それに気付かない男達は、いよいよ水楯に残っている最後の下着を剥ぎ取ろうとしていた。
殺意と憎悪が混ざり合った水楯の『粘水操作』がローションを支配下に置き、水楯自身の汗や男達の唾液を含めた必殺の刃が暴漢達へ向けて繰り出され・・・
ピカアー!!!!!
ることは無かった。突如として出現した閃光。それを放つ光球が、水楯の演算を中断させた。
同時に一時的な失明状態に陥り、周囲の状況が全く掴めなくなる。唯一わかったのは、自分の体を触っていた男達の手が離れたことだけ。そして・・・
『腹が痛い。腹が痛い。もう、その辺の草むらとかで出そうかな?で、でもそんな所を誰かに見られたら・・・。
折角気に入った服が見付かったってのに。・・・グウッ!!』
水楯の視界が回復した時に立っていたのは、無駄にキラキラした碧髪の男。見れば、自分を襲った男達は全員気絶していた。
バサッ!!
『!!』
碧髪の男から、パンダとリスが凶暴化したような絵柄がプリントされたジャージ一式を放り投げられた。
ファッションに疎い水楯から見ても、絶対に着たくない部類であったそれを放り投げた碧髪の男は・・・
『も、もう駄目・・・!!も、漏れる!!!』
『あっ・・・!!』
腹を下しているためか、猛スピードで走り去って行った。それを、水楯は呆然と見送るしか無かった。
「そういえば、あの時ってどうしてお腹を痛めていたんですか?」
「アイスの食い過ぎ。暑かったモンだから、調子に乗って食べ過ぎた」
再び歩き出した界刺と水楯は、あの日のことを思い出していた。2人が最初に出会ったあの瞬間を。
「そういや、あの時あげたジャージはどうしてるの?」
「・・・大事に閉まってあります」
「着たのはあの時1回だけ?俺がすっごく気に入ったヤツだったんだけど」
「・・・あなたのファッションセンスは、私でも理解し難いです。今あなたが着ているスーツを見た時は、『遂に、界刺さんの気が狂った』と、とても心配になりました。
あなたが正常なら、そんな一般人から見て格好いいと思われる服を身に付けるわけがありませんから」
「・・・やっぱ、君ってドSだね」
去年の夏休みにひょんなことから水楯を助ける形になった界刺は、これまた去年の夏休みの終わり頃に水楯と再会した。
自分を助けてくれた男―界刺―を、水楯が夏休み中ずっと探し続けていたのだ。自分を襲ったスキルアウトは警備員に捕まったものの、男性恐怖症は更に酷くなった。
本来ならば、男も居る外に出ようとはとてもじゃ無いが思わない。だが、水楯は恐怖を懸命に抑えながら、ずっと界刺を探し続けた。
そして、夏休みの終わり頃にようやく界刺を見付けた。彼女は、お礼も兼ねて界刺を喫茶店へと誘った。
『・・・あの時は、本当にありがとうございました』
『俺は、偶々通り掛っただけだよ。腹痛で。んふっ!』
飄々とした態度に胡散臭い笑み。水楯の第一印象は、『何を考えているかよくわからない人』というものだった。
『君も災難だったね。体の方は、もう大丈夫なのかい?』
『・・・も、もしよろしければ・・・。わ、私の話を聞いて頂けませんか?』
『ん?何?』
水楯は、意を決して界刺へ打ち明ける。自分のことを。自分が患う男性への恐怖を。何故あの時の自分が界刺へ打ち明ける決断を下したのかは、今でもよくわからない。
心の何処かで、自分のことを誰かに知って欲しいという欲求があったのかもしれない。
過去の行い―正当防衛―により学園には友達がいない水楯は、自分が抱える思いを打ち明けられる人間が居なかった。唯の1人も居なかった。
『へ~、色々大変だったんだねえ。んふっ。ところでさ、俺の服装どう思う?俺ってさ、ファッションには少しうるさくてさ~』
『・・・へっ?』
絞れるだけ振り絞った勇気でもって打ち明けた自分の思い。なのに、それを打ち明けられた側の界刺は一言だけ感想を言った後に、自分の服装について質問して来たのだ。
『ありゃ、聞いてなかったの?俺の服装はどうかなって聞いたんだけど。まぁ、いいか。
そんなことよりさ、実はこれから古着店を巡るつもりなんだ。丁度いい。偶には女性の視点を参考にしたいし、君も付き合いなよ。んふっ!』
『えっ・・・。で、でも、私はそういう流行関係には疎いっていうか・・・』
『だったら、尚更付き合いなよ。この俺が、君にファッションというものの何たるかを教えてあげるよ。あぁ、楽しみだなぁ~。んふふっ』
『(・・・な、何なの、この人。わ、私が精一杯の勇気を出して打ち明けたことを、「大変だったんだねぇ」の一言で済ませちゃった。・・・軽過ぎない?)』
拍子抜け。それ以外の感想が出て来ない。目の前の男は、今や妄想の世界へ飛んでいた。
彼にとっては、自分の過去より、これから見付ける衣服の方が重要なのだ。そして、それに自分も付き合えと言っているのだ。
『んふふ~♪んふふ~♪』
『(・・・フフッ、変な人。でも、考えてみればあんな光景を目にした人間がこうやって被害者と話しているのに、
その被害者に対して遠慮も気遣いも何一つしないというのからして、この人はおかし過ぎる。
しかも、あんな目に合った私を蔑む気も哀れむ気も一切無い。所謂、自然体で私と接しているんだわ。・・・ある意味、すごい精神力だわ)』
このやり取りの後に、水楯は界刺の古着店巡りに付き合った。界刺が語るファッションについては、何一つ同調することは無かったが。
「相変わらず、成瀬台の寮は質素ですね」
「ボロっちいとも言えるね。学園都市にある寮とは思えない貧乏さだよ」
成瀬台の学生寮に着いた界刺と水楯は、足早に歩を進める。程なくして、界刺が住む部屋の前へ到着した。
「お邪魔します」
「どうぞ」
界刺が扉を開け、水楯を中へ誘う。
「・・・また模様替えしたんですか?」
「うん。日光とかを遮るためにね。一々『光学装飾』を使ったりするのは面倒だし」
「・・・相変わらずのセンスですね。何ですか、このプードルを邪悪に染めたようなプリントは?」
「それが、いいんじゃないか。可愛いだろ?」
「ハァ・・・」
ファッション関係にうるさいせいか、界刺の部屋は割りと整理整頓されている。いるのだが、日光を遮るためのカーテンが如何ともし難い程部屋に似合っていない。
目に映る光景に呆然としている水楯を余所に、界刺は真珠院から借りたロングコートやスーツをハンガーへと掛ける。傷や埃が付かないように、服専用のカバーを被せる。
「涙簾ちゃんも手洗いとうがいをしなよ。こういうのは、日頃からこまめにやっとかないと余計な病気になっちゃうしね。最近は特に暑いから、体力も消耗しやすいし」
「わかりました」
一足先に手洗いとうがいを終えた界刺は、冷蔵庫から清涼飲料水が入ったペットボトルを2本取り出す。もちろん、自分と水楯の分だ。
ベッドに腰掛け、先に飲料水を喉へ流し込む界刺。そんな彼の耳に、ある音が聞こえる。
シュルシュル
「・・・ハァ」
界刺は、思わず溜息を吐く。手洗い等を終えた水楯が何をしているかを理解したがために。
「・・・その癖、まだ健在なのかい?」
「中学時代から、ずっとこうしてますし。この方が、体がスッキリするので」
界刺の隣に座った水楯は・・・下着しか身に付けていなかった。先程まで着ていた花盛の制服は、キャリーバッグの上に脱ぎ捨てられていた。
「花盛寮は、基本的に1人に1つ部屋が宛がわれるんだっけ?」
「そうです。なので、この『自室では下着姿で過ごす』という私の癖を知っているのは界刺さんだけです。
部屋に誰か来た時は、すぐに服を身に付けられるように何時も準備万端にしています」
水楯の癖―界刺から言えば悪癖―である『自室では下着姿で過ごす』は、例外的に界刺の部屋にも適用される。
水楯は、界刺から飲料水を貰い喉が欲する水分を流し込んでいく。
「んで、俺の部屋で寝る時は君も一緒に布団へ入り込む・・・だっけ?」
「はい。もちろんです」
「でも、今は夏だし。それに、エアコン無いから布団なんか蹴っ飛ばしてるけどな」
「大丈夫です。暑さは、私が持つ『粘水操作』で何とかします」
「・・・強情だわ、君」
そう言って、界刺はベッドへとその身を倒す。それに釣られるように、水楯もベッドに身を委ねる。
「君程強情な女性は見たこと無いよ。心底そう思う。俺の言うことにはまず従うのに、その中に自分の思いを無理矢理捻じ込んで来る」
「それは、私が『シンボル』へ加入することを許した時からわかっていたことじゃないですか」
界刺が顔を横へ向けると、そこには水楯の顔があった。水楯もこちらへ顔を向けている。
「あの時も、本当に大変だったなぁ。まさか、真刺と本気で殺し合いを行うなんて」
界刺は、水楯が『シンボル』へ加入する時のことを思い出す。
界刺に対して異常な執着を見せる水楯を危険視し、不動が水楯の『シンボル』への加入を拒否しようとした所、水楯が激怒したのだ。
そして、水楯が不動へ『粘水操作』による攻撃を仕掛けた。対する不動も『拳闘空力』で持って応戦、殺し合いにまで発展した。
最終的には界刺と仮屋が間に入ることで何とか仲裁し、界刺の薦めもあって水楯の『シンボル』入りが叶ったが、この経験から不動は水楯を完全には信用しなくなっていた。
(最近は、水楯の変化もあってようやく信用するようになった)
「『シンボル』への加入順は俺・真刺・仮屋様が最初、その後に涙簾ちゃん、バカ形製、サニー、桜の順かな。
最初は男だけだったのに、今では女性陣の割合の方が大きくなったな。まぁ、君にとっては良い環境になったとも言えるのかな?」
「クスッ、そうですね。私も流麗が加入してくれたおかげで、随分心が穏やかになりました。今じゃあ、サニーや春咲さんもいますし」
「『シンボル』へ入る前・・・真刺と殺り合った頃より遥かに酷い状態の時に、よく成瀬台に入り込んで来れたモンだと今でも思うよ。
君の行動に気が付いた俺が、仕方無く『光学装飾』でフォローしてたけど。・・・恐くは無かったのかい?」
「・・・恐かったですよ。男性しかいない学校ですし。しかも、あの頃は男性に限らず誰も信じることができなくなっていましたし。
でも・・・それでもあの時の私は界刺さんの傍に居たかった。何を差し置いても。それが、最優先でした」
夏休みも終わり、成瀬台でも2学期が始まった頃から水楯は界刺へ纏わり付くようになった。所謂、ストーカーである。
水楯自身、男性恐怖症を患ってから不登校気味だったこともあり、学園側も全く与り知らぬことであった。
夏休みの終わりに再会した界刺に、水楯は興味を持った。否、それは興味を遥かに超えた執着。自分が抱く思いを打ち明けた初めての人間に対する、それは異常な行動。
2度に渡る強姦未遂により、男性恐怖症以上の対人恐怖症に症状が悪化していた彼女の、唯一の―そして勝手に決めた―拠り所。それが、
界刺得世という存在であった。
古着店巡りの際に界刺が通う高校を聞き出した水楯は、授業中にも関わらず界刺の近くに存在した。具体的には、教室に備え付けられている窓から覗くのだ。
高校1年だった界刺が所属するクラスの教室は1階にあり、しかも2学期に入ってすぐにあった席替えで窓側・一番後ろの席になった界刺が、
彼女―自分にストーカー行為を働く水楯涙簾―の存在に気付くのに時間は掛からなかった。
界刺は、ストーカー行為を止めるように何度も水楯に説得を試みたのだが、水楯は頑として聞き入れない。
逆に、水楯のストーカー行為はエスカレートし、時には寮にある自分の部屋にまで忍び込んで来たのだ。
もちろん、その時はあの界刺でも気味悪がって水楯を叩き出したが。
それ以降も、平日・休日関係無しに1日中界刺に纏わり付く水楯。この期間、彼女は花盛寮へ殆ど帰っていなかった。ずっと、野宿状態であったと言ってもいい。
ホテル等に泊まる金はあるのに、それを一切使わない。おかげでずっと風呂にも入らず、碌に食事も取らず、睡眠も取らずで、結果として次第に水楯は衰弱して行った。
それを見るに見かねて、界刺は自分の部屋に水楯を迎え入れた。これ以上は、水楯の体が持たないと判断したために。
「あの時は、君の体を俺が洗ってやったね。俺が部屋へ迎え入れた途端に、糸が切れた人形みたいにへたり込んだ君には、自分で自分の体を洗う力さえ残っていなかった。
確か、1ヶ月以上風呂に入って無かったんだっけ?女性の全裸を見たのは、あの時が初めてだったよ」
「・・・あの時は、私自身意識が朦朧としていました。肉体的にも精神的にも限界を超えていた・・・まるで夢の中を泳いでいるようなフワフワした感覚でした」
自分の部屋に入った途端にへたり込んだ少女を、界刺は仕方無く介抱した。
体も洗ってあげた。学校を休んで、不慣れな食事も作って食べさせた。1人で寝るのが恐いと言うので、一緒に寝てやった。
我儘ばかり言って来る水楯を、界刺は文句を言いながらも見捨てなかった。彼女を助けたのは自分。
偶然とは言え、自分が関わったことに対する“責任”を取る意味もあった。
寮に住む他の男にバレないように細心の注意を払いながら、できるだけ水楯と一緒に居てあげた。少女のか細い手をずっと握ってあげた。
そんな生活が3週間程過ぎた当たりから、水楯に変化が見られるようになった。
具体的には、朝起きてみると朝食が構えられていたり、『粘水操作』を用いた洗濯をするようになった。
『あ、あなたに迷惑を掛けてしまった、せめてものお詫びです』
何故そんなことをするのかと聞く度に、そうやって返答する。少しは立ち直って来たのかと、界刺は軽く考えていた。
だが、違った。それは、お詫びでしか無かった。自分の行いの異常さを自覚した少女が行う、それは“責任”を取る前段階でしか無かった。
「あの時の君は、俺が嫌うことばっかりしたね。まさか、自殺するつもりだったとは・・・夢にも思わなかったよ」
「・・・界刺さんに途轍も無い迷惑を掛けてしまった。それを自覚した私は・・・それでも界刺さんと離れるという選択肢が無かった。
でも、それだと更に迷惑を掛けてしまう。だから、自殺しようと思いました。
あなたに謝罪しながら・・・この手で自らの汚れた人生に終止符を打つつもりでした」
ある日の深夜、界刺は水楯に起こされた。彼女の手には・・・包丁が握られていた。
『ごめんなさい。本当にごめんなさい。だから・・・さようなら』
涙を流しながら自分の手首を切ろうとした水楯を、界刺が咄嗟に発生させた閃光でもって怯ませ、その隙に持っていた包丁を吹き飛ばした。
水楯が包丁を取りに行こうとするのを馬乗りになって押さえ込み、彼女の頬を引っ叩いた。
『私は・・・私にはあなたが必要なの。あなたが居ないと、私は駄目なの。私の世界は・・・あなたに染められたの』
水楯は、ひたすら泣きじゃくった。涙も鼻水も涎も何もかも垂らしながら嗚咽を漏らした。
『でも、それだとあなたに迷惑が掛かる。あなたに嫌われてしまう。そんな・・・そんなことに私は耐えられない。あなたに見捨てられたら、私は生きる意味が無い。
だったら、死んだ方がマシ。あなたに嫌われて見捨てられるくらいなら・・・私は死を選ぶ。じゃないと・・・私を私が抑えられなくなる!!
あなたに執着する余りに、そしてあなたと親しい人に嫉妬する余りに、何時か私はあなたの大事な人を傷付けてしまう!!
本当は、わかっているんです。私は、あなたと付き合えるような清らかな女じゃ無いってことは。惨めで薄汚れた・・・執着に狂う救いようが無い女だってことは』
水楯と界刺の視線が交錯する。
『私は、あなたにふさわしくない汚れた女。でも、あなたが居ないと私は私でいられなくなる。殺すなら今の内ですよ、界刺さん?あなたに殺されるのなら、私は本望です』
「あの瞬間に、界刺さんが放った言葉を私は一生忘れることは無いでしょう。それ程までに、あの言葉は私の心深くまで届く閃光のような一閃でした」
『君の考えはよ~くわかった。だったら・・・君の世界をこの界刺得世が思いっ切り広げてやる!!俺の命に懸けて、君の世界を色とりどりに飾り付けてやるよ!!
言っとくが、俺の仲間は君に傷付けられる程ひ弱じゃ無ぇぞ!!だから、君の思う通りにこの世界を生きてみろ!!俺が居てやる!!俺が、君を見捨てないで居てやる!!
君の心は俺色なんだろ!?だったら、俺の言う通りにしろ!!俺に従え!!俺が、君を一人前の綺麗な女性に仕立て上げてやるよ!!
このファッションデザイナーである界刺得世を舐めんなよ?君も見ただろ!?俺の偉大なファッションセンスの数々を!!大丈夫だ!!全て俺に任せろ!!!』
「・・・!!!」
一気に捲くし立てた熱い思いが篭った界刺の言葉を、己が心にまで響かせた水楯は一言・・・
『・・・・・・嫌です』
拒否の言の葉を発する。
『えっ』
『・・・それだけは嫌です。あなたのファッションセンスに私の心が彩られるなんて、考えただけでも背筋が悪い意味でゾクゾクします。絶対に嫌です。お断りします』
『・・・君ぃ。おりゃ!!』
『ッッ!!い、痛い・・・!!』
ムカっと来た界刺は、水楯の両頬を思いっ切り抓る。
『さっきまで言ってたことと全然違うじゃねぇか、あぁん?君の心が俺という存在に染められたのに、何で受容した側の君が拒否ってんの?』
『痛たた!!だ、だってあなたのファッションセンスって、酷いを通り越して滑稽という・・・』
『おりゃあ!!』
『痛たたたたたたた!!!』
尚も水楯が口答えするので、抓る指へ更に力を込める界刺。
『んふふ~♪んふふ~♪』
『だ、だから・・・あなたに染められたけど、あなたのファッションセンスに染められたわけじゃあ・・・痛い痛い!!』
『アハハ。アハハ。んふふ。んふふ。グヘヘ。グヘヘ』
『も、もう!!止めて下さ・・・ッッ!!!』
それは、一瞬のことだった。界刺が、水楯の顔を自分の胸へ抱く。
『・・・君は強情だね。自分のことばっかり俺に押し付けて。少しは、俺のことも考えてよ。俺は・・・今の君を嫌っていないんだからさ』
『!!!』
『そりゃあ、自殺を試みるまでの君は嫌いだったけどさ。今は何でかそこまで嫌いじゃない。きっと、君の本音みたいなのがようやく見えたからかな』
『界刺・・・さん・・・』
『言ったろ?俺が、君の世界を飾り付けてやるって。なら、君も努力しなきゃいけない。誰のためでも無い、自分のために。
前もって言っとくけど、俺に全て押し付けちゃ駄目だよ。あくまで、君の心だ。君の世界だ。だから・・・死ぬなんて言うなよ。
折角俺が慣れない家事仕事をしてまで頑張った苦労が、全部水の泡になっちゃうじゃないか。
それこそ、俺に対する裏切りだよ?君は、俺を裏切るの?君は、俺が嫌いなの?』
『う、裏切りたく・・・無い!!嫌いなんかじゃ・・・無い!!あ、あな、あなたを・・・あなたが・・・狂おしい程までに愛おしい!!!』
『だったら、生きてくれよ。俺が悲しくなっちゃうじゃないか。偶然でも君を助けた俺の過去を・・・お願いだから否定してくれるなよ、涙簾ちゃん?』
『!!!』
『涙簾ちゃん』。初めて自分の名前を呼んでくれた。その言葉が・・・何よりも嬉しかった。自分が抱く嫉妬も憎悪も執着も悲しみも・・・何もかも超越した言葉。
『ううぅ!!うううううぅぅぅ!!!!ううううううううううぅぅぅぅ!!!!!』
『よしよし。偶には、思いっ切り泣きゃあいい。その感じだと、誰にもそうやって弱音を吐き出したことも無かったんだろ?
俺の胸くらいなら、何時でも貸してやるよ?だから・・・心に溜め込んだモン全て吐き出しちまえ!!』
『うううううううぅぅぅ!!!!ううううううううううぅぅぅぅ!!!!!』
この出来事の後に、水楯は界刺に対するストーカー行為を止めた。界刺が『シンボル』への加入を薦めたからである。
不動と殺し合いを行うという予想外な事態を経て、水楯は『シンボル』の一員として界刺と共に過ごすようになった。
『シンボル』の一員として過ごして行く中で、少しずつ変わっていければいい。そう界刺は思い、また水楯も少しずつではあるが良い方向へ変わって行った。
新たな仲間も増え、『シンボル』として様々な活動を行い、結果今に至るのである。
「・・・やっぱりそれで寝るの?」
「はい。界刺さんには、もう私の体は全て見られていますから。今更恥ずかしくも無いです」
もう夜も遅く、界刺自身も疲労が溜まっていることもあって早々に寝ることにしたのだが、
「『寝る時は素っ裸』・・・ね。裸で寝るのって気持ちいいのか?俺にはわかんない感覚だわ」
ベッドの上に座る水楯を見ると、どうしても及び腰になってしまうのだ。何故なら、今の彼女は下着すら身に付けていないのだから。
ストーカー時代以降、何度も目にするようになった癖。だが、久し振りということもあってか界刺もほんの少しだけ意識してしまう。
「今の界刺さんは、女性に発情されないんですよね?だったら、何の問題も無いですよ。さぁ」
「おっ!?」
全裸の水楯に手を引かれ、彼女の隣に尻餅を付いてしまう界刺。
「・・・!!」
窓から入る月明かりに照らされた水楯の裸身は、妖艶とでも言うべき雰囲気を放っていた。
「・・・胸。相変わらず小さいね」
「・・・はい。流麗にも負けていますからね。というか、『シンボル』の中で胸が大きいのって流麗だけですね」
「そういや、そうだな。胸の大きさ順で言えば、バカ形製→涙簾ちゃん=桜→サニーって具合だろうね」
「春咲さんと同じくらいなんですか?へぇ・・・。あの時は、『光学装飾』で私達からは界刺さんと春咲さんの姿は見えなかったですから、
私自身確認はできていないんですけど」
「・・・やっぱ同じくらいだな。ちょい失礼」
「あっ。うんっ・・・!!ハァ・・・!!」
「うん。触り心地も似たようなモンだな」
「界刺さん・・・。触るんでしたら、もう少し早く言って下さいよ。私にだって、心の準備というものが・・・」
「何言ってんの。介抱してあげた頃の君は、嫌がる俺の言うことガン無視で自分の体を押し付けて来たじゃないか。
もう、君の体を見るのも触るのも慣れ切っちゃったよ。さっきは久し振りだったから、ほんのちょっと意識したけど。
しかも、『薄汚れた私の体をあなたの手で・・・』なんてどっかの漫画の台詞みたいなのを、恥ずかしげも無く囁いて来るし。それっ!」
「ッ!!ハァ・・・!!ングッ・・・!!そ、それは、私が愛読している少女コミックにあった台詞ですね。
背徳感溢れる言葉だったので、私の中にも印象深く残っていたんだと思います。ハァ・・・!!ハァ・・・!!も、もう・・・いいです・・・!!」
「ふぅ・・・。今時の少女コミックって、一体どんなモノが描かれてるんだ?・・・もしかしたら、女性の裸を見てあんまり動じなくなったのも、君の影響かも。
だから、あの発情した雌2匹による“女”地獄にも耐え切れたのか?・・・あんまり嬉しく無い影響だな」
「よかったじゃないですか。プレイボーイの必須項目ですよ?ちなみに、そのコミックは今でも愛読しています。
私も、色々と興味が出てきたので。背徳・・・淫猥・・・退廃・・・いいですよね。もちろん、妄想の中だけですけど」
「・・・ハァ。やっぱ、普段物静かなタイプは過激なのかねぇ。一々指摘すんのも疲れるよ。ハァ・・・」
界刺は、水楯への指摘を中断する。どうせ、今の水楯には何を言っても碌に聞かないことはわかっている。普段とは、まるで態度や雰囲気が違う碧髪の少女。
ちなみに、先程の“行為”は水楯の男性恐怖症を和らげて行くために、界刺と水楯が合意の下で行っているものである。
水楯が界刺の部屋に泊まりに来る理由の1つでもあるこの“行為”は、彼女自身が男性へ発情しなくなったわけでは無いことから、
水楯の方から界刺へ提案して来たことである。
「・・・嫉妬とかしないの?俺が何人もの女性に告白されて、キスまでされたんだよ?」
界刺は、試しに聞いてみる。答えが判り切っている問いを、敢えて。
「・・・不思議なくらい、そういう感情が湧かないんです。以前の私なら、そういう感情が幾らでも湧いたんでしょうけど。
きっと、あなたが私の心に居るからだと思います。私の心を飾り付けてくれるあなたが、“ここ”に居るのがわかっているから・・・私は揺るがないんだと思います。
だから・・・“ここ”に居るあなたを脅かすもの全てを、私は排除します。私の命に懸けて」
予想通りの回答。判り切っていたが、改めて聞くとやはりと思ってしまう。この水楯涙簾という少女が、途轍も無い頑固者だということが。
「ハァ・・・。こりゃあ、ますます死ぬわけには行かなくなったぜ。何せ、俺が死んだらもれなく1人追加って流れだからな。下手したら、1人じゃ利かなくなる」
「頑張って下さい」
「気軽に言ってくれるぜ、全く」
「大丈夫です。死ぬ時は一緒ですから」
「強情な女め。えいっ!」
「痛っ・・・!デコピン・・・!」
「・・・・・・寝よっか?」
「・・・はい。じゃあ、胸をお借りしますよ?」
「・・・暑くなんない?」
「『粘水操作』で、この部屋の温度は下げていますから大丈夫です。・・・久し振りだなぁ・・・界刺さんの胸で寝るのは」
界刺はシャツ1枚の半ズボン、水楯は一糸纏わぬ姿で布団の中へ入り込む。まるで、恋人同士がこれから性行為をするかのような姿。
しかし、2人に限ってはそうはならない。片や女性不信真っ最中の身、片や男性恐怖症が完治していない身。だが、それでも肌を重ね、温もりを感じることはできる。
「・・・明日の朝食は何がいいですか?」
「そうだね・・・。冷蔵庫の中身を考えると、スクランブルエッグと焼き立ての食パンがいいかな?あぁ、ゆっくりでいいよ?俺も、ぐっすり眠りたいし」
「わかりました。そういえば、朝練の方は?」
「とりあえず、少し休むつもり。ちょっと集中したいからね」
「そうですか・・・。(ハグッ)」
「・・・密着し過ぎじゃない?胸が押し付けられてるんだけど?シャツの上からでも、先端にある“モノ”を感触として感じちゃうんだけど?
というか、俺の脚を君の股で挟んで来るな。・・・本当に男性恐怖症かよ?俺みたいに、異性を異性として見なくなったわけじゃ無いよね?」
「・・・久し振りに界刺さんと一緒に寝るんですし、いいじゃないですか。しかも、さっきは散々私の体を弄んだんですし。
これも“行為”の一環です。別に、優しくしてくれても罰は当たりませんよ?」
「それ、全然理由になってないよね?それに、散々って言う程俺は君を弄んだつもりは無いんだけど。
君から提案して来た“行為”の通りに、何回か胸に触れて揉んだだけじゃないか。何で、俺に罰が当たる当たらないの話になってんの?
今なんて、君の方から俺に無理矢理押し付けて来てんじゃねぇか。俺以上の“行為”を、君がしてどうすんの?・・・何か、今日はやけに迫って来るね。どしたの?」
「・・・・・・」
水楯の“行為”に、界刺が訝しむ。対する水楯は、黙ったまま界刺の胸に顔を埋めている。
「君・・・。もしかして、もう男性恐怖症が治ってるんじゃあ・・・。それに託けて、俺に甘えて来ているんじゃあ・・・」
「・・・・・・」
「・・・俺が何人もの女性に告白されて、キスまでされたことを気にしているんじゃあ・・・。嫉妬はしなくても、内心では悔しくて悔しくて堪らないんじゃあ・・・」
「・・・・・・(ガリッ!)」
「痛っ!!お、俺の肩を噛むんじゃ無ぇ!!」
「・・・・・・(ペロッ)」
「ビクッ!!な、舐めるのも禁止!!」
「・・・・・・(プク~)」
「膨れっ面しても、駄目なものは駄目。そもそも、俺って昔から君を恋愛対象として見ていなかったし。君の場合は、裸を見た所で発情もクソも無いし」
「・・・・・・(シュン)」
「・・・まぁ、最近はそうでも無かったんだけどな。女性不信状態になる前の、ほんの一時だけだったけど。
女性にモテたいと思って動いて、結果筋肉ダルマに追っ掛けられる羽目になったけどね。
あれは、君のストーカー時代を思い出させるかのようだったよ、うん。終業式があった日には、サニーにも似たようなことをされたし」
「(パアァー!!)」
「ハァ・・・。で、結局はダンマリなのね。本当に、強情で我儘な娘だこと。
『シンボル』に入って来る女性は、全員頑固者なのか?・・・俺が狼になってもいいのかい、涙簾ちゃん?」
「大丈夫です。界刺さんって、その手に関しては割と奥手ですから。一歩引いてしまうタイプですから。
特に、今の界刺さんは5人もの女性から告白されている身ですから、迂闊なことはできないでしょう?だから、私は安心してこの体をあなたに委ねることができます」
「・・・・・・それって、男としてどうなんだろ?ハァ・・・」
「界刺さん。腕枕して下さい。この体勢のままで」
「・・・世話の掛かる“女王”様だ」
「“激涙の女王”。クスッ、カッコイイ渾名ですよね。私の名前の一部から取って名付けてくれたんですよね。界刺さんのセンスも、全てが駄目じゃ無いんですよね。
私、すごく気に入っていますよ。さ、早くして下さい。“女王”の命令は絶対ですよ、界刺さん?」
「(・・・気紛れ・思い付き・デタラメの3拍子で名付けたなんて、こりゃあ絶対に言えないな。
それと、“これ”はバカ形製達には口が裂けても言えねぇな。じゃないと、あいつ等まで迫って来そうだ。ハァ・・・)」
この後もブツクサ言い合いながら、しかし2人は次第に睡魔の毒に冒される。こうして、ようやく界刺が駆け抜けた激動の1日が幕を閉じたのである。
continue…?
最終更新:2013年05月15日 21:36