「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「・・・!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
開いた口が塞がらないというのはこのことか。
「どうかな?俺の仮定から、どんな推測を弾き出せる?」
「界刺・・・!!それは、つまり・・・!!」
「うん。この仮定が正しいとすると、その内通者によってそっちの情報が漏れているんだよ。だから、風紀委員は『ブラックウィザード』の尻尾を掴めない。
捜査情報が筒抜けだから。だから、債鬼はそれを割り出そうとこんな物も引っ張り出して1人で捜査しているんじゃないかな?
いや、もしかしたら債鬼はもうその目星を付けているのかもしれないね。どう思う、形製?」
「あたしも、その可能性が十分あると思う。もし、界刺の言う通りこの男が内通者に目星を付けているとする。
その上で界刺の部屋にまで盗聴・盗撮の類を仕掛けようとした所から考えると、その内通者は余程尻尾を隠すのがうまいと見るべきかも。証拠や正体を露にしないというか。
それか、内通者は1人だけじゃ無い・・・複数居る可能性だってあるよ、これ。そして、この男にも内通者が単独なのか複数なのかがまだ掴めていない・・・かな?」
「だろうな。債鬼が、椎倉先輩達に打ち明けずに1人で捜査していた心情も理解できるよ。
誰が内通者なのかがわからない、何処から自分が内通者を調査している情報が漏れるか疑心暗鬼になる、神経を擦り減らす毎日・・・。
こりゃあ、酷いことしちまったな。まぁ、自業自得だけど。んふっ!」
現状の分析及び推測を形製と行う界刺の目の前で、椎倉が苦虫を噛み潰したような表情を作る。作ってしまう。それだけ、その仮定のインパクトが大き過ぎた。
「・・・確かに界刺の言う仮定の妥当性は低くない。むしろ、高いと見るべきだろう」
「うん?そっちも、何か情報を掴んでるの?」
「あぁ。俺達の合同捜査が始まった初日、つまり夏休みの初日に固地達178支部を『ブラックウィザード』の人間が尾行していたんだ。
幸い、固地達の働きもあってそいつ等を確保することができたが」
「ふ~ん。ということは、椎倉先輩達の動きが結構前から読まれていたのは、風紀委員側も気付いていたんだね?」
「あぁ。固地自身は、『ブラックウィザード』に透視系能力者や念話系能力者が居ると推測した。
現に、確保した人間の1人が透視系能力者だったからな。その可能性を考慮して、警備員による見回りの人数も増やしたし、
こちらに居る透視系能力者や飛行可能な閨秀にも積極的に監視してもらってるし。使える手は、バンバン打ってる」
「そういや、成瀬台(ウチ)って監視カメラが1つも無いんだよねぇ。お金が無くて」
「あぁ。だが、その反面電気系能力者やハッカーによるハッキング等の心配は無い。元々それが成瀬台を本部に選んた理由の1つだしな」
「・・・でも、その分動かないといけないのは事実・・・だよなぁ」
「・・・あぁ。貧乏だからな、成瀬台は」
「「ハァ・・・」」
椎倉と界刺は、成瀬台の懐事情に項垂れる。何せ、学生寮にエアコン1つ設置されていないのだ。成瀬台の貧乏、ここにありと言った所か。
「ちなみに、その捕まえた『ブラックウィザード』の頭に何かアンテナみたいなのが付いてなかった?」
「ッッ!!!・・・やはり知っているのか・・・」
「まぁね。そいつ等は、“手駒達”って名前の『ブラックウィザード』お得意の廃人集団さ。薬で廃人化した人間を特殊な電波で洗脳・操作して戦力とする操り人形さ。
非合法な薬とかで超能力や身体能力を強化してるから、結構面倒臭いよね。俺も、数回戦ったことあるし。『
シンボル』としてじゃ無くだけど。なぁ、真刺?」
「そうだな。私や仮屋も、単独で何度か戦ったことがあるが、奴等は痛覚が麻痺しているせいか、傷を負わせても痛みを無視して襲い掛かって来るからな。
“手駒達”を無力化させるには・・・殺すか、気絶させる程の強力無比な一撃を急所に叩き込むか、頭に刺さっているアンテナを外すしかない。
少なくとも、下半身の骨を粉々に砕いたり、脚の腱を断ち切って自力歩行できなくさせることが、奴等との戦闘では求められるだろう。
そうだ、一応『ブラックウィザード』の成り立ちも説明して・・・」
「え、え~と、不動さん達はその中でどの手段を・・・?」
「私は、主に下半身の骨を粉々に砕いた後にアンテナを取っ払う」
「俺は、光で“手駒達”を失明状態に追い込んだ後に、自分を不可視状態にしてアンテナを掠め取る
パターンだね、リンリン?」
「な、何サラっととんでも無いこと言ってるの、この人達!?」
「「正当防衛」」
「グッ・・・」
「(前にコンテナターミナルで見たときも思ったけど、ぶっちゃけこいつ等と真正面から戦り合いたくは無ぇな・・・)」
不動達の言葉に、思わずツッコミを入れる一厘。同じく鉄枷も、あのターミナルに居た者としての感想を胸に抱く。
「元々『ブラックウィザード』は、スキルアウトの中でも新興勢力に分類される組織だったが、今年に入ってから一気に勢力を拡大させたのだ」
「そうそう。近くに居た穏健派のスキルアウトを無理矢理吸収合併して、一気に大型スキルアウトになっちまった。
まぁ、去年の時点でも勢力争いで負かしたスキルアウトをちょくちょく吸収していたようだけど。
んで、その主戦力となったのが“手駒達”。そいつ等や幹部連中を纏め上げるのが・・・“孤皇”と呼ばれ、同時に恐れられている
東雲真慈って男さ」
「東雲真慈・・・!?“孤皇”・・・!?」
初めて聞く名前に、椎倉始め周囲の風紀委員が首を傾げる。
「あぁ。『ブラックウィザード』のリーダーだ。“裏”の世界じゃあ名の知れた“孤独を往く皇帝”、略して“孤皇”さ。
自分を害する者なら、仲間であっても容赦無く殺す男。“『力』こそ全て”を地で行く人間だね。俺も、一度だけ会ったことがあるけど」
「なっ!!?」
「偶然会って、そこら辺の路地裏に行って2人で色々話したね。その時は、互いに戦闘はしなかったし。そうだねぇ・・・」
『ブラックウィザード』のリーダーと会ったことがある。その言葉に、周囲の注目が界刺に集まる。
注目の的となっている界刺は、何時かの邂逅を脳裏に思い浮かべる。
『「ブラックウィザード」を立ち上げた理由? 俺が一体、世界でどの程度のランクに居るかを判断するためだよ』
『ふ~ん。世界から見た人間のランク付け・・・ねぇ。それって、意味あんの?俺には、お前がやっていることって無意味な努力にしか見えないんだけど?』
「・・・狂ってる男だよ、東雲は。『力』に酔いしれてるんじゃ無い。『力』に狂ってるんだ。『力』を抑えられないんじゃ無い。『力』を抑えようとしないんだ。
『力』の前には、強者も弱者も等しく無力。んふっ、“『力』こそ全て”っていう言葉は、東雲のためにあるような言葉だね。
『人間は世界の一部である』っていう俺の考え方からすると、あいつの言うことも理解できなくは無いけど。
唯、あいつは自己主張が激し過ぎるな。それに・・・たかが人間1人の分際で、世界を気取ってんじゃ無ぇよって話だ・・・!!んふふっ・・・!!!」
「・・・!!!」
「あぁ。そういや、俺に下らねぇことほざいて来やがったなぁ・・・。
『甘んじて「力」に屈し、受容しているお前と、「力」を生み出し、「力」を制している俺とでは話にならない』とか何とか・・・。馬鹿が・・・!!
テメェが、この世界の神様の1人にでもなったつもりかよ。『力』ってのは、世界に与えられたモンだ。才能ってのは、世界が不平等に分配した結果だ。
世界に与えられた『力』ってのを、俺達人間があーだこーだしながら磨いて行くモンだ。
『力』を制するってのは、当たり前のことだ。それ自体は殊更自慢するようなモンじゃ無ぇ。
それに、間違っても『力』ってのは人間が生み出せるモンじゃ無ぇ・・・!!!
あいつは、『力』を生み出しているんじゃ無い。世界から与えられた『力』を利用しているだけだ。んふっ、今度会ったら『本気』でぶっ殺してやろうかな・・・!!?」
「(・・・相変わらず界刺さんの思考っていうか、『世界観』・・・とでも言うのかな?すごい独特だよね。私には、あんな考え方は無理だなぁ)」
「(不平等か・・・。お姉ちゃんが私より電気操作の応用性に優れているのも、その不平等が齎した結果の1つなのかもしれない・・・。
でも・・・まだ諦めるには早過ぎる。界刺さんや固地先輩の言う通り、『力』を磨き上げるだけの努力を、当然のことを私は今まで怠っていたんだから!!)」
界刺の雰囲気が一変する。瞳が・・・『本気』の色に染まりかける。その雰囲気に呑まれる一厘と焔火。そして、呑まれる前に椎倉が質問を重ねる。
「か、界刺。お前が『ブラックウィザード』のリーダーと面識があるのはわかった。そ、その人相や姿とかは、今ここに出せるか?」
「こんな感じ。と言っても、会ったのは今年の5月くらいだから髪型とかは変わってるかもしれないけど」
界刺の手の平に浮かぶ光の像。そこに居るのは、腰まで届くような長い白髪、右眼に眼球の刺繍が入った眼帯をしている彫りの深い男。
服装は無地の黒シャツにダメージジーンズ、黒いウインドブレイカーを羽織っている。
「よし!これを・・・!!」
「ちょい待ち。携帯電話とかで写すのは止めた方がいいな。何せ、風紀委員の中に内通者が居るかもしれないんだ。
電子情報として保存するのは、現状だと得策じゃ無い。保存という証拠を残すべきじゃ無い。今は、自分の頭に叩き込んで置くことをオススメするよ?」
「・・・それもそうだな。わかった。しばらくの間、この光の像は消さないでくれよ?」
「了解」
「皆!聞いての通りだ。この男が『ブラックウィザード』のリーダーだ。しっかり自分の頭へ叩き込んでおくように!!」
気が逸る椎倉を界刺が宥める。そして、落ち着いた椎倉は他の風紀委員に対して東雲の姿形を覚えるように指示を出す。
「・・・この辺でいい?これでも、かなりそちらさんに譲歩してるんだけど?」
「・・・構成員を見分ける特徴等は何かないか?」
『ブラックウィザード』に関する情報提供を切り上げようとする界刺に、椎倉は粘る。もう少し、情報が欲しい。奴等の活動範囲を知るための情報が。
「特徴って言ってもな。殆どの構成員は、『ブラックウィザード』の象徴として、身に付ける物に必ず黒色の何かを入れている。
それがジャケットやバンダナであったり・・・。だけど、今は夏だからな。連中も目立つような格好はしねぇ筈だ。それに、黒色の物なんて幾らでもあるし。
唯、その黒色の物のどっかに『ブラックウィザード』の印が入っている筈だね。普通は裏返しているから、傍目だとわかんないけど」
「どんな印なんだ?」
「眼球さ」
「眼球!?」
「そう。理由は知らないけど。眼球って言っても、全部が全部一緒じゃ無いし。色も大きさも形も全体的なデザインもそれぞれ違う。
確か、その刺繍や着色は構成員自らの手でやんないといけないって噂を聞いたことがある。正しいかどうかは知らないけど。・・・もういいな?」
「・・・あぁ。ありがとう、界刺。おかげで、大分情報が集まった」
「んふっ!これからが、大変だけどな。居るかもしれない内通者の割り出しや、『ブラックウィザード』の捜索。そして・・・勃発する血に塗れた殺し合い・・・」
「・・・やはり、そうなるのか?」
「なるだろうね。次に会う時に、君達の中で一体どれだけの人間が五体満足で居られるのか・・・誰が生きて誰が死んでいるのか・・・少し興味あるよ」
「死ぬ・・・!?そ、そんな・・・!!!」
「んふっ。君とも、これが最後の対面になるかもしれないね」
「い、いやですー!!死にたくないですー!!!」
界刺の言葉を受けて抵部が騒ぎ出す中、椎倉は冷静に事の推移を見極める。
相手が大型のスキルアウトであるということ、そして“手駒達”のように能力者を操り人形として扱っていること等から、薄々は感付いていたことだが。
それでも、面と向かって言われるのは中々に堪えるものがあった。そう、自分達が飛び込むのは戦場。何時死んでもおかしくは無い、無情で無慈悲な世界。
「・・・フッ。こういう時に、お前達『シンボル』の力を借りられないというのは、やはり残念だ。
重徳力の件、そして救済委員の件。この2つの事件は、お前達の働きによって死亡者が1人も出ずに解決しているんだからな」
「・・・俺等は“座敷童”扱いかよ」
「・・・そうかもな」
椎倉は、切り上げ時と見て立ち上がる。これ以上ここに居ても仕方無い。そう判断したがために。
「それじゃあ、俺達は仕事に戻る。急な訪問、済まなかったな」
そう言って、椎倉は歩き出す。他の風紀委員も椎倉の後に続こうとする。
「ちょい待ち」
「・・・何だ?まだ何か言い残したことがあるのか?」
「あぁ。あるね。だから、もう一度こっちに来いよ、風紀委員?」
界刺が風紀委員を呼び止める。その声を受けて、風紀委員は足をこちらへと向ける。
「・・・で、何だ?」
「そちらさん、何か忘れちゃいないかい?」
「???」
「はぁ・・・。この殺人鬼についてだよ」
そう言って、手の平の上に現れたのは光の像。風紀委員達の瞳に直接映らされた陰気な男。
「そもそも、この情報で嬌看の件と債鬼の件をチャラにするつもりだったんだからさ。人の言うことは、ちゃんと聞いとかなきゃいけないぜ?」
「・・・お前の言うことは何処からが本当で、何処からが嘘なのかサッパリわからんがな」
互いに軽口を叩く界刺と椎倉。
「単刀直入に言うよ。この殺し屋と風紀委員が遭遇する可能性は高い。何故なら、『ブラックウィザード』を追っているから」
「・・・その『追っている』というのは、どういう意味だ?」
「んふふっ。・・・さすがに鵜呑みにはしなくなったか。椎倉先輩の考えている可能性の1つだよ。この殺人鬼の標的はおそらく・・・『ブラックウィザード』だ」
「ど、どういうことですか、界刺さん・・・!?」
一厘が、界刺に質問をする。事ここに至って、界刺はある程度のことを正直に話すことにした。
「俺が、
春咲桜と共に救済委員と関わっていたことは知っているね?」
「は、はい・・・!!」
「その時に得た情報だ。最近『ブラックウィザード』に対して、どっかのスキルアウトが喧嘩を売っているんだ。
んで、そのスキルアウトがある傭兵を雇ったらしいんだ。しかも、その傭兵が噂によると滅茶苦茶強いらしいんだよ。
何せ、単独で『ブラックウィザード』と渡り合っているそうだから」
「1人で・・・!!?」
一厘の驚愕を目に映し、周囲の人間の表情を観察した後に、界刺は説明を続ける。
「あくまで、未確認情報だけどね。でも、もしその傭兵がこの男だとすると、この情報に信憑性を与えることができる。
能力の系統はよくわかんないけど、糸みたいなのを自在に操る能力者だ。銃とかナイフも使って来るよ?
こいつは、滅茶苦茶強い。風紀委員や警備員が束になって掛かっても、全員返り討ちを喰らってあの世行きになるかもしれない。
俺でさえ、『本気』を出しても今の実力だとこの男には負けるだろうし」
「お、お前がか・・・!!?」
「うん。だから、この男に勝つために今日から数日間、集中して特訓しようと思っていたんだけどね。俺、この殺人鬼に目を付けられたから」
あの戦慄する程の殺気は、今尚界刺の体に残っている。
「だからさ、そちらさんに警告してあげるよ。この男を見掛けたら、すぐに逃げろ。
『ブラックウィザード』の連中と関わっている時でも、すぐに決断を下せ。逃走するという決断を。
何をおいても最優先すべき事柄だよ、これは。無駄死にしたくなかったらね。
こいつは、俺が相手をする。いずれ、この殺人鬼とは否応無しにぶつかる気がする。だから・・・」
「・・・ちょっと待てよ」
「・・・何かな、神谷君?」
神谷が界刺の言葉を中断させる。“剣神”という異名を持つ少年は、威圧感をもって界刺と相対する。
「何で、最初っから俺達が負けるって決め付けてんだ?それは、テメェが戦った経験から導き出した結論かよ?」
「・・・そうだけど?」
「だったら、俺達がテメェに縛られる義務は無ぇな。つまるところ、テメェが弱かっただけのことだろ?それによぉ・・・そんな殺人鬼を野放しにしとけるかよ・・・!!」
「稜・・・!!」
「神谷先輩・・・!!」
神谷の言葉に熱が宿る。風紀委員として、一般人に害を及ぼす存在を黙認するわけにはいかない。例え、相手が目の前の男より強かったとして、それが何だと言うのだ。
「俺は、俺の物差しで測る。テメェの物差しに、俺が付き合う義理は無ぇな」
「・・・確かにそうだね。それじゃあ、君の思う通りにすればいい。この男と戦って見事討ち取るのも、無様に殺されるのも、結局は君の人生だ。お好きなように」
「フン・・・」
「話を戻すよ?もしかしたら、君等が『ブラックウィザード』と殺し合いしている最中にこの男と戦うかもしれないから、その時は本当に気を付けてね」
「はぁ!!?」
神谷は、今度こそ界刺に呆れてしまう。この男は、一体何を言っているのだ。
「だって、俺が『本気』を出すと見境無くなるから、君達も危険なんだ・・・」
「そんなことはどうでもいい!!お前・・・ようは俺達風紀委員と『ブラックウィザード』がドンパチしている最中に、
俺達と同じように『ブラックウィザード』を叩き潰そうとするこの殺人鬼と殺り合うかもって言ってんだよな?」
「それが何か?」
「『何か?』じゃ無ぇ!!お前の言ってることを聞いてると、その殺人鬼と殺り合う場所ってのは・・・」
「神谷君の言葉を借りるなら、君達風紀委員が『ブラックウィザード』と殺し合っている戦場かな?
それが、どうしたの?俺は、あくまで今後起こり得る可能性の1つを提示しただけだよ?別にそうなるなんて一言も言っていないじゃないか?これだから、神谷君は・・・」
「こ、この野郎・・・!!」
「ククッ・・・ククッ・・・」
「フフッ・・・フフッ・・・」
「ハハッ・・・ハハッ・・・」
「ムフフ・・・ムフフ・・・」
つまりだ。風紀委員と『ブラックウィザード』が殺し合う戦場に、今後『シンボル』が参戦する可能性はあると言っているのだ。
界刺が言葉に表し、椎倉が同調した風紀委員にとっての“座敷童”である『シンボル』が、殺し合いを行っている戦場に舞い降りる可能性があると言っているのだ。
その実力は、戦場を席巻するだけの力を十二分に有している。その存在は、戦場の流れを激変させる可能性を秘めている。おそらくは・・・良い方向へと。
確かに、その可能性は限りなく低いのかもしれない。それでも界刺が言葉に出したのは、きっと自分達を励ますための界刺なりの気遣い。
それを理解した椎倉・破輩・閨秀・加賀美は、零れ出る笑い声を抑え切れない。
「フフッ・・・。な、なぁ界刺。た、確かお前の能力は『光学装飾』と言うんだったな?」
「・・・それがどうしたの、破輩?」
「お前という男に、本当にふさわしい能力だと思っただけだ。変幻自在に己の色を変える能力。だからこそどんな色にもなれる。1つの色に囚われない。
全く・・・何処まで行っても素直じゃ無い奴だ。これは、私達にとって“アタリ”の色を界刺が出してくれることを願わないといけないかな、椎倉?」
「そうだな。俺達にとって“アタリ”の色というと・・・“座敷童”色か?」
「な、何ですか、それ!ムフフ・・・。でも、確かにその色が私達にとって希望の光になるのなら・・・お願いしてみる価値はあるね」
「願掛けか・・・。そういえば、昔のことだけど星に一生懸命お願いしたことがあったなぁ・・・」
「そらひめ先輩が!?に、似合わないですー!!」
「・・・抵部。いっぺん死んでみるか?星になるのって、素晴らしいことだと思うぜ?」
「い、いやー!!そらひめ先輩の目が恐ーい!!かいじさん、助けてえええぇぇっ!!!」
「あっ!!ま、また界刺様に抱き付いて!!そこは、サニーの特等席です!!!」
「・・・・・・別に、風紀委員の味方になるって言ってないんだけどなぁ」
目の前に居る風紀委員が、勝手に自分のことをどんな願いでも叶えるお星様扱いを始めたことに呆れる界刺。
しかも、星の色が“座敷童”色と来たモンだ。“座敷童”色?一体全体どんな色なのだ?『光学装飾』でも出せるかどうかは不明な色であることには違いないだろうが。
「言っとくけど、あくまで可能性の1つだからな。俺だって、『ブラックウィザード』を敵に回したくないし。
もし、この殺人鬼と殺し合う場所が君等の戦場だとしても、俺は君等に味方もしないし、『ブラックウィザード』討伐戦に参加もしないよ。そんな余裕は全く無いだろうし。
むしろ、『本気』の俺とこの殺人鬼との殺し合いに君等が巻き込まれないかが心配だよ。誤って、君等を殺しかねないからね」
「・・・ほぅ。界刺。お前、人を殺したことがあるのか?」
「いんや。今の所は無い。だけど、俺が『本気』を出す以上その可能性が十分にある。まぁ、誰かを殺したとしても見逃してもらうけど。見返りの一部として」
「なっ!?」
界刺は一気に畳み掛ける。必ず言質を取る。
「今回俺が提供した情報の数々、俺達『シンボル』の存在、そして・・・債鬼の犯罪紛い。本当なら、ここまで風紀委員に譲歩するつもりは無かったんだ。
だけど、風紀委員の皆さんが余りにも情けないモンだから渋々譲ってやったんだ。だったら、その見返りとして以下の3点を貰う。
『「ブラックウィザード」の捜査に関わっている風紀委員は今後、「シンボル」の行動を原則黙認する』、『時には「シンボル」の要請に協力する』、
そして・・・『「シンボル」のメンバーが、風紀委員やそれ以外の人間へ最悪命に関わるような危害を与えた、
もしくは何らかの原因で与えさせてしまったとしても、風紀委員は“数回”黙認する』。この条件を、今ここで呑んで貰う!!」
「テメェ・・・!!そんな条件、こっちが呑めるとでも・・・!!」
「今は君と交渉しているんじゃ無いんだよ、神谷君?この交渉の場に立つ資格の無い人間が・・・テメェみたいなド素人が口を挟んでんじゃ無ぇよ・・・!!!」
「・・・!!!」
気圧された。あの
神谷稜が。その様に、他の風紀委員は絶句するしかない。そして、いち早く回復した椎倉が最後の抵抗を試みる。
「・・・その“数回”とは、具体的に幾つだ?」
「さぁ?そんなモン、こっちの気分次第だよ。まぁ、2桁には行かないから、安心しなよ。そこまでは、さすがの俺でも求めないよ。んふっ、俺って優しいだろ?」
「・・・・・・そうだな。本当に・・・容赦の無い優しさだ」
椎倉は様々な感情を、多様な思考を数秒で纏め切る。もう、答えは判り切っていたことだった。
固地の行動が致命的だったとは言え、『ブラックウィザード』に関する有益な情報や『シンボル』の参戦を期待できる可能性が出て来た今、
そのリーダーである界刺の突き付けた条件を・・・風紀委員としての矜持と天秤にかけ・・・
「・・・ふぅ」
結果決断を下す。
continue…?
最終更新:2012年07月06日 19:59