時は夕暮れ。オレンジ色の日光が窓を透過して差し込んでくる会議室には、非常に重苦しい空気が流れていた。
場所は
成瀬台高校の会議室。ここには、各支部員達がある連絡が届くことを待ち続けていた。
そして・・・その時は来た。勢い良く会議室の扉を開けて入って来た橙山の口から、病院へ搬送された176支部リーダー
加賀美雅の容態が報告される。
「加賀美は大丈夫っしょ!!意識もちゃんとある!!背骨や各内臓に損傷は無し!!明後日くらいには退院できるっしょ!!」
「ほ、本当ですか!!?」
「緋花・・・私が嘘を言うわけ無いっしょ!!?」
「緋花ちゃん・・・よ、良かった・・・良かったね・・・!!!」
「うん・・・うん・・・!!!」
「斑先輩・・・!!緊迫した状況下できっちり能力を制御できるなんて・・・見直しましたよ!!エリートの名は伊達じゃ無いですね!!」
「・・・ま、まぁな」
自分達のリーダーが無事なのを知った176支部の焔火と葉原は、涙させ浮かばせながら安堵した。
一方、加賀美の命令とは言え彼女をそんな状態にした斑は、鳥羽からの称賛にも歯切れの悪い返事を返すのがやっとだった。
「橙山先生。ありがとうございました」
「私は別に何もしていないっしょ!!あっ、そうそう。一色と鏡星には、今日はこっちに戻る必要は無いって伝えといたっしょ!!
あの子達もリーダーに付き添いたいでしょうし。別に良かったわよね、椎倉?」
「はい。問題無いです」
橙山からの追加報告を受ける椎倉。彼は、先程から難しい顔をしていた。その顔は、今尚崩れていない。その理由は、すぐにわかる。
「・・・では、これより176支部と178支部が遭遇した例の殺人鬼に関する報告をして貰う。浮草・・・よろしく」
「・・・・・・あぁ」
椎倉と同じくらい顔が強張っている浮草が、重い口を開く。ここに居る風紀委員の誰もが予想していなかった、早過ぎる邂逅。
その一部始終を、死者が1人も出なかった結果とそこに至る過程を、確と己が胸に刻み込むように一同は静かに報告を聞く。
「・・・以上だ。俺達に死者が出なかったのは、おそらく奴の依頼主らしき人間の頼みによるものだ。でなければ、俺達が全滅していた可能性は・・・高い」
「・・・・・・ふぅ。成程・・・わかった。もういいぞ、浮草?」
「・・・あぁ」
報告は一通り終了した。そこから見えて来たのは、殺人鬼の桁外れの実力。そして、176支部の身勝手さ。
「・・・神谷」
「・・・はい」
「何故加賀美の指示に従わなかった?」
一番の問題点。それは、リーダーである加賀美が許可する所か制止を掛けているのに、部下である神谷達がそれを無視したこと。
「・・・」
「・・・正直に話せ。その時抱いていたお前の思考を」
「・・・・・・あんな殺人鬼を野放しにするために俺は風紀委員になったんじゃ無い。・・・そう思いました」
憮然としている神谷の表情が全てを物語っている。それ程の思いを抱いていながら、みすみす取り逃がしてしまった現実に神谷は歯噛みしているのだ。
「・・・俺の命令は覚えていたのか?」
「・・・はい」
「加賀美の制止を振り切ってでも、その思いを貫きたかったのか?」
「・・・はい」
「・・・そうか」
短い問答が終わる。そして、決断を下す。今の状況に最適な決断を。
「明日・明後日の巡回に176支部が参加することを禁じる。リーダーである加賀美も入院していることだしな。お前達には事務作業をこなして貰う。いいな?」
「・・・了解」
176支部を代表して神谷が承諾の意思を示す。常のように反論はしない。失態を演じた者達に、結果を残せなかった人間に反論する権利等与えられる筈も無い。
「・・・これは俺の独り言だ。別に聞かなくてもいい。聞く気が無い人間が聞いても無駄だからな」
椎倉が皆に聞こえるくらいの声で独り言を漏らし始める。
「俺達風紀委員は1つの治安組織だ。警備員もそう。そして、組織である以上指揮系統というのは必ず存在する。
それが乱れれば、その組織は組織で無くなる。唯の寄せ集めの集団・・・烏合の衆と化す」
風紀委員。学園都市における治安組織の1つ。生徒によって構成された、子供達の組織。
「特に、今回のように風紀委員会程の大きな物になれば、指揮系統の重要性は否が応でも増す。それなのに、その指揮系統を司るリーダーの指示を無視する?ふざけるな!!!」
ドン!!!
衝突音。それは、椎倉がテーブルを叩き付けた音。
「俺達は何のためにここに居る?最優先課題は何だ!?人の命を守るため?殺人鬼を捕まえるため?・・・違う!!!
俺達風紀委員会に居る者にとっての最優先課題は・・・『
ブラックウィザード』の殲滅だ!!!」
「「「「「!!!!!」」」」」
椎倉の発言に、他の風紀委員が驚愕する。彼の言っていることは、一般人の命より『ブラックウィザード』の殲滅が重要だと言っているのだ。
「・・・それで、風紀委員って言えんのかよ・・・?」
この言葉に黙っていられない人間は居る。その1人である神谷は、怒りの視線を椎倉に向ける。
「俺達風紀委員が一番に守らなきゃなんねぇのは、この学園都市に住む人達なんじゃねぇのか!!?」
「・・・今回は違う!!」
「どう違うってんだよ!!?」
「神谷先輩!!お、落ち着いて・・・!!」
激昂して立ち上がった神谷を葉原が宥めようとするが、そんな小細工でこの男が止まる筈が無い。
「・・・いいだろう。良い機会だ。教えてやる」
「椎倉先輩・・・!?」
対する椎倉も、神谷の激昂に応じるかのように立ち上がる。隣に座る初瀬の反応を無視して、椎倉は神谷の前に立った。
「神谷。俺達が風紀委員会まで立ち上げた理由を言ってみろ」
「・・・『ブラックウィザード』っていう大型のスキルアウトが中毒性の高い薬を売り捌いて・・・その中から“手駒達”って言う兵隊を作って・・・」
「そうだな。その被害がこれ以上広がらないように風紀委員会を立ち上げた。
つまりは、『ブラックウィザード』の魔手にこれ以上一般人が巻き込まれないように俺達風紀委員は立ち上がった。
俺が言いたいことが何かわかるか?それ以外の案件等、今の俺達が抱えていいモンじゃ無い!!!」
「・・・!!!」
神谷の眼光に負けない程の視線をぶつける椎倉。
「俺達が『ブラックウィザード』の捜査に掛かり切りになってる今、俺達が本来行うべき管轄内の業務は他支部の協力を仰いでいることは知ってるな?」
「・・・はい」
「彼等だって自分の業務がある。それでも、彼等は俺達に協力してくれている。内心どう思っていようがな。
全ては、『ブラックウィザード』の暴走がこれ以上広がらないように。その思いを胸に、俺達も他支部の人間も頑張っている。違うか!?」
「・・・・・・」
夏休みと言えど、風紀委員の仕事は存在する。だが、成瀬台支部等『ブラックウィザード』に関わる支部は現在通常の業務を殆ど中断しているのだ。
一般業務を抱えていては、『ブラックウィザード』を抑え切ることはできない。そういう判断が下されたのだ。
故に、一般業務を『ブラックウィザード』とは関係無い他支部に面倒を見て貰っている。全ては、『ブラックウィザード』を打倒するために。
「俺達が今やっている案件も、お前の言う通り学園都市の人間を守るためのものだ!!命に優先順位を付けることは本来ならできないし、するべきでも無い!!
だが、今は違う!!優先順位を付けなければならない!!でなければ、俺達の命さえ危うくなるぞ!!?」
「・・・それで、風紀委員って名乗れんのかよ・・・?」
「そうだ!!これが風紀委員だ!!人間1人の力で守れるものなんて、たかが知れている。それを、風紀委員という組織の力として運用することで守れる範囲を広げている!!
だが、全部を守れるわけじゃ無い。限界はある。だったら、組織として最大限に守れる力を発揮するために・・・時には優先順位を付ける時もある。必ずある!!」
「・・・クッ」
「それが認められないというのなら・・・風紀委員を辞めるんだな。界刺にも言われたんだろう?“風紀委員もどき”とな」
「!!!」
『テメェ等・・・何時までおんぶにだっこに興じてるつもりだ?自由ってのは、責任を負わないことじゃ無ぇぞ?
こんな部下(した)ばっかりじゃあ、加賀美(うえ)は可哀想だな。部下の不始末の責任を負わされて、振り回されて、苦しんで・・・。
テメェ等みてぇなのは風紀委員とは言わねぇ。そこらの“不良”と何ら変わらねぇドチンピラだ。そんなに好き勝手やりたきゃ、風紀委員を辞めるんだな。
俺等のようなボランティア形式で学園都市の治安でも守ってろよ。今のテメェ等より、俺等(ボランティア)の方がよっぽどいい仕事してるぜ?
ったく情けねぇな・・・“風紀委員もどき”?まぁ、俺にとってはどうでもいいけど』
神谷は午前中に会った“詐欺師ヒーロー”の姿を思い出す。その言葉も一緒に。
『風紀委員のような「偽善者」共の巣窟に身を置いて守れるもの等何一つ無い』
そして・・・かつての親友が自分に対して放った言葉も。
「・・・なぁ、椎倉先輩?」
「・・・何だ?」
「風紀委員ってのは・・・正義じゃ無ぇんだな」
「・・・お前は、風紀委員そのものに自分の正義を預けるのか?」
「ッッ!!」
椎倉が神谷の胸倉を掴む。
「確かに、俺にも時々わからなくなる。風紀委員というのは何なのか?本当に人を守れる存在なのか?風紀委員は・・・正義なのか?
俺も風紀委員としての矜持くらいは持っている。風紀委員が行うことは絶対に正しいと考える時もザラにある。
だが・・・人間誰だって間違える。何かを信じられなくなる時もザラにある。だから・・・自分の正義は自分で決める。何かに預けたりはしない」
「だったら・・・!!」
「だが、今回お前達がやったことは正義でも何でも無い!!唯の暴走だ!!自分の正義を貫くための最善の行動を取らなかったお前達が、殺人鬼に敗北するのは当たり前だ!!」
「!!!」
結果と過程。結果が『自分の信念や正義を貫き通した』と定義するなら、過程は『自分の信念や正義を貫き通すための行動』と定義できる。
「偶然とは言え、お前達には幾らでもチャンスがあった筈だ。自分達の正義や信念を貫くために取れる行動が!!加賀美も言ったんだろう!?今は退くべきだと!!」
「俺等があの殺し屋に勝てないって言いてぇのか!?」
「そうだ!!現状ではな!!」
「・・・『部下を信じている』のは口先だけの加賀美先輩と同じだな。いざって時は部下の力を信じない・・・」
「そんな上司を死ぬ危険に合わせたのは部下のお前達だろうが!!!!!」
ボコッ!!!
「椎倉!!お前も落ち着け!!」
「ハァ・・・ハァ・・・」
「・・・・・・」
破輩の大声が会議室に響く中、2人の男は互いに視線を逸らさない。
「もし、加賀美が部下を信じていないとすれば、お前達も上司である加賀美を信じていない!!
加賀美の判断を無視し、暴走し、結果として彼女を入院させたのは部下であるお前達が原因の1つだ!!決して、殺人鬼のせいだけじゃ無い!!!」
「・・・・・・クッ」
「加賀美は、お前達を縛り付けるようなリーダーだったのか?お前達の意見を無視するような人間だったのか?
彼女は、本当に部下であるお前達を信じない少女だったのか?・・・どうなんだ、神谷!!?」
椎倉の容赦無い言葉が神谷に突き刺さる。本当はわかっていたこと。加賀美という少女が悩んでいることも全部知っていた。
それを、見て見ぬ振りをして来たのは自分。彼女に甘え、自分のやりたいようにやって来たツケがこの失態であることは、もうわかり切っていた。
だから、神谷は正直に答える。これ以上、自分にも彼女にも嘘を付きたくなかったから。
「・・・違う。加賀美先輩は・・・俺達を信じてくれる人だった。俺達を・・・尊重してくれる人だった」
「神谷・・・!!」
「神谷先輩・・・!!」
ぶっきらぼうな彼の本音に、斑と葉原が瞠目する。
「・・・そうか。・・・わかった。では、これより実際に戦闘を行った176支部の面々の意見を参考に、殺人鬼への対策を検討する!!」
「はぁ!?し、椎倉先輩!?さっきと言ってることが・・・!?」
椎倉の言葉に、神谷は疑問符しか思い浮かばない。『ブラックウィザード』と関係無い案件は無視すると言っていた筈では・・・。
「何言ってるんだ、神谷?その殺人鬼は『ブラックウィザード』の周辺をうろついているんだろ?
いずれ、再び対峙する可能性もある。止むを得なく戦闘する可能性も否定できない。だったら、今回の戦闘で得た貴重な情報を元に対策を考えるのは当然のことだろう?
お前が何を勘違いしているかは知らんが、優先順位を付けるとは言っても無視をするなんてことは一言も言ってないぞ、俺は?」
「で、でも『それ以外の案件等、今の俺達が抱えていいモンじゃ無い!!!』って・・・」
「何時俺が『それ以外の案件』に殺人鬼を含めているなんて言ったんだ?あの殺人鬼は、『ブラックウィザード』の捜査に間接的に関わって来る不確定要素じゃないか。
同じく、一般人の命を守るというのも無視はしないぞ?風紀委員として、1人の人間として。時と場合によっては、優先順位が変動するだろうが」
「・・・・・・」
「最近は、この手のことが多く続いているな。俺も・・・お前も」
一杯喰わされた。そう、神谷は素直に思う。椎倉の言う通り、最近はこの手のことが立て続けに起きているような気がする。
「・・・これが、自分の正義や信念を貫く行動と言うんだ。色んな障害が立ち塞がる中で、少しでも自分の在り方を貫くためには考えるしか無い。
必死になって考え続けるしか無い。闇雲に進んでいても限界はすぐに来るぞ?そうやって・・・界刺や固地はお前の何歩も先を進んでいる。
あいつ等の在り方が全部正しいとは思わない。だが、あいつ等なりに悩み苦しみ抜いた結果があれなんだろう。あれは、一朝一夕で身に付くモンじゃ無い。
神谷。お前が今後も風紀委員として自分の正義・信念を貫きたければ、お前も必死になって考えろ。上司に甘えず・・・自分の力で!!」
「・・・・・・了解」
神谷は首肯する。今までは、加賀美の性格や方針に心の何処かで甘えていた。だが、何時までもこのままでは居られない。
それが原因で、加賀美が入院する羽目になったのだ。これは、部下である自分達の怠慢。
自分が風紀委員として正義を貫き通すためにはどうすればいいのか、
神谷稜は真剣に考えることを決断する。かつて分かれた親友と別の道を歩むためにも。
「よし!それじゃあ、具体的な検討に入るとしよう。神谷!!それ以外のメンバーも!!
お前達が抱いた感想や疑問に思ったことを全部話してくれ!!でなければ、対策も何も無いからな!!」
「近場で戦ったのは緋花ちゃんと神谷先輩です。緋花ちゃん!!」
「え、えぇ・・・。え~と・・・」
「ふむふむ・・・」
実際に戦闘した176支部の面々の意見を中心に、離れた位置で観察していた178支部の観点も加え、議論は進められて行く。その結果・・・
「・・・何だ、この化物っぷりの数々は!!?」
椎倉の一言が全員の感想でもあった。
「・・・ここは、最近活躍目覚しいリンリンに頑張って貰うか!!風輪の騒動でも大金星を挙げたし。なぁ、リンリン?」
「ブッ!!む、無茶言わないで下さいよ、破輩先輩!!もし、この糸が先輩達の考えてる人工的な蜘蛛糸だったとして、私の『物質操作』じゃ馬力が全然足らないと思います。
銃弾みたいに一度発射されたらそれ以降の運動エネルギーが減少するのとは違って、この殺人鬼の場合は幾らでも糸を操作できるっぽいですし」
「でも、干渉はできるだろ?」
「できますけど・・・私1人じゃ振り切られる可能性が大ですね。さっきも言いましたけど、私の『物質操作』は精密さには優れていても馬力という面では不足気味です。
加賀美先輩が操作する大量の水を完全に封じ込めたって所から見ても、能力の馬力がそもそも桁違いです。直接的な能力のぶつかり合いは、持てる馬力が物を言いますから。
そんなことを言うなら、破輩先輩の『疾風旋風』で吹っ飛ばしてしまえばいいじゃないですか?束ねられる風なら斑君より上ですよね?」
「・・・蜘蛛糸は竜巻でも耐え得る性質がある。斑への対処を見る限り、きっと私の能力は通じない。地面そのものを吹っ飛ばせられるわけじゃ無いからな。
もし通じたとしても、決定打にはなり得ない。この殺人鬼との戦闘では・・・私は役に立たない可能性が高い」
「妃里嶺・・・」
「心配そうな顔をするな、記立。私は、冷静に現状からわかっている情報で判断できることを言葉にしているだけだ。
まぁ、他の連中を離脱させるくらいの働きはできるだろうさ。この殺人鬼に通じないとして、それを理由に怠けるつもりは無いからな」
「・・・少し変わったわね、妃里嶺」
「そうか?」
「ぶっちゃけ、蜘蛛糸ってのがとんでもない性質を幾つも持ってやがるんだよな。卑怯クセー。
風輪(ウチ)の時も何でもアリな奴とバトったけど、あいつと違ってこいつは本物の殺人鬼だからな。善悪なんてモンをハナっからブッ飛ばしてやがる」
「鉄枷の言う通りですね。生まれ持った才能とは言え、これ程の力を示されると私でも天の采配に疑問を抱きたくなりますよ」
159支部の面々のやり取り。
「確か・・・蜘蛛糸ってのはタンパク質を材料にしているんですよね、浮草先輩?」
「あぁ。そのタンパク質は、人間の体内にも存在する。きっと、それを使って蜘蛛糸を作成する能力者なんだろう」
「分類的には肉体系能力者・・・かな?・・・。見たことも聞いたことも無い能力ですけどね。・・・。
糸をずっと浮遊させられる点を考えると、念動力系能力が思い浮かんじゃいますけど」
「・・・やっぱり駄目ですね、椎倉先輩。改めて調べてみましたけど、『書庫』に登録されている人間にこの殺人鬼と符号するデータは見当たりません」
「そうか・・・。体内にあるタンパク質を材料としているのなら、その貯蔵量が尽きれば糸は出せないと見るべきか・・・。
だが、神谷達の戦闘を見る限りその縛りはあって無いようなモノかもしれん。材料を補給する手段が無いとも限らないしな。
にしても、空中を浮遊する?浮遊・・・浮遊・・・・・・まさか、蜘蛛糸自体を念動力で作成したりしているのか!?
念動力が『タンパク質を用いた蜘蛛糸の作成・操作』だけに限定されているのならばアミノ酸の大きさでも不可能では無いし、空中をずっと浮遊している理由付けもできるが。
肉体系とも念動力系とも取れる特殊にも特殊な能力者・・・か。本当に見たことも聞いたことも無い事例だが・・・だとすると益々厄介だぞ?
糸そのものが蜘蛛糸の性質以上に強固に構築されている可能性が高いし、念動力の性質上操作の利便性が格段に跳ね上がる」
178支部及び成瀬台支部のやり取り。
「このさつじんきって、そらひめ先輩でも勝てないんですかー!!?」
「そんなモン、やってみなきゃわかんえぇだろ!!」
「正直な話、これくらい色んなことができる能力者となると・・・美魁でもマズイかも」
「この男を無重量空間に捕えたとして・・・その後の対処如何では美魁でもマズイかも」
「牡丹!?撫子まで!?あたしの力を信じられないって・・・痛っ!・・・冠先輩・・・」
「落ち着け、閨秀。ようは、舐めて掛かるとやられるって言いたいんだよ」
「さすが冠先輩!!こんな時でも落ち着いたままでいられるなんて!!」
「(・・・冠先輩の手から汗の匂いがプンプンしてきたことは、この際言わないでおこう)」
花盛支部のやり取り。
「緋花ちゃんと姫空ちゃんの見立てが正しいとすると、この殺人鬼って雷速や光速の攻撃を何度も避けることができるんだよね?・・・そんなのって有り得るのかなぁ?」
「神谷のような反射神経を持っているとすれば、あるいは・・・」
「無茶言ってんじゃ無ぇよ、斑。俺だって雷速や光速の攻撃をそのまま避けたりできるか!!」
「そういえば、神谷先輩って緋花ちゃんと模擬試合的なことをした時に、緋花ちゃんの電撃をかわしていましたよね?あれは、どうやって?」
「それは、焔火の電撃を放つ前の前兆みたいなのを見切っていたんだ。『電撃使い』って、そういう前兆がわかりやすいっていうか・・・『閃光真剣』を操る俺からしたらだけど。
後は、もう本能的な感じだな。反射神経とかそんなレベルの話になって来る」
「でも、私がやった電撃の槍ってタメ無しでしたよ?しかも、常に電流を纏っているみたいな感じですから、前兆みたいなのがあったとしてもわかりにくいと思うんですけど」
「俺はあの殺人鬼じゃ無いからわからねぇよ。・・・唯、あの反応を見ると奴のは反射神経的なモンだと俺は思う。攻撃が発生する前から回避行動を取ってるみてぇな」
「俺としては、緋花さんより姫空さんのレーザーを見もしないのに避けたって方が気になりますね。今まで見せたことが無かった攻撃なのに」
「・・・・・・くそっ」
「ビクッ!た、確かに・・・。鳥羽君の言う通り、姫空ちゃんに背を向けていながら今まで見せたことの無い『光子照射』をかわしたっていうのは、
反射神経とかのレベルじゃ無い気がするね。一体、どんなタネを使ってるんだろう?」
「予知能力者でも無いだろうし・・・。本能的・・・って言ったら対処の仕様が無いし。ゆかりっちはどう思う?」
「私も緋花ちゃんと同じ意見だよ。本能的なんて言い出したら、この殺人鬼は死角からの攻撃さえ簡単に対処できるって話になる。しかも、雷速や光速の攻撃でさえ」
176支部のやり取り。そうして、一同は再び席に着く。
「・・・蜘蛛糸は決して万能じゃ無い。例えば電気は通すし、相当高い温度には耐え切れない。
能力的に言うなら、『発火能力』や『電撃使い』系統の能力者ならば十分に対抗可能だ。
姫空みたいなレーザー系能力者や空間移動系能力者、場合によっては念動力系や精神系も同じく。・・・能力的には・・・な」
椎倉は具体例を挙げながら説明を重ねて行く。今後の方針を決める重要なプロセスであるがために。
「だが、それは普通の蜘蛛糸の場合だ。奴の能力では、糸の太さや量も自由自在に操作できる。性質までは誤魔化せないだろうが、それを強化することは可能だろう。
また、蜘蛛糸自体が体内のタンパク質と念動力にて作成・操作されている可能性も低くない。その場合、俺達が所持する能力では一部を除いて奴の能力に打ち勝つのは困難だろう。
加えて、176支部との戦闘でもわかる通り単純な能力だけでは無い戦闘力も図抜けている以上、正面からの戦闘は避けるべきだ。俺達にとって、奴は優先順位が低い人間だからな。
但し、今回の戦闘を経て奴が俺達に牙を向けて来ないとも限らない。だから・・・これは厳命だ。向こうから仕掛けて来た場合に限って戦闘を認める!!
これは、殺人鬼に勝つための戦闘じゃ無い。生き残りを懸けた戦闘だ!!殺人鬼(ヤツ)の巣から逃れるための・・・決死の行動ならば戦闘を認めよう。いいな、神谷!!?」
「・・・・・・・・・了解」
「他の176支部メンバーも・・・いいな!!?」
「「「・・・・・・はい」」」
椎倉の確認に、神谷・斑・焔火・姫空は承諾の意思を伝える。これは、神谷達の思いにも配慮した方針。
椎倉も神谷が言っていることの意味を十分に理解しているが、それでも優先順位を付けなければならない時はある。それが、今この時なのだ。
「橙山先生・・・」
「わっかてるっしょ!!警備員の方でも十分に注意して捜査するっしょ!!」
橙山は椎倉の意を汲んだ返答を行う。基本的に、この殺人鬼に関しては警備員を中心とした捜査を行うつもりである。
「忠告された時から一応覚悟みたいなものはしていたが・・・いざ直面してみるとふざけるなと言いたいくらいの反則っぷりだな。
こんな化物と単独で戦って生き残るだけでも驚愕モノなのに、どうやって勝つつもりなんだろな、破輩?」
「・・・光速の能力を自由自在に行使できる者にしか思い浮かべられない手段でもあるんじゃないか?」
「・・・かもな」
椎倉と破輩の会話には、ある主語が意図的に省かれていた。言わなくてもわかるからだ。
「では、今日の活動はこれにて終了だ。休暇明けから想定外・・・とは言えんが突発的なことが起きたから、皆疲れているだろう。各自、体調管理だけは怠るなよ?以上!!」
そうして、本日の風紀委員会活動は終了した。
「・・・ということなんです」
「・・・本当に、あいつが絡むと事が面倒臭くなるな」
大体の風紀委員が帰路に着く頃、成瀬台に残っているのは椎倉・橙山・破輩・閨秀・冠・葉原の6名。
この6名に共通するのは、内通者が誰なのかを知っているという点である。
実はここには居ない人間で、固地以外に後2人内通者が誰なのかを知っている者達が居るが、ワケあってその2人は同席していない。
また、その2人と橙山、オマケの緑川は椎倉の『真意解釈』等の精神系能力によってシロと判明している。
椎倉は、固地の見立てを信じこれ以上『真意解釈』を仲間に用いるつもりは無かった。
(椎倉自身は、『仲間に能力を行使するのはもう嫌だ』と冠に愚痴を零している。仲間に1回使うだけで気分が悪くなってしまうのだ)
「まさか、
風路形慈が界刺を頼っていたなんてね・・・!!これは、予想外っしょ!!」
「あの場に風路が居たのか・・・!!しかも、それを私達に伝えないとは・・・!!界刺め・・・!!!」
「風路があたし達を頼らない理由もわかるけどよ・・・。よりにもよって、あの『
シンボル』にかよ・・・!!」
「・・・つくづく風紀委員の面目を潰すのが好きな男のようだな、撚鴃?」
「・・・ハッ!!ま、まさか私を緋花ちゃん達に同行させるように動いていたのは、椎倉先輩にこの情報を伝えるのを少しでも遅らせるため!!?」
椎倉達は葉原からの報告を受けていた。風路形慈やその妹である鏡子、そして
網枷双真のこと等を。
「・・・その可能性が高いな。風紀委員会に固地が参加している以上、風路のことを俺達が知らないとは限らないと踏んだ上での行動だな。
俺達が知れば、重要参考人としてすぐにでも風路の確保に向かう可能性を読んで、お前を自然に誘導したんだ。お前の心理状態を把握した上で」
「・・・!!や、やっぱり、あの人って恐い・・・!!」
「葉原。連中が何処に行くかはわかっているか?」
「そ、それが・・・。具体的な行き先の説明が無かったんです。ずっと、“ヒーロー戦隊”の設定をどうするかの議論ばっかりしてて・・・。
私も界刺先輩達の議論に振り回されて・・・。何処に向かうのかというのが何時の間にか自分の頭から消えてましたね」
「・・・・・・そ、そうか。ボランティア・・・施設・・・子供達・・・。おそらく、界刺達の向かう先は『置き去り』の施設だな」
「・・・“別件”で動いている寒村達と鉢合わせする可能性もあるっしょ?」
「かなり低いですけどね。一応、寒村には連絡を入れておきます」
“別件”・・・すなわち、『置き去り』を保護している施設の調査任務。寒村達は、現在この任務を遂行中なのである。
「・・・もしかしたら、固地の見立ては当たっているかもしれん。このタイミングで界刺が『置き去り』の施設に向かう・・・。偶然にしてはでき過ぎているな」
「・・・撚鴃。風路形慈についてはどうするつもりだ?」
「・・・界刺に任せよう。葉原の話を聞く限り、今はこちらからのアクションは逆効果でしか無い。
あの男なら、風路を変えることができるかもしれん。それに・・・風路の存在が『シンボル』参戦の切欠になるかもしれないしな」
「(そうか・・・!!だから、奴は今になって動き始めているのか!!風路が変わったその時にすぐにでも動けるように!!
とすると・・・『マリンウォール』での“手駒達”の件を界刺がやったとして、その理由は何だ?まだ、風路とは出会っていない頃だが。・・・本当に私達を助けるため?
いや、あいつに限ってそんなことは有り得ない。もし、それが理由だとしても他にも狙いがある筈だ。私達に貸しを作るとか、そういう類以上のモノが。
アンテナを奪い去ったのにも理由がある筈だし、固地が仕掛けた盗聴器等を発見・妨害、そして情報の抽出方法も気になる。
両方に共通するのは電波を用いている点だが、あいつには電波を操作する力は無い。電気系の苧環や月ノ宮の力を借りていた風にも見えなかったし。
やはり、専用の機械を用いた可能性は高い・・・が、それが何なのかがわからなければ話にならない!!)」
椎倉と冠の会話から破輩は“詐欺師”が動き始めた理由を看破するが、それ以上のこととなると途端に思考が回らなくなる。あの男に関する情報が不足しているために。
破輩もそうだが、風紀委員側は“変人”が小型アンテナを奪った(と仮定)目的と、盗聴器等への対抗手段を見極められないでいた。
両方に共通するのが電波である以上、機械等を用いて傍受やジャミングを行ったのだろうが、その具体的手段が不明なのだ。
「(受信機材のデータは、界刺が水楯と共に台所へ行った辺りから途切れていた。ジャミングが仕掛けられたのはその時。奴が“掃除”と称して部屋を調査した時じゃ無い。
台所では私達の目も届かない。対応のスムーズさから見て、あいつは最初からその手のことに関しては対策済みだったわけだ。
しかも、それを表に出さずにあの“3条件”をもぎ取る交渉をやってのけた。一杯どころじゃ無い喰わせっぷりだな)」
固地の仕掛けた機械の受信機材に送られていたデータは、水楯と共にあの男が食器を台所へ持って行った辺りから途絶えていた。
つまり、その時から電波のジャミングが行われており、盗聴器等の存在に気付いていたのにも関わらずそれを明かさずに、後の交渉を有利に運ぶための材料としたのだ。
「(アンテナの方にも不可解な点がある。あの男・・・アンテナ内部にあるデータの解析でもするつもりなのか?
あれは私達の方でも専門家に依頼して分析して貰っているが、数個程度では余り意味が無いらしいからな。アンテナごとに受信する電波の種類が違っているようだし。
仮に奴が傍受やジャミングの機能がある機械を所持していたとして、何故そのアンテナを持ち去る必要がある?その場でやってしまえば話は済むことだし。・・・まてよ。
もし・・・もし、あいつが私達より多くのアンテナを保持していたとする。奴は、以前より“手駒達”と戦闘していたらしいからな。可能性は十分に考えられる。
あいつ・・・まさかアンテナごとに違う電波の種類や性質を分析して、それ等に対する対抗手段を編み出すつもりか?一々傍受してでは無く、最初から一気にジャミングを!?
だが、それには専用の機材と専門の知識・技術が必要だ。あいつに機材があったとしても、知識や技術自体があるのか?
いや・・・唯の光学系能力者であるあいつには、そんな知識や技術がある可能性の方が低い。佐野でもあるまいし。誰かの助力を仰いでいると見た方がまだ妥当だ。
フッ・・・それが誰なのかがわからないんだからな。どんな機械を用いているのかもわからないし。
ふぅ・・・わからないことだらけというのは、かなり堪えるな。風輪の時にしろ、今回にしろ)」
破輩は先月に起きた風輪の騒動の内容を思い出し、それと似た現状にげんなりする。
ある意味、それ以上にわからないことが多いかもしれない。あの“変人”にしろ、『ブラックウィザード』にしろ。
「(とにかく、奴の交友関係や手札が読めないのが大きな問題だ。こんなことなら、午前中に会った時にあいつから情報をもっと引き出しておくべきだった!!
子供達に譲ったばっかりに・・・うん?ま、まさか・・・あれは私の追及を逃れるために、わざと子供達を焚き付けたのか!?・・・いや、それは然程大きい問題じゃ無いな。
偶然にしろ狙ってのことにしろ、追及から逃れたことには変わりないし。狙ってのことなら・・・頭が働き過ぎだろとツッコミの1つ2つを入れてやりたい。
一厘から聞き出すという手段もあるにはあるが、あいつは頑として口を割らない。惚れた弱みもあるだろうが・・・何より“3条件”が邪魔だ!!“詐欺師”め・・・!!
あいつが厄介なのは一昨日の件からも十分わかっていたが・・・人の機敏に聡いのはわかっていたが・・・腹が立って仕方無い!!よし、今度不動に文句を言ってやる!!)」
「・・・何ていうか複雑だな。あたし達より界刺を選んだってのが・・・。ハァ・・・あたし達ってそんなに頼りないかなぁ・・・?」
「だったら、頼りになる存在と思われるように頑張るしかないぞ?私達にできることは、日々努力を積み重ねることだけだ」
「・・・私も冠と同意見だな。結局はやるしかないんだよ。負けたくなければ・・・頑張るしかない。私も、ずっと頭を動かし続けているぞ?苦戦続きだけどな」
「・・・了解」
議論は程なくして終盤に差し掛かる。各自共に疲れているが故に。
「
風路鏡子の情報は、もう一度洗い直しておいた方がいいな。彼女が、『ブラックウィザード』の“手駒達”として動いている可能性は高い」
「・・・もしそいつがあたし達と戦闘になった場合はどうするんすか、椎倉先輩?」
鏡子の情報の洗い直しを決める椎倉に、閨秀が問いを発する。きっと、閨秀が考える危惧はこの場に居る全員が考えている筈だから。
「・・・下手をすれば、彼女を救い出そうとする風路と界刺達『シンボル』との戦闘に発展する可能性も・・・否定できないっしょ?」
「・・・・・・俺にもわからん!!できるなら彼女を穏便な方法で確保したい所だが、時と場合によっては重傷を負わすことも避けられないかもしれん!!
そのせいで界刺達と戦闘になれば・・・なれ・・・・・・なりたくは無いな。それだけは、絶対に避けなければならない!!
『ブラックウィザード』と不確定要素満載の殺人鬼に『シンボル』まで敵に回せば、間違い無く俺達はやられるぞ?
しかも、“3条件”があるからな。いざという時は、連中はゴリ押し可能だ。元が人助けだからな!!あの“詐欺師”なら何とでもするだろう!!」
椎倉達が頭を悩ませているのは、鏡子を助け出すために風路と『シンボル』が風紀委員の行動を阻害する可能性があることについてである。
“3条件”は解釈次第で『シンボル』・風紀委員のどちらにも傾くとは言え、あの“詐欺師”が『本気』ならゴリ押ししてくるのは間違い無い。
「・・・界刺はここぞと言う時は絶対に容赦しないとは159支部(ウチ)の一厘の証言だが、私達を敵に回すと一度決めたら容赦はしないんだろうな」
「連中は私達風紀委員の味方というわけでは無いからな。しかし、明確な敵でも無い・・・“第三者”のようなモノか。
この手の連中は本当に面倒臭い。当てにもなるし、当てにもならない。どっちつかずの、それでいて力を持った集団。今回の案件、連中の動きで成否が左右されかねないぞ?」
「人助けって言われたら、警備員でも突っ込み難いっしょ!!それに、『シンボル』が私達に味方する場合はこっちとしても願ったり叶ったりなのは確かだし!!」
「だから、風路を手元に置いておきたいのか!?自分達の行動を正当化するために!!・・・でも、それは風路を思っての行動でもあるってわけか。
あたし達としては連中が味方すればデカイし、敵対すれば厄介だ。つまり、風紀委員会と『ブラックウィザード』との対決に及ぼす影響も全部見極めての行動・・・。
くぅ~!!あんの“変人”め!!対決に参戦するにしろ参戦しないにしろ、あたし達を振り回せるだけ振り回した挙句に自分の目的だけはキッチリ果たすつもりだな!?」
「(寮に帰ったら、すぐに界刺先輩に連絡を取らないと。私は先輩に利用される覚悟はある。とりあえず、先輩が戦うって言う殺人鬼の情報を・・・)」
破輩・冠・橙山・閨秀・葉原がそれぞれの反応を示す中、椎倉はこれ以上の議論は話をややこしくするだけと判断し、こう告げる。
「とりあえず、この点についてはまた後日考えよう。今話し合っていてもどうせ纏まらない。破輩。一昨日の夜に連絡した件は明日からだ。緑川先生も準備はできたそうだ」
「わかった」
「よし。・・・今日は、もう帰ろう。俺も疲れた・・・」
「そうだね。そんじゃあ、皆気を付けて帰るっしょ!!」
「「「「はい!!」」」」
こうして、休暇明けの風紀委員会は完全に解散と相成った。
その頃、話題に挙がっていた“変人”はと言うと・・・
「啄様!!これが、本場のキャンプファイヤーというヤツですか!!?」
「その通りだ!!やはり、キャンプと言えばキャンプファイヤーだろう!!?ハーハッハッハ!!!」
「志道様!!ゲコ太様!!形慈様!!何故焚き火の周囲で体育座りをしながらブツブツ話し合って居られるんですか!?」
「焚き火は、一種の神秘なのさ・・・」
「焚き火とは、一種の人生でござる・・・」
「焚き火ってのは、一種の魔力だぜ・・・」
「???つ、つまり・・・?」
「「「焚き火っていいよなぁ~」」」
「免力君~。葉原先輩にメールしないの~?あれだけ一生懸命に文章とかを考えていたのにさ~?」
「・・・・・・さ、さすがに今日はね。・・・・・・葉原先輩も忙しいだろうし」
「ムシャムシャムシャ(このカレーライス、おいしい~)」
「お、お兄さん・・・。お、お風呂とかってどうしたらいいのかな?あたし、汗で服がベトベトなんだけど・・・」
「知るか。俺なんて汗が滝のように流れてるっつーの!現在進行中で!!」
ある廃墟の近くでキャンプをしていた。様々な悩みを抱えている風紀委員に比べて、こいつ等の能天気ぶりと言ったら・・・である。
ちなみに、“カワズ”の行動について椎倉は勘違いしている。確かに、“カワズ”は『置き去り』の施設にボランティアとして向かう予定だ。
だが、これは完全に偶然である。ゲコ太の頼みが無ければ、“カワズ”は『置き去り』の施設に向かおうとは思わなかった。
そして、“手駒達”の供給源として『置き去り』が利用されていると“カワズ”は睨んだ(or知った)と椎倉は予想したが、そんなことを“カワズ”が知るわけが無い。
何故なら、“カワズ”は“手駒達”―正確には薬物中毒者―のこと等どうでもいいのだから。
薬物に頼る人間が大嫌いな“カワズ”は、一々その辺りまで調べない。調べる気すら無い。
“手駒達”のアンテナを奪っていたのは、あくまで『何かに利用できる日が来るかもしれない』という抽象的な思惑でしか無かった。
“カワズ”とて、『ブラックウィザード』のことを全部知っているわけが無い。そんな当たり前のことを椎倉達が気付かないわけが無いのだが、
今の椎倉達は完全に“カワズ”を過大評価してしまっている。日頃の行いが、如何に他人に影響を与えているのかがよくわかるシーンである。
ピロロロロロロロロ~
「お兄さん?電話が鳴ってるよ?」
「みたいだね。んじゃ、ちょっと失れ・・・(ガシッ)」
「・・・ここでいいじゃん!」
「・・・我儘め」
林檎の我儘に溜息を吐きながら、“カワズ”は電話に出る。相手は・・・
葉原ゆかり。色々思考を纏めつつ、“詐欺師ヒーロー”はスパイからの電話に出る。
continue!!
最終更新:2012年12月15日 21:37