魔術結社『鏡の帝国』。
子供そのものを霊装として改造し、『人員』を増幅、派遣させることを目的とした魔術結社。
この魔術結社そのものは人員は20人にも満たないなどと大したことはないが、隠蔽能力だけは長けていたことで今迄
必要悪の教会に見つかることなく、いいようにしてきたのだった。
とある真夜中のどこぞの田舎道。
魔術結社『鏡の帝国』の本拠地であるに近づく50人の人間がいた。
その内大人と言える人間はたったの3人。後は全員子供だった。
「さて、今回も楽に仕事を済ませれたなぁ、ラリー。」
「全くだローゲン。さすがは誘拐者さまさまっていったところだぜ。」
「そう思うならせめてもうちょっと報酬を上げてほしいっすねぇ。」
魔術結社『鏡の帝国』の構成員、ラリーとローゲンは互いに仕事を終わらせたいようだった。
軽い冗談のノリで愚痴るのは金髪をオールバックにしている、一見すると好青年にしか見えない男だった。
彼こそが、『誘拐者』の異名を持つ魔術師、
ダーフィット=シュルツだ。
3人は大勢の子供を連れて『鏡の帝国』の本拠地の門を開ける。
中にいる人間は黒こげになって倒れていた。
「な、なんだよこれ……!!」
「気を抜くな。敵がいるぞ!!」
ラリーとローゲン、ダーフィットは警戒を強める。
その直後。
業!!
太陽の如き火の玉がローゲンを包み込み、爆発を起こした。
火の玉はすぐに収まったが、ローゲンに残火が纏わりつき苦しんでいた。
その光景を間近で見たラリー、ダーフィットは悲鳴を上げそうになる。
次の瞬間。
残火が炎に変化し、燃え盛ったかと思うと、そこから光り輝く矢が放たれ、ラリーに命中した。
炎はしばらく燃え盛り二人は焦げながらにして、倒れ、悶え苦しんでいた。
「ひ、ひぃ……!!」
ダーフィットはパニックになり、すぐさま逃げようとする。
彼は今現在、戦力になりえる魔術をこれ一つとして持っていなかった。
そんな彼の背後で、ラリーを纏う炎が勢いを増し、先程よりも3倍輝く火矢がダーフィットを射抜き燃やした。
轟!!と一瞬燃え上がる。
先の火の玉より3倍もの温度と規模がある炎がダーフィットを焼く。
突如、炎が消える。ラリーとローゲンは意識こそあるものの苦しみ、ダーフィットは二人よりもその身を焦がし、倒れ伏した。
その光景を一人の青年が見ていた。
否、ただ見ているだけではなかった。
彼こそがこの3人を撃った張本人(スナイパー)であり。
魔術結社『鏡の帝国』を潰す為に雇われたフリーの魔術師だった。
18歳程度の短い金髪で青い目を持つ狙撃手。
黒いTシャツにジーパン、その上から胸当てに手甲、脛当て。
どれも『勝利』の意味を持つルーンが刻まれていた。
一番特徴的なのが彼の持っている霊装。
4本のナイフサイズの穂先とそれらと比べると一回り大きいサイズの刃がついたクロスボウ。
これはケルト神話に出てくる光神ルーの持つ『ブリューナク』と呼ばれる槍、或いは投石器をモチーフに作った霊装。
青年はこの霊装を『灼輪の弩槍(ブリューナク=ボウ)』と呼んでいた。
青年は倒れながら苦しんでいるラリーとローゲンを、頭部に蹴りを入れることで気絶させる。
ふと青年が左耳にしているイヤークリップを抑える。
イヤークリップ……否、通信用霊装に連絡が入る。
「ん、あぁ。魔術結社『鏡の帝国』の魔術師ともう一人の魔術師は無力化させました。殺してはいませんよ。で、どうすれば?……あぁ、はい。子供たちを宥めさせておくから早く来てください。」
そういうと青年は連絡を切る。
「ハァー、そう言えば宿題やってないな…。またジュリアに怒られる……。」
青年はあからさまに場違いな台詞を吐き、子供たちを宥める。
彼の名は
ゴドリック=ブレイク。
現役高校生でありながらフリーランスの魔術師として活動する人物だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
依頼から数日たった夜。
太陽が沈みかけ、空には星が煌き始めた時間帯。
ロンドンの一角にあるカフェ、『ティル・ナ・ノーグ』。
表の世界だけではなく、魔術師たちの間でもちょっとした評判になっているカフェだ。
「close」と書かれた札をぶら下げた扉の前で一組の男女が談笑していた。
「この前はありがとうございます。戦闘員がほとんど別の任務に駆り出されてまして。」
必要悪の教会の魔術師、ヤール=エスぺランはそういって報酬を渡す。
受け取ったのはゴドリック……ではなく、蜂蜜色の髪に碧眼の女性だ。
左ほほに大きな傷跡が目立つがそれすら霞むような快活さがにじみ出ていた。
「いえいえ、ゴドリックがどうやらお世話になったみたいで……。」
「そういえば、ゴドリック君は……?」
「すみません、まだ帰ってきていないみたいで。学校が終わると大体此処にまっすぐ向かうんですけど。」
「そうなんですか。それでは僕はこの辺で。ゴドリック君によろしく言っておいてください。」
そう言ってヤールは去って行くのをジュリアは見送る。
「……さぁて、ちょっと着替えようかしら。」
そう言って、ジュリアは店の中へと入って行った。
そのころ、件の狙撃手は何故か幼馴染の部屋にいた。
「(……そう、これは新しく作った霊装の効果を試すためだ。そして霊装の効果を確かめるためには鏡を見る必要がある。体全体が映るほど大きな鏡はジュリアの部屋にしかない。けっして下着漁りとか、そんな嫌らしい事ではない。霊装の効果を試すために僕は今、ここにいるんだ!!)」
そもそも女性の部屋に無断で侵入とか、その時点でもう爆散すべきなのだが、ゴドリックはそんな事には気づいてない。彼は制服の上から纏った、灰色ベースで、青いケルト模様が入ったストールを見る。これがゴドリックが新しく開発した霊装だった。
魔力を練る。より集中出来るように目をつむる。詠唱をして、2、3秒後には効果が出始めた。
効果はすでに発動しているのだが、緊張で未だに目は閉じたままだった。
閉じていた目を開け、鏡を見る。
「(……よし、成功だ。)」
成功したのを確認すると、また同じ手順で効果を解いていく。その際に癖なのか、再び目を閉じる。
効果が解けたのか確認するために目を開けると。
鏡には何故か、ジュリア=ローウェルが映っていた。
それだけならばまだ驚かなかっただろう。ジュリアの上半身には一切の布がなく、下半身には下着を穿いているだけだった。何より顔はリンゴのように、羞恥心で真っ赤に染まっていた。
この状況は所謂「LUCKYSUKEBE」というやつだと、クラスメイトが言っていたのを思い出し、納得する。
ゴドリックは錆びついた動作で、申し訳なさそうに振り返る。
ジュリアは両手で胸(Dカップ)を隠し、涙ぐんだ眼をこちらに向けている。それだけならばとても魅力的なのだが、背後に浮かんでいる業焔の槍(ルイン)のおかげで今は命の危機しか感じない。
「ゴ……ドリ…………ック?一応聞くけど、どういうつもりかしら?」
此処は素直に理由を話すべきなのだろうか?それとも謝罪だろうか?どちらにせよウェルダンに焼かれそうで怖い。
そんなゴドリック=ブレイクがとった行動とは
「…………………申し訳ありませんでした――――――――――――!!」
謝罪。それも某極東のとある国の最大級の謝罪の姿勢である「DOGEZA」をした。
直後、かなり理由のある右足がゴドリックの後頭部に舞い降りた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……霊装の効果を試したかっただけならまず先に私に言う事。わかった!?」
「はい、よく身に染みてわかりました。」
あの後、ゴドリックはジュリアから『説教夜明けまで耐久レースの刑』と言う超マゾゲーなOSIOKIを食らった。
ジュリアは怒ると長時間の説教をする癖があり、その結果がこれだ。確か夜明けまで口喧嘩をしたこともあった気がする。
正直、眠気が凄まじい。今日の授業は恐らく爆睡だろう。
ジュリアも同じ時間分寝ていないのに何故か元気満々だ。
ふと、窓を見る。
そこから見えたのは一筋の光。
茜色に輝く、どこか懐かしい日の出がゴドリックの目に染みた。
最終更新:2013年07月16日 14:34