ここは学園都市の一角に位置する路地裏。
無法者達が跋扈するこの日陰のさらに深部。
そこに一人の少女が佇んでいた。ネコミミフードを被った女の子。

「………」

目を閉じ何かを思考している様子の彼女の名前は「四方 視歩」
学園都市に捨てられる子供達「置き去り」を救済する組織「チャイルドデバッカー」のリーダーだ
この年で一つの組織を率いるだけあって、様々な人物に一目置かれる人物だ。

そしてまた彼女に近づく人影が…

四方「…ん?そこに誰かいるn」

「視歩ちゃぁぁぁぁん!!」ダキッ

四方「っ!…なんだ、焔か。どうかしたの?」

焔「会いたかったのぉぉ!一週間も会えないとか、寂しくて死んじゃうかと思ったよー!」

そう言って四方に抱きついているのは「富士見 焔」
同じくチャイルドデバッカーに所属する少女だ。所属したのは最近だが、
その天真爛漫な性格で見事に溶け込んでいる。

「……………」(焔の袖を引っ張っている)

焔「んー?どしたの瞳ちゃん。ねぇねぇ、瞳ちゃん何て言ってるの?」

四方「えーと、私にあまりくっ付くなってさ」

焔「もぉー!それは視歩ちゃんの意見でしょ!瞳ちゃんを良いように使っちゃダメだよー」

そんな焔の袖を引っ張り静止を求めているのは「罪木 瞳」
四方がチャイルドデバッカーを設立した当初から彼女に付き従う相棒である。
声を発すことが出来ず、また色を認識する事も出来ないという不自由な身でありながら、
組織のナンバー2を任されている。

焔「うーん…。瞳ちゃんの言ってる事が分かればなぁ。どうにかならない?」

瞳「……………(首を傾げる)」

焔「やっぱり分かんないなぁ。何か考えてくれてるのは見て分かるけどー」

四方「いや焔、この顔は『何言ってるんだコイツ』って顔だよ」

瞳「……………(頷く)」

焔「何でそんなに辛辣なの瞳ちゃん!?私何かしたかなぁ…」

四方「多分、焔が悪いわけじゃ…。瞳、あんまり邪険にしてはいけないよ?」

瞳「………………」ショボーン


この物語は、この姦しい三人の少女達を中心に繰り広げられる戦いの物語…ではなく。
戦いに身を置く少女たちの日常を描いた物である。







******とある猫娘の日常  1話 吉永芙由子のとある一日*********







―――――「恐怖症?」





どんっ!

男子高校生「おっと。ぶつかってごめんねー。それじゃあ俺急いでるからー」

吉永「っ!」プルプル


街を歩いていると前方から早歩きでやってきた男子高校生と肩がぶつかる。
油断していたところへの不意打ちに思わず体を縮めて目を閉じる。

私は所謂、男性恐怖症という奴で男を目の前にするとアレルギー反応を起こしてしまう。

チャイルドデバッカーのメンバーである私、「吉永 芙由子」
この組織に所属してどれくらい経ったのか。今では主戦力として数えられるほどに馴染んでしまっている。


四方「大丈夫?…芙由子、相変わらず君は男が苦手みたいだね」

吉永「うう…。頭では分かっていても、近寄ったらどうもね…」

四方「くくっ。普段から隙の無い芙由子の意外な一面って感じで好きではあるけどね」

吉永「隙と好きを掛けたつもり?言葉遊びといえば聞こえは良いけど、悪く言えば親父ギャグよね」


視歩の顔が引き攣る。余裕をもった態度を常とする彼女には珍しい表情である。
それでも辛うじて笑顔を崩さないままだが、明らかに目が笑っていない。
何となくそんな表情をさせた事実が誇らしく顔がにやけてしまう。


四方「っ!それは、嫌ね…。うん、親父ギャグは嫌だな」

吉永「ふふ、普段の口調が崩れてるわよ。さしずめ親父恐怖症ってこと?」ニヤニヤ

四方「くくっ、一本とられたね。男性恐怖症と親父恐怖症か。こじ付けでも愉快だね」ピクピク

芙由子「こじ付け…、はっきり言うわね。気にしないけど」


どことなく交わす視線が火花を散らしている様に見えるのは気のせいでは無いだろう。
華奢な乙女に見えても彼女も私も大能力者。もし喧嘩を始めよう物なら周りは無事ではすまない。


男には常に警戒を崩さない私も同性相手には緩む事もある。ましてや視歩とはそれなりに親しい仲。
油断してしまうのも仕方はないでしょう。…それに、そんな私の様子に四方もまた、緩んでいるのだろうからお互い様だ。
緩んでいるという割には殺伐とした雰囲気が漂い始めているが。それもまた良くある事なので気にしない。


四方「しかし、親父恐怖症はともかく君の男性恐怖症は治さないとね」

芙由子「まぁ、治す為に弓削と色々しては居るんだけど…」

四方「弓削か。君の親友だったかな?どんな娘か会ってみたいものだね」

芙由子「勘弁して…。弓削には、私がこの組織に居る事は黙ってるし、貴女に引き合わせたらロクな事にならないし」


私としては自らがこの様な裏組織に所属している事は悟られたくない。
ましてやそのリーダーと引き合わせるなどもってのほかだった。
それを抜きにしてもこの変人と弓削を引き合わせると悪影響しかなさそうだ。


四方「それは残念。それで?その特訓の成果は出てるのかい?」

芙由子「いや、さっきの反応見れば分かるでしょうに」

四方「くっくっ。ごめんごめん、一応聞いてみただけだよ。そういうことなら私も協力するよ」

芙由子「え…。なんか嫌な予感が」


くくっ、期待しとくといいよ、と言いながら去って行く視歩。
その背中を見送りながら嫌な予感を拭えない私であった。






―――――「荒療治」






拝啓、お母様。私、吉永芙由子。ただ今人生最大のピンチを迎えております。


朱点「はっはっはっ!お前が四方の言ってた吉永かー!よろしくなー!」

吉永「ひっ!頭撫でるな!近寄るなっ!暑苦しいから!」バリバリ

朱点「痛いーっ!何かバリバリいってるぞー!?」

吉永「いいから離れろー!」ビリビリ


視歩に呼び出され、拠点としている路地裏の一角にやって来た私は酷く後悔していた。

――――嫌な予感がしていたんだから来なければよかったっ…!


四方「ショック療法って事で。暑苦しい事に定評のある朱点に慣れれば大きな前進だろうさ」

入場「その為にあの暑苦しい大男を呼んだのか…。四方っち鬼だな」

瞳「………………(薄い赤色…。ちょっと怒ってる?)」ジー


この暑苦しい男については後で視歩が教えてくれた。
私と同じく視歩に呼び出され、盛大に私に拒否されている筋肉質な男は「朱点 道寺」
チャイルドデバッカーの一員だが、基本的に表社会で「置き去り」の子供達を社会復帰させる為の活動を行っており、
この路地裏に居る事は殆ど無い。と、入場が補足してくれた。


吉永「はぁ、はぁっ!つ、疲れた…」グッタリ

朱点「四方ー!この娘は中々強情だなー!いきなりビリビリされるとは思わんかったぞ」

四方「くっくっくっ。朱点、言っただろう?芙由子は男性恐怖症なんだ。いきなり頭を撫でたりしたら嫌がられるのも仕方ないよ」

朱点「はっはっはっー!いやー、すまんすまん!いつも相手をしている子供達と同じ感覚で接してしまったー」


やたらと大きな声で笑いながら頭を掻く朱点。スマンといいつつ悪びれる様子はまるで無い。


吉永「視歩っ!何なのよこの男!馴れ馴れしいったらありゃしないわ!」

四方「くくっ、そんなに怒らないでやってくれ。この人は朱点。『表』のメンバーだよ」

吉永「えっ、じゃあこの人が表側のリーダーなの?…こいつが?」

朱点「辛辣な言い様だなー!はっはっはっー!嫌われたものだなー」

入場「相変わらずだな、朱点。暑苦しいなんてモンじゃないって」


朱点に近づき声をかける男は「入場 手形」
長身痩躯で整った顔をした色男で、チャイルドデバッカーの主力の一人だ。
入場は爽やかに笑顔を浮かべながら、朱点は豪快に笑いながら。
凸凹という言葉が似合いそうな二人だが何だかんだと仲は良い、と視歩は語る。


朱点「おおー!入場じゃないか。今日も変わらぬ色男っぷりだなー!」

入場「よせやい。男に、ましてやアンタみたいなのに言われても嬉かないぜ」


そんな見る人によれば微笑ましいやり取りも男性恐怖症の私からすれば恐怖でしかなく、
数歩身を引きながら顔を引き攣らせる。


吉永「うう…、男が二人も。一刻も早くここから抜け出したい」

瞳「………………(吉永の袖を摘む)」

吉永「うん?どうかしたの、瞳ちゃん?」

瞳「………………(ボディランゲージで何かを伝えようとしている)」ワタワタ

吉永「…ごめん。すごく愛らしい仕草なのだけど、何言ってるのか分からない」


基本的に無表情な瞳ちゃんの伝えたい事を読み取るのは仲間でも至難の技なのだ。
彼女の意図を性格に汲める人物は今のところ視歩しかいない。


入場「はい!翻訳お願いします!」

四方「はいはい。私に何かしたか?だってさ。私が少し怒ってるように見えたそうだ」

吉永「別に何も…あ、まさか!親父ギャグって言ったの引きずってるんじゃないでしょうね…?」


言われて視線を逸らす。語るまでも無くわかり易いリアクションだった。


朱点「おお、図星のようだなー!」

四方「くっくっくっ、何のことかな」

吉永「案外根に持つタイプなのね。悪かったわよ、あの発言は取り消すわ」

四方「別に怒ってなんかいないんだけどね。まぁ、それはいいさ」


と、朱点が腕時計に視線を移す。無骨な腕に不釣合いな腕時計だと思ったが
聞くところによると施設の子供達からのプレゼントなのだそうだ。
見た目は怖くとも人当たりの良い性格は子供に好かれる、とは入場の談。
まあ、馴れ馴れしい性格も言い方を変えてしまえば親しみが持ちやすいとも取れる訳だし。でも私は御免だ。


朱点「む!四方ー、悪いがそろそろ帰らねばー。あまり施設を空ける訳にもいかんのでなー」

四方「おっと、そうかい。わざわざ呼び出してすまなかったね」

朱点「構わないさー。久しぶりに話せて楽しかったぞー!」


そう言って朱点は去っていった。どうやら仕事中にわざわざ来てくれていたようだ。
いくら視歩に頼まれたからって来てくれなくたって私は一向に構わなかったのに。


吉永「って、仕事中の仲間呼び出してまで私に嫌がらせしたかったの?相変わらず無駄な事に力かけるわね」

瞳「………………(視歩はこう見えてお茶目さん)」

入場「俺は四方っちのイメージ変わったわー。四方っちには謎多き女性ってイメージしかなかったし」

四方「なに、普段は戦いだ何だで殺伐としてるからね。こういう時くらい遊ばないとね」

吉永「それには同感。四六時中ピリピリしてるのが疲れるのは思い知ってるし」

四方「それに、今日は焔がいないからさ。あの娘がいれば私が何かするまでも無いんだけど」

瞳「………………(そういえば今日は姿を見てないような)」

吉永「あ、そう言われてみれば。いつも視歩にべったりなのに」

四方「風邪を引いたとかで、家で寝かせてるよ。後で見舞いに行くつもり」


チャイルドデバッカーの「朱雀」こと富士見焔の視歩好きは有名だ。。
本人曰く、視歩ちゃんは私の運命の人なの!誰にも渡さないよー!だそう。


四方「懐かれるのは構わないんだがね。焔の愛は私には重いな…」

瞳「………………(血晶赤もいるしね)」

四方「むしろ焔より問題のある相手だけどね、それ」

入場「ん?瞳ちゃん、何だって?」

吉永「血晶赤でしょ、どうせ。視歩も厄介なのに好かれてるわよねぇ。同情するわ」

入場「ああ、「甲蟲部隊」の赤い女か…。確かにあんなのとは係わり合いになりたくねぇ」


それを聞いて苦笑を浮かべる視歩。彼女にとっては単なる敵同士では無い何かがあるのかも知れない。
入場の言うように多少のイメージが変わろうとも彼女は謎多き女性な事は変わらないのだから。
…どちらにせよ愛が重いのも確かなのでしょうけど。





―――――「愛されてる」




そんな会話を交わしながら私は一つ思う事があった。


吉永(分かりにくいけど、瞳ちゃんも大概よね。視歩への執着の仕方じゃむしろ一番…)

四方「芙由子?聞いてるかい?」

吉永「え、ごめん聞いてなかった。…あれ、入場は?」

四方「今しがた用事があるとかで帰ったけれど…。気付いてなかったのかい?」

吉永「ごめん…。ちょっと他の事考えててさ」


そういって瞳ちゃんの方へ視線を移す。


瞳「………………?」

四方「謝る事は無いよ。でも、もう一度伝えておくけどしばらく留守番頼むよ?」

吉永「ああ、見舞いに行くのね。二人とも気をつけて」

四方「あー、違う違う。行くのは私だけだよ。瞳と二人で留守番を頼む、って事」

瞳「………………(吉永に歩み寄る)」

吉永「あ、そうなんだ。珍しい。OK、任せておいて」

四方「うん。頼もしい返事。じゃあ、瞳?何かあったら芙由子に言ってね」


そう言いながら路地裏を去る視歩。こうして路地裏に残された私と言葉を持たぬ少女…

―――任せてなんて言ったけど、正直困ったわね。私には瞳ちゃんが何を伝えたいのかが分からないのよね。





―――――「助ける人、助けられる人」




瞳「………………(ドラム缶に腰掛けて吉永を見つめている)」

吉永(み、見られてる。何か話さないと…)

瞳「………………?」クビカシゲ

吉永「瞳ちゃん、何かしたい事とかあるかしら?」

瞳「………………(首を振る)」

吉永「そ、そう」

瞳「………………(路地裏を見渡す)」


視歩の様に瞳ちゃんが伝えたい事が分かる訳では無いけれど、少しだけ分かる事もある。
私たちの拠点であるこの裏路地を見渡す様子は、無表情ながらも過去を懐かしむ表情に見えた。


吉永「…瞳ちゃんは、視歩の事を一番昔から知ってるのよね」

瞳「…!………………」コクコク

吉永「私も思い出すわね…。ここに来たばかりの頃」


チャイルドデバッカーに入ったばかりの頃、周りに馴染む事が出来ない時期があった。
過去の記憶に囚われて、私だけ幸せな場所にいるのが我慢できなくて。
でも、その罪悪感のせいでメンバーに負い目を感じて…。

その後メンバーに溶け込む事が出来たのも元を正せば視歩のおかげだっけ。
さっきは瞳ちゃんの執着心がどうのとか考えたけど、なんか理由も分かる気がする。


吉永「あの時の事を思い出すと恥ずかしくて死にたくなるわ。何やってたんだかって。…あ」


いつの間にか隣に来ていた瞳ちゃんが手を握っていた。私が感傷に浸っているのを心配してくれたらしい。
その無表情に込められた意味も、今なら何となく分かる。


吉永「ありがと。最近、ようやくこの路地裏が自分の居場所だって自覚が出てきたのよ」

瞳「………………」クスッ

吉永「あ、瞳ちゃんの笑ったとこ初めてみたかも。ふふ、かわいいじゃない」

瞳「………………」フンッ♪

吉永「…折角だし今日は色々と、『お話』しましょうか?」

瞳「………………」コク


彼女と話す時間はとても楽しいものとなった。言いたい事をしっかりと分かってあげられないのは悔しいけれど、
繰り返し彼女の声無き声に耳を傾け続けていると、不思議と意思疎通は出来た様に感じた。

置き去りの子達を助けるためにここに来た。でも気付けば助けられてたのは自分で。
最初はこの組織にいる事に罪悪感を感じていたけれど、今では自ら進んでここに居たいと願っている。

ミイラ取りがミイラに、をこの身で体感する事になるとはね…。





―――――「デバガメ」






瞳「………………」ジー

吉永「ん?どうかした?」


ふと気付くと彼女がキョロキョロと辺りを見渡している。
何となく嫌な予感がしたので能力で辺りを探ってみると後方に二人分の反応が。

注意をそちらに傾けてみると…


「もうかれこれ30分は話し込んでるの。あの二人、こんなに仲良しだったの?」

「芙由子と瞳の組み合わせであそこまで会話が弾むなんて…。正直、予想できなかったよ」

「さっきなんか手まで繋いじゃってたの!仲良しさんなのね!視歩ちゃーん、私たちも見習うの!」

四方「あぁ、そんな大きな声を出したら気付かれちゃうよ、焔」

焔「大丈夫だよ。ちゃんと隠れてるしバレっこないの!」


あんのアホ共が…。自分の顔に青筋が浮かぶのが分かる。
とりあえず後方に電撃を放つ、あんまり狙いは定めなかった。当たっても良いし、もうむしろ当たれ。


吉永「そこのアホ二人ぃ!こっちに来い!」バチバチ

焔「ひっ!見つかったの!」バックステップ

四方「見つかっちゃったね、いやー残念だなー」ヒラリ

吉永「あんたらねぇ…。盗み聞きなんかしてんじゃないわよ」バチバチ


しかもしっかり避けてるし。忌々しい。


四方「ごめんごめん。瞳とお話していたようだったからね。邪魔しないように聞き耳立ててたのさ」

焔「芙由子さんと瞳ちゃんなんて珍しい組み合わせなの!気になるのも仕方が無いのね」

吉永「戻ってきてたなら早く言いなさいよ…。どこから聞いてたの?」

焔「えーと、何かしたい事あるかしらー?ってとこからなの」


それって…最初からじゃない!…最初から!?


吉永「最初からじゃない!!」

瞳「………………(大事な事なので3回言いました)」

吉永「ふざけんじゃないわよ…。私めちゃくちゃ恥ずかしい事言ってたじゃない。全部聞かれてんじゃない!」

四方「くっくっくっ。いいじゃないか。別に悪い事を言ってた訳じゃなし。私としては気分の良い内容だしね」ニヤニヤ

吉永「顔が笑ってるじゃない!あーもう恥ずかし…」

焔「あはは。芙由子さんかわいいの…ごめんなさい!謝るから睨まないで欲しいの!」

四方「くくっ。ここに居ると巻き添えを食いそうだね。瞳、こっちにおいで」

瞳「………………(四方に歩み寄る)」トテトテ

四方「はい、じゃあ焔。芙由子の相手よろしくね」

瞳「………………」フリフリ


と、言うと瞳ちゃんを抱え上げ能力を…って、まさか!


吉永「ちょっとま…キャッ!」


引き止める暇もなく暴風が吹き荒れたかと思えば既に二人の姿は無く。
残されたのは青筋が2本に増えた私と青ざめた顔の焔の二人だけだった…。


焔「…え、と。芙由子さん…?」

吉永「このやり場の無い怒り…アンタにぶつけても良いって事よね…」ニコニコ

焔「あ、あ……」ガクガク




許してなのー!ビリビリいやなのー!あっ……




―――――「事の真相」



…十分後


吉永「で?風邪で寝込んでるはずのアンタが何故視歩と盗み聞きなんかしてた訳?」

焔「えっと…。風邪は今日の朝にはすっかり治ってたの。それで、ここに歩いて向かってるとき視歩ちゃんにあって」プスプス

吉永「道理で出て行ったはずの視歩が直後に聞き耳立てられてた訳か」

焔「うん。最初はけっこう離れた場所に居たんだけど何故か視歩ちゃんが会話の内容を教えてくれて…。何で聞こえてたのかな?」

吉永「まさか盗聴器…!?いや、違う。じゃあ一体…」


そんな事を考えているとふとそよ風が吹いている事に気が付いた。「風」?…まさか


吉永「…あいつ、能力でそんな事まで出来たのね。無駄に万能型なんだから」

焔「どうかしたの?もしかして、何で聞こえてたか分かったの?」

吉永「ええ。あいつの能力、風を操るでしょ?私の声を風に乗せて自分のとこまで流してたのよ」


能力の無駄遣いも良い所ね。ま、戦うときにも便利そうな使い方ではあるけど。


焔「おお、納得なの!芙由子さん頭いいのね!」

吉永「はいはいありがとう。ったく…、あんなのがリーダーじゃ心配になってくるわ」

焔「あはは。芙由子さん苦労人なのね」


無邪気に笑うのは良いけれど、その苦労の一端を背負っているのは貴女なのよね。




―――――「復讐戦」




吉永「他人事みたいに…。そういえば、焔と二人で話すのも珍しいわね」

焔「そうだねー。瞳ちゃんと私は視歩ちゃんと一緒に居る事が多いからなの」

吉永「多いって言うか、殆どいつも一緒じゃない」

焔「でも、今回の視歩ちゃんは意地悪なの!私だけ置いていくなんて、ひどいの!」

吉永「へえ。なら、私と手を組むのはどうかしら?いくら視歩相手でも私たち二人相手なら磐石よ」

焔「え?…良い考えなの!最初に会ったときに完敗した雪辱を果たすチャンスなの!」


そう。焔は元々は私たちと敵対する組織に雇われていたのだ。
彼女は私たちの敵として立ち塞がり、視歩と戦ったらしいのだが…。


焔「一方的だったのね…。動きが速すぎてこっちの攻撃はかすりもしないし」

吉永「しかも貴女は炎を扱う能力者だしね。風で掻き消されてちゃあ詰んでるか」

焔「芙由子さんは?視歩ちゃんと戦った事とか無いの?」

吉永「私は無いわね…。粉原の奴はあるみたいだけど。でも相性は良いんじゃないかしら」

焔「電撃なら風じゃ防げないのね。私が隙を作って芙由子さんがビリビリを食らわせるの!」

吉永「まあ、そもそも捕らえられるかどうか分からないけど。あいつ速いし」


風使いとしてはポピュラーなタイプの能力だけど、ただひたすらに出力と精度が高いのが視歩の特徴だ。
電撃なら防がれないとはいえ、速攻で決められては意味が無い。


焔「何か弱点とかあれば良いんだけど…。あ、猫さんのぬいぐるみとか投げつければ効きそうなの!」

吉永「いや、流石にそれは…。むしろ猫じゃらしを…」


いつの間にか戦いの話に。普通の中学生がする話では…あれ?そういえば、焔って幾つ?
普通に呼び捨てタメ口で話してたけど…視歩と同い年とかなら普通に年上なのよね。


吉永「ごめん。焔って幾つだっけ?視歩と同い年とかでいいんだっけ?」


こういうときは直接尋ねるに限る。


焔「んー?18なの!」


18か。じゃあ私とは3つ離れて…え、18?うそぉ!


吉永「え!?焔ってそんなに年上っ!?嘘だっ!」

焔「嘘ってなに!?いくらなんでも失礼なの!」

吉永「だって、だってぇ!」

焔「私そんなに年上に見えないかなぁ…」

吉永「うん。見えない」

焔「ひどい…」ショボーン


さて、いつまでもこうして喋っていても仕方ない。
視歩を探しに行くとしよう。さっさとお灸を据えてやらなければ。


吉永「さて、焔。あの二人を探しましょう」

焔「おお、なの!復讐戦なのね!」


そう言って路地裏を二人で後にする。
留守番を頼まれてた筈だけど、気にする必要は無いか。


焔「さあ!頑張って視歩ちゃんに痛い目を見せてあげるの!」

吉永「そうねー。いっそ怪我でもさせてしばらく休んで貰いましょうか」

焔「良い考えなの!ほっとくとすぐ無茶するんだから」


そんな冗談を言い合いながら歩く。案外冗談でもないかもしれないけど。


焔「芙由子さんと一緒に戦うのは珍しいの!いつも一人で戦ってるし」

吉永「そうね…。でも、偶には誰かと共闘するのもいいかもね」

焔「いつでも誘ってなの!私たちは仲間なんだから」


この後、私達は視歩を見つけ2対1で戦う事になるのだがそれは別の話
これはあくまで日常の話で、戦いとかそういのはここで語ることでは無いのだ。

結果…というか勝敗は伏せるけど、猫のぬいぐるみも猫じゃらしも効果があったとだけ言っておこう。
チョロ過ぎて不安になってきたわアイツ…。

そんな無益極まりない戦いを終えて自分の部屋へと戻ってきた私はベットへ倒れみ呟き
そして力尽きる。

チャイルドデバッカーに入ってからと言うもの、何というか


「一日の密度が…高すぎる…」ガクッ


―――――さもありなん






***吉永芙由子のとある一日 終**********

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最終更新:2014年03月20日 18:30