今日は休日。普段血生臭い戦場に身を置く私だけど、偶にはこんな風にお茶を飲んで過ごすのも悪く…あら?
向こうの席に見えるのは、愛しの視歩ちゃんじゃない♪
休日に偶然出会えるなんて、今日の私はラッキーだわぁ♪
彼女が座る席に近づき声を掛ける。今日はおめかししてきて正解だったわね。
「うふふふふ。こんな所で会うなんて奇遇ねぇ。運命を感じちゃうわぁ」
「……………………」モグモグ
「あらぁ、瞳ちゃんもいたのねぇ。相変わらず貴女も愛らしいわねぇ♪」
「
血晶赤…。目の前で私の相棒を口説かないでもらえないかな?」
血晶赤「うふふ。嫉妬かしらぁ?大丈夫よぉ、私の一番は貴女だものぉ。ねぇ、視歩ちゃん?」
四方「やれやれ。まさか昼ご飯を食べてる時に君に出くわすとはね。戦う羽目にならなくて済むのは良いけどさ」
彼女と私の関係を一言で表す言葉を私は知らない。
敵でも、味方でも、ライバルでも無い。でも他人では無い。そんな中途半端でアンバランスな線上に私は立っている。
瞳「……………………」モグモグ
血晶赤「愛しの人と愛らしい少女と昼食をご一緒出来るだなんてぇ、私としてはこれ以上なく幸せなのよぉ?」
四方「まぁ、危害を加える気が無ければ相席も構わないよ。君と話しながら昔を愛惜するのも偶にはいいさ」
瞳「……………………」コクコク
許可が取れたので注文したティーセットをもって隣へ座る。
それにしても…
血晶赤「相席と愛惜、相変わらずうまい事を言うわねぇ?」
四方「ついこの間親父ギャグって言われたけどね」
血晶赤「それも仕方ない事ねぇ。実際そう言われるのも分かるわぁ」
四方「ぐっ、君まで…」
瞳「……………………(元気出して)」ポンポン
微妙に引き攣った表情をする。中々良い表情ねぇ。ゾクゾクしちゃう♪
血晶赤「うふふ。そういう表情は新鮮ねぇ。興奮しちゃうわぁ」ゾクゾク
四方「勝手に人の表情で発情しないで!全くもう…」
血晶赤「やっと素の口調に戻ってくれたわねぇ。私が相手のときはキャラを作る必要無いのにぃ」
そう。彼女は普段、ペルソナを被っている。一つの組織を束ねる長として彼女は人格を作っているのである。
その甲斐あって確かに彼女の組織は彼女を中心に動いている。何度も内部崩壊しかけながらも、危ういながらも。
四方「はぁ…。貴女が昔の私を知ってるからって、いちいち口調を崩してると普段ボロが出るかも知れないじゃない」
瞳「……………………(むしろ普段からその口調でも良いと思う)」シミジミ
血晶赤「うふふ。瞳ちゃんもこう言ってるのだから試してみては如何かしらぁ?」
四方「嫌よ。っていうか、何で瞳の言いたい事分かるのよ?」
血晶赤「何だかんだで私達も長い付き合いだものぉ。何となくなら分かるわぁ。ねー?」ニコッ
瞳「……………………(ねー)」ニコッ
瞳ちゃんと笑顔で目を合わせる。同じ気持ち(視歩ちゃんLOVE)を抱える私達は敵味方を超えた絆で結ばれているのだ。
因みに彼女とは視歩ちゃんを抜きにして会う事もある。主に彼女を籠絡するための手段を話し合…ゲフンゲフン。
実を言うと最初は私が瞳ちゃんに一方的に懐かれていただけなのだけれど。
今ではすっかり仲良しだ。
四方「あんた等そんなに仲良かったっけ?まあいいけど。それで、血晶赤はこの後どうするの?」
血晶赤「ふふ、私達は友達ですから。特に予定は無いわねぇ。あなた達はどうなのかしらぁ?」
瞳「……………………(今日は視歩とデートをしていた)」フンッ♪
血晶赤「あらぁ、羨ましいわねぇ。視歩ちゃんとデートだなんて」
瞳「……………………(午後からは貴女も来る?)」クビカシゲ
あらぁ。流石はソウルフレンド(ロリ)折角の二人きりになれるチャンスを無碍にしてまで私を誘ってくれるなんて。
瞳(…………………チャンスは全て平等に分け合うという約束を果たしたまで)親指グッ
この子…直接脳内に!?でもGJよぉ。惜しむらくは三人目のソウルフレンド(淑女)が居ない事かしら?
血晶赤「うふふ。嬉しいお誘いねぇ。もちろんご一緒させて頂くわぁ」
四方「うん?血晶赤も一緒に来るの?…瞳が良いなら別に良いけど」
血晶赤「ええ。じゃあ今日一日よろしくねぇ?」
うふふふ。今日は楽しい一日になりそうねぇ…。
瞳(…………………激しく同意)ワクワク
瞳ちゃん、貴女はテレパシー系の能力者では無かったと思うのだけれど…。気にしたら負けかしらぁ?
***「とある猫娘達の日常 2話 血晶赤のとある休日」********
という訳で三人で遊ぶ事になったのだけれど、まだ瞳ちゃんが食事中だったので私は視歩ちゃんにお茶を分けて待つことにした。
ちなみに瞳ちゃんはナポリタンをちびちびと食べている。
口に付いたケチャップをふき取る視歩ちゃんを見ているとまるで姉妹のようねぇ。
四方「…うん。偶にはロシアンティーってのも良いわね。これからは私も頼んでみようかしら?」
血晶赤「そうでしょう?ここのロシアンティーはおすすめなのよぉ(間接キスゲットねぇ。今日は幸先がいいわぁ…♪)」ニコニコ
四方「なんか不純な事考えてない?」ジロ
血晶赤「誤解だわぁ。そんな事ちっとも考えてないわよぉ?」ニコニコ
瞳「…………………(見事なお手前)」モグモグ
四方「ならいいけど…。へぇ、あんたここの常連なの?」
血晶赤「ええ。他にはぁ、ドーナッツとかが有名かしらぁ?」
私のセリフに反応を返してくれた人が居たのだけど、それは席の向かいに座る二人では無く私の後ろの席に座っていた意外な人物だった。
??「そーですよ!ここはまぁるい輪っかがおいしいんです!」ガタッ
四方「……え?」
瞳「…………………」ポカーン
血晶赤「あらあらあらぁ」
雛之「あ、ごめんさいなのです!つい反応してしまって……あれ?」
そこに居たのは
甲蟲部隊(
チャイルドデバッカーに敵対する裏組織)に所属する少女?である。
名前は雛之。本名ではないらしいけど、そこは言及してはいけない事みたいねぇ。
彼女は視歩ちゃんとは相容れない人物のようだし、仕方ない事だけれど相手に気付いた瞬間敵意MAXのようねぇ。
四方「…雛之ちゃん?」
雛之「ああー!!チャイルドシートの四方さんじゃないですかぁ!?」
瞳「…………………(相変わらず)」フゥ
四方「こんにちは、雛之ちゃん。それと私達の組織の名前をまるで幼児が車に乗るときに使用する器具の様に言わないでくれ。
私達の名前はチャイルドデバッカーだ」
雛之「失礼しました。噛みましたです」
血晶赤「ネタの丸パクリは感心しないわよぉ、二人ともぉ」
瞳「…………………(せめて小学生になってから出直しな!)」ビシィ!
まるで自分がやれば良い見たいな言い方ねぇ、瞳ちゃん。
瞳ちゃんが「かみまみた」。…悪くないわね。
雛之「最後までさせてくれても良いじゃないですかー」
四方「折角ネタを振ったのにこれじゃあ意味が無いじゃないか」
血晶赤「いつのまに二人はお笑いコンビになったのかしらぁ…?」
しかも敵味方同士でペアを組むだなんて、案外平和で良いことねぇ。
こうやっていつも仲良くしてくれれば私が自分の立場を思い悩む事も無いのにねぇ
雛之「まあ、それは置いとくとしまして。こんな所で会うとは奇遇なのです。今すぐにでも殺してやってもいいのですけど…」
四方「くっくっくっ。こんな人がたくさんいる往来で戦うとでも?それに戦いになれば無事じゃすまないのはそちらだと思うけど?」
雛之「ぐっ…!確かに四方さんと血晶赤さん二人を相手にするのは…」ギリッ
血晶赤「うふふ。なら大人しくしておく事ねぇ?あなたもこんな事で血を奪われたくは無いでしょう?」
雛之「というか!なんでナチュラルに貴女がそちら側なんですか!普通こっちの味方でしょう!?」
血晶赤「私はぁ、あなた達の味方になったつもりは無いわよぉ?視歩ちゃんと戦うために甲蟲部隊に所属しているだけだものぉ」
私にとってはチャイルドデバッカーも甲蟲部隊もどうでも良いことなの。
私の目的は視歩ちゃんと戦って勝ち、彼女の血を味わう事…。その後は、彼女を私のモノにしてみようかしらぁ♪
でもそれはまだ先の話かしらぁ。今はまだ、彼女にはやる事があるみたいだから、邪魔も程ほどにしないとねぇ。
…やっぱり、自分が分からなくなってきた。私は、彼女の助けになりたいの?邪魔をしたいの?
雛之「ぐっ!確かにそういう人だって知ってましたけどぉ!」
四方「まあまあ。私は別に積極的に君と事を構えたい訳じゃないんだ。今日のところは矛を収めてくれないかな?」
瞳「…………………(一時休戦協定)」
雛之「分かりましたよっ!どうせやっても今の状況じゃ勝てませんですし!」
彼女も短絡的なとこがあるとは言え暗部に身を置く者、有利不利くらいは判断出来るようでなによりねぇ。
四方「賢明な判断。まぁ、落ち着いてドーナツでも食べると良い」
雛之「私の頼んだ物ですから!勝手に自分で頼んだ風にしないで下さいです!」
血晶赤「あらぁ?いつもの様に敵味方構わずドーナッツを勧める雛之ちゃんを期待してたのにぃ」
瞳「…………………」ワクワク
雛之「なんで待ち遠しそうなんですか!…もう、分かりましたよー。ドーナツ、食べますか?」ズイッ
四方「頂こう」サッ
血晶赤「いただきまぁす」ヒョイ
瞳「…………………」モグモグ
雛之「躊躇無さすぎなのです!?既に一人食べてるし!」
もはや持ちネタとなりつつあるわねぇ、ドーナッツを勧める雛之ちゃん。
…しかし、やっぱりこのドーナッツはおいしいわねぇ。他人のお金で食べるとなおさら♪
瞳「…………………(まこと、美味です)」モグモグ
四方「くっくっくっ。瞳、言葉使いがいつもと違ってるじゃないか」
雛之「そもそも言葉を使ってないのです!黙々と食べてますよぉ!」キー!
血晶赤「これを食べてると南国の島の木の実を思い出すわねぇ?」
四方「くくっ。それはココナッツの事を言ってるのかい?」
雛之「なんでココナッツなのですか!?ナッツ繋がりですか!ちょっとうまいとか思った私が悔しいです!」ウガー
四方「うん。実にいいツッコミだ。我が組織に欲しい人材だね」ニコニコ
にこやかに言う視歩ちゃん。やっぱりこういう時はイキイキしてる気がするわ。
血晶赤「うふふ。やっぱりチャイルドデバッカーはお笑い集団だったのねぇ」
瞳「…………………(団員募集中?)」クビカシゲ
雛之「付いていけない…。何なのですかこいつら…」ガックシ
血晶赤「未熟ねぇ。この程度でへばってしまうなんてまだまだよぉ?」
雛之「むしろこのノリに付いていけてる貴女が信じられませんですよ…。打ち合わせでもしてるのですか?」
四方「いや、基本的に全部アドリブで行っている」ドヤァ
雛之「もう言葉も出ないのですよ…」
瞳「…………………」ポンポン
雛之「今更慰められても…。というか、貴女はなぜ一言も声を発しないのですか?」
思い返してみれば至極当然な問いを投げかける雛之ちゃん。それは気になるわよねぇ、普通。
瞳「…………………」オクチミッフィー
四方「瞳は声が出せないんだよ。小さい頃のトラウマで声を失ってしまったんだ」
雛之「あ…。それは悪い事を聞いたのです」
瞳「…………………」フルフル
ばつが悪そうな顔をする雛之ちゃんと、それに対して首を振る瞳ちゃん。
そういう所を謝れる辺り常識はあるのよねぇ。だからこそ視歩ちゃんは彼女を邪険に扱わないのでしょうけど。
血晶赤「気にする事はない、だってぇ」
四方「ま、今更な話だしね。謝る必要は無いだろうさ」
雛之「…四方さんとその子、瞳ちゃんでしたっけ。どういう関係なんですか?」
四方「おや、気になるかい?敵の事なんか気にしないタイプと思ってたけど」
雛之「あ、いや…。まあ気になったのは確かですけど」
瞳「…………………」モグモグ
雛之「見た感じ歳も離れてそうですし…。どうやって知りあったんです?」
四方「うーん…。まあ、その位なら話しても問題ないか」
血晶赤「それは私は気になるわぁ。二人の馴れ初めを聞かせてくれないかしらぁ?」
付き合いは長くともその辺りの話はあまりした事が無かった。
瞳ちゃんと視歩ちゃんの出会い…それは私も興味を惹かれる。
四方「はいはい。と言ってもそんなに難しい話じゃないさ。私が普段やってる事をした結果だよ」
雛之「…人を馬鹿にする事ですか?」
四方「くっくっくっ。馬鹿にしてるつもりは無いんだけどね」
雛之「どの口が…。普段やってる事って置き去りの保護ですか?」
瞳「…………………」コクコク
四方「そう。瞳はチャイルドデバッカーを設立するより前に、私が初めて助けた置き去りだよ」
血晶赤「そうだったのねぇ。そんな出会い方なら瞳ちゃんがベタ惚れなのも納得ねぇ」
私と出会うあの惨劇より前、彼女が人の死を異常なまでに恐れる事になる前の話。
その頃の彼女を見てみたい気もするけど、私は今の視歩ちゃんが好きねぇ。
それを一度彼女に直接言ってみた事があるけれど、微妙な顔をされたわぁ。
雛之「瞳ちゃんからしてみればさしずめ白馬の王子様って事ですか。虫唾が走る位の王道ですね」
四方「くくっ。あんまり嬉しい例えじゃないね。まだお姫様と言われた方が心が躍る」
雛之「お姫様ですかぁ…。四方さんがお姫さまってイメージは湧かないです」
血晶赤「同じくぅ」
瞳「…………………(同意)」
四方「泣いても良いかな、私」
視歩ちゃんの泣き顔…。そそるわぁ♪
おっと、いけないいけない。よだれが出ちゃったわぁ。
雛之「じゃあ、血晶赤さんとはどうだったんですか?瞳ちゃん以上に接点が分からないですけど」
四方「あー、血晶赤との馴れ初めは話したくない。トラウマに直結する話だからね」
血晶赤「うふふ。あの時の視歩ちゃんったら見てられなかったわねぇ」
雛之「へぇ…。じゃあ、血晶赤さんは四方さんの弱みを握ってるんですか?」
四方「いや、血晶赤はその時私と一緒には居なかったよ。その後の様子を見られただけで」
雛之「あ、なんだぁ。弱点を聞きだせるかと思ったのに」
血晶赤「残念だったわねぇ。知っていたら是非教えてあげたのにぃ」
雛之「そもそも、血晶赤さんは何がしたいんですか?目的も明かさずにフラフラと」
四方「うん?目的って、私の血を奪うとかじゃなかったの?」
血晶赤「さぁ、どうかしらねぇ?」
ホントにどうなのかしらねぇ?やりたいことが自分で確信できないと生きづらくて仕方ないわ。
ふと、辺りを見渡す。ここに居る面子を改めて見てみれば中々面白い組み合わせと思える。
視歩ちゃんを中心に繋がりを持つ私達だけれど、それぞれ立場は全く違う。
彼女の唯一無二の味方であり絶対の信頼を寄せる瞳ちゃん。
彼女と敵対し、思想も何もかもが相容れない不倶戴天の間柄である雛之ちゃん。
そして…
私は、どうなのかしら?私の立場は一体どこにあるのかしらね。ずっと考えてきた事だ。
しかし答えは出ない。故に今の私は敵でも味方でもない中途半端な事になっている訳だけれど。
四方「やめてくれよ、頼むから。まぁ、血晶赤に借りがあるとすれば瞳を助けてもらった事かな」
雛之「あ、それで仲良いんですね、その二人。何でそんなに息が合ってるのかと」
と、昔話に華を咲かせていたところで瞳ちゃんが箸を置く。昼食を食べ終わったようだ。
瞳「…………………」ゴチソウサマデシタ
四方「おっと。それじゃあそろそろ私達はお暇させてもらおうかな」
雛之「あ、はい。分かりましたです。私はもう少しゆっくりしていきますので」
血晶赤「あら、そうなのぉ?それじゃあここでお別れねぇ」
桃太郎の如くお供が増えていく展開かとおもってワクワクしていたのに。
四方「そういう事だね。それじゃあ、次は戦場で会わないことを祈ってるよ」
雛之「いえ、次は戦場で吠え面かかせてやりますです」
四方「くっくっくっ。では、どちらにせよまた会おう」
瞳「…………………」フリフリ
血晶赤「またねぇ」
出口に向かって歩いていると、唐突に視歩ちゃんが立ち止まった。
何か忘れ物かしらぁ?
四方「おっと、会計を済ませてくるから先に出て待っててくれ」
瞳「…………………(了解)」
血晶赤「あら、そう?じゃあ後でねぇ」
店を出て、視歩ちゃんが会計を終えるのを待つ。
さっきふと抱いた疑問が頭に残ったままだ。今のうちに整理しておこう。
隣にはいつの間にか瞳ちゃんが立っていたが、特に声を掛ける事は無く一人思考の海へと意識を沈める。
血晶赤「あれから…。もう何年経ったのかしら…」
彼女は先ほど触れなかったけど、あの時私が助けたのは瞳ちゃんだけでは無い。
あの時、絶望しその場を動けなくなっていた視歩ちゃんを助けたのも私だった。
視歩ちゃんと戦った後、撤退した私は惨劇に巻き込まれずに済んだ。
その時、彼女とはぐれたのであろう瞳ちゃんを彼女に届けにいった時に見た彼女の顔は忘れられない。
私はあの時の彼女の絶望した顔が酷く気に掛かった。だからこそ、手を貸した。
失意に沈む彼女と別れ、しばらくの間を空けた後、彼女と再会した時私は驚いたものだ。
人とはここまで短期間の内に変容できるのかと言う事を知った。
背負った悲しみに潰されないが為に偽りの人格を被る彼女は見ていてとても痛々しく、同時に美しかった。
彼女に付きまとうようになったのもそれからだったかしら。
最近の彼女は仲間を得て昔の彼女に戻りつつある。そんな様子を付かず離れずで見てきた私も何だかんだで変わっているのだろう。
演技をする彼女を美しいと思ったのも事実だけれど、やはり痛々しいその姿を見ていられなかったのかもしれない。
今の私は、もう彼女の絶望する顔を見たくは無いと感じている。
他人の血を集める事しか興味の無かった私が、少しずつ昔の彼女を取り戻していく視歩ちゃんをどこか嬉しそうに感じていること。
自分でも都合の良い想像だと思うけれど、もしかしたらその内、本当に私が視歩ちゃんの味方につく日が来るのかもしれないと最近は思う。
瞳「…………………?」クビカシゲ
血晶赤「ねえ、瞳ちゃん?私はどうするべきなのかしらぁ。一体私はどっちに行けばいいのかしらね?」
瞳「…………………(…私としては、こちらに来てもらいたい。貴女がいればきっと心強い)」
言葉の足りない私の問いも、しっかりと正しく察してくれたらしい。有難い話だ。
血晶赤「あらぁ。嬉しいわね。でもなんだか含みのある言い方ねぇ」
瞳「…………………(結局、決めるのは貴女と視歩。私の意見にきっと意味は無い)」
…そうねぇ。私はきっと瞳ちゃんの意見を考慮しないのでしょう。
けどね、私は貴女が思っている以上に貴女の事も親しく思っているのよ?
視歩ちゃんを傷つけると貴女が悲しむかしら、とか最近考えてしまう事があるほどに。
血晶赤「貴女の意見は考慮しないかもしれない。でも、貴女の存在は考慮してるわよぉ?」
瞳「…………………(そう思ってくれるならばそれはそれで光栄)」
満足そうな瞳ちゃんを眺めていると、店から視歩ちゃんが出てきた。
四方「待たせたわね。何も無かった?」
血晶赤「ええ。大丈夫よぉ」
瞳「…………………(血晶赤、さっきの話…)」
血晶赤「ええ、分かってる。…視歩ちゃん。一つ聞きたいのだけど、いいかしらぁ?」
四方「うん?どうしたのよ、改まって」
血晶赤「視歩ちゃんは私に味方になって欲しいかしらぁ?」
今まで何となく聞けなかった問いを投げかける。どちらの返答が返ってくるのも怖かったから。
でも、瞳ちゃんの言葉で勇気が出た。…正しくは言葉では無いけれど。
四方「何かと思えばそんな話?…別に味方になって欲しいとは思わないわ」
返ってきたのは否定の言葉、と思ったけれどどうもそうでは無さそうだ。
血晶赤「あらぁ。なんだか残念かしらぁ」
四方「敵に回らなきゃ何でもいいわ。というか、理想をいうならあんたには普通の学生にでも戻ってくれたほうが良いんだけどね」
彼女の答えはどちらでも無かった。よりによって私に普通の学生に戻れだなんて…。
呆れたけれど、笑みが零れる。改めて考えてみればなんとも彼女らしい。
血晶赤「そう…。でも、それは無理な相談と言うものよぉ」
瞳「…………………(今更普通には戻れない)」
その通り。私達は学園都市の負の部分を知り過ぎた。今更陽の下を生きるのは無理だろう。
血晶赤「なんだか拍子抜けな答えだけど、敵にならなければ良いというのは分かったわねぇ」
四方「敵味方にこだわる必要はないわよ。友達だからって意見が合わないことだってあるでしょ。
少なくともお互い殺すつもりは無いし、喧嘩の範疇でしょうよ」
いつものアレが喧嘩だなんて、中々無茶を言う…あら?今、何て…?
血晶赤「ちょっと…、ちょっと待って。今、友達って…」
四方「あん?今更何言ってんのよ。友達でもなけりゃあ貴重な休日にわざわざ一緒にすごさないわよ」
血晶赤「友達…。でも、私はあなた達の味方じゃあないのよぉ?」
四方「なら味方に付く?そのつもりは無い癖に」
血晶赤「でも…、でも敵なのに友達だなんて」
四方「…あんたさ、無理に割り切ろうとしなくてもいいのよ?」
血晶赤「え…?」
四方「今まで散々中途半端な立ち位置で私達に接してきたんだから、これからだって大差ないわよ
って言うか、友達って言ったのあんたが先じゃないの」
血晶赤「え…、私そんな事言ったかしらぁ?」
四方「さっき瞳の事、友達って言ってたでしょうに。…なに、瞳は友達で私はそうじゃないとでも?」
私ったら無意識にそんな事を…。そうよね、瞳ちゃんを友達と呼んだのなら視歩ちゃんが友達でないはずが無いわよね。
そして、彼女の言いたい事もしっかりと理解した。…割り切る必要は無いんだ。
血晶赤「そ、そんな事は…。そっか、友達…。敵も味方も関係ないのねぇ」
四方「そういう事、いままで通りアンタは私にとっての邪魔者で、昔からの腐れ縁で、どうしようもない友人。それでいいのよ」
邪魔者とは。どうしようもないとは。自分でも分かってる事とはいえ酷い言い草だ。
けれど、その口調は決して私を貶すものでは無く…きっとそれは彼女にとって友に対しての軽口。
血晶赤「…そう。そういう事なら遠慮は要らないわねぇ」
四方「ただし他の仲間に手を出したらタダじゃ置かないからねっ!」ビシッ
血晶赤「心配しなくとも私は視歩ちゃん以外興味は無いわぁ♪」
瞳「…………………!」プンプン
頬を膨らませ抗議する瞳ちゃん。今の言い方は私が悪かったわねぇ。
血晶赤「うふふ。もちろん瞳ちゃんは別よぉ」
瞳「…………………」ナラヨシ!
四方「悩みは晴れた?だったらさっさと遊びに行きましょう。休みは貴重なんだから」
血晶赤「ええ、そうしましょう」
瞳「…………………(ゲーセンを所望)」
なんだかとっても晴れやかな気分ねぇ。これなら今日は思いっきり楽しめそう♪
さあ、街へ繰り出しましょうか!
~~~~ゲームセンターにて~~~~
ボルカニックヴァイパー! ヴァンデットリ(ry ライオットスタンプ! グランドヴァイパー!
四方「…ダメージは更に加速した」
血晶赤「ソ○使いだったのねぇ。私はブリジッ○かなぁ」
瞳「…………………(スレイ○ー)」
ナッパームデスッ!
瞳「…………………」デストローイ
~~~~CDショップにて~~~~
血晶赤「あらぁ、この曲好きなのよねぇ」
『津軽海峡冬景色』
四方「…渋いわね、あんた」
瞳「…………………」つワチャカナドゥ
それはヤメテ!
~~~~本屋にて~~~~
瞳「…………………」つドグラ・マグラ
四方「…それ、読むの?」
血晶赤「良い趣味をしてるわねぇ♪」
四方「なんか将来が不安」
血晶赤「良い本なのにぃ」
~~~~丸○橋にて~~~~
朽木「ここで会ったが百年目!今日こそミンチにしてや(ry」
四方「右、下、右下+K(ぶっきらぼうに投げる)!」ガンダッシュ!
朽木「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
ドゴォ!ピューーーザバーン!
血晶赤「よく飛んだわねぇ」
瞳「…………………」バイバーイ
血晶赤「学舎の園にくるのは実は初めてなのよねぇ」ワウワク
銅街「…なんや、あの三人?ごっつ目立ちよんなぁ…」
銀鈴「棺桶を背負ってますよ~。あの赤い髪の人~」
金束「もう一人はネコミミパーカーぁ?あの格好もここでは目立つってーの!」
鉄鞘「あのちっちゃい子かわいいですー!ネコミミさんの妹かなー?です!」
四方「目立ってるなぁ…。主に血晶赤」
瞳「…………………(だいたい棺桶のせい)」
~~~~同じく学舎の園にて~~~~
モブ「美坂~!ちょっと待ってよ~!」
美坂「遅いわよー。早く歩きなさいよ」
四方「ん…?ミサカ、って超電磁砲の?」
血晶赤「あらぁ。お目にかかれて光栄ねぇ」
瞳「…………………(胸おっきいなぁ…)」ペターン
美坂「超電磁砲じゃないからー!名前の読みは同じだけどちっがーうから!」ボイーン
四方「何だ、人違いか」ボイン
血晶赤「紛らわしいわねぇ」ボイーン
瞳「…………………(くっ)」
~~~~ペットショップにて~~~~
血晶赤「あらぁ♪このトカゲかわいいわねぇ」
瞳「…………………(マニアックだなぁ)」
四方「ふふふふ♪かわいいなぁ、この子猫…。連れて帰りたぁい」デレデレ
瞳「…………………(こっちはこっちでお見せできない表情に…)」
ムツ○ロウ「よ~しよしよしよし!」
血晶赤「!?」
~~~~レストランにて~~~~
チンピラA「おっ、あの二人かわいくね?なんかガキも一緒だけど」
チンピラB「お前も物好きだねぇ。まぁ悪くないけど」
チンピラC「へへへ…。か弱そうな女三人くらい強引にやっちま…グホッ!」ドゴッ!
チンピラA「え、どうしたC!何があ…げふぅ!」ドゴォ!
チンピラB「一体どうなって…あべしっ!」テーレッテー!
四方「ちなみに私の能力の射程は50mです」
血晶赤「触れずして相手を倒す…、便利よねぇ」
瞳「…………………(運がなかったのね、あの三人)」ナムナム
学園都市のあちこちを回って、今日一日だけでいろんな事が起きた。
まるで普通の学生のような過ごし方だけど、それがとても楽しくて。
時間が過ぎるのがとても速く感じた。
~~~~そして夜に~~~~
四方「うー!今日は良く遊んだぁ~!」
血晶赤「結局一日遊んじゃったわねぇー」
瞳「…………………」スヤスヤ
四方「瞳…、寝ちゃったな。疲れたのかな?」
血晶赤「かわいい寝顔ねぇ」
本当に瞳ちゃんには癒される。彼女が居れば、大抵の場は丸く収まるのでは無いかと言う程に。
彼女はさしずめ、人と人の間を取り持つ潤滑油みたいなものかしら?
四方「全くね…。おっと、私達こっちだから」
血晶赤「あら、それじゃあここでお別れねぇ」
四方「そんじゃあ、また会いましょう。出来れば次もこうして昼の町で会いたいけど」
血晶赤「うふふ。私は戦場で出会っても構わないわぁ」
もはや迷いは無い。たとえ何処で、どんな時に出会っても私は彼女を笑顔で迎えるだろう。
今日のような街中でも、血の飛び散る戦場でも。彼女との遭遇を喜べるだろう。
四方「はいはい…。まぁ、そうなったらまた喧嘩しましょ。それじゃあ『気を付けて帰ってね』」
じゃあねー、と言って去っていく視歩ちゃん。瞳ちゃんを背負う姿はやっぱり姉にしか見えなかった。
その背中を見送り終わった後、私は振り返る。
さて、今日の仕上げをしましょうか。視歩ちゃんは私に任せてくれたようだし。
後ろには誰も居ない。否、誰も見えない。しかし私は確固たる自信をもって声を掛ける。
血晶赤「…それで?あなたは何時までついてくるのかしらぁ?」
「……なぜ分かった?」
何も無い空間から声が響く。姿は見えないのに声だけするなんて面白いわぁ
血晶赤「うふふ。光学系の能力ぅ?声は近くからするけど姿が見えないわねぇ」
「ふん。なぜ俺の存在に気付いたかは知らんが、そんな事はどうでもいい。死んでもらうぞ」
血晶赤「御託はいいから、さっさと行動に移してみればぁ?」
「…死ねっ!」
まだ、気付いていないのね。救えないわ、この人。
血晶赤「…愚かね」スゥ
暗殺者の男が血晶赤を始末しようと足を踏み出す。瞬間、男は目の前に紅い何かを見た。
そして、暗殺者が踏み出した足は地面を踏む事は無かった。前に進もうとする男を縛り付けるのは紅い…
「なっ!なんだ、鎖…?こんなものが何処から!なぜ、俺の場所が把握できる!」
血晶赤「『結晶鮮血』…。いくら目に見えなくても、手で触れば分かるわよねぇ…。ところでぇ、ここってなんだか『血生臭くなぁい』?」
「結晶…鮮血…、血の匂いっ、まさか!」
血晶赤「私にとって血液は手足と同じ。例え気化していても」
彼女が腕を掲げる。その動きに呼応するかのように彼女の抱える棺桶も宙へ浮かぶ。
身動きのとれない男には、その棺桶がさながら天高く吊るされる処刑用のギロチンに見えていた。
血晶赤「最初から、あなたの動きはぜぇんぶ丸見えよぉ♪」
掲げられた棺桶を血液が包んでいく。その血液はゆっくりと、巨大な真紅の槍を象っていく。
「ッ!……ぅ」
男は声にならない悲鳴をあげる。それを気に留めることも無く、むしろ笑みを深め彼女は言う。
「あなたの血は、どんな味がするのかしらぁ?」
―――――男の意識は、その言葉を最後に断絶した。
*** 血晶赤のとある休日 終 ********
―――――アフター
一刀「それで?その男はどうした?」
血晶赤「腹に風穴空けた後、冥土返しのいる病院の前に転がしといたわぁ」
一刀「無駄に律儀だな…」
―――――アフター2
焔「あー!視歩ちゃんと瞳ちゃん二人でデートだなんてずるいの!」ウガー
瞳「…………………」スヤスヤ
焔「あれ?瞳ちゃん寝てるの。つかれちゃ…げほっげほっ!」←前回の風邪が再発した
四方「いいから寝てろ!」
最終更新:2014年03月24日 17:40