―――――――前回までのあらすじ!
常盤台のバカルテットと共に行動を共にしていた私、
罪木瞳。
訪れた向日葵だらけの植物園!しかしその地下には曰くつきのお金の山が埋まっている事が判明!
植物園を守るため!…あと出来ればお金をちょろまかす為。
人それぞれの意思と思索が交錯するとき、物語が始まる―――!
「………………………………………(さて…勢い余って飛び出して来たは良いけど…)」
こちらの目的は向日葵畑を守る事。
あんな見事な風景を無粋な事情の犠牲にする訳にはいかない。
お金の噂を聞きつけてやってきた賊みたいだし、精々スキルアウトとか性質の悪い研究者風情だろう。
そう思って私一人でも十分と高をくくって出てきたわけだが…
しかし、どうにも予想と違う人達を相手にしなくてはならないらしい。
こちらへ向かってきている二人は…どうみても子どもではない。
大人って事は、スキルアウトや能力者集団とかじゃない…?研究者って風情でもないし…。
しかしこちらへ向かってくる二人の更に後方にはさらに何人もの気配が控えているようだ。
学園都市の大人でアレほどの規模を持つものと言えば…
「………………………………………(警備員…?いや、それにしちゃあ物々しい)」
それに今回の件は別段警備員が動くような物では無いはず。少なくとも今の時点ではだ。
仮に学園都市側がこの件を把握していたとして動き出すには早すぎる。
こういう案件は秘密裏に潰すのが上のお家芸だし、警備員を動かすのは最悪の手だろう。
つまりあれは事情が表に出る前に事態を収めに来た刺客って事だろう。
そういえば視歩から聞いたことがあったっけ?確か…
『警備員の中には秘密裏に事件を解決する部署があってね。まぁ、解決と言う名の口封じなんだけど…』
記憶の海を探り、情報を引き出そうと試みる。
まだ二人だけのデバッカーだった頃、いろいろな事を教えてくれた視歩との話の中で聞いた筈。
そして思い出す。―――まるでドラマか何かみたいだけど、そう前置いて得意げに話してくれた知識。
「………………………………………(COU…だったかな。警備員の中でも特殊な案件を扱う部署)」
思い描いた情報を基にあちらから向かってくる二人を視れば、その情報は正しい物であると証明できた。
迷いの無い歩みでこの植物園を目指す彼らの心を探れば任務だの情報統制だの口封じだの物騒な言葉が乱れ飛んでいた。
…あんな連中が直々に回収に来るだなんて…職員の心を読んでもお金の出所までは分からなかったけど。
様子を鑑みるにどうやら相当マズイお金みたいね、これは。
そしてこちらへ向かう二人は目当ての植物園の入り口に立ち塞がるように立つ私に気付くのだ。
…逃げ場は無い。私だけでも彼らをどうにかやり過ごさなければならない。
いや、どちらかと言えば今回は私がどうこうするって訳でもなさそうだ。
文字通り私はやり過ごすまでが仕事。解決に関しては相応しい役どころが居る。
(何だかんだとあそこであの四人に出会ったのはこれの為だったのかもね。…メタ過ぎる視点だけどさ)
いよいよ以ってシュマゴラス的なサムシングじみてきた私の思考だ。
まぁあれはあれでかわいいから大歓迎である。…かわいいよね?シュマちゃんかわいいよね?
「あっれれぇ?何か情報に無い子が居るみたいなんだけど?」
雑多な思考回路を纏め上げて、視線をゆっくりと上げ相手を見据える。
―――視界を繋げ。瞳を合わせろ。この二人だけでは無く、後ろに控える全ての人間の心を読め。
能力の使用に際して視神経とそれに連なる脳が微かに火花を散らす錯覚に陥る。
他人が見るならば今の私の目が普段以上に青白く澄んでいる様子が分かるだろう。
…この植物園へと向かってきたであろう全ての人間と視界を接続した。
正直十人以上繋ぐと頭が痛いんだけど四の五の言ってられない状況下の為、我慢をする事にしよう。
目を向けるまでも無く伝わってきた情報を頭の中で反芻する。
先頭を歩き、私の姿におどけた様な感嘆の声を浮かべる男はカラフルな蝶ネクタイの目立つ灰色のスーツの男だった。
…名前は『
尾振仔猫』か。もう一人は…
「目撃者って事ですね。どうしますか、隊長?」
『
葛木実鼬』と。残りの気配は全員後ろの方に控えている。
この二人が隊長格か…。というか、今隊長って言ってたし。
でも心を読む限り、後ろに控えているのはCOUのメンバーでは無いようだ。
あくまで情報統制の為の人手として臨時で任務に借り出された一般の警備員なのだろう。
その証拠に後ろの連中はどんな任務かも知らされていない様ではないか。
この調子なら先頭の二人さえ抑えてしまえば事は済みそうである。
「こんな子どもに手を下すのはかわいそうだよねぇ。…まぁ、いつも通り貴女が処理しちゃってよ」
改めて意識の分量を目の前の二人の方に偏らせる。
後ろに動きがあったときの為に最低限の演算力はそれぞれの相手に割り振った上でだが。
そして今の発言からして命を奪う気は無い、と捉えてよいらしい。
しかしどうやら口を封じる為に私に危害を加える気はある様だ。
証拠とばかりに、了解ですと葛木の方が歩み寄ってくる。おっと、私を取り押さえる気か…。
彼女の動きをよく観察する。あ、よく見たら飴玉加えてる。甘いもの好きらしい
あまりに場違いな能天気過ぎる着眼点かもしれないが能天気なのは生まれつきである。
という訳でトレースオン!舐めてるのはチュパ○ャップスのソーダ味か…。
私としてはプリン味が好きだったりする。ちなみに前に焔がどこからか持ってきたか分からないキャンディ。
その名も『焼き鳥味』!はい、二度と来るなといいたくなる味だった事は言うまでもない。
というか、仮にも朱雀と呼ばれる能力者がもってきて良い味ではないだろ、これ。
あ、朱雀だからこそ焼き鳥なのか。そんな洒落はいらんのですよ。屁のツッパリじゃなくてさ。
更に能天気な思考が頭を駆け巡るが、そんな場合でもなかった。
最も、能天気であろうと完全にこちらをタダの子どもと見くびっている相手の動きなんて、見て無くても当たる筈も無いけど。
慢心とも取れる思考を振り払いもせずに私は足に力を込める。
動かない私を見て葛木は疑いもせずに手を伸ばし…
…そして、私を取り押さえんと伸ばされた手は空を切った。
既にそこに私の姿は無く、間合いは先程と変わらないほどに離されていた。
完全に予想外という顔で私を見やる葛木の表情は中々に気分が良い物だ。
目論見や策略がうまくいくと気持ちがいいのと似たような心理だな、等と自己分析をしてみる。
混乱から素早く立ち直った葛木は、ふんっと鼻を鳴らすように笑うと再始動する。
油断のパーセンテージが減ったその動きも、次に狙うところが分かっていれば大した脅威でもない。
「…ふぅん。ちょ~っと子どもらしくない動き…ねっ!」
どこをみている!貴女の太ももです!
…これ言わせるなら視歩の方がいいか。属性的にも太もも的にも。
そろそろデバッカーのメンバーにデミ○リを加えるべきだという直訴文を考えながら身構える。
そして再び伸ばされた手も難なくかわし、再び間合いを取る。
動きを見る限り訓練は受けているのだろうが、超人的な動きが出来る風でもない。
こちとら日々命懸けで生きるのに必死なのだ。潜ってきた死線の数は年の差を凌駕してもまだ余りある。
心を読むどころかそもそも動きが目で捉えられないような敵と相対しなければならない日常。
そんな経験を思い出せば、その動きでは捕まる道理は無い。
捕獲しようとする手を繰り返し回避し、身を翻すと同時に不適に笑って見せた。
相手を追い詰めるのに直接手を出す必要など無い。
自らの目論見がうまくいかない、それだけの事で人は余裕を無くす生き物なのだ。
そして逆にこちらの目論見は順調に達成されつつある。
何度繰り返しても捕まらない私に業を煮やしてか、舌打ちを鳴らされた。
もう少し、もう少しだけ追い詰めれば催眠術を捻じ込む隙が出来そうだ、と意気込む。
「こいつ…!いいかg「子どもと鬼ごっこをするのも結構だけど…少し待ってもらえるかい?」
しかしその目論見はもう一人によって邪魔される事になる。
追い詰められていた葛木を嗜めるように尾振が口を挟んだ。
(ちっ…あと少しで戦闘不能に出来たのに。それに…どうにもこの男…)
なかなかどうして鋭いらしい。流石は一つの組織の頭と言うべきか、この場合組織と言うより部隊なのかもしれないけれど。
葛木と追いかけっこをしている私を見て、どうやら私の素性を少し察したらしい。
そもそも隠す気も無いし、どうせばれたとしても表の身分だけだ。問題は無いだろう。
恐らく見咎められたのは腕輪…もとい、腕輪にあしらわれた『CD』という意匠だろう。
これは私達の組織、
チャイルドデバッカーの証。
最もこれ自体は非合法組織ではない『表側』のメンバーも付けている物で、裏メンバーに限った物では無い。
私達も表向きの身分はチャイルドデバッカーと言う『置き去り出身の子ども達を社会復帰させる団体』のメンバーと言う事になっている。
籍を置いていると言うだけで、リーダーとして視察へ向かう事のある視歩を除けば他のメンバーはその団体へと参加する事は無いのだが。
しかしこの身分は私達を守る隠れ蓑となっているのもまた事実。
相手が誤解してくれる分には存分にしてもらおう。
どれだけ探ろうと見つかるのは表側に残された書類上だけの名前、と言った次第である。
「チャイルドデバッカー、確かその腕輪の意匠はその証だったね」
その事実に気付き面白くも無さそうに嘆息する尾振。
つまらなそうな表情の意味は心を読まずとも推測できる。要するに同類ゆえにやり辛いという事だろう。
中々どうしてよく考えてるようで対峙するこちらからすれば厄介極まりない。
何も考えない相手って言うのもそれはそれで厄介なのだけれど、それはそれだ。
そしてその厄介な敵を改めて見やる。つま先から頭の先までしっかりと観察して、思う事は一つ。
(…それにしてもこの男…随分冴えないな。見た目だけならダメなおっさんの典型例なんだけど…)
わーお、マダオだねマダオ。まるでダメなファッションセンスのおじさん。
何かって服のセンスと言うか、チョイスとか色々と残念なのだ。
本人は気に入っている様だが、周りはお察しと言った具合だ。
(こういうまともじゃない連中ほど、何故か気が抜けるようなズレ方をしてるんだよねぇ)
人の事言えないだろうという様々な方向からの声無き声を受けている気がする。
お前ら全員サトラレか!あ、私がサトリだったわ。元ネタ的にもさとりでしたわ。
…あぁいや、そんな個人的なところまで言う必要も何も無いんだけどさ。
どうにもこういう時に限ってどうでもいい所に目がつくのは悪癖だ。
「チャイルドデバッカーって…確か置き去りの保護とかをしている集団じゃありませんでした?」
葛木が言葉を挟む。言葉の意味は、なぜそんな集団のメンバーがこんな所で私達と対峙しているのか?
そういう類の発言だったようだ。事情を知らない人からすれば当然の疑問ではある。
しかし言葉だけを受け取るなら、その通り。表であろうと裏であろうとそれは変わらない。
最も、裏のメンバーの仕事は警備員や風紀委員におおっぴらに話せない内容であるが。
表側の活動は学園都市からの正式な認証を受けた公式グループである、という後ろ盾を有している事もあり
外敵からの危害と言うのはシャットダウン出来ている。
加えて朱点ら表側のメンバーも最低限の戦闘技能を有しており、視歩が雇ってきた砕華や華石と言った用心棒も居る。
特にこの二人の実力は折り紙つきだ。その辺の雑魚では傷一つ付けられはしないだろう。
もちろん裏側には裏側のコネがある。そこらへんの外交を取り持っているのは全て視歩であるけれど。
いや、最近はメアリがその位置に就く事も多いか。あのメイド、更に出来るようになったな…!じゃなくて。
我が組織で一番の歪みを抱えていたメアリではあるけど、その歪みが解消された今彼女はかなり有能な存在として重宝されている。
その歪みが解消される際には、一騒動どころではない騒ぎになった物だけど。それはまた別の場所で語るとしよう。
「所謂、僕達と同じ秩序側の人間って事だ。下手に手荒にしないのが身の為って訳よ」
そう、どちらもまともでは無いとは言え秩序を守る側であるのは変わりない。
もっともそれはあちらからの視点。私達からみれば同類でも何でもない訳だけど。
裏デバッカーに限っては秩序を壊す側である訳だけど、それが知れればさらに敵対を煽るのは必至。
わざわざ知らせる事もないし、そもそも私には伝える手段が無いからそれ以前の問題か。
「って言っても、捕まりませんよ?後ろの連中呼んで大勢で捕まえたほうが早くないですか?」
おっと、思わぬところでピンチが…なんて冗談だ。
むしろ大勢で来てもらった方がとても都合が良い理由がある。
「………………………………………(来い……一網打尽にしてやる)」
これから訪れるであろう一瞬の攻勢に緊張を覚えた。
否、これは正常な緊張であり有益な緊張だ。適度の緊張はパフォーマンスを向上させる。
唯でさえ私の持つ最大の攻撃手段である催眠術は私自身の精神状態にも大きく左右される。
そしてそれ故に、今の私の状態はベストだ。程よい緊張と、適度の昂ぶり。
能力の精度も強度も申し分ない。この調子なら後ろに控える有象無象など一秒で全員
行動不能に出来る。
それほどに後ろの連中は平和な心を持つ人物達の様だし。
心を、それも人の最も醜く弱い心を覗き見る私の力は催眠術と相性が良い。
そしてそれは心の綺麗な人物こそが標的となり易いのは言うまでもない。
…これは聞いた話だが、私の力で心を覗かれた人物には心理的圧迫が生じるらしい。
この圧迫感は私が心を覗く強度に比例し増していく。
これらの要素を組み合わせる事で私は催眠術を行える。
その威力は折り紙付き、精神の弱い人間であれば一瞬で行動不能に陥る。
という訳で来るならこい!対空技の準備はばっちりである。
飛び道具で煽って近寄ってきた相手に昇竜、基本だよね!
「いや、それはやめておいた方がいいね。何となく嫌な予感がする」
…ガンガード戦法ですかそうですか。
しかし、どうにもうまくいかないことに遺憾を禁じえない。
むしろこっちの心を読まれたんじゃないかというピッタリのタイミングでの静止に少し肩透かしを食らう。
しかし大した勘だと思う。やっぱり何かしらの長という物は危機察知能力も問われるのだろうか?
視歩も視歩でとんでもなく勘が働くタイプだし、案外的を射ているのかもしれない。
「でも、そしたらどうするって言うんですか?」
慎重を貫く隊長に業を煮やしたのか指示を仰ぐ葛木。
確かにもう少し何か動きを見せてくれたほうがこっちも嬉しいのだけど…。
心を読むまでもなく慎重な行動を信条とするタイプなのが伺える。
リスク回避と言う奴だろう。視歩も度々言葉にするワードであり、耳に馴染んでいる。
私は基本的に受け身な戦法しか取れないので、攻めて来てくれないと手の出しようが無い。
言葉での説得や揺さぶりも私には無理な話だし。
「…どうやら子どもながらに話し合いは出来そうと見るよ、僕は」
話し合い、と来たか。一応言葉に偽りはなく、互いの利害によっては取引も出来そうである。
そしてあちらの要求は予想通り向日葵畑の地下に眠る大金の様だ。
しかし要求通り大金を差し出したとしても、こちらの目的は向日葵を守る事であるからして素直にハイと頷くわけにもいかない。
…どちらにせよ話し合いは出来ないけれど。私は交渉をする言葉を持たないし、譲る気も無い。
(でも、私一人でどうにかって言ってもな…手札が少なすぎてどうしようも)
話し合い(物理)と言うわけにもいかないし、そもそもそうするのなら最初からしている。
こんにちは、死ね!をやるのは私には合わないキャラだろう。
ふと後ろを振り返る。―――ま、一人じゃあ何にも出来ないのは最初から分かってた事だし。
時間は私が稼ぐから、あとはみんなに任せるとしよう。
他のデバッカーのメンバーがいるなら兎も角、非戦闘員の私しかいない今の状況でこの連中に戦いを挑むのは拙い。
できれば皆には戦い以外の平和な解決を考え出して欲しいところだけど…。
私みたいなのは普段が殺伐としすぎていてそういう発想があんまり浮かびにくいんだよね。
ん?普段散々能天気な事をみんなでしておきながら何を言ってるんだって?
…それはそれ、これはこれ。別にいい案思いつかなかっただけとかじゃないよ!
…もし仮に、戦いが避けられない状況になったら私が頑張らなければならない。
そう考えると私が先行して時間を稼ぎつつ、敵情を分析するべきとの判断で私が出てきたわけだ。
面倒なことにそんな意思を他のみんなに伝える手段がまるで無いことが私の短所である。
電話とか持ってても話しようが無いしねぇ。言葉がないと不便な物である。
幸いなことに私が植物園を飛び出す際、察してくれている様子を見せた人物が一人いた。
金束、特に主人公オーラの強い彼女なら何とかしてくれるだろう。
金束、そして銀鈴、銅街、鉄鞘。彼女らが何かの解決策を示せるよう、時間を作るのが今回の私の役目。
どうやらそういう事らしいので、解決役は素直に譲る事にしよう。
最も、手札が無いのはあの四人も同じなんだけどね。…心配は要らないだろう。
こういう場面で流れを引き寄せられるのが主人公の条件って奴だしね。
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繋いだ視界に文字が浮かぶ。実のところ文字が浮かぶって言うのはイメージにしか過ぎないんだけど。
私の能力はその殆どが視覚に順ずるものだ。とは言うものの実際に目で見ている訳では無く、脳で見ているらしい。
よって目隠しをされたり真っ暗な場所でも能力は何の影響も無く使うことが出来る。
そしてここからが私の能力の最も分かりにくいシステムと言うか、仕様なのだが…
…まるで無駄に視点変更システムとかつけてしまったADVゲームの様な仕様。
いや、意味なんて無いよ?単に言いたかっただけで私の半分は構成されている。
『って、気付いたら罪木が居ないんだけど…まぁ、あの子の事だし放っておいてもいいか』
はい、この文章。これは今現在植物園内の一角に居る金束が思考していることだ。
しかし今、金束は私の視界内に存在していない。
通常私が能力を発揮するには対象を視界内に捉えておく必要があるのだが、例外が存在する。
視界内に居る対象へと集中し、その対象を見る事へと演算能力の内の数%を割り振ることで対象を『凝視』することが出来る。
さて、この凝視状態になった対象に対してなのだが…この状態だと私は対象と視界を繋げることが出来るのだ。
視界を繋ぐ、と言ってもピンとこないだろうが要するにだ。
自分が見ている視覚情報に加えて対象が見ている視覚情報、この二つを平行して情報として脳で処理できるのだ。
これはあくまで私の私的感覚に過ぎないが、複数の視界を持つと言うのはマルチモニタを見ている感覚だ。
『何だか妙な話になってきたのう…。ひとみも無事ならいいんじゃけど』
はい、これは金束と一緒に居る銅街の思考である。
これも金束と同じく視界内に存在しない人物であるが、凝視によって視る事を可能としている。
言ったとおり、私に出来るのは視界の接続であるので、それはつまり凝視している対象の思考自体は読むことが出来ない。
今回の場合思考を読めているのは金束、銅街、銀鈴の三人。
つまり今視界を貸していただいているのは、鉄鞘である。私は彼女を通して三人の思考を読んでいる。
『ともかく、お金を取りに来たお馬鹿さん達を追い返しちゃえばいいのかなぁ』
おいおーい、銀鈴さん。いきなり物騒な手段に頼ろうとする手段はどうかと思うぞー?
…人の事いえないけど、私。ちなみに私が最初に閃いたのは視歩に何とか連絡を取って丸投げ、である。
我ながらトンデモな無責任さだが迷惑なんて掛けてなんぼである。
『確かにきさめの言う通り、それが一番手っ取り早い気はするなぁ』
あっ、銀鈴が思ったままの事を口にしたらしい。
このままではいきなり戦闘行為が結論として出かねない!これだから喧嘩っ早い奴は!
…ちなみに心を読む限りあの四人の中で一番危ない性格をしているのは銀鈴である、
次点で鉄鞘かな。常識人である鉄鞘と、駄々をこねる子どもの鉄鞘が共存する性格…。
うーん、今度女たらしの視歩にでも紹介して口説かせてみるべきかもしれない。
どちらかと言えばデバッカーの人に多い独特の精神構造をしているし、鉄鞘。
二重人格三重人格当たり前!そしてその負担は全て視歩に向かう!なむさん!
『正直戦闘行為は避けたかったけど…私達素人だし。でも四の五の言ってられる場合じゃないか…!』
次は金束の思考。こっちはこっちで戦闘を避ける意思はあるようだけど、状況に押されて揺らいでいるようだ。
というか、そんなに切羽詰った状況だと思われているのだろうか?
…なになに?ああ、なるほど。
どうやら鉄鞘が私の匂いを追った結果、知らない二人組みと対峙していると知ったと。
そんでもって丁度植物園に届いた手紙―――貴女の植物園に埋まる物を頂に上がります―――の話題が直前に上がったこともあり…
『早く向かわないと…!罪木の奴が危ないかも…!』
私が決死の覚悟で時間稼ぎをしていると思っちゃった訳ですね、はい。
実際はそんなことも無かったりする。一度向こうが話し合う気になってくれたならこちらもそれに乗ずるだけ。
互いが話し合いをする気があるならお互いに危害を加える気もあるはずが無く。
それはともかく出来ればこちらに来て欲しくない所だ。
尾振達には存在がまだ知られていない四人だ。このまま手札として伏せておきたいし、出来れば四人で平和的解決方法を考え付いて欲しい。
『……………………!』
そんな私の願いが届いたのかどうかは分からないが、もう一つの視界内に映る三人の動きが止まる。
どうやら鉄鞘が何か発言したらしい。三人の心を読む限り制止を掛けたようだ。
『あー…確かになぁ。なんや真面目な話やったから柄にもなく物騒な事考えとったかも知らんわ』
ふむ…。鉄鞘の発言はどうやら『そんなやり方は私達らしくないのです!』とかそこ等辺だろうか。
多分そう遠くない物であろう事は想像がつく。あの鉄鞘の事だし、それくらいは言ってのけるだろう。
…出会ったばかりの身の発言では到底無いだろうが、そこはそれ。
私は能力の都合上、他人に対する理解が異常に早いのだ。
それ故かそもそもの私の性格上の問題なのか、他人との距離感を量りかねる事も多々ある。
踏み込むのを躊躇してしまうとかじゃなくその逆。他人に踏み込み過ぎて引かれる事とか日常茶飯事だ。
『…そうね。危ないからこそ焦ってちゃダメだわ。戦わずに済むならそれが一番なんだから』
何にせよ、鉄鞘の発言のお陰で皆が思い留まってくれたのは何よりだ。
やっぱり学生たる物、平和的に争いとは無縁の性格をするべきだよね~。
…はいそこ!どの口が言うとか言わないの!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて、恐らくいつも通りの雰囲気に戻ったであろうバカルテットの様子を伺いながら、私はうんうんと頷いていた。
鉄鞘のファインプレーのお陰でどうやら事はそれなりに予想通りに運びそうである。
「………………………………………(そうそう、殺伐とした雰囲気じゃ物騒な案しか浮かばない)」
そういう訳でも雰囲気改善をしてくれた鉄鞘と金束にはお礼を言いたい。
平和的な案が浮かぶまでは何とかして私が時間を稼ぎますので。
「罪木さん?どうかしましたか?」
おっと、余所見をし過ぎてて声を掛けられてしまった。
ちなみに今私は背後の植物園にいる皆と視界を繋いで会話を把握している。
こういう時便利なのは言うまでもない。気持ち的にはラジオを聴きながらのながら作業。
……我ながらいいご身分だよねぇ、これ。
「………………………………………(なんでもないよ。続けるね?)」カキカキ
そして二つ目のちなみに、目の前の尾振たちとの交渉に当たって使用している手段は…
『わたしたちのもくてきとしゅちょうについて』
――――筆談である。言葉を話せない以上、こういう手段に頼るしかないのである。
「というか、何故に全部ひらがな?」
抑揚の無い、とても印象に残りづらい喋り方で突っ込まれる。
仕方ないのである。何を隠そうこの私、漢字書けません!
……いや、冗談でもなんでもなくだ。そもそもひらがなですら覚えたのは割と最近だったりするのである。
施設時代は読み書きなんて教えてくれなかったし、視歩に連れられ外に出た後も結局学ぼうとしなかったからだ。
最も、普通に暮らしていれば読みの方は多少なり覚えていく物だが、書きは今までさっぱりだったのである。
まぁまぁと葛木を諌めつつ説明を続行する。
私達の主張は唯一つである。向日葵を守ること、それだけだ。
…あくまでそれは私達の主張であり『私』個人としてはお金をちょろまかすことが出来れば万々歳だが。
それを口に、もとい文字に出したところで反感しか買うまい。自粛!
『しょくぶつえんのひまわりをまもりたい。おかねをごういんにほりかえされてはこまる』
という訳でこれが主張の全てである。
このくらいなら聞いてくれてもいいじゃない、と視線に込めてみた。
―――――笑顔で返される。いやいや、もう少し考えてくれてもいいじゃないの?
「なるほどなるほど。子どもらしくない子だとは思ったけれど、中々どうして子どもらしい主張じゃないか」
馬鹿にされてるなぁ、と思いつつも仕方ないとも思う。
私自身、あんまりに子どもらしい馬鹿な主張だと思うけど…
残念ながら妥協する気は無い。私の人生は妥協だらけだからこそ、妥協はしない。
自分の意思で決めれるうちは、妥協などしてはいられまい。
『あいにくこどもなんでね。わがままのためにはだきょうしない』
「ひらがななのに使ってる言葉は普通に大人と同じなのね…なんかシュールだわ」
うるさい、かっこよく決めてるところに真っ当なツッコミを入れられても困る。
そういう正論を言われるとさらにボケ返すくらいしか選択肢が無いではないか。
「まぁまぁ。しかし罪木さん?こちらとしてもあのお金は回収しないと不味いんだ」
何故かは、賢い君なら分かるよね?と問いかけられる。
如何にも。先ほど銀鈴は彼らを追い返せばいいのでは無いかと言ったが、それでは一時的な解決にしかならないのだ。
ここで彼らを追い返し、向日葵を守ったところでだ。
この植物園にお金が埋まっていることがもし外に漏れれば、どうなるか。
想像に難くない。こいつら以上に粗暴で強引な連中がお金を問答無用で回収しに来るだろう。
…平和的解決を望むとは、そういう意味も含んでいたのだ。
「ですから、早い所回収させてもらいたいんですよ―――と言っても聞く気は無さそうですね」
その通りです!諦めるのは最後の手段ですらない、存在しない選択肢だ。
ならば最後まであらゆる手段で時間を稼がせてもらおう。
『そのとおり。どうやってでもあなたちをひきとめさせてもらう』
ふむ、中々どうして私らしくなくかっこよく啖呵を切ったものだ。
普段では中々出ないような言葉だぞーこれは。自分の意思を出すことの少ない私にとって新鮮な文句の羅列。
少なくとも後ろの四人が、あの主人公達が道を拓くまで私が先に諦めるわけにはいくまい。
なに、あの四人の事だ。私がそこまで頑張らなくたってすぐに最高の結末を持ってくるだろう。
それを信じたからこそ、私は彼女らに視歩と同じモノを視たのだ。
彼女らを信じる心と、視歩を信じる心は同じモノ。だからこそ―――何とかしてくれるさ、彼女らなら。
「ふむ…そういわれると手を出すのを躊躇せざるを得ないけど…」
何か、僕達を引き止める方法でもあるのかい?と問いかけられる。
…うーむ、脱いで引き止められるならそうしてやりたい位だが、如何せんこの二人にロリコンの気は無いようで。
となれば面白い話の一つや二つ、いや無理じゃん。
言いながら私が服を脱いだら誰かが飛んできそうだなと思った。
主に紅い人と朱雀さんとか視歩とか。最後の一人だけ理由が違うけど。
しかし実行に移すわけにもいかない。都条例に逆らうほどの度胸は無いのである。
CERO:CかDくらいでとどめておかねばならない。
となれば、仕方がない。約束を守りつつ彼らを止めるには―――
「………………………………………(さて、取り出したるは秘密のお薬~!じゃなくて、この愛用ペンダント)」
私が常に身に着けているペンダント―――ファンシーな目玉の意匠が施されている―――を胸元から取り出した。
見た目のイメージ的にはミレニア○アイである。全然ファンシーじゃないって?
いやほら、ペガ○スが使ってたモンスターはファンシーだったじゃない。
とまぁ、周りからはあんまり好評でないこの瞳ペンダント(仮)だが、ただのペンダントではない。
中には様々なギミックが隠された素敵道具なのだ!…はい、嘘です。
ただ、ペンダントの中身にライトが内蔵されていて、光の強さとか色とか調節できる代物である。
さて、これを何に使うかと言うと…
『くずき、このぺんだんとをみてて?』
どっちに試すか迷った末に葛木の方にした。
………葛木!キミに決めたっ!………はい、特に意味は無いです。
ほら、ポ○モンもリメイクとか次々作られてるし、盛んな様だからここらで捻じ込んでおこうかと。
「ナチュラルに呼び捨てなのはスルーした方がいいんですかね、これ」
「子どものすることだからね。気にしたら負けだよ」
そう、子どものする事は多目に見てあげるのが大人の甲斐性ですよ。
というか、基本的に私は誰であろうと呼び捨てだし。粉原クンは何だかそっちのが響きがいいからである。
声は平坦だが、目線が胡乱になりつつあるのを見ると案外人間性はちゃんと備えている様に見える。
あと彼女が密かに抱えている悩みを覗き見るとすごく親近感を得られるのは私だけでは無いだろう。
『胸が小さい人だって需要あるからだいじょ「おっと手が滑ったー」
尾振の目に触れる前に紙を破られてしまった。触れてはいけない話題だったらしい。
いや、知ってたけどね?そういうところをあえて狙っていく冒険心溢れる私の話術であって決して私の趣味とかではない。
「瞳ちゃんとやら。お姉さんをからかうと痛い目を見るよ?」
はいごめんなさい。そんな目で見ながら平坦な声で怒らないでくれ。
胸が小さいのは私だって同じなのだからそこまで言わなくてもいいじゃない。
「…ちょっと待ちなさい。瞳ちゃん、あなたは幾つ?」
相も変わらずの平坦さで尋ねられる。
隠す理由も無いので正直に答えるとする。―――12歳、ぴちぴちの小学生ですよ~
「…………………………ふむ」
な、なんだが舐めるように視られてるな。
どこを見てるのか心を読まずとも分かるあたり隠す気はなさそうである。
「…確かに、幼いとは言えその年頃なら普通は膨らみ始めてるでしょうね…」
―――何が?ん、胸か?胸の事なのか?……思い返してみる。
私の周りの女の子はどうだ?視歩は普通にでかいし、
血晶赤はもっとでかい。
焔は論外だし、芙由子もスレンダーではあるけれど小さくは無い。
そして香も実はああ見えて成長が著しい。…あれ、これ詰んでね?
「…あ、いや…そうよね。まだ先はあるわよね…」
平坦な声は変わらずも何だか慰められたでござる。
わっ、私は先があるけど貴女はもう成長終わってるでしょ!
「むっ、そもそも私はそれを気にしてなんか…」
そんな不毛な話(自分で不毛って言わせるなと誰かに声を大にして言いたい)を続けていると横槍が入った。
横で先ほどから黙っていた尾振からである。
「君達何だかんだで相性良いんじゃないかい?初対面とは思えぬ通じ愛ぶりだけど」
おい、その誤字は洒落にならないからやめい。
横を見ると私と同じ非難の眼差しを向ける葛木の姿が。
案外ホントに気は合うのかも知れない。事が終わったらそれとなくメアドを聞いておこう。
「…で?そのペンダントが何か?」
ああ、そうだった。
とりあえず面白そうな見世物で足を止めてやろうと言う魂胆だった。
そういう訳でこちらのペンダントにご注目。
こちらのライト内蔵型ペンダントのスイッチを入れ、チカチカと点滅させると…
「………………………………………(いっせーの、それっ!)」
―――そして、その心の隙を突く。
微かながらも平和的に話し、気を緩めたことで生まれた隙。
もちろんをこれを突き、意識を奪う事も出来なくは無いが、今はそれをする場面ではない。
となればその心の隙間をどう利用した物か。―――あ、思いついた。直前の話題に即しようではないか。
「んっ…!眩暈が―――――えっ」
…絶句、と言うのが相応しいリアクションか。
とりあえず分かりやすく幻覚的なサムシングを見せてみる事にした。
今彼女の目に映っているのは先ほどと変わらぬ光景、ではなく。
ある一点だけ現実と異なる光景である。有り体に言うと私の体の一部分が大きく見えているのである。
…ん?何処の事かって?察してくださいお願いします。
「な…なっ…。た、確かにそこに膨らみが…」
ふらふらと私に近付いてくる葛木。少し青ざめた顔に何だか優越感。
すぅ、と自然な感じで伸ばされた手が向かう先は私の胸。目に見えて大きくなったそれに手を伸ばし…
―――――すかっ
「あっ…………」
「………………………………………(……………)」
そして、当然の事ながら触れるはずもなし。
だって幻だし。実際には無いし、実際には無いし、実際には無いし!
「………………………………………(自分でやったことで自分でダメージ負うとか何やってんだ私…)
二人揃って膝を落として絶望したのポーズ。
やっぱり胸の話題は禁止!誰も得してない上に二人揃って瀕死になってるから!
「あ、元に戻りましたね。……ごほんっ、今のは一体?」
今更平常心な感じに戻っても手遅れだと思いますよ、葛木さん。
とまぁ、興味を惹くという目的は達成できた上に自分の想像以上に時間と無駄な傷を稼げた。
その証拠と言うべきか、となりで尾振の方が怪訝な表情で私達二人を眺めていた。
理由は明白、今のやり取りは尾振からすれば葛木と私が勝手に落ち込んだようにしか見えなかっただろうしね。
「いま、何があったんだい?僕にはさっぱりなんだけど…」
「え、今彼女のむn……いえ、身体の一部分が肥大化していたのですが、お気づきにならなかったのですか?」
わざわざそんな風に言い直さなくたっていいじゃない。
あ、いや一応男の人相手だから気を遣ったのか。そこらへん大人の対応である。
「僕の目にはそんな事実は無かったけどね…胸の大きさなら正直大差はな
「セクハラですか?セクハラですね?訴えますよ?」
「…過剰反応しすぎじゃないかい?罪木さんもそうおも…ああいや、何でもない」
わざわざそんな余計な批評を付け加えなくてもいいのだよこの男め。
いや、大差ないのであれば未来に可能性のある私の勝だ!…何かすごく空しいんですが。
『さいみんじゅつってやつだよ。てじながわりにはなったでしょ?』
「なるほど、見世物としては十分だったし、まんまと時間を稼がれてしまった訳だ」
何だかんだと最後まで見ていってくれた辺り付き合いは良い様で何よりだ。
気付いてみればかなりの時間を稼げている。具体的には約一万文字程度の時間である。
「………………………………………(というか、まだ金束たちの話は進んでないのか!早くキテー、早くキテー!)」
これ以上時間を稼ぐネタなんて思いつかないんですけど!
虎の子の催眠術まで疲労しちゃった上に無駄に精神的ダメージ負ったんですけど!
…というかさっきから思ってるんだけど、これ何時まで私の視点で続くの、ねえ?
普通こういう時、視点が金束達に移って進むモンじゃないの?
わざわざ他の主人公にゲスト出演してもらってるんだからあちら主観で進まなきゃダメじゃん!
…え?基本的にこの私主役のお話は全編私の視点だって?
いやいやいや、なんでさ。『心読めるんだからそれ使ってゲストにセリフを使わせなさい』?
それは何か?私がわざわざあの四人から離れてこっちに来ちゃったのが悪いと申すか。
そもそも私の能力ってそんなに万能な読心能力じゃないって言ってるでしょ!
負の感情が絡んでないと効果が無いって言ってるのに酷使しすぎぃ!
…わかったわかった。ちゃんと最後までモノローグしますよ!
さぁて、ここからが私のモノローグの真骨頂…あれ、何かカンペ(天の声)が。
なになに…『今回はもう時間十分なので続きは次回に続く』?
まさかの尺切れ!?考え付く限り夢オチに続く最悪のオチのつけかただろこれ!
いやいやせめて何かうまいシメの言葉とか考える時間をくだs
~~~~~~~~~~~次回 恐らくは単純な結末(仮)に続く~~~~~~~~~~~
次回予告のような何か
「えっ、地下に眠ったお金を掘り起こす!?」
「そう、私達が守るべきは向日葵であってお金じゃないわ。なら…」
「お金を掘り起こして渡してしまえば良い、そういう事ですね~」
「じゃが、それをすると向日葵が…って話じゃなかったんか?」
「ええ。普通の手段なら、ね。でもここは普通じゃない街。普通じゃない手段だってあるって事よ」
「普通じゃない?」「手段?」
「そうよ、私達は能力者。なら、能力者らしい平和的解決をしてやろうじゃないの!」
―――――無駄にいろんな事に顔を突っ込んできた私達だからこその、コネを使ってね―――
~~~~~~~~~~一方、裏側では~~~~~~~~~
「…てめぇ、何者だ。てめぇも連中の仲間か?」
奮闘?する瞳達の裏で、事態は静かに動いていた。
裏路地の一角、そこを一人の女性が歩いていた。眼帯を着け、ぼさぼさの髪を無造作に放った様な風貌だ。
「いいや。残念ながらその逆、今に限っちゃ君の味方かな」
その女性に声を掛ける人物が一人。
そちらも女、それも少女と呼べるような幼げな声だった。
「味方…?………あぁ、そういやその首輪どっかで…」
首につけられた黒い首輪は、幼い少女の見た目には似つかわしく無い禁忌的な香りを漂わせる。
その首輪の上をみれば超えに違わぬ幼げな顔。そう、それはまぐれも無く少女だった。
「そうそう。今回の件、私達の仕事が絡んでるみたいだからね。無関係って訳にはいかないのさ」
女性と少女の視線が交錯する。眼帯に隠された義眼と、猫の様な瞳が絡み合う。
殺気はあれど敵意は無い女性と、殺気も敵意も感じられない少女の二人。
「チャイルドデバッカー、だったか。そういや、今回の件には置き去りが絡んでやがったなぁ」
決して交わりそうに無い二人、されど二人は出会うべくして出会う。
最速の黒猫と最即のトリガーハッピーの二人が結託することになるのは、あくまで必然だった。
「ああ。私としても見過ごせない事でね。…貴女の噂は良く知ってるよ。子ども達ごと射殺られちゃあ堪らないからね」
片や事件の首謀者を皆殺しにするために。
「なるほどなぁ!そりゃあ道理だ。私は殺すしか能が無いからな。正直助かるさ、関係ない子どもを射殺ったらどやされちまうしな」
片や囚われの子供たちを助けるために。
「そういう事。子ども達を守るって意味でも協力させてもらうよ。狼森さん?」
目的も在り方も何もかもが違う二人が交わる時―――物語の真実が動き出す
最終更新:2014年12月13日 16:49