まぁ、これが私たち常盤台バカルテットの慣れ染めでした。
バカルテットって自分で言うと自分がバカであることを自覚しているみたいで嫌ですね。
え?ちょっと話がズレてるんですか?・・・ああ、そう言えば銅街さんの話でしたね。
とにかく、私たち4人の中で銅街さんは異様です。
西洋風のマナーに慣れてなかったり、学園都市の科学技術に感嘆しっぱなしなのは仕方ないです。
それに私たちの中で唯一の大能力者《レベル4》だったり、学園都市でも特殊な能力の持ち主だったりしますが、
そういった部分を省いてでも銅街さんは異様でした。

銅街さん伝説 その1
常盤台中学ではプライベート時も制服の着用が義務付けられており、3年間で私服を着る機会なんてほとんどありません。
何でこんな面倒な校則なのかと言うと「いついかなる場所でも常盤台の生徒であることを忘れるな。」だそうです。
まぁ、言い分は理解できますし、私服にあまりお金をかけず、センスにもあまり自信のない私としては嬉しい校則です。
しかし、銅街さんは校則を無視して休日は私服で外出することが多いです。
無論、銅街さん以外にも同じことを考えている生徒はいましたが、常盤台中学女子寮の支配者“寮監様”の前では彼女たちはあまりにも無力です。
何せ、入学式前に喧嘩をした大能力者《レベル4》3人を5秒以内にノックアウトしたからです。
休日の銅街さんの朝は早いそうです。何せ、校則破りが銀鈴さんにバレると冷凍庫行きになってしまうからです。
銀鈴さんが起きる前に身支度を済ませた銅街さんには最大の難関が待っています。
それは、かの寮監様です。常盤台最強の存在であり、超能力者《レベル5》第3位で超電磁砲《レールガン》の異名を持つ御坂美琴さんを
相手にして20秒以内に戦闘不能にした人なんですよ。まず、勝てる相手ではありません。
少し未来の話になりますが、学園都市第1位の一方通行《アクセラレータ》が無能力者《レベル0》に敗れたという噂が流れた時も、
私たち常盤台中学生徒一同は真っ先に寮監様の顔が浮かびました。
銅街さんは精密処理《プロセススキップ》という能力を持っていて、私たちの中では最高位の大能力者《レべル4》です。
五感で得た情報を精密に処理する能力らしく、例えば何かを見て普通の人間なら
その対象との距離を「ちょっと遠い」「近い」ぐらいの抽象的にしか捉えられませんが、彼女の能力を使う事でミリ単位まで精密に測れたりするそうです。
ちなみに、能力の副作用なのかどうか知りませんが、能力使用後、彼女は結果を導き出すまでの計算過程を忘れてしまうので、
本人としては「すっごーい勘」としか言いようがないそうです。
銀鈴さんを起こさずに部屋を脱出した銅街さん。タンクトップの上に肩だしTシャツを着て、ホットパンツというあまりにも露出の高い過激な格好です。
とても恥ずかしくて私には出来ない格好でしょう。
ソロリソロリと女子寮の通路を慎重に進む銅街さん。
彼女の能力が発揮できるのは五感が情報を感じ取れる範囲内であり、隠れて見えないところ、聞こえないほど遠い場所などは
能力の範囲内で手に入れた情報を元に計算して予測するのがやっとであり、信憑性はそれほど高くありません。
銅街さんが部屋から出て数メートルのところで曲がり角の先に寮監がいないか確認します。
どうやら、姿は確認できないようです。

(ふぅ。どうやら、寮監に見つからずに出られそうばい。)

彼女がそう安堵した瞬間でした。

「ほぅ?私に隠れて何をするつもりだったんだ?」
「!?」

今現在、最も会いたくない人間が自分の背後にいたのです。
スーツに眼鏡といういかにも厳しそうな印象を与える20代後半から30代前半の女性、
紛れも無く常盤台中学女子寮の秩序の象徴である寮監様でした。。
周囲の状況には気を配っていたはずの銅街さんも彼女の接近に気付きませんでした。

「えーっと、そのぉ・・・・」
(ええい!ここは三十六計逃げるにしかずっちゃ!)

何を血迷ったのか、銅街さんは寮監様に背を向けて一気に走りだしたのです。
どうせ帰ったらもっと酷く怒られるのに何を考えているのか分かりません。
当然、逃げる銅街さんを寮監様は追いかけます。
肉体強化系の能力を使わずに100m11秒台を出す走りを見せる銅街さん。中学1年生でこれはバケモノです。
これを知った金束さんは自分の能力の存在意義について更に嘆くことになるでしょう。
しかし、それ以上に恐ろしいのが寮監様です。スーツにヒールという非常に走り辛い格好でありながらも銅街さんと同等のスピードを出して追いかけるのです。
銅街さんは逃走経路を変更し、通路を左に曲がりました。―――が、自分の背後にいた寮監様が既に通路の先に待ち構えていたのです。

(えええ!?さっきまで後ろにおったはずばい!)

そう思いながらも寮監様に向かって走る銅街さん、そして彼女を捕らえようと寮監様は何かしらの格闘技の構えで待ち構えます。
そして、銅街さんが腕の射程範囲に入ったのです。

(捕った!!)

そう思ったのも束の間、銅街さんは寮監様の腕をスルリと抜け、彼女の背後へと通り抜けていったのです。
これも超速処理《プロセススキップ》の賜物だそうです。寮監様の動きや手の配置、呼吸の音から次の手の動きや範囲を演算し、
最適な逃走ルートを出しているそうです。が、やっぱり計算過程を忘れてしまっているので、彼女にとっては勘なのです。
寮監様としては予想外の事態でしたが、すぐに反転し、再び銅街さんを追いかけます。
この後は銅街さんと寮監様の追いかけっこが続くわけですが、ここが色々と凄いのです。
群がって廊下を塞いでしまっている生徒たちを避けるために壁を走ったり、
運搬中の家具を避けるために何か分からない新体操選手も真っ青なウルトラCの超絶技巧でスピードを落とさずに軽々と避けるのです。
もうお嬢様なんかやめて、アクション俳優にでもなればいいのに・・・と常々思います。
しかし、そんな銅街さんも年貢の納め時が来たのです。
遭遇・逃走から5分が経過したとき、銅街さんは袋小路に追い詰められたのです。

「ぬわっ!何で行き止まりになっちょると!」

何で行き止まりなのかは私も知りませんが、銅街さんに逃走経路が無いのは明白でした。

「年貢の納め時だな。銅街。」

キラリと光る寮監様の眼鏡。そして伸びる断罪の手が銅街さんへと近付きます。
あまりの恐怖に能力の演算がろくにこなせず、仮に出来たとしても
おそらく「逃走経路なし」という絶望の象徴が浮かび上がるのは分かりきっていたことです。

「この私から5分も逃げることが出来たのは貴様が初めてだ。称賛してやってもいい。だが、それとこれは話が別だ。」

ゆっくりと銅街さんににじり寄る寮監様。そして・・・

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

銅街世津、享年(?)13歳の悲痛な断末魔が寮全体に響いたのは言うまでも無かった。



銅街さんの伝説 その2
銅街さんはとにかく田舎娘らしく、高層ビルどころか4階建て以上の建物を実際に見たことが無いと豪語するくらいのド田舎で過ごしてきたそうです。
なので、学園都市に来た時は「すげーっ!」「でけーっ!」と声が嗄れるまで感嘆し、ありとあらゆる文明機器に目を輝かせていました。
でも風力圧電は地元にもあったそうで、あまり驚いていませんでした。
とりわけ、お掃除ロボットや自動ドア、エレベーターには驚きを隠せず、こっちが他人の振りをしたくなるほど興奮していました。
今でもロボットや自動ドア、エレベーター、エスカレーターを前にすると身構えてしまうそうです。
そんな田舎娘で野生児の彼女は常盤台でも色々な意味で注目されがちで、よく彼女に故郷の話を聞いたりする人が多いです。
最先端科学が集約された学園都市は高層ビルが乱立する都市であり、銅街さんの地元のように山や森に囲まれ、緑や自然で溢れる場所はあまりないのです。
一応、自然公園などがありますが、それらは“人の手によって調整された自然”ですので、本物の自然というものを触れ合う機会はないのです。

「ねぇねぇ。せっちゃん。せっちゃんの地元ってどんな感じなの?」

今日もまた、彼女に惹かれて女子たちが集まっています。髪形や顔立ちでカワイイ系のイケメンにも見えるので、そっち目当てで来る女子も多いです。

「どんな?って、とにかく山と森と田んぼだらけだったばい。」
「じゃあ、虫とか多そうね。私、少し苦手だわ。」

それはそうです。完全管理された学園都市、とりわけ常盤台となるとゴキブリはおろかウジ虫1匹たりとも見当たりません。
以前、寮でゴキブリが出た時は大騒ぎでした。
1年生総出でゴキブリ退治に乗り出し、ゴキブリを見つけるや否やみんなが能力で攻撃しまくったせいで寮の部屋が一つか二つ吹き飛んだことがあります。
無論、攻撃系能力を持ったみんなが寮監様にこってり絞られたのは言うまでもありません。
ちなみに能力ではゴキブリは仕留められなかったので、最終的には我らの寮監様がスリッパで叩きつぶしました。寮監様万歳。

「確かに虫は多かよ。カブトムシ、クワガタムシ、アゲハチョウ、他にも言いきれんぐらいいっぱいおるっちゃ。夏はザリガニ釣りやったりして楽しかよ~。」

夏に白いワンピースを着て麦わら帽子を被り、川辺で釣りをする銅街さんの光景が容易に想像できたのは言うまでもありません。

「まぁ、面白そうですわね。そういうところに別荘を持ってみたいわ。」

テレビでしか見たことのない情景にうっとりとする女子生徒たちですが、ここで終わる銅街さんではありません。

「でも油断すると毒蛇に噛まれて生死の境を彷徨ったり、体長10mの猪に車ごと突き飛ばされたり、
超巨大な熊に襲われて血まみれになったりするけん、観光地とか避暑地とか指定されたところ以外に行くのはあまりお勧めできないっちゃ。」

(お前が住んでるのは魔界の森かっ!)と思い、彼女の故郷に対する恐怖と憧れの破綻による落胆に包まれる女子生徒たち。
案外、シビアな環境で育ってるんですね・・・。

「そういえば、田舎って人と人の繋がりが深いって聞いてますわ。学園都市に来る時にご家族は心配なさらなかったんでしょうか?」

暗い雰囲気を塗り替えようと一人の女子生徒が質問します。

「多分、心配はしとらんっちゃ。それどころか、旅立つ日には村のみんなが家の前に集まって万歳三唱して見送りしてくれたばい。」
(え?それって、いつの時代?)

誰もがそう思ったに違いありません。
かく言う私も、第二次世界大戦で出兵する兵士をモンペ服の村民たちが日の丸を振りながら万歳三唱する光景しか想像できませんでした。
とにもかくにも、単純そうで色々と不思議そうな女の子です。

ちなみに、ルームメイトであり、金束さんの幼馴染であり、私の親友の一人である銀鈴さんはこう語ります。
「せっちゃんはね、過去からタイムスリップしてきたんだよ~」

正直、事実だったりしそうだから、笑えません。
でも、一緒にいると楽しいので今日も4人で一緒にバカをやって青春を謳歌しています。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年08月20日 21:54