これはとある日のとある一時に起きた、当事者以外には誰も知ることのない出来事。
その出来事が何を意味するかは現時点では誰にもわからない。意味など無いのかもしれない。
しかし、事実として2人は出会った。偶然という名の運命に導かれて。
それは、幕間の如きお話。故にここに記そう。似て非なる、とある2人の男達の出会いを。
煙草が地に落ちた瞬間、両者は動いた。
傭兵
ウェイン・メディスンが内ポケットに隠し持っていた拳銃を引き抜き発砲する。
対する成瀬台高校生、
界刺得世はサーモグラフィによる探知能力によりウェインの行動を先読みし、迫り来る銃弾を危うくかわしていく。
早々に銃による戦闘に見切りをつけたウェインが尋常では無い速度で界刺に肉薄、強烈な回し蹴りを放つ。
それすらもしゃがむことでギリギリ回避する界刺。しかし、ウェインは回し蹴りによる勢いを利用した裏拳を界刺に見舞う。
反応が遅れた界刺は腕で防御しながらも、その勢いを利用して後方に転がり、距離を取る。
続いてウェインはズボンのポケットよりナイフを2挺引き抜き、再度急接近する。
同時に界刺も護身用に所持している伸縮式警棒2本を展開。ウェインの斬撃に応戦する。
さながら剣戟の如き一撃を交わす2人。しかし、純粋な格闘能力ではウェインが勝る。
警棒での応戦に努める界刺の隙を十数秒で見極め、仕掛けるウェインだったが、突如視界が暗転した。
それは、界刺の『光学装飾』によりウェインの目に入る可視光線を全て“黒色”にしたのである。事実上の失明状態である。
突然の事態にウェインの挙動が緩む。その隙を狙い2本の警棒を接続した長棒による一撃を叩き込もうとする界刺。
しかし、その一撃は空を切ることになる。それはウェインの張った保険+罠。
ウェインが予め仕掛けていた『蛋白靭帯』によって生成された糸による張力を利用し、上方に大ジャンプしたのである。しかも界刺を引き連れて。
それは、回し蹴りの後に仕掛けた裏拳が原因。裏拳が界刺の腕に接触した際に目にも映らない極小の糸を一本巻き付けていたのである。
そして、ウェインが上方に大ジャンプする際に極小サイズの糸を1cmに拡大。更に、飛行機さえ造作も無く吊り上げる糸の大群が界刺に殺到する。
ウェインが糸の上に着地したのと同時に、糸によってぐるぐる巻きにされて地面に叩き付けられる界刺。
そのまま糸で締め上げることでバラバラに引き裂こうとするウェイン。しかし、その瞬間界刺が『光学装飾』の真髄を発揮する。
それは、超至近距離内での全力による赤外線輻射を用いた瞬間的な強大熱量の発現。
糸に巻かれた現状では自身にも危害が及ぶ可能性があったが、背に腹は代えられない。
躊躇無く全力で赤外線を放射・輻射する界刺。瞬間的な強大熱量を受けて、界刺に巻き付いた糸はボロボロに焼け落ちた。
焼かれた糸の振動を受けて、未だ視界が暗転状態のウェインは少しだけ驚きを露にした。対して界刺は大きく息を吸い、息を整える。
「ほぅ・・・やるな」
「ふ~・・・うわっ、服があちこち焦げてるじゃん。こりゃもう一回制服を新調しないと駄目かあ?」
思わぬ歯応えに感嘆の言葉を漏らすウェインであったが、当の界刺は目の前に差し迫った己の命の危険より、焦げた制服について考えを巡らしているようだった。
「フッ、己の命より服の惨状に気を向けるとは・・・変わった奴だ」
「あ?いきなり人を殺しに掛かってきた殺人鬼にとやかく言われる筋合いは無えんだけどな・・・」
憤慨の意思を露にする界刺。すると、
「誤解しているようだが、俺は無差別に殺戮を繰り返す快楽殺人者では無いぞ?まあ、今回貴様を殺そうとしたのは・・・暇潰しも兼ねていたがな」
「何それ!?暇潰しで殺しって、それって快楽殺人者と変わらなくね!?」
「フッ、確かにある意味ではそうかもしれん」
「開き直りやがったよ、コイツ」
「だが、俺は仕事に無関係の人間は『無闇』に殺さない。その例外があるとすれば、それは俺が興味を抱いたということに他ならない」
「興味?」
界刺の疑問にスラスラと答えるウェイン。
「ああ、そうだ。貴様とあの女の話・・・中々に興味深かったぞ。特に貴様の考え方に、俺は興味をそそられた」
「うわっ、何だコイツ!?気色ワリィ!!」
「貴様は自身を世界の一部と捉えている。心の底から。俺も同感だ。俺も世界の一部足る人間だ」
「・・・?」
「故に、俺と貴様はある意味では似通った人間だということだ。性質は正反対かもしれんがな」
「・・・殺人鬼と同類にされるのってすんごく不愉快なんですけどー」
「そうか?まあ、貴様が『いわれなき暴力は世界によって淘汰される』という立場ならば、俺は『いわれなき暴力の存在さえも世界は認めている』という立場だからな。
確かに俺と貴様は、厳密に言えば同類では無いのだろう」
「・・・よくわかんねえ」
界刺にはよく理解できなかった。目の前の殺人鬼は自分と同類だと言ったり同類では無いといったりする。わけがわからない。
「まあいい。今日の所は十分に楽しんだ。この辺で俺は引き上げさせてもらおう」
「ああ、何処にでも行ってくれ。ったく俺はバリバリの戦闘タイプじゃねえっつーの。死ぬかと思った」
「・・・『バリバリの戦闘タイプじゃ無い』?・・・ククッ、本当に面白いことを言うな、貴様は」
「ああ?」
「俺の目を騙せるとでも思ったか?貴様は何かを隠し持っている。そして、先程の戦闘ではついぞ見せなかった。
つまり、貴様は『本気』では無かったのだろう?全く、この俺を相手にそんなふざけた真似を貫き通したのは貴様が初めてだ」
「・・・それはアンタも同じだろうが」
「ほう、気付いていたか?」
「・・・当たり前だろ」
「イイ目をしている。そして観察眼も鋭い。ククッ、次にもし相見える時があれば全力でもって貴様を殺してやる。・・・その時を楽しみにしているぞ」
「・・・いや、絶対にお断り」
界刺の言葉を無視するかのように漆黒に覆われた夜の暗闇に姿を消すウェイン。
それを確認した後に、ようやくウェインの暗転状態を解いた界刺。
「・・・ったく。『本気』?んなもんメンドくせっつーの」
何とか命拾いした彼は、そんなことを呟きながら仲間が待つ光輝く夜の街に戻っていく。
光の世界に戻る界刺。闇の世界に消えるウェイン。似ていそうで似ていない2人のこれが、最初の出会い及び最初の会話であった。
最終更新:2012年04月14日 12:29