「(さ~て。そろそろ頃合いだな)」
「(でやんすね)」
「(うん、そうだね)」
既に4人が脱落した『だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム』において、荒我、梯、武佐は静かにチャンスを狙っていた。
この手のゲームは最速でカタをつけるか、慎重に事を運ぶかのどちらかで勝利は左右される(荒我談)。
そのために、速見が速攻で脱落してくれたのは有難かった。これで、他の連中も慎重になると荒我達は判断したからで、その予測は概ね当たってもいた。
「(餅川先生の動きは気になるが・・・ここいらで勝負に出るってのはどうだ?)」
「(確かに残り人数も少なくなってきたでやんすし、仕掛け時ではあるでやんすね)」
「(梯君の言うとおりだね。・・・ということはアレを出すんすか、荒我兄貴?)」
荒我達はアイコンタクトで意思疎通を取っていた。それは、四六時中一緒に行動を共にする者達の為せる業か。
「(おおよ!三位一体『荒我スペシャルその2』の出番だぜ!!準備はいいか、野郎共!!)
「(だ、大丈夫でやんすよ!!)」
「(こちらもOKです、荒我兄貴。タイミングは俺の『思考回廊』で2人に知らせるね)」
何やら必殺技的ネーミングの付いたものを繰り出すつもりの荒我達。ちなみに鬼の押花に一番近いのが荒我で、その後ろに梯、武佐と続く。
「それじゃあ、いきますよー!!」
押花の号令前の一声が場に響き渡る。緊張に身を震わせる荒我達。そして・・・
「だ」
「(今だ!!)」
「(行け、利壱!!)」
「うおおおおお!!!」
―解説しよう!!三位一体『荒我スペシャルその2』とは!!
荒我、梯、武佐が協力することで繰り出すことができる『荒我スペシャル』シリーズにおける2番目の必殺技。
武佐の『思考回廊』による完全なタイミングの同調を図り、それを受けた荒我が前に屈む+地面に手を付けた格好になり、
梯が自身の助走及び荒我の背を台として踏み、勢いをつけて前方にジャンプすることで、
梯の必殺技『超助走キック』の威力や射程を伸ばす三位一体技である!!
通常では届く筈の無い距離という壁をブチ破る梯。このまま押花にタッチして勝利を掴むのか。しかし―!!
「させるかボケー!!!」
「(な、何いいぃぃー!!!)」
それを阻んだのは
餅川晴栄その人。餅川は号令前から荒我達が緊張しているのを武佐のすぐ後ろで見破っていた。
何か仕掛けてくると直感で判断した餅川は号令の瞬間に奇想天外な行動を取る。
すなわち、すぐ前方にいる武佐に強烈な足払いを掛け、宙に浮いた足を掴み、一回転後に梯に向けてブン投げたのである。
つまり・・・
「ゴホッ!!」
「グワッ!!」
もう少しで押花にタッチできた梯は飛んできた武佐と衝突し、投げられた威力そのままに転がっていったのである。
呆気に取られる荒我。してやったり顔を浮かべる餅川だったが、
グキ!!
「こ、腰がー!!!」
やはり無理があったのか、餅川は腰を痛めてしまった。その場でうずくまる餅川。当然・・・
「るまさんが転んだ!!あ、梯!武佐!餅川先生!OUTっす!!」
梯、武佐に続いて餅川も退場となった。策士策に溺れるとはこのことか?
これで残りは勇路、荒我、界刺の3人だけとなった。距離も狭まっている。
ここにきて周囲も異様な緊張感に包まれつつある。
「(頼むぞ、勇路!!貴殿の働きに我ら風紀委員の未来が掛かっておる!!)」
「(さあ、いよいよフィナーレの時間だ!!彼女達の瞼にいつまでも焼き付いて離れない最高のエンジョイをプレゼントしよう!!)」
審判の寒村の視線の先にはパンツ一丁でポーズをとって笑顔に満ち溢れている勇路が、
「(くそっ!!餅川先生のせいで必勝の作戦が!!・・・こうなったら破れかぶれだ!!)」
思わぬ横ヤリで仲間を失い孤立無援となった荒我が、
「いよいよね・・・」
「界刺様・・・頑張って!」
「ここまで残るなんて・・・なんだかんだ言っても、さすがは『
シンボル』のリーダーってわけか」
「(ここまで来て無様な醜態を見せるんじゃないわよ、アホ界刺)」
「(何で俺ってばこんな辱めを受けなきゃなんないの?女子に脅されるわ、泣かれるわ、終いには男からも侮蔑の視線を向けられるわ・・・何か悪いことしたか、俺?)」
女性陣の視線の先には姿を現してからずっと泣いている界刺が、
最後の刻を迎える。
「それじゃあいきまーす!!」
「(さあ、来い!!)」
「(やってやるぜ!!)」
「(もう、帰りたい・・・)」
三者三様の思いを乗せ、最後の号令が押花から放たれる。
「だ~る」
最初に動いたのは勇路。彼は持ち前の運動能力を使って空高くジャンプし、他者からの妨害を受けない空中から突っ込もうとする。
「ま~~」
次に動いたのは荒我。彼には何の超能力も特別な運動能力も無い。故に、真っ正直に一直線に突っ込む。
「さん~」
界刺の動きは鈍い。それも当然、彼の体は筋肉痛で本来はまともに動ける状態では無い。
不可視状態に身を置くことで押花に近づく作戦は、よりにもよって味方側である月ノ宮によって妨害された。故に・・・
「(何だ!?)」
「(熱ちー!!)」
それは、赤外線輻射を利用した熱量の発生。界刺は押花の周囲にそれを集中輻射することで、即席の熱の壁を作り出したのである。
2人の行動が鈍る。特に、空中にいる勇路はその熱量を避けるために反射的に体を捻ったことでバランスを崩し、一足飛びで押花に到達することができなかった。
「(目が・・・)」
「(見えねえ!!)」
界刺の攻撃はまだ終わらない。勇路と荒我の目に入る可視光線を全て“黒色”に変換したのである。失明状態に陥る勇路と荒我。
もちろん当事者以外の者には勇路と荒我の身に何が起きているかは知る由も無い。
「~~が・・・」
筋肉痛に苦しみながらも何とか活路を開いた界刺は熱の壁を解除し、押花に突っ込む。
これは、界刺の勝利か。当事者以外の者達がそう判断しかけた刹那、
「まだ、勝負は終わってなんかいない!!!」
「諦めてたまるかよ!!クソが!!!」
「!?」
失明状態に陥りながらも勝負を諦めない勇路と荒我は無我夢中に前方に突っ込む。
失明状態に陥る前の段階で押花の位置は大体わかっている。目が見えない状態では正確には突っ込めないだろうが、そんなことはどうでもいい。
勇路と荒我の頭の中にあるのは、ただ勝利の二文字のみである。
「こ~ろ~」
その迫力に押されて界刺は思わず唾を飲み込む。果たして逃げ切れるのか?その時!!
「グアッ!!」
無理をして動かしていたふくらはぎをここにきてつってしまった界刺。その痛みに耐えれずに前方に転がってしまう。
「ギヒッ!!」
突如背中から痛みが発生した荒我。どうやら『荒我スペシャルその2』発動時に梯に背中を踏み台にされた反動が、ここにきて荒我を襲ったようだ。
「グヒュ!!」
そんな荒我にぶつかってしまう勇路。未だ失明状態にあるため、前方の確認などできるわけも無い。そして、
「な、ぎゃああああ!!!」
勢いそのままに荒我ごと界刺に突っ込む勇路。それだけ勇路の力が並外れているというわけか。そして・・・
「ん~~だグハッ!!!」
そのまま押花に突っ込む3人。哀れ押花は3人と壁の挟み撃ち状態となり、気絶してしまった。もちろん突っ込んだ側の3人も気絶している。
その衝撃により砂埃が立つ中、審判である寒村が判定を下すために押花達に近寄る。
静寂が訪れる。そして・・・
「判定!!勇路、荒我、界刺は同着である!!!よって、この勝負!!結果は引き分けとする!!!」
「「「「ええええええ!!!」」」」
寒村の判定に驚く女性陣。
「ちょっと、ちょっと!?それじゃあ、私達の同行の件はどうなるのよ!!?」
「それは・・・結果が引き分けならば全員が勝者であるからして・・・む!?こら、来てはいかん!!」
「え?何言って・・・・・・キャアアアアアアアアア!!!!!」
「「苧環!?」」
「苧環様!!?」
寒村の判定に不服な苧環が寒村に近寄る。それに気付いた寒村が苧環に警告を出すも、時は既に遅し。
苧環の叫び声がグラウンド中に響き渡る。驚く月ノ宮、一厘、形製が苧環に近寄っていく。
「「「キャアアアアアアアアア!!!!!」」」
「・・・だから近寄ってはいかんと忠告したであろうに」
苧環と同じように叫び声をあげる月ノ宮達。嘆息する寒村。その原因は・・・
「な、な、何でこの男は全裸になっているの!!?」
気絶しているある男―勇路―が全裸状態で気絶していたのだ。つまりはだ・・・苧環達女性陣は勇路のキ(以下自粛)。
ちなみに勇路の下には荒我や界刺が下敷きになって気絶していた。
その甚大な衝撃の中からいち早く正常に戻った苧環が寒村に大声で問い質す。
「何故?それは、勇路が『成瀬台の裸王』だからに決まっておる!!」
「ら、裸王?」
「そう、奴は事あるごとに全裸になってしまうのだ!!そのおかげで解決した事件も数多い!!」
「全裸になって解決する事件ってあるの!!?」
「あるとも!!結構前にも奴が自分の着ていた服で止血処置を施したために、救われた命があったぞ!!」
「それって、あの男が全裸にならないとできなかったことなの!!?」
「ハハハ!!顔が真っ赤になっているぞ!!だらしがない!!」
「誰だって異性の全裸を見たら顔が赤くなるわよ!!」
「まあとにかくだ。勇路は何かある度に最終的にはあのように全裸になる。無論風紀委員として活動する時もだ。
貴殿等も我らと行動を共にするというのなら、勇路の全裸をその目にすることは避けられんぞ?
結果が引き分けである以上、そちらの金髪の女子の言う通り、貴殿等の同行は認めざるを得んからな」
「・・・・・・・・・」
苧環の怒涛のツッコミを受け流した寒村は、改めて同行予定者に注意を喚起する。主に性別面の。
「ただでさえ、今回の相手は武装した集団だ。そのようなことに一々気が散ってしまうようでは、命の保障はし兼ねるぞ?それにだな・・・」
「・・・いえ、私と月ノ宮の同行は見送るわ。但し、『シンボル』の2人に関しては取り決めの通り同行させて頂戴」
「む?・・・それで良いのか?」
「苧環様!?」
苧環の口から出た思わぬ言葉に驚く寒村と月ノ宮。それは、言葉を発しなかった一厘と形製も心中では疑問を浮かべた。
周囲の疑問や視線を受けた苧環は、顔を真っ赤にしながら同行取り下げの理由を口に出す。
「・・・・・・だって、あんなモノを再び見せられる場所に私や月ノ宮が行けるわけないでしょ!!教育上!!!」
「「「「あ~~」」」」
それは、誰もが納得できる単純明快な理由であった。
「こらっ!起きなさい!!
界刺得世!!」
「・・・う~ん。やめてくれ~。筋肉の怪物が~。むにゃむにゃ」
「いつまで寝惚けているの!?さっさと起きなさい!!ボコッ!!」
「グハッ!?・・・。え?な、何!?」
「苧環様!?」
絶賛気絶中の界刺の傍までやって来た苧環は、その勢いのまま界刺の胸倉を掴み上げ、腹に拳を一発ブチ込み、界刺を無理矢理叩き起こす。
「今回の件・・・月ノ宮を襲った者達への掣肘は・・・・・・あなたに任せるわ!!」
「グッ、グエ~。苦しい。腹も痛ぇ~」
「こんな、こんな男に委ねなければならないなんて・・・屈辱だわ」
「苧環!少し落ち着きなよ」
ヒートアップしている苧環を宥める一厘。声を掛けられたことで自分の行動に今更のように気が付いた苧環は界刺の胸倉から手を離す。
「界刺様。大丈夫ですか?」
「ゴホッ、ゴホッ。あ~、死ぬかと思った。ってか、今日の俺の運勢ってどうなってんのよ~?ツイてないにも程があるぜ・・・」
「・・・ごめんなさい。少し気が昂ぶっていたわ」
絞めを解かれた界刺は、地面にへたり込む。完全に疲労困憊グロッキー状態である。
首を絞めるような行動を取ったことについて謝る苧環。
しかし、そんな苧環の気を逆撫でするように、あるいは苧環を試すかのように、ようやく落ち着いた界刺は口を開き始める。
「ハァ~・・・何か勘違いしているみたいだけど、俺は別にそのお嬢さんに乱暴を働こうとした連中を掣肘するなんて一言も言ってないぜ?」
「は!?それはどういう・・・!?」
「俺がバカ形製に取り付けられた約束は2つ。1つは『服を台無しにした今回の黒幕共に対してけじめを付けろ』。そして、もう1つは『風紀委員が提案するゲームに勝利しろ』。
わかる?俺はそのお嬢さんのために黒幕共を掣肘しろなんて約束は、そもそもしていないんだよ」
「だって!形製はあなたたちに『任せろ』と・・・」
「確かにそんなことを言っていたねえ。でもさ、それは君の選択だろ?俺や真刺の選択じゃ無い。
んふっ、仮に『任せろ』が俺や真刺に掛かっていたとしても、どうするかってのは俺等次第だろ?」
地面に胡坐をかき、手に顎を乗せながら人を不愉快にさせるような胡散臭い笑みを浮かべる界刺。その態度が苧環を苛立たせる。
「あなたなら・・・あなたなら今回の件を解決できるんじゃないの!?」
「えっ、誰がそんなこと言ったの?無理無理。俺1人でどうしろっての?そもそも、俺は君のようなバリバリ戦闘できるタイプじゃ無いし」
あっけらかんと役立たずぶりを告白する界刺。苧環にはそんな界刺の言動が理解できなかった。何故そこまで己の無力ぶりをアピールできるのか。
「・・・やっぱり・・・私自らの手で掣肘を下すしかないようね」
先程風紀委員達に告げた不参加の言葉を取り下げる意思を固めた苧環。そこに、
「え、君が?んふふっ、そりゃ無理だろ」
「・・・!!あなた・・・私を侮辱するつもり!!?」
「ちょっと、苧環!!落ち着いて!!界刺・・・さんも、どういうつもり!?」
嘲弄とも取れる界刺の言葉と笑い声に、ついに激昂する苧環。思わず一厘が間に入ったが、苧環の怒りは収まる気配は無い。
しかし、界刺はそんな苧環の怒りさえ意に介さない。
「いや、侮辱するつもりなんて更々無いよ。確かに俺なんかより君が行った方が戦闘では役に立つかもね」
「だったら!!」
「でもね、仮に君が俺より強かったとして・・・それがどうしたんだい?」
「!!」
「俺や君1人が行って、暴れて、それで何が解決すんの?どっかの神様の御業みたいに全てが丸く収まるとでも?有り得ないでしょ?
まさかとは思うけど・・・君、自分の力なら何でも解決できるなんて思ってるんじゃないだろうね?」
「・・・・・・」
苧環は押し黙った。心のどこかではわかっていた。今回の件は自分1人が力を振り回した所で全てを解決することはできないことを。
だから、我慢しようとした。だから、己の無力さを認めようとした。だから、目の前の男に委ねた、委ねようとした。
でも・・・自分の仲間に危害を加えられそうになって・・・自分の力じゃ何も解決できない現実が目の前に立ち塞がって。
その現実という名の“壁”を、己の無力を―『あの時のように』―認めようとは・・・絶対にしたくなかった。
それが、自分の我儘に過ぎないことを十分に認識していても―
苧環華憐は―絶対に譲りたくなかった。
「君も風紀委員の連中や形製に聞いてるんでしょ?今回の事件の全貌を?」
「・・・ええ」
「俺も一応は考えたけどさ、今回の件は個人で解決できるようなモンじゃ無い。」
「・・・」
「でも、俺はそんなに悲観していないんだよねえ。むしろ何とかなると思ってる」
「え?」
思わぬ界刺の一言に苧環は意表を突かれた表情を浮かべる。月ノ宮や一厘も同様に。
「だってさ、役に立つ風紀委員の連中や役に立つかわかんねえ不良連中もやる気満々で動くんだぜ。そこに俺や真刺も加わるんだ。
個人の力じゃどうしようも無くても、アイツ等に任せりゃ何とかなるかもしれないじゃん。
そこにさあ、俺や真刺を含めた全員が力を合わせた日にゃあ、全て丸く収まるかもしれねえじゃん。
まあ、そのやる気にお嬢さんの仕返し分もついでで上乗せしとくよ。勝手にだけど。それでいいだろ?」
「・・・」
「まあ、そう心配しなさんなって。人間の暴力ってのはいずれ世界に潰されるもんだよ。世界の一部・・・そう、人間の手によってね」
それで話は終わりとでも言うかのように、界刺は立ち上がりその場を去ろうとする。そんな界刺に苧環は最後の質問を投げ掛ける。
「あなたは・・・どうして自分の力を誇示しようとしないの?どうして他人の力を簡単に認めることができるの?どうして平然と他人に任せられるの!?」
苧環の質問を受けた界刺は振り返り、胡散臭い笑みを浮かべながらこう答えた。
「んなもん決まってるじゃん。人間だからだよ」
「う、う~ん。」
「あ、気が付いたでやんすか、荒我君」
ようやく気絶から覚醒した荒我に声を掛ける梯。その姿を目に映した荒我は、ゲームの結果を問う。
「利壱か・・・。ゲームはどうなった?確か俺ァ、突っ込んで・・・」
「結果は引き分けに終わったでやんす。そんで、一部を除いてそれぞれの報酬はGETって形に落ち着いたでやんす。
荒我君が欲しがっていた情報は、今武佐君が聞きに行っているでやんすよ」
「・・・そうか」
梯から事情を聞いた荒我は安堵の表情を浮かべる。紆余曲折はあったが、何とか目的のものは手に入った。
だが、これはスタート地点でしか無い。その認識を荒我は改めて確認する。
「荒我兄貴!気が付いたんですか!?」
「あ、武佐君」
必要な情報を風紀委員や形製から手に入れた武佐が荒我達の元へ戻ってきた。
「ああ、今さっきな。んで紫郎。情報の方は」
「はい、バッチリ手に入れました。黒幕のことや集団規模、アジトの居場所も全て」
「そうか・・・」
「後、これは黒幕・・・つまり今回のボス的な奴についてでなんですけど・・・」
「?それがどうした?」
「そいつは
重徳力って奴なんですが・・・どうやらそいつ、荒我兄貴と同じ“対無能力者狩り”みたいなんですよ」
「!!俺や斬山さんと同じ“対無能力者狩り”・・・?」
「ええ。・・・そうみたいです」
「ど、どうするでやんすか、荒我君?」
“対無能力者狩り”。それは、何の罪も無い無能力者達を『正当な報復』という大義名分とその力でもって襲撃を繰り返す能力者を狩る者達。
荒我もその“対無能力者狩り”の1人である。正確には、『救済委員<ジャスティス>』の1人だが。
今回の相手は、言うなれば荒我と同じ同業者。本来は仲間側の存在である重徳力と敵対する構図となっている。
その事実に気付いた荒我はしばらく呆然としていたが、徐々に表情を真剣なものに変えていく。
「・・・それがどうしたってんだよ!!そいつは、重徳力って奴は、実際に俺に牙を向いた。俺だけじゃ無い!成瀬台に通う他の奴等や他校生にまで手を出していやがる!!
ご丁寧に成瀬台の格好までしてコソコソってな。・・・気にいらねえな!!」
「荒我君・・・」
「荒我兄貴・・・」
梯と武佐は、不安を抱いてしまった己を恥じる。もし闘う相手が同業者と荒我が知ってしまったら、荒我は重徳力と闘えなくなるのではないか?
だが、その心配は杞憂であったことにすぐに気付かされる。自分が信じた男は、
荒我拳という男は、そんな弱い男では無い。断じて無い。
「男ならステゴロだろ!!・・・いいぜ、望む所だ。その重徳力って奴に思い知らせてやる!!この俺が男の喧嘩って奴を骨の髄まで刻み付けてやらぁ!!!」
「さて・・・これからが本番だな、寒村」
「ああ・・・フフッ、武者震いがするぞ!!」
今まで武佐から質問攻めを受けていた椎倉が戻ってきた。同じく武佐から質問を受けていた常盤台の金髪の少女とも先程別れた。その椎倉の言葉に反応する寒村。
「しっかしまあ、今回はこちらも多少動き辛いな。初瀬はスマートフォンを失って使いモンにならねえし、速見は追試だ。
俺と押花は後方支援担当だし。世の中ってのはうまくはいかねえもんだ」
「何、そのくらいの障害が無ければ、張り合いが無いと言うものよ!!」
「・・・お前のその反骨心が少し羨ましいよ」
寒村の力強い言葉に少しホッとする椎倉。そこに勇路と押花も合流する。
「椎倉、寒村。今回の汚名は、今回の件を迅速に処理することで返上させてもらうよ」
「期待してるぜ、筋肉コンビ」
「ああ!!共に全力を尽くそうぞ!!」
「椎倉先輩。今回の相手・・・重徳力達が根城にしている廃墟っすけど、ここって他の風紀委員支部の管轄っすよね。連絡入れなくていいんですか?」
「そんなことをしたら、やれ説明だの、やれ会議だのって話になるに決まってんだろ。
こっちは時間も限られているし。それに、今回は風紀委員だけで事に当たるわけじゃねえ。
あそこのエースは、風紀委員以外の奴が風紀委員みたいな行動をすることを極端に嫌ってるしな」
「あ・・・そういえば」
「それにさ・・・女子校の奴とどうやって話をするんだって話だ!!もし合同任務って形になったら、絶対にこっちが頭をヘコヘコ下げなきゃならなくなるぜ!!」
「椎倉先輩・・・何か女子校に嫌な思い出でもあるんすか?常盤台の生徒には普通に応対してたっすよね?」
椎倉の反応に押花は戸惑うが、椎倉は取り合わない。それよりも。
「とにかくだ!こうなった以上、今夜中に全てを終わらせる!!今回は風紀委員外の連中の力も借りる!!
寒村と勇路には現場に急行、奴等と直に応戦してもらう!!俺と押花は、頃合いを見て警備員と共に駆け付ける!!
警備員との交渉はこれから行う以上、現場に駆け付けるまでには想定以上の時間が掛かるかもしれないことは頭に入れておけ!!
そして、これだけは絶対に守れ・・・。絶対に生きて帰って来い!!!以上だ!!!」
「「「了解!!!」」」
交錯する想い、心に立てる思い、重い約束・・・各々の“おもい”が重なり合い、この物語はいよいよ終局へと歩み始める。
continue!!
最終更新:2012年04月18日 20:57