ここは第6学区の一角にある倉庫の中。そこにあるのは・・・地獄(せいさい)の実現。

「ギャアアアアアアァァァァッッッ!!!アアアアアアァァァッッ!!!!」
「オラオラオラ!!!もっと、泣け!!喚け!!叫べ!!この林檎ちゃんをもっと満足させろよぉ!!!」
「アンタみたいな出来損ないに恥をかかされた私の身にもなってみなさい、桜・・・!!」
「心配いりませんよ、春咲桜。静かに・・・受け入れなさい」
「そんな理由で救済委員に・・・あなたは風紀委員にふさわしくない!!よって、これはあなたへの罰です!!」
「ガアアアアアァァァッッ!!!!!アアアアアアァァァッッ!!!!!」

地獄の中心にいるのは・・・春咲桜。今彼女は過激派救済委員から制裁という名の暴力に晒されていた。
春咲の左手首には手錠の片方が繋がれ、もう片方はすぐ傍の鉄柱に繋がれている。
『劣化転送』を用いれば手錠を外すことはできるが、林檎の『音響砲弾』がそれを許さない。
現在春咲は林檎と躯園からは殴打を、刈野からは名前の入っていない焼き印を体に押し付けられている。
着用している風輪学園の制服は既にボロボロで、その隙間からは包帯が見え隠れしている。

「自業自得的な報いって言った所かしら?それにしても・・・琉魅、あなたの『絶対挑発』ってホント便利的な能力よねぇ」
「そりゃ、何たってあたしの自慢の能力だもん。救済委員になった理由や目的を吐かせることくらい造作もないって!」
「・・・にしても、ちょっとやり過ぎじゃねぇか?いくら、今後のためとは言え・・・」
「だからこそ、ここで断固たる制裁を与えねばならない。俺達救済委員のためにな」
「麻鬼の言う通りだ。これは、単なる見せしめじゃ無い。金属操作、それはお前も理解した上で、作戦に参加しているのだろう。
それとも・・・お前も『裏切り者』になりたいか?」
「いや・・・なりたかないけどよ・・・」

麻鬼と雅艶の言葉に強く反論できない金属操作。金属操作自身、春咲が『裏切り者』であるという判断に異論は無い。何せ、現役の風紀委員だからだ。
何時春咲から自分達の情報が他の風紀委員に漏れるかわからない。過去に、風紀委員から犯罪人のレッテルを貼られた金属操作にとっては、春咲の行動は許し難かった。
だが一方で、これ程の制裁を与えるのはやり過ぎではないのか?そう考えてしまう自分がいることも確かなのである。

「羽香奈さん」
「何ですかぁ?七刀さん」
「後程あなたの能力と私の能力を併用して、春咲桜の記憶を“断裁”します。その時はよろしくお願いします」
「OKっす!」

羽香奈と七刀のやり取りを見て、金属操作は制裁を受け続けている春咲に目を向ける。春咲は、制裁の終盤に七刀の『思想断裁』により記憶を消されることになっていた。
それは、自分達救済委員の情報が漏れることを防ぐため。そう、雅艶は言っていたが・・・

「(・・・くそっ!!何だよ、このモヤモヤとした気分はよ!!)」

金属操作の心中に、本人にもわからないモヤモヤが溜まり始めていた。






「カハッ・・・ゴホッ・・・」
「ハァ、ハァ。・・・こんな所かしら。少し休憩しましょうか?」
「賛成~い。躯園姉ちゃん。あたしの手を見てよ。桜を殴り過ぎて赤くなっちゃったよぉ」
「それは・・・血ではないかしら、林檎さん?」

躯園、林檎、刈野による制裁は小休止に入ったようだ。まるで運動後の休憩のような雰囲気を醸し出す3人。
そのすぐ近くに血塗れで倒れているのは・・・春咲桜。何とか意識はあるようだが、その目はもはや焦点が合っていなかった。

「春咲さん。そろそろ“断裁”してもよろしいのですか?」
「・・・まだまだ。こんなもんじゃ足りないわよ、七刀。私が受けた恥辱は・・・こんなもんじゃないんだから!」
「林檎ちゃんもまだ物足りないなぁ。こんな気持ちを味わえちゃうんなら、あたしも救済委員に入ってみようかな~。どうかな、躯園姉ちゃん?」
「あなたなら大丈夫よ、林檎。桜のような出来損ないなんかとじゃあ、話にならないわ。『劣化転送』。私の見立ては正しかった。クズにはお似合いの名前ね、フフッ。
それに引き換え・・・あなたは優秀よ、林檎。『音響砲弾』。いい名前ね。さすがは、私の“唯一の”自慢の妹。愛してるわ」
「ありがとー!!あたしも大好きだよ、躯園姉ちゃん!!」

躯園と林檎のやり取りを、春咲は焦点の合っていない目で見る。あれが、普通の姉妹が描く光景。あれが、普通。
なのに・・・何故自分はこんな目に合っている?何故自分を血を分けた家族は助けてくれない?何故家族の手によって自分は血塗れになっているのか?

「(・・・もう、いいや。全部・・・全部私がいけなかったんだ。こんな、こんな無謀なことをしたから・・・)」

春咲の思考が・・・闇に染まっていく。その色は・・・絶望の色。

「(もう、目を閉じよう。そうすれば・・・あんな光景、見なくて済む。気を失えば・・・痛みも感じない・・・)」

底知れない絶望の深みにその身を沈めて行く。

「(そうだ・・・。もう死んじゃえば・・・こんな思いもしなくて済む。こんな・・・こんなことが続くなら、いっそ・・・)」

春咲は『劣化転送』で近くにあった小石を自分の右手の中に転送した。そして・・・

「(こ、これを・・・私の頭に転送すれば・・・私は死ぬ。・・・それで、いい。だって、私には・・・もう、これしか・・・)」

自殺。この苦しみから逃れられる手段。春咲は、纏まらない思考の中でその手段に手を染めようと・・・


『皆のために責任を取るってんなら・・・“死んで”じゃ無くて“生きて”果たせよ、大馬鹿野郎』


「(!!!)」

その瞬間に、頭の片隅から聞こえて来た言葉。それは、かつて界刺が春咲に言った言葉。


『力を証明したいのなら・・・名誉ある死を遂げた英雄としてじゃ無くて、無様に生き残った凡人として証明してみせろよ、春咲桜・・・!!』


自分の行動に“死んで”では無く“生きて”責任を取れ。力を証明したければ“生きろ”。そう言った、言ってくれた界刺。


『レベルなんてどうでもいいだろ?能力の活用ってのは使用者の腕の見せ所さ。例えば「劣化転送」だって、使う奴次第で幾らでも化ける。俺はそう思うよ』


躯園に切り捨てられた己の『劣化転送』を使う人間次第で幾らでも活用できる。そう、教えてくれた界刺の言葉を思い出し、春咲は小石を握り込んだ右手に力を込める。

「(界刺さん。私は・・・私は・・・あなたを信じてもいいですか?こんな出来損ないの私を・・・いつも見てくれていたあなたを、信じさせてくれますか?)」

小石の転送先は、自分の頭では無く・・・躯園。能力を発動した後に待っている地獄は、春咲にも容易に想像できた。だが・・・

「(最期に・・・私はあなたを信じてみようと思います。“死んだ”じゃ無くて“生きた”私の力を、私自身をあなたに証明するために・・・)」

能力は・・・発動される。






グサッ!!!






躯園は、その時理解できなかった。自分の身に起きた異変を、その瞬間には。
違和感がある。痛みがある。それも、自分の右手から。バンドに覆われた右手から。
だから、バンドを外した。痛みの発生源を見極めるために。急いで。そして、確認する。自分の右手の中心にあったものは・・・小石。
春咲桜の『劣化転送』で躯園の右手に転送された小石。それが、躯園の右手の中にあった。血を噴出しながら。

「アッ、アアッ、アアアアアアァァァッッ!!!!!」
「ど、どうしたの、躯園姉ちゃん!!?」
「春咲さん!?」
「右手から・・・!?は、早く手当てを!!」

躯園は、自分の右手の中に小石があるのを認識した直後に叫び声を挙げる。林檎と七刀は驚き、刈野は躯園の右手から血が噴出しているのを確認し、手当てのために躯園に近付こうとする。

「待て、刈野!!春咲に近付くな!!七刀!林檎!お前達も早く春咲から離れろ!!」
「!?で、でも・・・!?こ、これは・・・!?」

雅艶の指示に困惑する刈野だったが、その意味を理解するのに時間は掛からなかった。

「赤い・・・煙?」
「そうだ・・・。春咲の能力『毒物管理』だ。今奴に近付けばその毒素によってこっちがやられるぞ!!
それに・・・今の春咲は痛みで己の能力をうまくコントロールできていない。あれでは・・・」

躯園の能力『毒物管理』とは、人間にとって有害である物質を沈静化した上で体内に蓄える能力である。
躯園は、戦闘時には自らを傷付けることで傷から噴出した赤黒い煙を空気中に撒き散らし、その有害物質によって攻撃を行うという戦法を採っている。
但し、あくまで沈静化しているだけであり、有害物質への耐性を得る能力では無い。
よって、何らかの理由で沈静化できない―『毒物管理』を行使できない―状況になった場合、躯園は自ら溜め込んだ有害物質に体を苛まれる危険性があるのだ。

「グッ!!!シュコー・・・シュコー・・・」
「よし・・・摘出完了っと」

躯園は常に持っているガスマスクを被り、有害物質が含まれる煙を吸い込まないようにした。
次に、煙の範囲外から峠が『暗室移動』による空間移動で躯園の右手に刺さった小石を摘出する。
その上で刈屋から投げられた包帯等で、傷の手当を行った。

「躯園姉ちゃん・・・」
「上下ちゃん・・・これって」
「えぇ。私と同じ的な能力が行使されたみたいね」
「・・・ということは」

躯園の状態を心配する林檎を余所に、峠達は今起きた現実を認識する。

「えぇ。今ここにいる能力者の中で空間移動系能力者は2人だけ。1人は私。もう1人は・・・」

峠の視線の先にいる者・・・それは、未だ倒れているものの、その目を躯園に向けている少女―春咲桜―であった。

「あの『裏切り者』。まだ、そんな余裕があったなんてね。少し感心したけど・・・お返しよ。有難く受け取りなさい」

そう言った後ポケットに手を突っ込み、その中にあったもの―鉛玉―を『暗室移動』にて転送する。転送先はもちろん・・・






ドンッ!!!






「ギャアアアアアアァァァァッッッ!!!!!」

春咲の右手の中心。くしくも春咲が躯園に対して行使した転送場所と同じ場所を峠は指定し、転送したのだ。

「シュコー・・・ハァ、ハァ。七刀・・・」
「春咲さん。傷は大丈夫・・・」
「これ・・・借りるわよ」
「春咲さん!?」

その様子を見ていた七刀に躯園が近付いて来た。その右手には包帯が巻かれている。煙が出ていない所から見ると、手当ては済んだようだ。

「クハッ!!ウウウゥゥッ!!!」
「このっ・・・このっ・・・このっ・・・」

右手に鉛玉を転送されて苦しみの声を挙げる春咲に躯園が歩み寄る。そして・・・

「このっ・・・出来損ないがああああぁぁぁっっ!!!!!!」






グサリ!!!






「ガアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!!」

躯園は七刀から奪った日本刀を、春咲の右手―鉛玉が転送された中心―に突き刺したのだ。

「このっ!このっ!!このっ!!!この私に・・・クズが何をしたあああぁぁっっ!!!」
「ギャアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!」

突き刺したまま刃を回転させて―抉るかのうように―傷口を広げていく躯園。これにより、峠が転送した鉛玉は外部に出たものの、傷としては更に深いものとなっていく。

「アアアアアアァァァッッ!!!ウアアアアアアァァァッッ!!!」
「クズの分際でっ!!!出来損ないの分際でっ!!!この私に・・・この私にぃ!!!」

躯園による春咲への暴行は、その後5分程続いた。

「ハァッ・・・カハッ・・・」
「ハァ、ハァ・・・」

春咲はもう碌に言葉すら話せない状態になっている。そんな彼女の目に映るのは・・・腕章。

「あなたには・・・この腕章は必要ないわよね?」

それを持つのは刈野。手には発火能力により構成された火の玉があった。

「えっ・・・?」
「ついでに、この趣味の悪いスーツも燃やしてしまいましょうか。見てるだけで気が狂いそうだわ、これ」

それは、風紀委員の腕章。早退する時に支部に置き忘れたので、界刺に返すスーツを入れていた袋の中に入れてしまっていたのだ。

「ま・・・待って・・・。そ、れだけ・・・は・・・」
「何が『待って』よ。ふざけないで。今のあなたに・・・これを付ける資格は無い!!」

春咲の懇願に気を悪くした刈野は躊躇無く、火の玉を腕章に―ついでにスーツにも―ぶつける。

「ああぁぁっ・・・!!!」

燃えて行く。腕章。1分も経たずに、それは炭と化した。

「さすがにスーツの方は時間が掛かるわね」
「刈野・・・。もし火事になったら危ないわ。そのスーツの火は早く消さないと・・・」
「春咲さん?」

丁度半分程燃え尽きていたスーツを春咲は刈野から奪い取る。そして・・・

「火は・・・このクズの体を使って消しましょうか!!!!」
「えっ・・・ガァッ!!!痛い!!熱い!!や、やめてええぇぇぇ!!!!」

燃えているスーツを春咲に叩き込む。何度も。繰り返し。その度に、春咲の体に火傷が刻まれて行く。

「ハァ、ハァ。フフッ。やっと消えたわね。クズにしては上出来かしら?クズにしては。フフッ」
「・・・・・・」
「でも・・・火事になる原因はクズでも取り除かないと・・・ね」
「・・・へっ・・・?アアァ・・・!!や・・・め、て」

スーツ“だったもの”を放り投げた躯園は、春咲のボロボロになった制服―彼女の言う所の火事になる原因―に手を掛ける。
そして・・・引き裂いていく。更なる制裁を加えるために。

「うん?これは・・・文字?」
「あ!!それ、あたしが桜に刻んでやったんだ!!うまいでしょう、躯園姉ちゃん?」

春咲の体を覆うように巻かれていた包帯を引き裂いた先にあったもの。それは、文字。かつて林檎が春咲の体に刻んだ・・・“血文字”。

「・・・えぇ。上手にできているわよ、林檎。さすがは私の妹ね」
「へへ~ん。そうでしょ、そうでしょ!」
「・・・七刀」
「・・・はい。何でしょう、春咲さん?」

春咲の体に刻まれた“血文字”見た躯園は、七刀を呼ぶ。そして、提案する。林檎に負けず劣らずの、否、それ以上の提案を。

「このクズの記憶を消すのよね?」
「はい。私達の情報が漏れることを防ぐために」
「だったら・・・そこに追加して頂戴。このクズが、私達春咲家の人間だという記憶を!!できるわよね!?」
「えぇっ・・・?」

春咲は、最初は躯園の提案をうまく理解できなかった。だが、時間が経つと共に、その言葉が、提案の中身が春咲に染み込んで行く。

「えぇ。もちろん可能ですが・・・本当によろしいのですか?」
「・・・いいわよ。こんなクズと同じ血が流れているというだけで虫唾が走るわ。・・・そうね、他にも追加しましょう。例えば・・・このクズが風紀委員である記憶を!!」
「・・・・・・」
「私達や穏健派の連中の記憶も!!本当の仲間・・・この出来損ないが居る風紀委員の連中の記憶も!!春咲家の記憶も!!
このクズの名前すらも全部消してやればいい!!そうでなければ、私が負ったこの傷の怨みは・・・晴れはしない!!!
但し、『劣化転送』だけは残しておいてよ。私がこのクズに付けた名前なんだから」
「春咲さん・・・」

躯園の頭の中には春咲に対する憎悪しか無かった。それを知った七刀は頷く。

「いいでしょう。春咲さんたっての望みとあらば、この七刀列衣、持てる力の全てをもって、春咲桜の記憶を“断裁”してみせます」
「そう。ありがとう、七刀。・・・あっ!そういえば、あなたの刀・・・まだあのクズの手に刺したままなんだけど・・・」
「問題ありません。私の『思想断裁』は、刃物であれば何でも行使できますので」
「あっ!あたし、カッターナイフ持ってるよ。これ、よかったら使って下さい!」
「これはこれは。ありがとうございます、林檎さん」

躯園の提案を受諾し、林檎からカッターナイフを受け取った七刀は、春咲の腹の上に座り込む。

「羽香奈さん。準備はよろしいですか?」
「・・・うん。早く終わらそうよ。私・・・気分が悪くなって来たよ」
「わかりました。善処します」

『絶対挑発』による記憶の掘り起こし担当の羽香奈の言葉を受け、早々に“断裁”を済ませようと決意する七刀。

「成程・・・これが先程仰られていた“血文字”ですか・・・。フムフム」
「や・・・いや・・・」

制服もスカートも包帯も剥ぎ取られ、また、包帯を巻いていたがために胸の下着を着けておらず、現状はほとんど裸も同然な春咲に刻まれた“血文字”を観察する七刀。そして・・・

「では、私も林檎さんにならって“断裁血文字バージョン”で行きましょうか。文字は・・・『風紀委員失格』とか、『不良風紀委員』とか・・・。
フフッ、これでは刈野さんの仕事を私が奪ってしまったような感じになってしまいますね」

七刀の手に握られたカッターナイフが春咲に近付く。

「せめて、一時でも早く苦しみから解放されるよう努力しますので。では・・・行きます」
「やっ・・・いやっ・・・いやっ・・・いやあああああああぁぁぁぁっっっ!!!!!」

数分後、春咲桜の記憶は・・・“断裁”された。






「さて、最後の仕上げね。刈野。準備はできているの?」
「えぇ。もちろん」

躯園と刈野のやり取りのすぐ近くで、目を虚ろにしてグッタリ倒れている少女がいた。
その身には下半身に着けるボロボロの下着のみ。体は・・・あらゆる傷に覆われていた。
右手には日本刀が刺さったまま、左手は手錠に繋がれている少女は、身動き一つ取れない。否、その力は残っていなかった。
そんな少女を・・・林檎は嬉々と、雅艶・峠・七刀・麻鬼は冷徹に、金属操作・羽香奈は顔をしかめながら眺めていた。
もうすぐ、地獄(せいさい)が終わる。それは、少女にとっての“最後通牒”。

「ほらっ、ちゃんとその目で見なさい!!この出来損ないが!!」
「ぐぅっ・・・」

躯園の足が少女の左頬を踏み付ける。強制的に首を右向きにされた少女は・・・知る。自分に近付いて来る“最後通牒”を。

「情けの1つくらいは掛けてあげるわよぉ、クズ。アンタを殺さないでいてあげる。何故なら、アンタなんかどうせほっといても死ぬような存在だから」

それは、生と引き換えに焼き刻まれる“最後通牒”。その焼き印に描かれた文字は・・・『風紀委員失格』

「アンタは・・・生まれるべきじゃなかった人間。生きている価値が無い人間。この世界に不必要な人間。この世界から・・・いなくなればいい人間」

焼き刻まれる箇所は・・・右腕。そこは、本来風紀委員の腕章が付けられる場所。そこに刻む。二度と風紀委員として生きることができないように。

「じゃあね、出来損ないのクズ。二度と・・・私の前に姿を現さないで頂戴」

“最後通牒”が少女の腕に近付く。少女はもう声も出せない。躯園によって、その焼き刻まれる様を見せ付けられようとする少女の目から涙が零れ落ちた・・・・・・その時!!!






「ウオオオオオオオオォォォォッッッ!!!!!!」

それは、声。それは、男の声。それは、男の叫び声。それは・・・怒りが込められた男の叫び声。

「「!?」」

今まさに少女に“最後通牒”を刻もうとした躯園と刈野が、その作業を中断して振り向く。そこにいたのは・・・己が拳を見せ付けるように仁王立ちする男。
男は少女を見る。少女の体に刻まれた傷を。男は・・・抑え切れない怒りの声を挙げる。

「テメェ等・・・。女1人に大人数で制裁かよ。ふざけんじゃねえぞおおぉぉっ!!!!!」


“救いの手”が存在しなくとも、“自分で立ち上がる足”が存在しなくとも、“己を貫き通す拳”なら、その男―荒我拳―には確かに存在した。

continue!!

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最終更新:2012年05月19日 18:57