「むっ?何だ、こんな時に・・・。得世?」
「どうしたの、不動?」

ターミナルの上空で閨秀達と激戦を繰り広げていた不動の携帯に、界刺からメールが届いた。その文面を見た後に、不動は仮屋の問いに答える。

「・・・成程。穏健派の中で怪我を負った者に対して、見掛けた時でいいから第7学区の病院へ行くように私達からも伝えてくれという得世からのメールだ。
仮屋、お前も知ってるだろう?以前お前に付き合って私達が食あたりを起こした時にお世話になった病院だ」
「あ~、あのカエルみたいな顔しているお医者さんのトコか」

以前『シンボル』全員で食事に行った時のこと。
その店で偶然ながら“5人1組”による大食い大会が開催されているのを知った仮屋が、他のメンバーを巻き込んで無理矢理参加したのである。
その結果、仮屋以外のメンバーが全員食あたり(理由:食べ過ぎ)に掛かり、その時にお世話になったのがカエル顔の医者が居る病院であったのだ。

「しかし・・・そんな暇があるのか・・・」
「うん・・・そうだね」

不動達は嘆息する。現在閨秀達が武器に使うコンテナ等を補充しにこの場を離れているために、この辺りには静寂に包まれていた。
しかし、それがほんの少ししか続かないことを不動達は察していた・・・その時、自分達が居る高さより更に上方から銃声が鳴り響いて来たのである。






「むっ!?あれは・・・!?」
「どうしたでござるか、師匠?」
「鴉?」

同時期、サングラスの望遠機能を用いて戦場把握をしていた折に、ターミナル中心部で七刀が気絶していることに気付いた啄が比較的傷の少ない仲場を救助へ向かわせようとした。
その瞬間、突如上空から聞こえて来た銃声。その発信源を啄がサングラスの望遠機能を用いて確認する。そこに映っていたのは・・・






「オラァッ!!」

無重量空間に囚われた斬山が、閨秀へ向けて発砲した。斬山の存在に気付くのが遅れた閨秀達は、反応が遅れる。



ドン!!ドン!!



放たれた銃弾は2つ。それは、放った方、放たれた方、双方にとって想定外な軌跡を描く。
斬山は、無重量という状況下で自身の体をうまく制御ができないため、最初から銃口を閨秀へは向けず、『軌道修正』を用いて銃弾を曲げることで撃ち抜く腹積もりだった。
しかし、無重量=空気の重さが0であることを斬山は失念していた。
自分が囚われている無重量下では、銃弾は空気の重さの影響を受けないため、銃弾の軌跡は重力下とはそもそも違うのだ。
そのため、『軌道修正』を用いて閨秀を貫く本来の軌道から銃弾がズレてしまったのだ。

「チッ!!」
「(外れた・・・か。危ねぇ・・・!)」

斬山が舌打ちし、閨秀が安堵する。これで、閨秀が圧倒的に有利になった。斬山達無重量空間に巻き込んだ人間に閨秀が念動力を急いで掛けようとした瞬間・・・

「いったーいー!!!!」
「抵部!?おわっ!!?」

閨秀の後背に居た抵部が急に痛みを訴え、暴れてしまったのである。
理由は・・・斬山の放った銃弾。閨秀を狙った本来の軌道から外れたそれ等2発の内、1発が抵部の右脚に掠ったのである。
抵部自身は、自らの体に『物体補強』を掛けていた。本来であれば防げた筈の一撃。それを防げなかった要因は2つある。
1つは、閨秀の掛け声に反応し咄嗟に閨秀に『物体補強』を掛けたため、瞬間的に自身へ掛けていた『物体補強』が弱まったこと。
もう1つは、抵部の未熟さ。彼女は自身の能力を完全には扱い切れておらず、自分の視界から外れる部分においてほんの少し補強が弱くなってしまうという弱点を抱えていた。
今回で言うならば・・・視界に映らない自分の脚。

「キャアアアァァッッ!!!!」
「抵部!!!」

痛みによって自身へ掛けていた『物体補強』をも解いてしまった抵部は、暴れたが故に閨秀の後背から落ちてしまう。
これは、同時に閨秀が自分達に掛けていた(容量節約のために自分と抵部の体回りにしか掛けておらず、加えて動きを制限しないように抵部へ掛ける念動力も弱めていた)『皆無重量』が、
抵部の突然の暴走による自身からの転落という不測の事態により演算が乱れてしまい、無重量空間が消滅してしまったことを意味する。

「うわっ!?」
「お、落ち・・・!!」
「アアアァァァッッ!!」
「くぅ・・・!!」

それは、コンテナごと囚われていた雅艶達を包む無重量空間も同様に。この高さから地面へまともに落下すれば・・・命は無い。

「チィィッッ!!!」

閨秀は、瞬間的に決断する。今、自身を中心とした巨大な無重量空間を発生させれば抵部を難無く助けることはできるが、その場合雅艶達も一緒に巻き込む形になる。
そうなれば、先程のように銃撃による脅威に晒される。それでは、本末転倒。
よって、閨秀は自分だけを包む無重量空間を即座に発生させ、落下する抵部へ猛スピードで向かう。
もちろん、自分が巻き込んだ他の連中は無事では済まない、最悪死ぬ危険性もあったが、閨秀という人間は自分へ危害を加える存在を切り捨てることに一切の迷いは無かった。
真下に浮かぶ光源に落下して行く抵部を追う閨秀。そんな中、



パシュン!!



「なっ!?光源が・・・!?」



戦場を覆っていた光源群が消滅した。これは、光源の発生者である啄鴉の判断。何故なら、彼が目に映した仲間―花多狩菊―のすぐ近くには・・・



「キャアアアアァァァッッ!!!」
「菊!!!」

無重量空間の消滅に伴い落下する花多狩のすぐ近くに、暗闇においては高レベルの空間移動能力を行使できる少女―峠上下―が居たからである。
そして・・・2人の少女は上空からその姿を消した。






「ハァ・・・ハァ・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・」

ここは、ターミナルにあるコンテナ群の一角。そこに、花多狩と峠は重なるように倒れていた。

「ハァ・・・ハァ・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・」

上空からの落下による命の危機を、峠が自身の能力『暗室移動』を用いた空間移動によって何とか回避したのである。花多狩と一緒に。

「ハァ・・・。・・・ねぇ、峠」
「ハァ・・・。・・・何よ?」

重なるように倒れている2人の少女は、お互い顔も近い位置で荒い息を吐いていた。
そして、覆い被さる形になっている少女―花多狩―が下敷きになっている少女―峠上下―へ向けて問いを発する。

「ハァ・・・。何で・・・私を助けてくれたの?」
「・・・そんなこと・・・私の方が知りたい的よ。ハァ・・・」

何故敵である花多狩を助けたのか。それは、助けた当人である峠自身にもわからない。

「・・・嘘。峠は・・・私を仲間だと思ってるから助けた。そうなんでしょ?」
「ハァ・・・ハァ・・・」

否、それはわかっていた。唯、目を背けているだけ。

「ねぇ、峠。あなた・・・昔誰かに裏切られたことがあるの?」
「!!」

花多狩の言葉が、峠の心を揺らす。

「昔・・・例えば風紀委員時代に・・・とか。私は、あなたが元風紀委員なのも、風紀委員を嫌っているのも知ってるけど、その理由までは知らないわ。
ハァ・・・ハァ・・・。あなたが制裁の件について私に知らせてくれなかったのは・・・もしかして裏切りが関係しているの?」
「ハァ・・・ハァ・・・」

花多狩は、峠の言葉を待つ。ひたすら待つ。今尚己が友人と信じる少女の言葉を。そして・・・

「・・・・・・そうよ」

遂に、峠の口から真意が語られる。

「私は・・・私には、絶対に許せない的なことがある。それが・・・裏切りよ。私は・・・風紀委員だった頃に自分が捕まえたスキルアウトに裏切られたことがある。
私は、憎くてあいつ等を捕まえたんじゃ無い。自分の行動を見つめ直して、反省して、真っ当な人間になって欲しくて・・・捕まえたんだ。
それが・・・あいつ等のためになるって信じて。でも・・・あいつ等は、そんな私の思いを裏切った!踏み躙った!!私への逆襲という形で!!!」
「峠・・・」

かつて風紀委員だった頃、峠はとある事件でスキルアウトの一派を現行犯で少年院送りにしたことがあった。
その時は、捕まったスキルアウトも自身の行為について反省の意を表していた。これで、こいつ等もまともになる。そう、当時の峠は思っていた。
だが・・・数ヵ月後、少年院から出所したそのスキルアウト達に峠は逆襲され、深い怪我を負ってしまう。
入院生活を余儀無くされた峠は気付いた。犯罪を犯した人間をいくら取り締まっても、何の反省もしないまま再び出所していく現実に。
風紀委員として頑張って来た自分の行いは、全て無駄だったのだと。そんな現状に峠は絶望し、その結果として風紀委員を止め、その後救済委員となった。
「報復的正義」という峠の信念は、この過去による処が大きい。

「だから・・・私は裏切るという行為が絶対に許せない!絶対に!!風紀委員で味わったあの苦しみを、救済委員(ここ)でも味わいたく無かった!!だから・・・だから・・・!!」
「春咲さんへの制裁に関して私に教えてくれなかった・・・?」
「・・・菊。あなたなら・・・絶対にあいつを庇うと思った。そんなことは無いって。何かの間違いだって!!だから・・・伝えなかった。私は・・・私の思いを優先した。友人よりも!!」
「峠・・・あなた・・・」
「でも・・・あなたの言う通りなのかもしれない。あいつは・・・春咲桜は『裏切り者』なんかじゃ無いのかもしれない。でも・・・だったら・・・私のとった行動の意味って何?
防げたかもしれないあいつへの制裁を、『裏切り者』なんかじゃ無いあいつへの暴力を・・・私は私の“傷”に囚われる余り止めることができなかった!!むしろ、助長してしまった!!
私は・・・あいつを・・・菊を裏切っちゃった・・・。私が一番憎んでる行動を・・・私がしちゃった・・・」
「・・・・・・」
「菊・・・。私はあなたを、あなたの信頼を裏切っちゃったのよ。だから・・・私にはあなたを友とも仲間とも呼ぶ資格は無いの!!
それに気付いたから・・・私はあなたを敵と決め付けた。敵と思い込んだ!!そうすれば、仲間を裏切ったことなんかにはならないから!!初めから敵だったんだから!!
でも・・・でも・・・助けちゃった。敵なのに・・・。そう決めたのに・・・。何でかな、菊?私って・・・私って・・・一体・・・」

峠は、泣く。果てしなく、泣く。自分の本音を零しながら、泣く。それは、誰に対する懺悔なのか。峠は、それをわかっていながら、それでも泣くのを止めることはできなかった。






「それは・・・あなたが私を友人だと、仲間だと今でも思ってくれるからよ」
「菊・・・?」

花多狩は、泣きじゃくる峠を動く右手を使って自分の胸に抱く。

「今のあなたは、裏切ったことに対する罪悪感に満ちている。つまり・・・峠は私や春咲さんを敵と思ってなんかいないのよ。心の底では」
「で、でも・・・」
「でもも何でもないの、このわからず屋め!えいっ!」
「!!痛っ・・・。この状況で普通頭突き的なことをする?」
「うるさい!口答えは許しません」

頭突きをして来た花多狩の目にも、うっすら涙が浮かんでいた。それは、頭突きを仕掛けた痛みによるものか、それとも・・・。

「確かに・・・あなたが春咲さんへ行った全ての行動は許されるものじゃ無いわ。春咲さんが許すって言うのなら話は別だけど」
「菊・・・。でも、私はあいつに・・・」
「『合わせる顔が無い』?そんな意気地無しでどうするの?私の知ってる峠上下という友人は、何時如何なる時もキツイ一言をお見舞いする暴れ馬だったわよ。
友人であるこの私が手綱を握っとかないと、無茶でも何でもする勝気な少女。違う?」
「菊・・・」

友人。そう言ってくれる自分を抱く少女の言葉が、峠の心に優しく染み渡って行く。

「だから・・・ちゃんと春咲さんには面と向かって謝罪するの!さっきも言ったけど、口答えは許さないわよ?そうすれば・・・私はもう何も言わない。
後は、全て春咲さん次第よ。いいわね、私の仲間であり友人の・・・峠上下?」
「・・・・・・!!!」
「それと・・・これは、私のケジメ。峠、あなたの左腕を撃って、本当にごめんなさい。謝って済むとは思わない。でも、謝罪の言葉だけは・・・聞いて頂戴。本当にごめんなさい」

花多狩の言葉に、峠は自分を抱く少女の体を抱き返す。負傷している左腕も一緒に。

「わ、私の方こそ・・・ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!!あいつにも・・・必ず謝る!!絶対に・・・!!
菊・・・。こんな私を・・・こんな私が・・・本当に友達でいいの?あなたなんかの友達で・・・」
「えぇ、いいに決まってるじゃない。あなたは、私の・・・かけがえの無い友達よ、峠」
「・・・わ、私もだよぅ・・・菊ぅ・・・!!!」

その後は、もう言葉にならなかった。2人の少女は、短くも長い刻を乗り越えてようやく分かり合うことができた。
倒れたまま、抱き合いながら、互いに涙を流しながら、友の絆が再び結ばれる。今度はより強固な“モノ”となって。






「ヒュ~。やばかったなぁ。ホントに死ぬかと思った」
「・・・まだ、危機的状況は何も変わっていないと思うが?」
「落下して即死よりはマシだろうがよ!」

夜風が強く吹く中、斬山と雅艶が言葉を交わす。彼等は、今ターミナルに設置されているコンテナクレーンの鉄組みに居る。


『雅艶!!誘導しろ!!』
『!!』


自分達を覆っていた閨秀の無重量空間が消滅した瞬間、斬山は雅艶に声を掛け、その真意にすぐに気付いた雅艶が白杖を斬山に伸ばした。


『あっちだ!!』
『おう!!』


白杖を掴んだ斬山は自分達を『軌道修正』によって落下方向を曲げて行く。その先は、雅艶の『多角透視』によって窮地脱出の切り札として見出された・・・コンテナクレーン。
斬山は、雅艶の指定する場所へ寸分違わず軌道を修正する。そして、コンテナクレーンの鉄組みの隙間に、雅艶が白杖を引っ掛けたのである。

「あの時は、左肩が外れるかと思ったぞ。普段のトレーニングが功を奏したか。お前が落ちていればもっとよかったのだがな」
「うるせぇ。くそっ・・・さっきから(拳が掛けていると思う)携帯が鳴ってるが、この状態じゃ・・・」
「取ってやればいいだろう?この薄情者」
「この状況でそんなことを言うお前の方が薄情者だろうが!」

白杖を鉄組みに引っ掛けている雅艶の腰周りを斬山が両腕で掴んでいるというのが2人の現状である。
よって、斬山が携帯電話に出るために片腕を雅艶から放そうものなら、もう一方の片腕だけでは雅艶を掴みきれずにそのまま落下してしまうのは間違い無しである。

「全く、“宙姫”の横槍が無かったらなぁ・・・今頃は・・・」
「俺の勝ちだったな。命拾いしたな、斬山?」
「ハァ?俺が勝っていたに決まってんだろうが?」

未だ危機的状況から脱していない斬山と雅艶は、それでもあーだこーだ言い合っている。まだまだ余裕がありそうである。

「・・・まぁ、いいや。何か、水差された感じだし、この勝負は次に預けとくぜ、雅艶?」
「・・・別に構わないぞ?・・・斬山」
「あぁ?何だ?」

急に神妙な顔付きになった雅艶に、怪訝な視線を向ける斬山。

「今回の春咲桜への制裁・・・。俺は、それが間違いだとは今も考えていない」
「・・・そうかい」
「だが・・・他のやり方はあった。それも、認めよう。もっと穏便なやり方は・・・あった。選ばなかったがな」
「・・・へぇ~」

斬山の興味深げな視線を無視して、雅艶は会話を続ける。それは、先程の前山との会話から雅艶自身がもう一度考え、捉え直したこと。

「起こした現実は変えられないし、俺はあの『裏切り者』に対して謝罪するつもりも無い。奴が、『裏切り者』であることには変わりないからな。
だが・・・お前や荒我が救済委員を裏切ったというのは・・・それについては取り消そう。確かに、お前達は救済委員を裏切っていない。・・・これについても謝罪する気は無いがな」
「!?な、何でだよ!?そこはきっちり謝るトコじゃ・・・」
「紛らわしい行動を取るから、そういった誤解が生じるのだ。お前達の方こそ、喧嘩を吹っ掛けるのでは無く、もう少しわかりやすい意思表示の方法があったのではないか?どうだ、斬山?」
「ぐっ・・・!!そ、それは・・・!!」
「それは?」

痛い所を突かれて言い淀む斬山を追求しながら、雅艶は考える。確かに斬山の言う通り、『裏切り者』に対する制裁の方法として他の選択肢はあった。
それを選ばなかったのは、ひとえに救済委員の“秩序を守る”ためである。そのために最も有効と判断したのが、あの制裁であった。
その判断について、雅艶は後悔するつもりも無いし、『裏切り者』に対して謝罪するつもりも無い。
だが・・・反省するべき点はあった。『裏切り者』への制裁に反発し、穏健派が決起したことから見ても、今回の選択には多くの反省点が浮かび上がった。
自分は、救済委員における指揮官的役割を背負う中で、“秩序を守る”ということに何時しか固執していたのではないか。
“治安を乱す奴が気に入らない”という理由もあって救済委員になった自分が何時しか執着し、囚われた“モノ”の危うさ。
雅艶は、穏健派との戦闘と斬山との会話の中で、その危うさにようやく気付くことができたのである。

「何て言うかだな・・・。おわっ!!?」
「むっ!?あれは・・・麻鬼?」

言い淀んでいた斬山を狙い、かわされた“剣”を射出したのは・・・過激派救済委員の1人である麻鬼。
どうやら、本来敵対している斬山が雅艶に引っ付いているのを見て、斬山だけを叩き落すために『閃光小針』にて構成した“剣”を放ったようだ。

「どうやら、俺を助けるために来たようだな。助かった」
「おいおい!!俺は全然助かって無ぇんだけど!?もう、俺は『裏切り者』じゃ無ぇんだろう!?
だったら、さっさとあいつに連絡取るなりして俺への攻撃を止めさせろよ!!お前、片腕は自由だろうが!!」
「さぁて・・・どうしたもんか・・・」
「お、お前・・・。ぬおっ!?」

雅艶に文句を言い続けている斬山が見たものは、どこぞの暗殺者みたく(『閃光小針』の能力を使用した)鉄爪を使ってコンテナクレーンをよじ登ってくる無表情の麻鬼の姿であった。
その風貌は・・・恐い。とてつもなく・・・恐い。

「な、何だ、アイツ!?すっげぇ恐ぇんだけど!?シュールな笑いでも誘ってんのか、あれ!?」
「失礼な。あれが、何時もの麻鬼だ。ふぅ、これで何とかなったな。よかった、よかった」
「よくねぇよ!!!・・・ぎゃっ!?また、俺を狙い撃ちして来やがった!!助けてくれぇ、拳!!!」

その後、麻鬼に雅艶が事情を説明したこともあり、斬山は事無きを得た。雅艶、麻鬼はターミナルの状況を『多角透視』でもう一度確認した後に、速やかにターミナルを脱出した。
一方斬山は、直後に荒我達と連絡を取り、合流後焔火の負傷具合を確認し、焔火を病院へ連れて行くためにターミナルを離れたのであった。






時は少し遡る。啄の判断で消滅した光源がまだ光り輝く頃、2人の『姉妹』が戦闘を行っていた。その2人とは・・・春咲桜と春咲躯園

「どうしたの~、桜ぁ!!結局は逃げるしか能が無いの!?そんなんで、よくこの私に刃向かう気になれたわねぇ?」

躯園は、その手に拳銃を持ちながら悠然と歩を進める。その姿を、春咲はコンテナの角から確認する。

「くっ・・・」

度重なる暴力によって、春咲の体は既に満身創痍。本来であれば、立つことも碌に叶わない惨状である。春咲は、気力だけでこの戦闘に望んでいるのだ。

「やっぱりぃ、アンタの『劣化転送』は役に立たないようね。フッ、私の見立ては正しかったってことが証明されてるわねぇ、今の状況って」

躯園が言葉として放つ、己の能力に対する嘲笑。それを、転送するための小石を左手に握り込む春咲は・・・否定することができない。
それは、春咲桜の能力―能力の内容から躯園が名付けた―『劣化転送』の弱点。

「(“静止”・・・。“静止”してくれないと、発動できない・・・!!)」


“静止”というキーワードが意味するもの。春咲桜の能力『劣化転送』に隠された秘密が―今明かされる。

continue!!

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最終更新:2013年05月31日 23:59