今一抹の不安を感じたでしょ?
それ間違ってないから
しかも六つ子
こんな顔が六つもあって いいの?
あ また会った
知らないふりですか
だよね 僕みたいなゴミは覚えてないか
多分これで六度目だよ
兄弟みんなについてきただけ
僕がみんなで 僕たちが僕
そう 僕ら六つ子
君たちも六つ子…? フフッ…
◇ ◇ ◇
「…これでよしっ、と」
「どっか行くのか?チョロ松」
松野家の居間で、六つ子の三男・チョロ松が外出の用意を整えてリュックを背負い立ち上がったのを疑問に思い、長男のおそ松が問う。
「最近アイドルがデビューして、その子が結構かわいくってさ。今からライブ観に行く」
どうやら中にはそのアイドルに合わせたペンライト等のアイドルオタク御用達の道具が入っているらしい。
よく見てみると、他の兄弟も外出のための服装に身を固めていた。
「カラ松は?」
「…俺か?フッ、俺はこれから暁の水平線へ愛を叫び――」
「トッティは?」
おそ松はカラ松をスルーし、言い終わる前に兄弟の中でもオシャレな服装に身を固めている末男のトド松へ視線が移る。
「用事」
「…何の?」
「やだなぁおそ松兄さん、ただの用事だって」
トド松は愛想笑いを浮かべるが何のために出かけるのかは答えない。
服装からして、また女の子と外出してくるのだろう。
「十四松は?」
「川でスキューバベースボールッ!!」
五男の十四松はいつもどおりだ。
「一松は?」
「……」
「一松ー?」
おそ松が目を向けた先には、四男の一松が一匹の猫と向き合ってうずくまっていた。
松野家のおそ松兄弟は、一卵性の六つ子である。
それゆえに全員が同じ顔で子供の頃は誰にも見分けが付かなかったが、二十代前半の無職に成長して各々がそれなりに見分けがつくようになっている。
一松はいつも目が座っており、髪を手入れしていないからかボサボサだ。背は猫のように曲がっており、兄弟の中では一際卑屈な印象がある。
おそ松の呼びかけに、一松は一拍子おいて、返事をした。
「俺は…コイツとじっとしてる」
「ニャア~」
「そっか、んじゃ俺も散歩行ってくるから、留守番よろしくー」
「……」
おそ松の言葉を皮切りに、一松以外の兄弟は皆出ていく。
そして居間にいるのは一松一人と猫一匹だけになった。
「――くはぁ~~っ。やっとごろごろできるぅー」
否、一松と猫の他にもう一人、松野家の居間にいた。
居間のど真ん中で霊体化を解いて床の上でローラーのようにごろごろと寝転がって動いている少女だ。
明るい茶髪のロングヘアーで、赤のアンダーリム眼鏡をかけている。
少女は一松の後ろに来ると移動をやめ、溶けた氷のように仰向けになって呆ける。
これでも一応一松のサーヴァントなのだが、まるでやる気がなさそうに見える。
シップのサーヴァントとなって一松の元に召喚されたサーヴァントの真名は、『望月』。
睦月型の十一番艦が人の姿を借りて現界したサーヴァントだ。
「……」
「……」
「ニャー」
「……」
「……」
「ニャアアー」
一松は猫じゃらしを片手に猫と遊んでいる。
猫は一松の持つ猫じゃらしに夢中で、時折前足で猫じゃらしを取ろうと前に突きだすも前足は虚しく空を切った。
その様子を、一松は眉一つ動かさずに見つめている。
「ねえ一松~」
寝ころんでいた望月がむくりと上体を起こし、一松の背中に話しかけた。
「……」
「あたしさー、もう兄弟にあたしのことバラしちゃってもいいと思うんだ」
「……」
「そりゃ聖杯戦争なんだし、NPCにバラすのは流石にマズいと思うよ?」
「……」
「でも、一松の兄弟の前でいちいち霊体化するのってすげぇ面倒なんだよね。床でゴロゴロしてぼーっとすることもできねぇし」
「……」
「だからさ、いっそのこと皆に言っちゃおうよ。その方があたしも楽だし」
「……」
「もしもーし。聞こえてるー?」
望月の申し出に対し、一松は全くの無反応だった。
ただこの部屋にいるのは自分と猫しかいないと錯覚しているように、曲がった背だけが望月の目に映る。
「ねぇいーちーまーつー。聞いてるんだけど」
流石の望月も少し頭に来たようで、一松の肩をトントンと叩きながら返答を迫る。
「――から」
「んー?」
一松が望月の方へ振り向いて口を開いた。
その顔はどこか鬱陶しそうで、あまり自分に話しかけないでくれと暗に訴えているようだった。
「他の兄弟に女がいるって知られたら、もっとマズいから」
「女ってあたしのことだよね?なんで?」
「…どんなことされるか分かったもんじゃないし」
かつてトッティことトド松が自分を嘘で塗り固めた上に兄弟を出し抜いてスタバァの店員と合コンへ行こうとして、とんでもなくキツイ制裁を受けたことがある。
松野家の六つ子の中で一人だけ彼女を作って抜け駆けしようものなら他の兄弟からちょっかい以上のことをされて大抵は碌な目に合わない。
いきなり一松が望月を兄弟に紹介して『この子、うちで飼うことにしたから』なんていえばどんなことになるか想像に難くない。
「…それに、シップみたいな子供連れ込んでるなんて知れたら、どんな目で見られるか」
「あたしが子供ぉ?こんななりでも一松よりかは相当年上だよー。何せ生まれたの戦時中だし」
「いや、あいつらお前がサーヴァントだってわからないから」
また、望月はサーヴァントとはいえ現代の小学生と全く変わらない幼い体格をしており、そんなことが兄弟に知られれば自分の立場が相当危うい。
そもそも聖杯戦争において、NPCにサーヴァントの存在を明かすなど聖杯戦争以前の問題なのだが。
「聖杯戦争っていうけどさー。こうやって家に閉じこもって平和だと実感わかないよね」
一松はこの世界で記憶を取り戻してからはこうして家に閉じこもり、まさに引きこもりの状態だ。
望月が傍にいるものの、今もこうしてだらけ切った毎日を二人して過ごすばかりで、戦争とはかけ離れたニート生活を送っている。
聖杯戦争のマスターであることを自覚してもそこまで取り乱すことはなく、なんとなく日々を過ごしているだけだった。
「……」
「一松がこの家に閉じこもったままってんならそれでいいよ、あたしもせっかく第二の生を得たんだからのんびり過ごしたいし」
「……」
「まあでも一松が戦えってんなら守ったげる。一応サーヴァントだから」
「……」
「とりあえず今は、動くとしんどいから。ぼーっとしてよ?いいって、平気平気、なんとかなるって」
そう言って望月は再び横になり、寝息を立て始めた。
「聖杯戦争…」
一松は虚空を仰いで自身が参加している戦争の名前を口にする。
いつしか猫じゃらしを傍に置き、猫と遊んでいることを忘れていた。
「僕には関係ないね」
聖杯に興味はない。戦争をするならよそでやってほしいというのが、松野一松の思うところだ。
しかし一松は、聖杯なんていらないからここを脱出するだとか、聖杯を破壊するために動くみたいな仰々しい方針は掲げていない。
つまるところ、一松は単に「やる気」がないのだ。戦う気どころか動く気すらないのだ。
それはある種の現実逃避ともいえる。
「僕みたいなゴミが死んで悲しむ人なんているのかな」
自虐的な薄笑いを浮かべて、一松も横になる。
取り戻した記憶の中には、マスター以外の人間は再現されたNPCであるという記憶も、もちろん入っていた。
おそ松、チョロ松、十四松、トド松。
いつも自分の傍にいる兄弟がNPC――つまり偽物であることを想うと、一松は少し寂しくなった。
◇ ◇ ◇
ん? …ぁあ、睦月型十一番艦望月でーす
いろいろと忙しかったよー
何が忙しいかは言うのめんどくせぇー
姉妹はなんと12人
月関係の名前が12個なんて ややこしいよねぇ
おぉー また会ったねぇ
え 違うの?
なーんだ 服が似てるだけの兄弟かよ
実はこのやりとり12回目なんだよねー マジだりぃー
まぁいっか~ あたし達姉妹も12人だし
あたしがあいつであたし達があたし
へー アンタ達も12人いるんだ やるじゃん
【クラス】
シップ
【真名】
望月@艦隊これくしょん
【パラメータ】
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力E 幸運E 宝具E
【属性】
秩序・中庸
【クラス別スキル】
砲撃:E
軍艦としての砲撃性能。持ち前の艤装で砲撃をすることができるが、燃費はいい反面その火力は低い。
索敵:E
軍艦としての索敵性能。判定に成功すると命中回避を上げることができる。
【保有スキル】
艦娘(駆逐艦):D
実在の艦船が擬人化されて現界した英霊であることを示すスキル。
水上での戦闘を得意とし、水上の戦闘ではパラメータが上昇する。
また、駆逐艦は素早く小回りが利き、敵が知らぬうちに肉薄して攻撃を仕掛ける夜戦を得意としたため、
夜間の戦闘においては、Dランク相当の気配遮断スキルを得る他、攻撃の命中率が増加する。
ただし、シップの属する睦月型は旧型の駆逐艦であったため、パラメータは他のシップクラスに該当する英霊と比べると格段に低くなっている。
自己修復:A
魔力や戦闘で受けた傷を回復する能力。
シップは軍艦として、燃料や鋼材といった資材を摂取することで補給及び修理をすることができる。
シップは何度も修理を繰り返しながら輸送任務に従事したという逸話があるため、比較的少ない資材ですぐに傷を癒せる。
輸送:A
トランスポート能力。
物を目的地まで運ぶ、あるいは人と目的地まで同行する場合、
情報量に応じて敵の能力や行動パターンを予測し、目的地までの安全なルートを選ぶことができる。
対空弱点:B
シップの属していた睦月型は航空攻撃に対して非常に脆弱であり、
戦闘時空中からの攻撃に対し、命中と回避にマイナス補正がかかる。
【宝具】
『61cm三連装魚雷』
ランク:E 種別:対艦宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:1~3人
陳腐化した53cm魚雷の後継として開発された大型の61cm魚雷。
駆逐艦の主力兵装として睦月型に搭載されていたという逸話から、シップの宝具となった。
かの酸素魚雷ほどの火力はないが、それでも優秀な性能を持つ魚雷である。
火力の乏しいシップにとって、唯一敵に決定打を与えうる宝具。
魚雷はマスターの魔力を変換して補充できるが、燃費はかなり良好。
【weapon】
【人物背景】
睦月型駆逐艦11番艦。
史実でかなり忙しく働いていた反動か、いつも気怠そうにしている。
轟沈時の台詞が全艦娘中でもトップクラスのトラウマを生むレベルであることはそこそこ有名。
【サーヴァントとしての願い】
とりあえず一松に従うが、せっかく現界したんだからダラダラと過ごしたい
【マスター】
松野一松@おそ松さん
【マスターとしての願い】
特になし
【weapon】
特になし
【能力・技能】
特になし
【人物背景】
松野家の一卵性六つ子の四男。
マイペースな皮肉屋で、とにかくしれっと毒を吐くことが多い。徹底的に斜に構えた薄暗い雰囲気の人物。
その厭世的言動は、中二病を否定し尽くした末に辿り着くと言われる高二病そのもの。
【方針】
やる気なし
最終更新:2015年12月08日 18:33