天、地、火、水、動植物と次々に生み出した創造神は、それらを支配する存在を作り出さんと最後の作業にとりかかった。
今まで以上の気合いを入れた創造神は、自分の姿に似せた存在、世界の支配者であるヒトを作った。
が、それはあまりにもモデルを美化していると他の神々から嘲笑を受けるほどの出来栄えであり、
それを聞いた創造神は半ギレ涙目で「分かったよ! もっとみっともなくすりゃいいだろバーカ!」と別のヒトを作った。
そちらはまあそれなりの出来栄えで、他の神々がとやかく言うこともなかったという。
最初に作られたヒトが「美少女」、次に作られたヒトが「人間」である。
そのため、おっさんだろうと爺さんだろうと美少女は美しい。美少女は神から過剰な愛を賜った種族なのだ(創世神話より抜粋)
☆マスターサイド☆
どこにでもありそうな風景。なんてことはない街並。見た目普通の人が忙しそうに歩き、車が行き交う。
(家に帰りたい)
何度も思ったが、思っただけで帰れるわけがないのは修学旅行も聖杯戦争も同じだった。
修学旅行なら腹痛を訴えるとか、そういう方法をとることもできた。
だが聖杯戦争で腹痛を訴えたところで人殺し達が喜々として集まってくるだけだ。
自分の願いを叶えるために他人の生命なんて屁とも思っていないような人殺し。
考えるだけで吐きそうになる、というか、さっき吐いた。もう吐き戻すものは胃に残っていない。
現実はクズばかりだったけど、いざファンタジーな場に引っ張りだされてみればもっとクズばかりだった。
ああ、帰りたい。
黒木智子は何度目になるかも分からない思いを心の中で呟き、横目でサーヴァントをちらと見た。
健康的で、しなやかかつ柔らかさを感じさせる太腿。
控えめながらも理想的な曲線によって形作られた胸のふくらみ。
黄金色の髪を二つに分けてピンクのリボンできゅっと縛り、長々と尻の方まで垂らしている。
(クソ! やっぱこいつカワイイな!)
戦うといえば美少女、美少女といえば戦う。
見た目は小さくてもパンチ一発で戦艦を吹き飛ばしたり、殺人ビームを指先から撃ったりするんだろう。
智子のサーヴァントということになっているらしい少女は、まあ、可愛らしかった。
外見年齢はおおよそ中学生くらい、白人の女の子だが一応日本語は通じるようだ。
口数が多い方ではない、というより自発的にほとんど話そうとしないため、言語能力の程度もよく分からないが。
ただカワイイ。とてもカワイイ。すごくカワイイ。声もカワイイ。そして良い匂いがする。
さりげなく背後をとって匂いを嗅いでみたらフルーツか花かという匂いに脳髄を刺激され、思わず激しく鼻を鳴らした。
振り返ったサーヴァントが不審げに智子を見ていて、ようやく正気に返り、なんとか誤魔化そうと周囲を見回し、
たこ焼きの屋台を見つけ、「ああ、良い匂いがすると思ったらたこ焼きかー」とわざとらしく呟くことで事なきを得た。
ペアとして事に当たるサーヴァントがカワイイということは確かにプラス要素かもしれない。
同時に主人公要素でもあるため、上手くいけば勝ち抜けるかもしれない、くらいには考えなくもない。
だけど、やっぱり嫌だった。今更嫌と言ったところで拒否権が無いことは教えられているが、嫌な物は嫌だ。
良い匂いのするカワイイ女の子は智子の好むところではあったものの、それも生きていてこそである。
死んだら終わり。アニメも漫画もゲームも楽しむことはできなくなる。
どうにか死の瞬間に気合いを入れることで霊体として第二の人生(?)を歩むことはできないものか……?
そんなことを考えていたせいでサーヴァントの動きに気付くのが遅れた。
サーヴァントはてくてくとたこ焼き屋の屋台に近づき、背負ったリュックサックから財布を取り出した。
「たこ焼き、1箱」
「あいよ」
行った時と同じように、てくてくと戻ってきて、なにもいわず智子にたこ焼きの箱を押しつけた。
「え? これ? 食べていいの?」
少女はなにも言わず頷き、智子は戸惑いながらもたこ焼きの箱を開けた。青のりとソースの香りがぷんと匂った。
智子はサーヴァント……確かクラスは「ファニーヴァンプ」とか言ったはずだ。ファニーヴァンプの少女を改めて眺めた。
今、智子は少女の体臭を堪能するという変態的行為を誤魔化すためにたこ焼きの匂いを持ち出した。
ファニーヴァンプはそれを真に受けて、わざわざ智子のためにたこ焼きを買ってくれた、というとことか。
(こ、こいつ……天使か……!)
見た目だけではなく行動まで天使だったのか、と心が動かされそうになるが、ぐっと耐えた。
優しそうで可愛らしい女の子が実はビッチだったというのはよくあることだ。友人のゆうちゃんもそうだった。
クラス名に「ファニー」なんてものがついてるのもあざとさを感じるし、尻から悪魔のような尻尾が、背中には蝙蝠のような羽が生えている。
これは天使ではない。悪魔だ。どれだけカワイイ外見をしていようと、良い匂いだろうと、聖杯戦争という殺し合いに自ら飛びこんできた人殺しの仲間だ。
クズ度で言うなら知人の小宮山を超えるといってもいいくらいの逸材だ。
騙されるな。油断をするな。そう自分に言い聞かせ、ファニーヴァンプから目を逸らさずじっと見つめた。
カボチャ型のリュックサックによいしょよいしょと財布をしまう姿もやはりカワイイ。
(騙されるな! 騙されるな智子! あいつはロリ美少女に見せかけて実はビッチだ! 抜きゲーでよくいるタイプだ!)
拳を握り、歯を噛み締め、どうにかして耐える、耐える、耐える……と、財布の端からひらりと紙片が落ちた。
ファニーヴァンプはそれに気付くことなく財布をしまい、リュックサックを背負って歩き出した。
智子はさりげなく落ちた紙片を拾い、ファニーヴァンプの後を追いながら名刺サイズの紙に目を落とした。
極彩色で縁取られ「泡姫倶楽部マーメイド」のロゴと「早朝サービス割引券」の文字がプリントされていた。
智子は紙片を見た。その意味するところに気付くまで三十秒を要し、口を押えて声を噛み殺した。
(こいつ……まさかの非処女……いや、ビッチ……違う、ビッチどころじゃねえ! 完全に玄人(プロ)……!)
割引券を見、少女の背中を見、割引券を見、少女の背中を見、何度か繰り返し、やがて智子は割引券をポケットにしまいこんだ。
智子は考える。いったいいくらなんだろう、と。
☆サーヴァントサイド☆
聖杯戦争なるものに狩り出されることとなった。
これを就職というのかどうかは微妙なところだ。金が入るとしても勝者一人のみになるのだから、就職よりはギャンブルが近い。
そういう意味でもあまり本意ではなかったが、まあせっかくだからやってやるか、程度の意気込みはある。
サブリナは吸血であり、死というものに縁遠い。
白木の杭で胸を貫かれようと首を斬り落とされようと反物質爆弾の爆心地にいようと魂そのものを封印されようと、入院する程度で済む。
だが人間となるとそういうわけにもいかないだろう。
サブリナのマスターとして配された少女は、大変に気落ちしているようで肩を落とし涙ぐんでいた。
せっかくだから慰めてあげよう、と思っても咄嗟に気の利いた言葉が出てくるわけではない。
スレた美少女連中相手なら背中を叩いてどやしつけてやるところだが、人間の少女相手に同じことをするわけにはいかないだろう。
そう、人間の少女だ。女子高生だ。プレミア感がある。
歩きながら静かに目を閉じた。瞼に浮かぶのは学生服の少女だ。とても直視する勇気はなく、チラ見するのみだったが、よく覚えている。
まず、スカート丈が長かった。やたらと丈を短くしようとする美少女とは違い、野暮ったいほどのスカートで足を隠している。奥ゆかしい。
潤んだ大きな瞳でじっと見詰められると声が出なくなる。無暗にカラフルな美少女と違い、黒一色の髪はとても新鮮だった。
そして女子高生。なにより女子高生。条例により禁じられている禁忌の存在。
プロの女性以外とお相手したことがないサブリナは話すこともなければ触れることもなかった。
そもそもプロの女性にお相手してもらうことさえ金銭的な問題で割引の利く早朝に限定されていた。
そんなサブリナが、今は女子高生と連れ立って歩いている。
(落ち着け俺……冷静になれ俺……)
目を瞑ったまま数度首を振った。
初対面のおっさんがこんなことを考えていると知られたらめっちゃキモがられる。絶対にそうなる。
あくまでも紳士的に彼女を励まし、守る。それでいい。
下心があるなど論外だ。たとえ誰であろうと優しくするのが真なる美少女。
(なるだけ優しく……さりげなく……そうだ、さりげなくだ……)
さっきたこ焼きを買ってやった時は喜んでいたように見えた。
あれはさりげなかったはずだ。女子高生と仲良くなりたがってるキモいおっさんには見えなかったはず。
後ろを歩くマスターをちらりと見る。黒髪の少女は熱心になにかを見ていた。
なにかを気持ち悪がっていたり、怯えていたり、という感じではない。
サブリナは金色の巻き毛を手に取り、ぎゅっと握り締めた。
戦いに巻きこまれた少女の心細さにつけこんでいるわけでは全くない。
あくまでも守るべき相手を守るという美少女道に則った行為だ。何一つ問題はない。
【クラス】
ファニーヴァンプ
【真名】
サブリナ・ハーグリーヴズ@美少女を嫌いなこれだけの理由
【パラメーター】
筋力C+ 耐久A 敏捷B- 魔力B 幸運D 宝具―(EX)
【属性】
中立/中庸
【クラススキル】
吸血鬼/吸血鬼:A
メイン属性サブ属性ともに吸血鬼という真なる吸血鬼。
動物や霧への形態変化、蝙蝠の使役、治癒能力、魅了の魔眼、飛行能力、同ランクの吸血、戦闘続行といった特殊能力を得る。
だがその圧倒的な力の代償として陽光や聖印、流水、大蒜に弱いという弱点も得てしまう。
美少女:C
種族的美少女である。老若男女問わず美しい少女の姿を持つ。たとえおっさんでも見た目はカワイイ女の子になる。
同ランクのフェロモン、麗しの姫君、魅惑の美声を有し、老化と排泄がなくなる。
人間に対して本能的な保護欲を持ち、たとえ己の生命を守るためであっても攻撃には消極的になる。
【保有スキル】
原初の一:―(EX)
アルテミット・ワン。星からのバックアップで、敵対相手より一段上のスペックになるスキル。
平時は使用不可。自分が恋をしている相手(処女限定)を吸血することで十分間発動する。
【宝具】
「12の始祖」
ランク:―(EX) 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
自身の影を触媒として12体の「実体を持つ影」を生み出し自在に使役する。
1体1体の力は吸血種の真祖に匹敵し、旧支配者を圧倒する戦闘能力を持つ。
この宝具は原初の一を発動している時のみしか使用できない。
【weapon】
日傘。これがあれば日中の行動もオッケー。紫外線はもちろん強力な破壊光線やミサイルを防ぐこともできる。
髪。長さは可変。敵に絡みつけ、血がにじむほど縛り上げることもできる。
【人物背景】
欧州最古の吸血鬼一族ハーグリーヴズ家の末裔であり、メイン属性サブ属性ともに吸血鬼という真なる吸血鬼。
見た目美少女でもパーソナリティーは中年男であり、どこでもいつでもおっさんらしく振る舞う。そこにデリカシーは無い。
攻撃的な女性に対してはそれなりに接するが、相手がおしとやかだったり奥ゆかしかったりすると途端にくじける素人童貞。
あだ名はサブさん。
【サーヴァントの願い】
就職、結婚、そして家庭。
【マスター】
黒木智子@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
【マスターとしての願い】
リア充になる。
【weapon】
なし
【能力・技能】
ぼっち。
【人物背景】
高校生になれば自動的にフラグが立つと思っていたものの、そんなことはなかったソロプレイヤー。
恋人どころか友達さえできず、性格はほぼクズ、気弱で引っ込み思案、傷つきやすくヘタレやすい。
たまに優しいことがあるのではないかと言えなくもない。気にかけてくれる人もそこそこいる。
あだ名はもこっち。
【方針】
サーヴァントとの交流を深めつつ聖杯を狙う。
最終更新:2015年12月08日 18:34