るり、らら。
子供の歌声が響く。
ここは教会だった。
そして少女は、そこで夢見ていた。
少女は恋をしていた。
たとえそれが誤った形であろうとも、それは間違いなく恋心だった。
非凡な才能を有して生まれ落ちた少女は、定められたように最優の英霊を呼んだ。
そして少女は、恋に落ちた。
自分をも含めた、すべてのものを巻き添えに。
すべてのものが彼女のために狂い落ちた。
泥濘んだ地面に空いた大穴が、周囲のあらゆるものを引き込んでいくように。
そして少女は、すべての希望を裏切って無敵だった。
誰も少女を倒せなかった。
それどころか、勝負さえできなかった。
触れれば殺す英霊は彼女に心酔し、明晰なる錬金術師は主との盟約をあっさりと違えた。
そして少女は、無敵のままに最強の剣を振るい続けた。
ある者は快楽の内に絶頂死した。
ある者は彼女の計略で破滅した。
太陽王の神殿が砕け散った。
そして少女は――零と壱の狭間に魅入られた。
気付けば見知らぬ街に立っていた。
この街には父がいて、妹がいた。
だが、少女の目は誤魔化せない。彼女は最初から何も忘れていなかった。
そして少女は、これが聖杯戦争であり、如何なる事情か、自分は本来の戦争を離脱させられ放り込まれたのだと知った。
とんだ迷惑を働いてくれたものだと思う。
どうやら現実世界ではないようだが、肉体を破壊されれば死ぬ、という点で変わりはないらしい。
厄介な話だが、しかし少女は悲観はしなかった。
どうせ生まれるものは同じなのだから、ついでに持って帰ればいいとだけ考えていた。
少女は自分の敗北など、最初から視野にさえ入れていなかった。
無邪気に遊ぶ子供達の声をバックコーラスに、少女はステンドグラス越しの陽気に微睡んでいた。
肌は絹のようにきめ細やかでシミ一つなく、顔の造形などは最早溜息が出そうなほどに美しく整っている。
どこか幼気な雰囲気が付随しているのもまた、男性の心を掴むにはおあつらえ向きといえるだろう。
無防備に微睡む少女の姿を視界へ収めたのは、教会の重い扉を押し開けた一人の青年だった。
幸い今は神父は不在だったが、もしも彼の者が目にしたならば驚いたに違いない。
灰色の頭髪を讃えたその青年は、およそ現代を生きるのにはまず間違いなくそぐわない戦装束に身を包んでいたからだ。
鎧の重厚さは偽物などと微塵も気取らせず、また彼自身の纏う空気もまた、一般人とはどこか一線を画している。
「マスター」
主と呼ばれた少女は、んん、と可愛らしい寝ぼけ声を出した後、眠たげに細められた目を擦って覚醒した。
欠伸をしながら視線を向け、「あら、セイバー」と事も無げに言ってのける。
一見すると危機感を全く持たないマスターであるが、実際に危険などではなかったのだから仕方ない。
彼女を仮に見つけた者があったとして、殺害できた可能性は英霊を伴っていようと低いだろう。
「午睡は構わないが、しかし直に日が落ち始める。今晩はマスターも出るのだろう?」
「……ええ。ありがとう、セイバー……」
未だ眠そうに立ち上がる少女は、セイバーを先導して家路への道を歩み始めた。
その華奢な後ろ姿を霊体化しながら見つめ、セイバーの英霊は疑問を抱いていた。
どこからどう見ても、こうしている彼女は普通の年頃の少女だ。
動作の一つ一つに気品があり、その美貌も相俟って生きる分に苦労はしないだろうが、逸脱したものは感じない。
にも関わらず、彼女の体に循環する魔力の桁は常人とは確実に桁が二つは外れている。
月並みな言葉を、ましてマスターには向ける言葉では絶対になかったが、怪物という呼称が最も正しい次元だと思う。
この偽りの街で行われる聖杯戦争が、本来の様式とは大幅に異なっているらしいことはセイバーも知っていた。
だからイレギュラーな事情を持ったマスターが現れるのは不自然なことではなく、むしろ危惧すべきことである。
だが……それでも、この少女――沙条愛歌という少女にだけは釈然としないものを感じるのだ。
例えようもない、何か。そう、言葉に出来ない『不安』を感じる。
自分にとって最大の味方であるはずなのに、こんな心境になる理由が皆目解らない。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花を地で行き、作り物の妹と戯れる姿は微笑ましいの一言に尽きる。
なのに彼女を見ていると、英霊だとか英雄だとかそういったものを一切無視した本能的な不安に囚われる。
まるで底の見えない深淵を覗いているような――堪えようのない感覚を。
セイバーはかぶりを振って、脳裏へ浮かんだ不安を否定した。
彼女が何を抱えていようと、自分は彼女を勝利へ導くべく召喚されたサーヴァントだ。
ならば戦おう。竜殺しと謳われたこの身がどれほど通用するかは定かではないが、捨てたものでもないと思っている。
英霊ジークフリートは、静かに己の剣を握り締めた。落陽に至りつつある街を、少女と共に歩いていた。
――沙条愛歌にとっての『セイバー』は、『騎士王アーサー・ペンドラゴン』のみである。
彼女は自分の呼んだ英雄に、全く執着を寄せていない。
そしてそのことへ、微塵の疑問も感じていないのだ。
セイバーが違和感の正体へ至れなかったのも無理はない。沙条愛歌は、彼を騙そうとはしていない。だからボロが出るはずもないし、そんなことがあるとすれば、それは彼女の辣腕が振るわれた時だけだ。
沙条愛歌の世界はアーサー・ペンドラゴンで完結している。
最強無敵の怪物王女は電脳の大地においても、変わらず無欠であり、完璧な――『悪』であった。
【クラス】
セイバー
【真名】
ジークフリート@Fate/Apocrypha
【パラメーター】
筋力A 耐久A+ 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具A+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
黄金律:C
人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
金銭には困らぬ人生を約束されている。
仕切り直し:A
窮地から脱出する能力。
不利な状況であっても逃走に専念するのならば、相手がAランク以上の追撃能力を有さない限り逃走は判定なしで成功する。
竜殺し:A
竜の属性を持つ相手に対して特攻、特防の性能を誇る。
【宝具】
『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:500人
竜殺しを為した、呪いの聖剣。
原典である魔剣『グラム』としての属性も持ち、手にした者によって聖剣にも魔剣にも成り得る。
柄に青い宝玉が埋め込まれており、ここに神代の魔力が貯蔵・保管されていて、真名を解放することで大剣を中心とて半円状に拡散する黄昏の剣気を放つ。またグラムと同じく、竜種の血を引く者に対しては追加ダメージを与える。
他の対軍宝具と比べて宝具発動の為に必要なタメが非常に少なく、追撃・連発が可能な特性がある。
『悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 防御対象:1人
背中を除く全身にファヴニールの血を浴びた逸話の具現。
Bランク以下の物理攻撃と魔術を完全に無効化し、更にAランク以上の攻撃でもその威力を大幅に減少させ、Bランク分の防御数値を差し引いたダメージとして計上する。
また正当な英雄による宝具の攻撃の場合はB+相当の防御数値を得る。ただし竜種特攻などの宝具やスキルを所持している場合はプラス分が計上されない。その防御力は赤のランサーの槍撃を受けても微傷程度で済むほど。
但し伝承の通り、背中にある菩薩樹の葉が張り付いていた跡が残っている部分のみ効果は発揮せず、呪いによりその個所を隠すことも出来ない。その上一度背中を負傷すると治癒魔術でも修復は難しい。
【weapon】
宝具。
【人物背景】
ニーベルンゲンの歌に登場する英雄。
ネーデルランドの王子であり、数多の冒険を成し遂げてニーベルンゲン族の財宝を手に入れ、邪悪なる竜ファヴニールを倒して「竜殺し(ドラゴンスレイヤー)」の称号を冠するまでに至った勇者。さらにその倒した竜の血を浴びることで不死身となり無敵の肉体を手に入れた大英雄である。
仕切り直し、竜殺しの二つのスキルは「Grand Order」より。
また、マスターとして最高適性である沙条愛歌に召喚されたことでパラメータが上昇している。
【マスター】
沙条愛歌@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ
【マスターとしての願い】
元の聖杯戦争へ戻る。ついでに聖杯を獲得する
【weapon】
なし
【能力・技能】
魔術回路の量は少ないが、誕生したその時から根源と接続されているためにあらゆる事象を知り、あらゆる全てを認識する機能を有した全知全能状態にある。
系統を問わずあらゆる魔術を極めており、その能力は神代の魔術師さえ超えているとされる。空間移動をはじめとした魔術もお手の物で使いこなすが、「自分の行き着く先」だけは絶対に視ようとも、また知ろうともしない。
【人物背景】
「第一位・熾天使」の階梯を有するマスター。
セイバーに恋慕の情を抱いた事で彼の望み=「故国の救済」を完遂させる為に暗躍し、はぐれサーヴァントであるアサシン、奥多摩山中の戦闘でマスターを陥落させて従えたアーチャー、愛歌の才覚に魅せられ美沙夜を売って自分の元に付いたキャスターを手駒として暗躍の限りを尽くした。ヒロインでありラスボス。
【方針】
他の主従を潰す。手駒も適度に作っておきたい
最終更新:2015年12月08日 01:18