ハァー ハァー
ハァー ハァー
そこは地獄だった。
瞳を真っ赤に染めた人間のような、それでいて人間でないモノ達が夥しく蠢いていた。
整備の尽くされた歩道を。
強固に舗装された車道の上を。
阿鼻叫喚の交差点を。
街中の至る所狭しと走りまわる。
走り回るだけではない。その連中は、逃げ惑う老人、若者、子供、男、女。総てを差別することなく平等に跳びかかり、組み伏せ、噛みつくのだった。
皆、肉食獣の如く異様に発達した犬歯で肩口に、顔に、胸に。勢いのまま思いのまま噛み付く。
噛みつかれたものはこれまた平等に叫び、失禁し、動かなくなる。
しかししばらくすると立ち上がり、同じように跳びかかる。
一秒前までの友達が、恋人が。今日の親友、恋人を襲い、血を吸い、干からびさせる。
この世に神が居ると信じて疑わない宗教家にこの光景を見せるとなんというだろうか。
神など信じぬ現実主義者に見せると何というだろうか。明日もわからぬ若者に見せると何というだろうか。
皆、そこは地獄だったというだろう。こういうのを地獄と言うのだろう。
地獄となった街にまるで天への階段のような、黄金色の門を構えるラグジュアリーホテル。
その上部にあるレストランの窓際の席から無感情に見下ろす男――――――ライダーもこういうのを地獄というのだろうと思った。
「『ヨハネの黙示録』によるとサソリの力を持ったイナゴが現れて神の刻印を持たない人間を刺して苦しめるというが…この状況はまさにそれだな。
イナゴでなく元人間がそれをするってのはなかなかにおぞましいものがあるぜ」
向い合せに座った、血のように赤い瞳を持つ男が薄氷のように冷たく、薄い笑みを浮かべながらそれに答えた。
「進化の過程には痛みを伴う。仕方のないことだよ、これは」
答えた男の名は雅。下で群がる暴徒…吸血鬼の首領である。
まるで舞台劇でも見るかのように、喜々として下を眺める雅とは対照的に、無感情に、ぼーっとしながら、ただただ下を見つめるライダー。
そんなライダーの視線の先の吸血鬼が一人。女を抑え、組付し。嫌がるのを無視して無理やりおっぱじめた。
「進化ね…オレにはどう贔屓目に見たって強姦魔を培養しているようにしか見えないが」
噛まれたショックだろうか、それとも現実に堪えられなかったのだろうか。
女は笑いながら泣き叫び、雄叫びのような悲鳴と共に金色の汁を股から垂れ流した。
「親が聞き分けのない子に教育するように、と見てもらいたいな。
痛かろうが怖かろうが、進化できるのだ。 それ自体は素晴らしいことのはずだし、
こういう宴もマゾヒスト思考の強い人間共にはちょうど良い。」
血を吸い、素早く行為を終えた男が満たされぬ腹を満たそうとする餓鬼のように次の餌を求めて走り去る。
女は女で薬をキメたSEXをしたような、狂気と悦楽でぐちゃぐちゃの顔になって立ち上がって駆け出し、
意趣返しだろうか、それとも快感をを共有させたいのだろうか。人間の男を組み伏せては血を吸って犯し、血を吸っては犯し。
自慰行為を覚えたての少年が毎日それを繰り返すように、狂ったようにそれを繰り返した。
「しかし…日和見主義のクズ共が己の欲望に忠実になっていく様は結構面白いな。
これを見れただけでもあんたに呼ばれた甲斐があったと思う。
何故マスターによばれたのかがわかったように思う」
それを聞き、口の端を釣り上げる雅。
「やはりな、ライダー。人間嫌いなお前なら。
人間とその限界を見限って能力を手に入れたお前なら、きっと気に入ってくれると思っていたよ。」
パチンと指を鳴らす。奥から一礼し、ウェイター風、しかし目の赤い男がワインボトルを持ちながらするすると歩いてきた。
雅の向かいに座るライダーに、目が青く犬歯もない男に舌打ちしながらもグラスに赤ワインをつぐ。
「飲むか?こういう時間には酒がつきものだろう。」
「気が利くな。オレもちょうど渇いていた所だった。」
椅子の背に腕を掛け、脚を組んだライダーが己の崇拝してやまない雅に、まるで後輩を顎で使う先輩のような、偉そうなのようなその物言い。
我慢ならなかったのだろう。ダン、と音がするほどワインボトルを机に叩き付け、ライダーに息も荒くに睨みかかった。
「貴様。雅様に向ってきやすい口を効くんじゃあ…。」
ない。そこまでが言えなかった。
理由はよくわかる。この網タイツのような独特の服を着て。ホテル内だというのにジョッキー風のヘルメットをかぶったこの男が己の口を掴んでいるからだ。
だがなんだこの力は。万力というのも生ぬるい。まるで圧縮プレス機のようなすさまじい握力で、己の頬を掴み持ち上げている。
宙に浮いた足をばたつかせ必死の抵抗を試みるが吸血鬼の力を持ってしても、びくともしない。何をしたくとも歯が立たない。
「おいおい、この国のホテルのウェイターってのは『オモテナシ』の心があるんだろ?
まずは誠意をこめてオーダーを聴く。それが筋ってもんじゃあないのか?」
意識を失ったのだろうか目がグルんと白目をむく。
同時に、吸血鬼の口の端に網目状のひびが入る。そのヒビは裂け目となり、地割れのように口の端が横へ横へと広がっていく。
ズボンが裂ける。尻の方から何やら長い、大きなものが突き出てくる。
そして肌がかさつき、爪が生えた所まで見ると、それはもう明らかに吸血鬼でもヒトでもなかった。
それは見た所大きなトカゲであるように見える。しかしトカゲより力強く、トカゲより大きく、トカゲより鋭い爪と武器を持った太古の生物。
「だから、今一度オーダーを言うぜ。
『行け』。そして『食ってこい』」
いわゆる『恐竜』と言うヤツであった。
「ギャアアアアアアーーーーーーーーーース!!!!」
元ウェイターは窓を突き破り、ホテルの壁面を階段でも降りるかのようにするすると下って行った後。
俊敏に。そして忠実に。吸血鬼を、人を。その群れを見境なく食い荒らし始めた。
「ひいいいいいいいいいいいいいい???!!!」
突如現れた未知の怪物。トカゲ?ワニ?のような生き物に人間も、吸血鬼も同じように困惑し、走り去る。追う元ウェイター。
どちらのものとも、誰のものともつかぬ悲鳴があちらこちらで木霊のように響き渡る。
自身が引き起こしたそれを見ながらも表情は変わらず。ただただ、自らのグラスにワインを注ぎながらこういった。
「チーズの代わりにはならないかもしれないが…いい酒の肴にはなったかな?
あんた、こういうのが大好きなんだろ?」
パチパチ。手を叩きながら喜色満面。
雅は爛々とした輝きをもって地上を見つめていた。
「ああ。人間が泣き叫ぶ所を見るのは大好きだ。
400年かけて私を心底呆れかえらせてくれたのは人間だが、
だからこそ、こういう時の奴らを見るのは実に愉快だよ」
ゆっくりとグラスを回し、顔近づける。よく醸された葡萄の匂いが心地よい、自然と口元が緩み、眼が細まる。
「私の部下が血を吸い、君の部下が肉を喰らう。人間を余す事なく使いきれる。
なあ、我々は結構良い共存生活が築けると思わないか?」
一口流しこむ。よい土、よい水の元で育った芳醇な果実の味。濃厚な香り。
血が舞い、次々と生が終わっていくその光景に赤い酒は実に馴染む。
「否定はしないが…今から仲良し村の生活を想像するとは結構余裕だな、マスター。
地獄を見下ろしながら酒を飲むとそんな気になっちまいたくなるのもわかるが、参加者にも、サーヴァントにもどんなやつが居るのかはわからない。
そこんとこどうなんだ?」
どんな人間にも牙はある。脳はある。意志がある。
過去、取るに足らぬ娘に油断し、その策を見抜けずに死んだ経緯があるからこそ、ライダーは用心深い。
そんな彼の心情を汲み取った上でなお、雅は笑った。
「ふふふ。ライダー。
これは余裕ではない。確信だよ。」
「へえ?」
くいっとワイングラスを口元に傾ける。滴り落ちる鮮血のようなそれをすこし喉に流し込んだ後、ライダーに笑いかける。
「人間がどれほど強かろうと、こちらのほうがより強い。人間がどれだけ多かろうがこちらの方がより多くなれる。
人間が貪欲さがどれほどであろうと、こちらはより貪欲だ。そういうわけで、我々が勝つのだよ。」
――――いけすかない男だ。自身が何か忠告するたびに、自信をもって上から言い返すこの言い方は実に気に入らない。
思想や目的は理解できるし、結構共感もしている。全体的に嫌いではないが、この物言いだけはどうにもいけすかない。
ライダーはそう思ったので、少し、しかし明確な悪意を持っていやがらせをしてみることにした。
「…そーゆーのを余裕って言うんだがな。
人間にもいろいろ武器はあったはずだぜ。なんだっけ…えーっと。ホラ、あの例の薬…」
にやけながら。明後日の方を見ながらわざとらしく質問する。
パリンと砕けた音がした。雅の方へ顔を向けると、その手にグラスは既になく。ワインだか血だかわからない赤い液体がそこから滴っている。
今までの薄氷の笑みとは一転、噴火直前の活火山のような、顔面にはマグマのようなエッジを浮かび上がらせている
「『501ワクチン』」
「あー。確かそんな名前だったかな?
旧日本軍の化学の結晶…だったっけ?」
上から見下ろしたような、まるでこの地球上の生物の頂点に立ったがごとき態度をしている主。
この王を気取り、高い所から見下ろしているようなものいいをするこの男も、一度この話題になると地上に降りて来て憤怒を表す。
ライダーはいけすかないこの男のこういう風なリアクションを見るのが嫌いではなかった。
普段いい気に気取っている分、たまらなく滑稽に思えて笑えてくるのだった。
「そうだ。この科学の力を取り入れた聖杯なら。
旧日本軍の科学の結晶である『501ワクチン』など遥かに凌駕する肉体を必ず与えてくれる。
そしてワクチンを持っている者も、それを作る知能のある人間も残らず始末してくれる。
そのためにお前を呼んだのだ、ライダー。約束を忘れたとは言わせんぞ」
大きな怒りで大地が裂けるように。口の端が顎関節まで届くまでに大きく口を開き。おのが従者をにらみつける雅。
知らぬものが、いや、雅を知るものですら膀胱の扉を閉められなくなるような。
そんな顔を一瞥した後、フンと小気味よく鼻息を鳴らすライダー。
「ワクチンなんかには豆粒一つほどの知識もないしこれっぽっちも興味はないが…
まあ、取引だからな。手伝ってやるよ。」
ぐるぐると。手に持ったグラスを廻しながら、中の液体をぼーっと見つめる。
「フフ…しかし手伝う見返りに『アメリカ』が欲しいとはな。
これはこれはなんとも強欲なサーヴァントを引き当ててしまったものだと思ったよ。
しかも権力の椅子付と聞いたときにはさすがに笑ってしまったぞ、ライダー。」
落ち着いたのか、先ほどの激情はなりを潜めて薄笑いする雅。
回すのにも飽きたのか、ライダーは中味の液体を一気に飲み込んだ。
「わかりやすくていいだろ?オレは人の上に立ちたいから金が欲しいし、権力も欲しい。
生前もいずれは社会の頂点に立つつもりだったし、今回の生でもそうする。
何度死んでも、何回蘇っても、何が何でもそうするぜ。」
あと少しだったんだがな、と呟きながら力強くグラスをもった右手をテーブルに叩き付ける。
一瞬見えた感情を、吸血鬼の首領は見逃さず、しかし諌めることもなく。
ワイングラスを片手に微笑みながら逆撫でした。
「フフ。吸血鬼の私が聴いて呆れるほどに餓えているな、ライダー。
その満たされぬ餓え故に。死してなお満たされぬ渇きが故に。
今もこうして英霊などをやっていているのか?それはそれで哀れだな。」
馬鹿にしたように笑う雅。美しく、しかし研がれた刃のように鋭い目つきで主を睨むライダー。
雅はこの皮肉屋で、しかしプライドが高く焦がすほどの野心をぎらつかせるライダーが嫌いではなかった。
狡猾で、ともすれば自分を食う程の反骨精神のある男など、彼岸島にはとうにいなくなっていたからだ。
それ故にサーヴァントを吸血鬼化出来ないと聞いた時は残念だったが、それもこれからだ。
聖杯の力を持ってすれば、自身の血に神秘性を与えることも容易い筈。
そうすればたとえこの先聖杯戦争があろうとも。あの『蚊』さえいればどんなに優秀な魔術師も。
神話に出てくるようなどれだけ勇猛な過去の英霊も。全て我が同族だ。全て思いのままだ。
「そう睨むなよ、ライダー。これからは楽しもうじゃあないか。
この血に飢えた宴を。聖杯をかけた血の晩餐を。」
「…ああ。とことん楽しませてもらうぜ。
オレがこの世で最高のパワーを手にするために…な」
【CLASS】
ライダー
【真名】
ディエゴ・ブランドー@SBR
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運A 宝具EX
スケアリーモンスターズ発動時
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運A 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
対魔力 E
スケアリーモンスターズ発動時 A+
一億年近い過去の生物を体に宿す。
その神秘性は過去の英霊の比ではない。
種別を問わず、『魔術』に分類される物ではディエゴとスケアリーモンスターズをを害する事は難しい。
騎乗者(ジョッキー) A+++
あらゆる乗り物及び生物を乗りこなし、自身の手足のように扱える。
また、生物ならば恐竜化が可能
【固有スキル】
スタンド使い:A
スタンド使いであるという証。
精神エネルギーを源とするスタンドワーにより、保有する魔力量にボーナス補正がつく。
反面、精神エネルギーが弱り気味なら魔力量にマイナス補正がかかる。
仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
味方がいれば一ランクアップする。
覇者:A
SBRレースを優勝したその証。騎乗時、敏捷にプラス補正がつく。
また、どのような状況においても自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理に長けている。
仲間運:E
その場限りの同盟ならば組みやすくなる。
しかし、過去ディエゴと組んだ者が例外なく酷い目に合った逸話から、
同盟を組んだ味方の幸運が1ランクダウンする
【宝具】
『世界最古の支配者』(スケアリーモンスターズ)
ランク:B 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:
己を恐竜化し、動体視力・肉体・嗅覚などが著しく強化させる。
また、マスター・サーヴァント含む人間・動物には傷つければ恐竜化させることが可能になる。
しかし高ランクの対魔力や聖人の遺体に匹敵する特殊な身体的才能を持っていた場合は恐竜化できない。
恐竜化したものは思考能力、一切の宝具・スキルが失われディエゴに意のままに操られる。
恐竜化はディエゴが死ぬか気絶すれば解除される。また、二次感染も起こらない。
『騎兵は死して世界を制す』(ザ・ワールドイズマイン)
ランク:EX
死んでなお別世界から舞い戻りSBRレースに優勝した逸話から。
任意では使えず、ディエゴ・ブランドーが死ぬことで強制的に発動する一度きりの宝具である。
ディエゴが死んだ瞬間に発動し、別世界の彼が代わりにサーヴァントになる宝具である。
別世界のディエゴは基本性能は同じで記憶も共有しているがスケアリーモンスターズの能力は完全に消える。
代わりに後述の宝具『世界』を保持している
『世界』(ザ・ワールド)
ランク:EX 種別:対界 レンジ:無限 最大捕捉:全宇宙
パワー(筋力)A+ スピード(敏捷)A 精密性B 射程距離:C(10メートル)
全宇宙の時間を5秒止める事ができ、その間はディエゴだけが動ける彼だけの時間となる。時が止まっているのに5秒とはおかしな表現だが、とにかく5秒である。
生前に乱発し、なお疲れも見せない所から宝具となっても魔力消費の燃費は良い。
ただし連発は出来ず、再使用には一呼吸置く必要がある
【weapon】
愛馬・シルバーバレット
【サーヴァントとしての願い】
優勝。雅の世界に行って世界を分けてもらう
【戦術・方針・運用法】
不意を突く、感染させることに長けているため、それを活かした戦術をとる。
ディエゴの恐竜突撃、恐竜化などで不意を突き騎乗からの猛スピードの奇襲で一気に荒らす。あわよくば感染させる。
マスターの雅の不死性と感染力を活かし、マスターに奇襲をかけるのが良し。
吸血鬼化、恐竜化のどちらであろうと成功すれば戦場を引っ掻き回すことができるので是非狙いたい。
反面対魔力と身体能力が高い相手には厳しい戦いを強いられるので、騎乗を使って出来るだけ逃げたい。
『騎兵は死して世界を制す』(ザ・ワールドイズマイン)は一度きりだが、ほぼ確実に不意を突けるため、ここぞという時の運用を心掛けたい
【マスター】
雅@彼岸島
【マスターとしての願い】
501ワクチンをはじめとするあらゆるワクチンに堪え得る体を得る
全世界の人間を吸血鬼化する
【weapon】
鉄扇
【能力・技能】
怪力
吸血鬼の中でも特に力強い。鉄扇の投擲で巨大な邪鬼を容易く仕留めることができる
吸血
血を吸う。吸えば体力を回復できる
再生能力
首をはねられようが何をされようが頭を完全に破壊されない限りは再生可能。
ただしある種のワクチンを使われると再生能力が著しく落ちる
脳波干渉(サイコジャック)
超音波を出し単純な生命体や、精神力の弱い人間なら意のままに操れる
感染
雅の血液を体内に取り込むと感染する。かすり傷や、眼球に一滴入っただけでも感染する。
ただしサーヴァントには神秘性の問題から感染しないし、今回は聖杯の影響からか二次感染はない
【人物背景】
彼岸島及び吸血鬼の首領
元々は土着の吸血鬼だったが、野心から旧日本軍に協力。
強力な吸血鬼アマルガムとなって旧日本軍及び島民を惨、吸血鬼化させる。
現在は本土に多数の吸血鬼ウイルスを持った蚊を放ち、本土の吸血鬼の王として君臨している。
【方針】
優勝を目指す。
基本的に人間とは手を組まないが、人外ならばその限りではない。
最終更新:2015年12月18日 21:40