男が最初に感じたのは形容しがたい、どうしようもない怒りだった。
 目覚めた時には既に聖杯戦争なる見たことも聞いたこともない「戦争」に参加させられていた。

 怒りの一つに、気付かない間に巻き込まれていた己の不甲斐なさがある。
 言葉にはしないが、ヒーローの卵でもあるこの男は「弱さ」を嫌う。
 敬意の感情こそ存在するが、それは己が認めた対象のみに適応され、自分には例外である。


『何処ぞの誰かも解らない敵に、一方的な干渉を受け、挙句の果てに拉致されている自分が許せないのだ』


 之ほどの屈辱が嘗て存在したか。
 何せ男は何も知覚出来ていない。己の限界を超えた先から攻められて、気付かに負けている。
 之ほど情けないと記憶したことはあるか。
 自分が弱い時は認めたくないが、これまでに存在していた。


 怒りに身を任せ、左足を力強く床へ振り下ろし、右腕を後方へ。
 人気のない廃墟に虚しく響く鈍い音はまるで男を嘲笑うかのように。

 この怒りは誰にぶつければい。
 聖杯戦争の主催者或いは首謀者――男に喧嘩を売った存在か。

 嘗て、自分に対し本気で勝負をしなかった――あの男か。


「――――――――――るせぇ」


 嘗ては弱い存在だったが――いつの間にか大きくなり成長の限界を感じさせないあの木偶か。


「うるせええええええええええええええええええ!!」


 突き出された右拳に宿るは、男の中で暴れ狂う怒り。
 個性に変換されて具現化するはこの世総てを焦がす紅蓮の爆炎――爆豪勝己の怒り。

 彼が生命を得た世界では所謂超能力――個性を持つ人間が存在している。
 ある者は透明人間となり、ある者は雷を操り、ある者は万物を創造する。

 その中で爆豪勝己が得た個性がこの爆破である。
 拳から発せられる怒りの一撃はコンクリート製の柱を簡単に破壊してしまう。
 之といったデメリットも存在しないが、お約束と言うべきか力の酷使は己の身体を蝕んでしまうようだ。


 己の個性と性格が一致する彼は前衛向きで、他者を引っ張るような、誰にも頼らない戦闘スタイルである。
 最も聖杯戦争に巻き込まれ、眼が覚めた直後に、怒りに身を任せ、八つ当たりで爆発を引き起こす男だ。

 他者との協調性を感じれられる訳が無いだろう。


「あああああ! イライラさせんじゃねえ――あ?」


 当然だと言うべきか、唯のコンクリート製柱が爆発に耐えられる訳が無い。
 一つの柱が崩れれば、支えられていた物体が落下するのは必然であり、無数の瓦礫が爆豪に降り注ぐことになる。

「もう一発か……あぁ!?」

 異常事態と言えば異常事態ではあるが、爆豪にとってこれ程の瓦礫は何ら問題無い。
 呼吸をするかのように当たり前に対処出来るのだが――状況は一変する。

 爆豪、之まで怒っているだけだが、此処は聖杯戦争の場である。
 つまりマスターとして選定されており、当然のようにサーヴァントが存在するのだ。


 降り注ぐ瓦礫は総て凍らせれている。仕掛け人は爆豪勝己のサーヴァントである。


 霊体状態となり、マスターの近くに待機していた男のサーヴァントはやれやれと謂わんばかりの表情を浮かべている。
 髪の色は蒼であり、見た目から感じる年齢は英霊とはかけ離れており、マスターである爆豪と同年代のようだ。

 何も年齢や見た目だけで英霊の格が知れる訳ではないが、少なくとも威厳さは感じない。

 興が冷めたのか、怒りが収まったのか、氷に冷やされたのか。
 拳を降ろした爆豪は苛立ち混じりに生まれた氷塊を蹴り飛ばすも、当然のようにビクともしない。
 寧ろ蹴った脚に痛みが走り、自分が悪いのだが、更に怒りが高まる。

「お前……今蹴ろうとして自分の脚痛めたな!? バーカ!!」

 サーヴァント――ライダーは爆豪を指さし、腹を抱えながら馬鹿にするように笑う。
 仮にも己のマスターであるのだが、敬意も何も見当たらない。


「令呪だ――テメェは此処で死」


「俺が悪かったから考え直そうぜマスター?」


 ケロッと態度を変えたライダーは冷や汗を浮べながら爆豪と肩を組む。
 それを嫌そうに払うマスター、どうやら令呪は使わないらしく安堵するライダーであった。


 改めて辺りを見渡すと廃墟の空間は大分氷で上書きされており、寒い。
 適当にコンクリートを爆破させ、温度の上昇を図る爆豪の隣でライダーが声を掛ける。


「で、願いは決まったか」

「テメェには絶対に教えねえからな脳内フキバタケ」

「こ、このガキ……」


 聖杯戦争は大前提として優勝――最期まで生き残れば願いを叶える権利を得る。
 故に願いの存在はモチベーションとなり、奇跡に縋る人間にとって大切な要素ではあるが、爆豪は口に出さない。
 或いは決まっていないのだが、仮に決まっていてもライダーに教える気は無いらしい。

 軽い煽りにキレそうになるライダーも、此処は大人である自分が引くべきだと我慢を選択する。
 大人といっても年は離れていなく、英霊としての自覚故の話である。

「願いとか関係ねえし誰かに叶えてもらうモンでもねえよ。気に食わねえ馬鹿を倒すだけだ」

 爆豪の選択は聖杯戦争の黒幕を倒すこと。
 何故の行動かは知らないが、ヒーローを拉致する人間が聖者など考えたくもない。
 集められた人間の中にはヴィランが潜んでいるかもしれない。片っ端から悪を倒す――単純な行動方針。

「……ま、まぁそうだよな……っし! なら気合い入れていくか!」

『誰かに叶えてもらうモンでもねえよ』マスターの言葉がライダーの身体に突き刺さる。
 聖杯戦争とは違えど嘗て似たような宴に参加していた彼には響く言霊である。
 しかし、マスターの選択はサーヴァントの選択であり、間違ったことを言っている訳でもない。


「あ? うるせえぞ……唯でさえ『氷』ってだけでムカつくのによォ」

「何か言ったか爆豪?」

「ンでもねえよッ!!」


 個人的な問題ではるが、嘗て爆豪勝己は氷を操る個性を持った男に勝利を投げ捨てられ完全に敗北した。
 それも全開を引き出せずに、勝手に引導を渡されてしまった。
 その件からか、彼にとって氷とは忌々しいだけの存在であり、関係が無くても気に障ってしまう。

「こえーこえー。ま、俺達は運命共同体だからな。俺が負ければ爆豪も負けるし、爆豪が負ければ俺も負ける――俺は負けねえけどな!」

 怒りに触れてもライダーはマスターを見捨てない。
 何の縁か引き合わされた運命だ、ならば最期まで付き合ってやろうじゃないか。

 ライダーはマスターのために戦う。
 爆豪は答えを見付けられず、己の中に永遠と残る怒りと苛立ちを相手に聖杯戦争に望むことになる。

 こうでもしている間に他の人間が成長しているかもしれない。
 自分は置いて行かれるかもしれない。認めたくない。俺は、誰にも、負けねえ。

 聖杯戦争を開き、関係のない人々を巻き込み、願いを餌に血を演出する悪を見逃す訳にはいかない。

 ならば、こんな時、ヒーローは。


「俺が、ぶっ飛ばす」


 それが多くの人間にとっての憧れ――ヒーローで在るが故に。


「ぶっ飛ばす? おいおい、英霊ってのは別格だから相手にするとマジで死ぬぞ?」


 己の決意を言葉に出し、確固たる信念を改めて実感したところに襲い掛かる空気の読めないライダー。
 読心の術が無いため、仕方がないのだが爆豪の怒りが更に高ぶってしまう。
 これから共に戦う相棒なのだが……馬が合うとは到底思えないのが残念である。

 しかし内に秘める熱き心は両者共に本物であり、口では何とでも言えるが他人のために戦える優しい心を持っている。

 息が揃った時、彼らには世界の声が聞こえることになるだろう。


「うるせえぞ、チビ!」


「あ!? そんな変わらないだろ!!」




【マスター】
 爆豪勝己@僕のヒーローアカデミア


【マスターとしての願い】
 不明。


【weapon】
個性・ヒーローコスチューム


【能力・技能】
 彼の個性は『爆破』。
 掌の汗腺からニトロのような汗を出し爆発させることができる。爆発力は汗の量に比例する。
 推進力としての利用も可能で、目立ったデメリットも無く強力ではあるが、当然負荷はある。
 大前提としてサーヴァントには通用しない。

【人物背景】
 学力・戦力共にトップクラスの不良。
 金髪に赤目の三白眼。自尊心が強く攻撃的な性質で、他者から見下されることを極端に嫌う。
 不良ではあるが、相手の力を認めることもあれば、それを乗り越えるために努力する一面もある。
 なんだかんだ言ってヒーローを目指す男の子である。

【方針】
 黒幕をぶっ飛ばす。
 口では誰とも手を組まないようなことを言うだろうが実際は他の参加者とも協力するつもりはある。
 弱者を守り悪を倒す――ヒーローのように。


【クラス】
 ライダー

【真名】
 碓氷ホロケウ@シャーマンキング

【ステータス】
 筋力C 耐久D 敏捷B 魔力B+ 幸運B 宝具EX

【属性】
 中立・善

【クラススキル】
 対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法を以ってしても、傷つけることは難しい。

 騎乗:C
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせる。

【保有スキル】

 シャーマン:EX
 霊能力を持ち、霊と交流する人間の総称。超・占事略決を体験してるライダーの実力は高い。
 自身も英霊ではあるが、霊の力を借り最大限に引き出すことが出来る。

 魔力憑依(オーバーソウル):A
 魔力を己に纏わせることで能力を上昇させるシャーマンとしての力の一種。
 纏うと一言に表しても、己に憑依させたり、武具に憑依させ新たな具現化をするなど多様である。 

 戦闘続行:B
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

 神性:D
 神と狼の間に生まれた一族の末裔であることから神性を得ている。

 直感:B

【宝具】
『コロロ』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:  最大捕捉:
 フキの下に住む大地の精霊・コロポックル。いつもフキを持ち、非常にかわいらしい姿をしている。趣味はかくれんぼ。それと小さい。
 その能力は空気中の水分を氷結させる。ライダーとは仲良しな彼の持霊である。
 単体でも戦えるが真骨頂は武具にオーバーソウルさせた状態である。
 氷を纏ったスノーボードやイクパスイを操るのがライダーの基本戦闘スタイルである。
 コロロは精霊であるが、実はホロホロが小学生の頃好きだった同級生が本当の姿である。


『スピリット・オブ・レイン』
 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:  最大捕捉:
 神に近いその存在を聖杯戦争で呼び出すことは無いだろう。
 仮に呼び出す時、それは神々級の戦争が巻き起こる非常事態の来訪を意味する。
 有する能力は水流の制御、浸透、溶解現象、冷却、熱交換、雨・津波・渦潮・洪水の発生など、ありとあらゆる水の力。

【weapon】
 スノーボード、イクパスイ

【人物背景】
 北海道から上京してきたアイヌのシャーマン。熱血的で感情的な性格。シャーマンとしての精神の強さは「アイヌの教えからなる弱肉強食と感謝の気持ち」
 熱血な性格でムードメーカーでもあるお調子者。シャーマンファイト本戦序盤では実力不足が目立ったが多くの経験が彼を成長させた。
 渾名はホロホロ。本名を嫌うのは嘗て友達を死なせてしまった弱い男の名前だから。

【サーヴァントとしての願い】
 フキ畑を作る――ことは建前であり、マスターのために戦う。

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最終更新:2015年12月18日 21:40