――深夜。ここは、電脳世界に作られたごくありふれた高校の一つ――その校庭のグラウンドを一人の男がうろついていた。
年は20代半ば程であろうか、辺りの暗さでよくわからないが学生と言うにはそろそろ無理のある顔立ちである。
かと言って、その男はどうやらその学校の教師ではない様子。
男は丹念に校舎の位置や部室棟の場所、監視カメラの確認などを行っていた。
こんな夜更けに管理業者が点検をしているはずもなく、傍から見れば十分不審な行動である。
――そんな男の背後に、突然一つの人影が現れた。

「おい、お前。こんな時間に学校でなにをやっているんだ?
ちょっとこっち向いてみてくれないか、私に顔が見えるようにな」
「……なにかな?」

男はまさかこんな時間に自分以外の人間がいるとは思わなかったのだろう。
男が冷静を保ちつつ振り向くと、そこに居たのは美しい女性――否、年は少女と言った方が適切であろうか――が腕を組んで立っていた。
大きな胸部が強調されるTシャツにジーンスというラフな格好をした少女だが、なぜか夜の校庭というダークな雰囲気が妙に似合っていた。
愉快そうに薄く微笑む少女は、振り向いた男の顔をまじまじと見つめる。
やがて少女は得心が行った様子で軽く頷くと、男に向かって言葉を紡ぎだした。

「なぁ、お前もしかして最近ここらで生徒を襲っている2人組の片割れじゃあないのか?」

少女が言っているのは近頃、この地域の周辺にあるいくつかの高校で何件か起こっている通り魔事件のことだ。
放課後の辺りが暗くなる時間帯に、部活で遅くまで残った生徒が何者かに襲われ死亡するという事件。
一度に複数人襲われるが、同じ高校に2度現れたことは無いという。
この少女――川神百代は、今現在2人が対峙している高校の三年生に在籍している歴とした生徒だ。
幸い未だにこの高校自体に被害者は出ていないが、これまでの傾向から近いうちにターゲットになることは想像に難くない。
百代は自分の高校に被害が出ないよう探っていたのだ。
――そんな時、こうして不審人物が居たのだから疑いたくもなる。
半ば確信めいた百代の問いに、男は急に態度を変えて随分とゆったりとした動作で受け応える。

「……何のことだかわからないな。……僕はここの用務員でね、忘れ物を探しに来たんだ」
「おいおい、流石に嘘が下手すぎるぞ。私だって通っている学校の用務員くらい覚えているさ。お前みたいな奴は見たことが無い。
それに、この事件は警察沙汰になってマスコミも騒いでるんだ、わからないなんてありえないだろ」

ハッタリだった。百代はいちいち用務員の顔なんて覚えていないし、そんな存在がいたのかすら記憶として怪しいものだった。
その上、現状では警察は動いているが、まだ報道はされていない。
百代は十中八九犯人であるという確信があったため、半ば強引に証拠を掴む気でいた。
しかし、そのブラフは案外有効だったのか、男は諦めたように大げさに両手を挙げた。

「やれやれ、降参だ。確かに僕は用務員ではないし、事件のこともよぉーく知ってる」

男の今までのゆったりとした動作が急に普通になり、途端に素直になった。
男の意図が読めず、百代は訝しんだ表情で問う。

「……やけにあっさり認めるんだな。さっきまでの時間稼ぎはもういいのか?」
「何だバレていたのか、そう―――“もう”いいんだ」

――男がそういった瞬間、百代の視界に閃光が走った。

「ぐうっ!」

百代は思わず自分に向かってきた飛来物をガードしようと、左手を翳してしまう。
飛来物が気で堅めた掌を少し貫通すると、百代はガードを諦め右手でそれを横側から殴りつけた。
しかし、飛来物は百代の拳を受けてもなお微動だにせず、そのまま元の軌道を進み続ける。
これ以上の物理的干渉は無意味だと悟った百代は、仕方なしに回避行動に移った――この間0.01秒である。
『超加速』を使い飛来物よりも速く動くことで掌の穴をこれ以上広げないよう後退し、その後小さく右に飛ぶ。
先程まで自分がいた場所に目をやると、そこには深々と一本の槍が突き刺さっていた。

「おーっと、いきなり激しすぎじゃないのか?――まぁこれで犯人は確定した訳だが……
しかも弾けない槍ってなんだ、凄いな。私じゃなかったら死んでたぞ」

――咄嗟のことで思わず“全力で”殴ったにも関わらず、槍は1ミリたりとも動かなかった。
そんな経験は百代にとって初めてのことであり、百代は驚愕と同時に興奮が湧き上がってくるのを感じた。
 百代は既に『瞬間回復』によって塞がった手の感触をぐっぱぐっぱと開閉しながら確かめ、納得したのか男に向き直り臨戦態勢に入った。
 しかし、そんな百代とは裏腹に男は驚愕の表情を浮かべて後ずさりし始める。

「……馬鹿な……貴様、まさか“ルーラー”か? まだ“魂喰い”も数人だってのに……」
「ルーラー? 何だそれ、聞いたこと無いぞ。外人?歌?」
「まだしらばっくれるか……おい!ランサー!」

 突如男から意味不明なことを問われるが、当然百代は知るよしも無い。
 男の発言に百代が戸惑っていると、男が虚空に向かって何か呼びかけた。
 ――すると、その瞬間、男の背後からフッと一人の青年が現れる。
 流石の百代もこれには驚いた。

「んん!? おい、お前今どうやって現れたんだ?」
「……応える必要は無い、貴様はこの後俺が始末するのだからな」

 霊体化によって男の下に戻ってきたランサーは、百代に対してそう言い放った。
 実際、只の人間だと油断していたことは自覚しているが、殺すつもりで投げた槍を難なくいなされれば憤りもするだろう。
 対して百代は相手が幽霊ではないかという不安にかられていた。幽霊は百代の唯一と言っていい弱点なのだ。
 ランサーは百代に宣戦布告を終えると、男に向き直り報告を始める。

「マスター、この女はサーヴァントではなく人間のようです、その上周囲にサーヴァントの気配もありません。
 覚醒前のマスター候補といったところでしょう」
「まぁそんなところだな……奴は十中八九魔術師だ、サーヴァントが現れる前にさっさと潰せ」
「御意」

 男がそう言ってランサーに命令を下すと、ランサーは弾かれた矢のように一直線に百代に向かって行った。
 対する百代は構えたままその場を動かず、ランサーを――正しくはランサーの持っている槍だが――じっと見つめている。

「なぁ、さっきの槍を投げたのってお前か?」
「――そうだ」

 緊張感のない百代の問いに、ランサーは短く答える。
 やがて槍と百代が肉薄した時、百代はするりと見を捻り――そのままランサーに回し蹴りを打ち込んだ。

「そうか、まぁ触れるなら問題ないな」

 ――しかし、回し蹴りがランサーに効いた様子はない。
 トップスピードで突進していたランサーは、人間であれば確実に身体が壊れるであろう無理やりな軌道修正を行う。
 そんなランサーの攻撃が届く前に、百代はランサーの背を蹴って大きく間合いを取った。

「さっきの槍もそうだが、お前、攻撃効いて無いだろ?」
「……まぁいいだろう、冥土の土産だ、教えてやる。
 貴様の攻撃はこれまでも、そしてこれからも俺に届くことはない――神秘が必要なのだ。
 貴様にも、そして科学が蔓延るこの街にも、無縁な代物だ」
「神秘?……なんだオカルトか? そんなもんじじいの毘沙門天くらいしか――じじい?」

 唐突に百代の頭に浮かんだのは巨大な仏像、そして口からでた“じじい”という言葉。
 思い出そうとしてもうまくいかない、なんとも言えない不快感が百代を支配していた。

「んー、なんだこれ?もやもやするぞ……まぁいい!お前を殴ればスッキリするだろ」
「これだけ説明しでもまだわからんとは、馬鹿め――さっさと死ね」

 ランサーの言葉を皮切りに、再び2人は闘争を始める。
 ランサーが突き、百代が避け、百代が殴り、ランサーが反撃する。
 一度の打ち合いが0.1秒程の高速な攻防が、その後五分ほども続いた。
 ――そして、あらかた奥義も出し尽くして瞬間回復はあれど衣服はもうボロボロである百代に対し、ランサーは未だ無傷である。
 しかし、百代は引くわけにも負けるわけにもいかなかった。
 すでにこの5分の打ち合いで、百代は完全に記憶を取り戻している。

(じじいの居ないこの世界で、存分に暴れるのも楽しいかも知れないが――やっぱり一番居心地がいいのは“あの場所だ”)

 百代の脳裏に浮かぶのは、みんなが集まる秘密基地とリュウゼツラン。
 勿論、風間ファミリーだけではなく川神院や学校の友人達も大切な存在だ。

「もう十分だろう、疾く死ね」
「まぁそう焦るな……お前との殴り合いで段々と記憶もクリアになってきたところなんだ。
 こんな攻略法を思いつくくらいにはなっ!――」

 そう言って百代が出したのは『川神流・星砕き』――相手に気で練ったビームのようなものを飛ばす技である。
 すでにランサーはその技を幾度と無く見ており、その表情には呆れが浮かんでいる。
 ランサーはもはや避ける気にすらならなかった。

「その攻撃はもう効かないとわかっているだろう。 最後の悪あがきほど見苦しい物はないぞ」
「さて、それはどうかな」

 視界からビームが切れると、ランサーの周辺視野は遠くに微かな光の尾を捕らえた。

「まさか、2本!?――ッマスター!!」

 自らのマスターに向かって行く光になんとか追いつこうとするも、流石の英霊も光には勝てない。
 ランサーは必死に念話で令呪の使用を呼びかけるが、時は既に遅かった。
 男はなにか起きたのか気づかぬ間に光に打たれ、気を失った。

「命までは取らんさ、もともと通り魔を捕まえに来ただけだからな。いま警察に―――」

 百代がそう言って携帯(なぜか無事だった)を取り出した瞬間――ランサーが目の前で真っ二つに切り裂かれた。

「やあやあ!あなたの完璧で天才なサーヴァント、束さんの参上だよー!
 私のことはインベンターって呼んでね! 」

 真っ二つになったランサーの後ろから出てきたのは、奇妙なウサミミ姿の女性。
 甲高く可愛い声の本人は至って呑気に自己紹介をしているが、光景は酷く恐ろしい物である。

「……お前、さっきからずっと影で見てただろ、白々しい奴だ。
 今更出てきて、勝手に殺して――どういうつもりだ?」
「あれ?気づいてた?霊体化してたのにわかっちゃうんだ~、凄いね。
 まぁ実はマスターがくだらない奴だったら見殺しにして、もっといいマスター探そうと思ってたんだよね~。
 でも、生身で私やちーちゃんよりも強い人間って初めて見たし、“気”だっけ?
 なんか君は面白そうだから、しばらくはマスターにしてあげようと思ってさ!
 あと、サーヴァントはどうせ放っといてもろくなこと無いし、面倒くさいから殺っちゃった♪」

 若干怒気をはらんだ百代の問いにも、インベンターは飄々とした態度を崩さない。
 むしろ堂々と『そのうち裏切るかも知れない』と仄めかしているのだから手に負えない。
 実際、マスターを殺さないこの状況で、ランサーを生かしておいてもいいことは無いだろう。
 そんな大っぴらな態度のインベンターに、百代は少し興味を持った。
 ――無論、インベンターの容姿が非常に整っていたのも大きいかもしれないが。

「ふふ、まぁいいだろう……お前も私を失望させるなよ?」
「この天才の私がサーヴァントなんだから、そんなことありえないけどね!
 あっ、もしマスターやめる時は解剖させてね!すごく興味あるから」
「いや、普通に嫌だろ」

 いつの間にかインベンターが呼んでいたという救急車やパトカーが来る前に、2人はそそくさとその場を去る。
 こうして、2人の聖杯戦争は幕を開けた。
 その関係が最後まで続くのか、すぐに終わることになるのか――今はまだわからない。


【クラス】 インベンター

【真名】篠ノ之束@IS 〈インフィニット・ストラトス〉

【パラメーター】
 筋力C+ 耐久C 敏捷B+ 魔力E 幸運B 宝具A+

【属性】混沌・中庸

【クラススキル】
 道具作成(機):A
 機械に属する道具を作成可能。
 「発明家」の場合「魔術師」のような魔力は帯びないが、高度で精巧な機能の道具を作ることができる。

 機械操作:A
 機械を使いこなす能力。「機械」という概念に対して発揮されるスキルであるため、兵器や乗り物も操作可能。
 また、英霊の生前には存在しなかった未知の機械すらも直感によって自在に操れる。

【保有スキル】
 所在隠匿:B
 自らとそのマスターの棲家を悟られなくするスキル。
 Bクラスでは近隣の住民に何者が住んでいるのか考える気をなくさせ、尾行者においても実際の住居を違和感なく視界から外させる。

 ハッキング:A++
 コンピュータなどの情報機器を操作し、ネットワーク上の情報や個人のPCなどを操作できる。
 A++では国の最重要機密情報の入手や各国軍のミサイル発射装置の操作なども可能である。

 単独行動:C
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても、1日は限界可能。

 星の開拓者:EX
 人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
 あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。
 インベンターの場合、時代の記述力では一歩足りない難行を一握りの天才だけで成し遂げた力。

【宝具】
『無人の機兵隊(ゴーレム)』
 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~ 最大補足:100
 篠ノ之束が世界に公表した467個以外である、未登録のコアを使用して作られた高性能AIの無人IS。
 『ゴーレムⅠ』と『ゴーレムⅢ』の2体があり、見た目や機能が異なっている。
 Ⅰがビーム等を使用する2mを越える巨体の遠距離型の『鉄の巨人』であるのに対し、Ⅲはシールドやブレード等の近接武装とジャミング兵器を兼ね備えたスマートな『鋼の乙女』となっている。しかし、Ⅰは見た目とは裏腹に高起動で非常に素早く、Ⅲも超高密度圧縮熱線をそなえていたりとどちらも一筋縄ではいかない機体である。
 機械でありながらもインベンターから弱い単独行動スキルが付加されており、長距離の移動やインベンターが消滅しても一定時間動くことができる。

『機人達の母(インフィニット・ストラトス)』
 ランク:C~A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 世界を変えた兵器の全ては彼女の手によって作られたことに由来する。
 彼女の作成した467個のコア、もしくはそれに依って作られたIS、その武装の全てを自在に取り出し使用することができる。
 ISの兵装は武器として使えるがIS自体は無人で動くことはなく、動かすためには必ず“女性”の搭乗者が必要である。
 この中には篠ノ之束専用の移動型ラボ『吾輩は猫である〈名前はまだ無い〉』も含まれている。

【weapon】
 拡張機能:
 ISに使われている技術を応用して兵器などを何処からとも無く出し入れできる。
 生前にも一瞬でミサイルランチャーを出したりなどやりたい放題していた。

【人物背景】
 インフィニット・ストラトスを開発した天才科学者。
 人類が束になっても敵わない程の超天才だが、自らの発明物であるISを生身で下す程の戦闘力も持ち合わせている。
 ウサミミなど奇抜な服装をしているが、性格はそれに劣らず多くの奇抜な行動を起こす。
 身内や織斑姉弟には気さくに話すが、それ以外にはとことん冷たく当たる。
 ISの開発者として政府の監視下に置かれていたが、467個のISコアを開発し終えると同時にその姿をくらませる。
 以降は世界各地を転々としてその行方は誰にも掴めなかったが、神出鬼没に織斑姉弟の前に姿を表わしている。

【サーヴァントとしての願い】
 世界の改変。

【マスター】川神百代@真剣で私に恋しなさい!

【マスターとしての願い】
 風間ファミリーやみんなのいる川神市に帰る。

【weapon】 身体

【能力・技能】
 川神流:祖父「川神鉄心」によって創られた地上最強の流派。奥義ともなれば個人によって異なるが、流派固有の技は全て修得している。

 気功:川神百代の持つ気の量は人間のそれを遥かに凌駕している。百代の奥義「瞬間回復」や「かわかみ波」は主にその気の量に物を言わせた力技であり、他の者には真似できない芸当である。

【人物背景】
 川神学園の3-Fに在籍している川神院の跡取り娘。
 百代は「武神」と呼ばれ、世界中に「MOMOYO」として知られており最強の名を欲しいままにしている。
 幼馴染みである風間翔一、直江大和、島津岳人、師岡卓也、椎名京、川神一子に加えてクッキー、黛由紀江、クリスティアーネ・フリードリヒからなる風間軍団に所属している。
 どんな敵が来ようとも瞬時に倒してしまう自分の強さから、対戦相手に満足できず欲求不満に陥っている。
 強さだけでなく容姿も学園トップクラスの美人である。しかし、強すぎるために男たちから畏怖されており、百代の恋愛嗜好は今のところ女子に向けられている。
 祖父である川神鉄心や風間ファミリーによって抑制されているが、いつも闘争を求める内なる獣がいることを釈迦堂に見ぬかれている。

【方針】
 いつも通り生活し、他の参加者の出方(インベンターの出方も)を見る。

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最終更新:2015年12月18日 21:42