蒼き雷霆は喪った。
少女を。
皇神《スメラギ》に利用され、意思とは無関係に歌を唄わされていた少女を。
救い出して自由になった彼女の翼《チカラ》になることを望み、心から守りたいと願っていた少女を。
共に暮らし、自分の帰りをいつも待っていてくれている掛け替えのない家族――シアンを。
蒼き雷霆は喪った。
親を。
自身を皇神の研究所から救い出し、ここまで育ててくれた育ての親のような存在を。
フェザーから抜け出し、その後も面倒を見てくれた、返しきれない恩のある彼を。
野望のためにシアンを手にかけ、そして蒼き雷霆同士の死闘の末に死んでいった男――アシモフを。
ガンヴォルト――GVは、戦いの末に多くを失った。
軌道エレベーター“アメノサカホコ”のふもと、開かれたエレベーターから現れたのはGVと跪いたアシモフの亡骸。
アシモフの死に悲しみに暮れるモニカや、突然のことに混乱するジーノに目もくれず、GVはその場を去っていった。
『――GV…わたしはずっと、あなたのそばに……』
「シアン……」
シアンの声が、聞こえた気がした。
わかっている。シアンはボクの翼《チカラ》になってくれたことを。
シアンのココロは、魂は、ボクの中にあるということを。
彼女の歌《願い》は今でもボクのココロの中に響いている。
ただ、ワガママだってことはわかってるけれど、言わせてほしい。
馬鹿げているってこともわかってるけれど、言わせてほしい。
こんなことを言うのはボクらしくないって怒られるだろうけれど、言わせてほしい。
「ボクは…キミに、会いたいよ…シアン……」
朝日の下で、あてもなく歩くGVが望んだのは、内にいるはずの少女との再会であった。
後日、残されたフェザーのメンバーが中心となってGVの捜索が行われたが、彼の姿は国中どこを探しても見つからなかったという。
◆ ◆ ◆
とある家の玄関で、GVはメモ帳を取り出して独り言をブツブツと言っていた。
これから近場のスーパーへ行き、食材の補充のために出かけるところだ。
「GV、出かけるの?」
「うん、食材を切らしたからそれを買いに、ね」
シアンがGVの元に来る。
「代わりにわたしが行こうか?」と聞いてきたが、「今日の料理当番はシアンだよ」と言ってGVはそれを断った。
かけているメガネのズレを直して、ドアを開く。後ろからは「いってらっしゃい」という声が聞こえた。
中学生の男女が1戸で同棲と聞くととても危ない感じがするが、GVとシアンはそんな関係だ。
買い物や料理はGVとシアンが日替わりで交代して担当している。
誰も2人を束縛して利用しようとする者などいない、自由な生活を送れている。
「……違う」
ふと、人通りのない通りでGVは立ち止まる。
…違う。どこかがらしいがどこかが違う。
死んだはずのシアンが元の姿のままGVと生活しているが、彼女はどこかが違う。
1年にも満たないけれど、GVが追手から身を隠しながら送ったシアンとの平穏とは、違った。
シアンは料理ができず、夜な夜な練習していたもののまだ任せられるレベルじゃなかった。
買い物も、追手を警戒していつもGVが担当していた。
そんな違和感が、電脳世界へ降り立ったGVを襲う。
「NPCだからね」
GVの眼前に、サーヴァントが霊体化を解いて姿を現した。
金髪のボブカットに赤い瞳を持った長身の美少年だった。肉体年齢はGVと同じくらいだ。
彼を見て視認できるステータスを見ると、キャスターであることがわかる。
「やっぱり…シアンは偽物なんだね」
GVはどこか遠い目をして呟いた。
彼女に会えた時は、願いが叶ったようで嬉しかった。
いっそのこと、聖杯戦争なんて気にせずにこのまま平穏に暮らしてしまおうかとも考えたこともあった。
しかし、日を経る内にかすかに感じていた違和感が大きくなっていき、やはり彼女はNPCで再現された虚像でしかないことを理解せざるを得なかった。
「奇跡なんてそう簡単に起きないってことは分かっていたハズなのにね…キャスター」
「だからキミには願いがあって、聖杯の奇跡に縋るんだろう?マスター」
本来のGVなら、聖杯戦争を終わらせるために動いていたであろう。
シアンが生きていたなら、家で帰りを待つ彼女のために脱出せんと奔走したであろう。
しかし、大切なものを喪ったGVにそのように動く精神は残っていなかった。
GVは、願ってしまったのだ。「シアンに会いたい」と。
「…独りは寂しいかい?」
「寂しいよ。とても…」
シアンと過ごしていた時は、ジーノがたまに遊びに来てくれた。
アシモフやモニカが時々ミッションを依頼してきてくれた。
時には皆でカラオケに行くこともあった。
周りに皆がいてくれた、それなのに。
シアンが殺されて、アシモフを手にかけて、ジーノとモニカを置き去りにして。
平穏がシアンの誘拐を切欠に、一瞬で崩れ落ちた。
この電脳世界でも、「本物」はGVしかいない。
「ボクも…行きついた先は孤独だった」
キャスター――エヌアインは、旧人類を駆逐した新世界にて新しい人類を導く神の器として造られたクローン「神の現実態」の一人だ。
他にも兄弟がいたが、実験で皆亡くなった。この時点で、彼は孤独だったのだ。実験の生き残りという点では、奇しくもGVと同じ境遇だった。
しかし、エヌアインは神であることを「孤独の極致」として否定し、完全者とヴァルキュリアを破る。
エヌアインは受け継ぐはずだった「神の遺産」をマグマを流し込んで処分し、旧人類と共に生きていきたいと願った。
だが、エヌアインの魂は英霊の「座」へと押し上げられてしまった。
「意思も自我も持てない座から、独り聖杯戦争に駆り出されるなんてゴメンだ。ボクは聖杯の奇跡で受肉して、人々と共に生きたい」
エヌアインがサーヴァントでなくマスターとして参加したならば、彼の抱く方針は違ったかもしれない。
聖杯戦争のような馬鹿げた争いを正そうとしたかもしれない。
だが、今の彼はサーヴァントだ。GVの召喚に応じ、聖杯にかける願いのあるサーヴァントの1人なのだ。
「キミにも願いがあるのならボクに手を貸してくれないか、神の現実態《エネルゲイア・アイン》」
「聖杯のためにやるしかないのなら手を貸すよ、蒼き雷霆《アームドブルー》」
◇ ◇ ◇
『GV…忘れないで…わたしの歌が、あなたを守る』
◇ ◇ ◇
少女の箱庭を変えた紛い物なれど完全なる世界
少女への思いを胸に聖杯を欲す蒼き雷霆は知らない
この世界が数多の命を閉じ込める鳥籠だということに
【クラス】
キャスター
【真名】
エヌアイン@エヌアイン完全世界
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷B+ 魔力A+ 幸運C 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる能力だが、宝具『完全世界』の代償にこのスキルは失われている。
道具作成:C
魔力を帯びた道具を作成する技能。
機械技術系の器具も一応作成できる。
【保有スキル】
超能力:B
オーソドックスな超能力を一通り習得している。
パイロキネシス、テレポート、念力などを使える。
神の現実態:E-
神の英知を受け継ぎ、新たな次元へと向かう新人類の器であり、新世界にて人々を導く神の器。エネルゲイア・アイン。
本来はEXランクの神性、星の開拓者及びAランク相当のカリスマ(偽)の複合スキルだが、エヌアインは孤独を嫌って神になることを拒んだため、ランクが著しく低下している。
新人類:A
旧人類の古き血を捨て去った新世界を生きる資格のある、新たなる人類。
相手が『旧人類(人間)』であった場合、全パラメータを1ランク下げる。
ただし出自を問わず『人外』のサーヴァントや、人間から何らかの進化を遂げた者、
人類を新たな階段へと導いた者――スキル「星の開拓者」とその類似スキルを持つ者には一切効果を発揮しない。
神殺:B
新聖堂騎士団に反旗を翻し、神と呼ばれた古代人「ヴァルキュリア」を倒した逸話からくるスキル。
これらの逸話から、エヌアインは「神殺し」の属性を持つ。
相手が神性を持つ場合、戦闘中におけるあらゆる判定で有利になる。
【宝具】
『完全世界(ペルフェクテ・ヴェルト)』
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:-
15ターンの間、周囲を自分が有利になる世界――自分のためだけの完全なる世界――へと瞬時に塗り替える固有結界。
その際、魔力の奔流による黒雷が発生し、敵を問答無用で吹き飛ばして仕切り直すことができる。
発動と維持に要する魔力は他の固有結界と比べて少ないがそれでも消費魔力は多く、発動は1度の戦闘につき1回までが限度だろう。
『完全世界』が展開されている間は受けた損傷を回復し、全パラメータが上昇する。
『完全神殺(エンテレケイア・エクスキューショナー)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
神の器であるにも関わらず、神と呼ばれた古代人「ヴァルキュリア」を倒して受け継ぐべき神の遺産をマグマで葬り去った逸話の具現。
エヌアインは『神の遺産』に分類される兵装――逸話に「神」が関わっている宝具を、ランクを問わず実体があれば破壊することができる。
また『完全世界』が展開されていれば、神性を持つサーヴァント「そのもの」をも宝具と同様に破壊することができるようになる。
つまり、『完全世界』展開中では神性を持つサーヴァントを霊格・パラメータに関わらず即死させることができる。
【weapon】
超能力を混ぜた白兵戦で戦う。
【サーヴァントとしての願い】
受肉し、人々と共に生きる
【人物背景】
超能力者であり、赤目とボブカットの金髪をもつ長身の少年。
その正体は完全者によって作られた神の現実態、すなわち新世界の神の器として作られたクローンの一人であり、彼の兄弟たちは実験で亡くなっている。
しかし本人は神になることを良しとせず、また旧人類の抹殺についても意見が対立し、結果として彼女らへ反旗を翻すことになる。
僅かに見える描写からは孤独を嫌う節が見える。
【マスター】
ガンヴォルト@蒼き雷霆ガンヴォルト
【マスターとしての願い】
シアンにもう一度会いたい。
【weapon】
雷撃を流す為の避雷針を発射するGVの電磁加速銃。
威力は抑えられているが、避雷針を当てることで、電撃を相手に誘導することができる。
避雷針はGVの髪の毛に特殊なコーティングを施すことで相手に誘導することが出来るという仕組み。
【能力・技能】
GVの持つ第七波動能力で、雷撃能力。
GVは、第七波動《セブンス》と呼ばれる超常的な能力を生まれながらに備えた新人類である。
電撃による攻撃以外にも磁力を利用した浮遊効果や生体電流を活性化させての身体能力強化、電磁場の膜《フィールド》による衝撃緩和、
電子機器に対する外部からの制御《ハック》など非常に応用が効く。
ただ、電気代の節約に使うのは厳しいようだ。
海水など、電解質を含んだ水分に浸かると雷撃が拡散してしまい、能力を使うことができなくなることが弱点。
なお、GVはフェザーでの訓練を受けてきたため、生身でも卓越した身体能力を持つ。
シアンの第七波動。歌を介して他の能力者の精神に干渉する精神感応能力。GVの翼《チカラ》となるシアン/モルフォの歌。
第七波動は能力者の精神状態と密接な関係があると言われており、
シアン/モルフォと波長があった者であれば、その精神に働きかけることで、第七波動の力を高めることができる。
たとえGVが死んでも、歌により能力が強化された状態で復活できるかもしれない。
【人物背景】
蒼き雷霆《アームドブルー》の能力者で、14歳の少年である。通称「GV」。
「ガンヴォルト」はコードネームであり、本名はGV自身が語りたがらないため不明である。
過去の経験から自身も少女の翼《チカラ》になることを決意したが、戦いの末に彼に残ったものは少女の無垢なる願いだけだった。
【方針】
多くを喪った失意の蒼き雷霆は、もはや聖杯に縋るしかない。
最終更新:2015年12月21日 22:31