路地裏はさほど強くもない風の音がはっきり聞こえるほどに静かだった。
コンクリートの壁には、なにか重いものが衝突したような凹みができている。暉は黙ってそこを見ていた。
ここにはつい先ほどまでサーヴァントがいた。綺麗な金髪の真面目そうな男だった。今はもういない。
暉のサーヴァントであるファイターに敗北し、消滅した。マスターもサーヴァントがやられた直後に逃げ出してここにはいない。
暉はなにもしないで、じっと見つめ続けた。そこには生きて、熱を持った存在が確かにいたはずなのに今はもうなにも感じられない。

「サーヴァントの死を背負う必要はない」

後ろからファイターが声がした。優しく、力強い声だ。

「ワシらは皆もともと死んでいる身だ。聖杯戦争の間だけ現れる一時の幻のようなものに過ぎん」

そうなのだろうか。確かにサーヴァントはとてつもない力を持っているし、霊体に成ることもできる。
しかし、暉には彼らがそれほど人間と違う存在とは思えない。だからといってサーヴァント自信の言葉に反論しようとも思わなかった。

「だとしても、サーヴァントを失ったマスターは、時間が経つと消えるんだろ?」
「ああ。そうだ」

ファイターの声には沈痛な響きがある。
暉はマスターの少年のことを思い浮かべた。まだ小さい子供だった。たぶん小学生の高学年くらい。
あの少年は間もなくこの世から消える。

「……俺のせいだ」
「違う。彼が消えるのはサーヴァントを失ったせいだ。そしてサーヴァントを殺したのはワシだ」
「でも、俺を守るためにやった」

ファイターと相手のサーヴァントの間には明確な力の差があった。ファイター一人だったら殺さずにこの場を収めることもできたはずだ。
暉はあの少年のことをなにも知らなかった。どうして暉を襲ってきたのかも。
命を賭けてでも叶えたい願いがあったのか、自分の欲望を満たすためだったのか、あるいはただ生きたかったのか。
なにも知らない。なにも知らないまま死に追いやった。

「俺、少し迷ってたんだ。人を殺すのはよくないってわかってたけど、聖杯を手に入れて大勢の人を助けられるなら、そっちの方がいいんじゃないかって。
だけどやっぱり駄目だ」

逃げる間際に少年が見せた怯えきった顔が、頭の中から離れない。
暉は右手を見つめる。さっきからずっと震えていた。直接手にかけたわけでもないのに。

「俺には聖杯を諦めることはできない。でも誰も犠牲にしたくないんだ。
こんなのただのワガママだってわかってる。だけどファイター、俺は誰も殺さずに聖杯を手に入れたい」

暉は振り返ってファイターと向かい合う。
ファイターはいつものように腕を組んで、力強く頷いた。

「ワガママなものか。人を殺したくないのも、望みを叶えたいのも、誰だって抱く当然の思いだ。それを願ってなにが悪い。
サーヴァント徳川家康、お主との絆のもと喜んで力を貸そう」
「ありがとう、ファイター」

ファイターは朗らかに笑い、暉も自然と笑っていた。
不思議だ。ファイターと一緒にいるとそれだけで心が落ち着くような、奮い立つような感じがする。これがかつての英雄というものなのだろうか。

――でも

ファイターは人を殺したくないのは当然の思いだと言った。だけど彼はサーヴァントを殺した。一切の躊躇もなく。それがマスターをも殺す行為とわかっていながら。
誰よりも優しいのに人を守るために人を殺した遠見先輩のように。
いま暉がこうしてここにいるのも多くの犠牲があったからだ。世界はなんの犠牲も出さずに皆を幸福してくれるほどは優しくない。
それでも暉は誰を犠牲にせず聖杯を手に入れることを願った。願うことさえやめたら、もっとずっと遠いものになってしまう気がしたから。

【クラス】ファイター
【真名】徳川家康@戦国BASARA3
【属性】秩序・善

【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:B+ 敏捷:B 魔力:D 幸運:B 宝具:EX

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
心眼(真):D
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
 その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。

渾身:A
 彼が得意とする戦闘技術。
 攻撃の際に力を溜めることで威力を増幅する。

カリスマ:A+
 大軍団を指揮・統率する才能。
 このスキルはAランクで人として獲得しうる最高峰の人望とされている。
 ならばそれを超えるランクを持つ彼はもはや人ではないのかもしれない

【宝具】
『昇れ、葵の絆』
ランク:EX 種別:大軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
家康と絆を結んだ仲間たちをサーヴァントとして現界させ、東の武将たちが団結した関ヶ原の戦いを固有結界として再現する。
召喚されるのはいずれもマスター不在のサーヴァントだが、それぞれがE-ランク相当の『単独行動』スキルを保有し、 最大30ターンに及ぶ現界が可能。

【weapon】
手甲

【人物背景】
絆の力で天下泰平を創るために誰かの絆を断ち切ってでも前に進む男。苦しいときでも笑いながら。


【サーヴァントとしての願い】
ない。彼は戦いを止めるために来た。

【マスター】
西尾暉@蒼穹のファフナーEXODUS

【マスターとしての願い】
世界中の人に竜宮島の平和を知ってもらう。

【人物背景】
宇宙から飛来したシリコン生命体・フェストゥムから、人類種を存続するために作られた人工島・竜宮島。
その唯一の喫茶店である「楽園」で、調理師のアルバイトをしている。
竜宮島の外の世界において同じ人間である「人類軍」からの攻撃が原因で親友や、共に過ごした大勢の人間の死に直面する。
精神を疲弊し、一時は「人類軍」を殺すことを望むが、かつて島に爆弾を落とした人間であるウォルターとの交流によって、世界中の人に竜宮島の平和を知ってほしいと願うようになった。

【方針】
誰も犠牲にすることなく聖杯を手に入れる。

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最終更新:2015年12月21日 22:44