振るわれた銀の一閃が、聖女の首を刎ね飛ばした。
 呆けた面の生首がごろり転げ落ちるのを確認し、漆黒の凶気を纏ったセイバーはようやく戦闘行為を中断する。
 英霊を失い、恐怖のままに尻尾を巻いて逃げ帰ろうとする敵の主君を頭から両断しつつ、だったが。
 取るに足らない相手だった。そうセイバーはこの戦いを述懐する。
 歴戦の英傑が集うなどと、このざまでよく言えたものだ。
 自ら殺陣の舞台へ登っておきながら、同盟だ協定だと喧しい。
 大した実力も伴っていない身で、さも良い条件だろうといった顔をするものだから、思わずセイバーはそれを斬った。
 結果がこれだ。初撃を辛うじて避けたまではよかったが、それからはまるで勝負にならない有様。
 セイバーは苛立ちを隠そうともせず怜悧な顔貌に浮かべ、舌を打った。

 ――そのような安い覚悟で、私の願いを邪魔立てするな。

 刃に付着した血を払い、セイバーは踵を返す。
 彼のマスターである青年は、電信柱へ凭れかかりながらその戦いを観ていた。
 同盟の申し出を断りの一つもなく蹴り飛ばしたことへも、彼は小言の一つさえ漏らさない。
 彼は戦う力を持たないが、聡明なる頭脳と、そしてセイバーと同種の感情に囚われている。
 セイバーは、自分が味わった喪失と彼のそれが同格のものであるなどとは微塵も思っていない。
 だが、己が彼の従属として召喚されたことには納得していた。

「済んだか、セイバー」
「見ての通りだ」

 そしてそれは、マスターである彼もまた同じである。
 このセイバーと自分が引き合わされたのは、きっと必然のことだったのだ。そう考えている。

 剣を振るう彼の姿はまさに剣鬼だ。
 情けも容赦も、戦いを楽しもうという心さえ欠片もない。
 ただ滅ぼすために剣を振るい、敵を殺す。
 信じられない練度で極められた剣技もさることながら、何より恐ろしいのはその心理。
 一歩間違えれば狂戦士に成り果ててもおかしくない、見る者を戦慄すらさせる濃密な殺意が彼の内には渦巻いている。
 何が彼をそこまで駆り立てるのかを、賢木儁一郎は知っていた。
 それは奇しくも、賢木が抱いた感情と全く同じもの。

 ――復讐心。

 セイバーの真名は、日本人ならば誰もが知っているだろう戦国武将と同一だ。
 石田三成。
 かつては豊臣軍に所属し、後に関ヶ原の戦いで徳川家康と大立ち回りを演じた男。
 三成は――セイバーは、徳川家康という男を憎悪している。
 人間はこれほどまでに誰かを憎めるのかと賢木は思った。
 賢木は決して自分の抱く感情が、願いが軽いとは思わない。
 それでも、この剣鬼に比べれば劣ってしまうのだろうと本能的に悟った。

「ご苦労だった。
 次の敵が現れるまでは、身を休めておいてくれ」

 愛想の一つもなく、セイバーは霊体となって姿を消す。
 味方であるというのに、彼の姿が見えなくなると体が軽くなる。
 それほどまでに、彼が纏っている凶気は濃密で、おぞましいものなのだ。
 それこそ、一人の人間が抱えているのが信じられない程に。

 賢木は自分の右手に浮き出た、蚯蚓腫れのような三画の刻印をふと見つめた。
 枝分かれした奇妙な形状をしているそれは、皮肉にもあの町の特産品が実る樹の枝を連想させる。
 八朔の、樹だ。

 ぎり、と。賢木は奥歯を軋ませた。
 セイバーに気圧され、一時は影を潜めた感情の波が再び激しさを増して襲ってくる。
 そうだ。
 俺は必ず、聖杯を手に入れ――そして使わなければならない。
 あの町へ染み込んだ汚れた狂気は、最早人の手では祓うことなど出来ないのだから。

「…………」

 賢木儁一郎の願いは、恋人を殺した忌まわしい町の破壊である。
 漂白、と言ってもいい。
 それは聖杯でなければ叶えられない、人の手に余る大願だった。
 その為なら賢木はいくらでも殺すだろう。どんな非道にだって手を染める覚悟もある。
 この町へ降り立ってから、強盗紛いの真似をして武器と必要な道具を調達していた。
 これだけあれば、敵マスターの首を掻き切るには十分だ。

「……くそ」

 脳裏に浮かぶ、一人の女の優しい笑顔を必死に振り払って。
 賢木儁一郎は、歪んだ復讐劇の幕を静かに開けるのだった。


【クラス】
セイバー

【真名】
石田三成@戦国BASARA3

【パラメーター】
筋力B+ 耐久C 敏捷A+ 魔力D 幸運E 宝具D

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
心眼(真):D
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。

刹那:A
彼が得意とする縮地法の一つ。
その速度は達人のそれすらも凌駕して余りある。

居合:A
文字通り、瞬速から繰り出される居合い斬り。
彼の常套戦術であり、その太刀筋はどのような状態にあろうとも、剣を握れる限りは衰えることがない。

精神汚染:E
精神を病んでいる為、他の精神干渉系魔術をごく稀にシャットアウトする。
同ランクの精神汚染を持つ人物以外とは意気投合しにくい。

【宝具】
『恐惶君子』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1人
立ち塞ぐ全てを斬滅するという黒き殺意に裏打ちされた彼の戦闘術が宝具と化したもの。
宝具を発動したセイバーは黒い凶気を纏い、この状態で敵へ攻撃を命中させる度、敏捷と筋力のステータスが上昇していく。
一撃の威力こそ派手ではないものそれだけに魔力消費が極めて少なく、魔術師はおろか能力者ですらないマスター、賢木の性能と噛み合っている。

【weapon】
長刀・無銘

【人物背景】
豊臣軍に所属していた戦国武将の一人。
秀吉を神のごとく崇拝しており、逆に言えばそれ以外のものを一切持っていない非常にストイックな男。
徳川家康の手によって秀吉が討たれてからは家康への復讐心に取り憑かれ、その為だけに邁進する。

【サーヴァントの願い】
秀吉様の復活


【マスター】
賢木儁一郎@おおかみかくし

【マスターとしての願い】
嫦娥町を破壊する

【weapon】
拳銃

【能力・技能】
一般人だが、高い頭脳を持つ

【人物背景】
彼は、奪われ続けた男である。

【方針】
どんな手段に訴えてでも聖杯を手に入れる

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最終更新:2015年12月08日 01:22