「やっと授業終わったー」
「帰りどこ寄るー?」
何の変哲もない学校で、何の変哲もない授業が行われ、いつもと変わらない放課後がやって来る。
来年には大学受験を控えた少年、來野巽もそんないつもの日常を愛する一人だった。
最近、クラスメイトたちが談笑する姿が妙に微笑ましく、尊いものに感じられることが多い。
感性が老けるにはいくら何でも早すぎる、と自分でも思うがつい頬が緩んでしまうのは仕方ない。
こんな時間がずっと続いていけば良い―――心の底からそう願う。
「俺も行くか」
巽には野鳥観察と読書という、今時の高校生としては些か渋い趣味を持っている。
ここ最近勉強に集中していたため出来なかった野鳥観察に繰り出そうとしていた。
愛用のスマートフォンにはこれまで撮影した鳥の画像が豊富に保存されている。
また新しいSDカードが必要になるな。そんな思考を浮かべた途端、頭痛が走った。
(あれ……?)
―――何かが、何かがおかしい。
俺はどうしてこんなもので撮影なんかしているんだ?―――いや何を考えてる。これは一人暮らしをする前に両親に買ってもらったスマートフォンじゃないか。
違う。そんな記憶ない。―――どうしてだ?そんなに昔のことじゃないはずだ。
そもそも何だこの機械は。―――何を馬鹿なことを。いつも使ってるじゃないか。
違う、違う違う違う違う。俺にはもっと、他にやるべきことがあったはず―――
「うぅっ………!」
右眼が疼く。耐えがたい熱と共に強烈な焦燥感に襲われる。
早く目覚めろ、思い出せ―――そう語りかけるかのように右眼が熱を帯びていく。
クラスメイトたちの奇妙なものを見るような視線に気づくこともなくよろよろと立ち上がり教室を出た。
きっと疲れているのだろう。今日のところは家に帰ってゆっくり眠ればまたいつもの日常がやって来る―――そう自らに言い聞かせながら。
相も変わらず治まらぬ右眼の発熱と格闘しながら、覚束ない足取りで家路を目指す。
普段はそれなりに人通りのある住宅街だが、今日ばかりは何故か人気がない。余計な雑音が入らないことが今は有難かった。
そう思ったのがいけなかったのだろうか。途轍もない破砕音が木霊し、ほんの十数メートル先の交差点から数人の人影が現れた。
「なっ!?」
「せ、セイバー!」
「追い詰めたぞ。速やかにとどめを刺せ、ランサー。宝具の解放を許可する」
「承知!」
彼らは路傍の石も同然の存在である巽など気にもかけない。気づきもしない。
巽が身震いするほどの威圧感が感じられたかと思うと、槍を構えた男が槍の穂先から細い熱線のようなものが放出され、剣を構えた男の胴体を丸ごと消滅させた。
力なく崩れ落ち、粒子のように消えていく男の肉体。傍にいた青年が悲鳴を上げながら巽のいる方向へ逃げていく。
「……申し訳ありません主よ。これ以上の戦闘行動は……」
「わかっている。あの程度の魔術師ならば私が仕留めてみせる。お前は休んでいろ」
槍を持った男も疲弊したのか薄ぼんやりとした姿になっており、もう一人の青年が近づいてくる。
何だこの光景は―――思い出せ。俺は知っているはずだ。
誰なんだあいつらは―――忘れるな。俺の敵であり、味方でもある存在なんだ。
そうだ、この光景は―――彼らの存在は、彼らの正体は――――――
「聖杯、戦争の…サーヴァント……!」
無意識に紡いだ言葉は引き鉄となって、眠っていた記憶を呼び覚ました。
ふとした偶然から巻き込まれた東京の聖杯戦争と自らに秘められた力。
無知で未熟なこの身に対して真摯に接し、そして自分の願いに殉じてくれたバーサーカー。
彼と誓った聖杯戦争の阻止という目標。
全てが奔流のように脳を駆け巡り、瞬時に全てを思い出した。
(何で忘れてたんだ!友達のことを!)
「む?見たところ、目覚めかけのマスターというところか?
生憎競争相手を増やすような趣味は持ち合わせていないのでな。敗残者共々消えてもらおう」
「させるか!」
今までは忘却し、封印されていた巽の唯一の武器。生物のあらゆる挙動を停止させる魔眼がランサーを従える魔術師を過たず捉えた。
相手の男は声も出せず、サーヴァントへの出撃命令を下すことすらもできない。説得するならば今しかない。
「聞いてくれ!俺は、この聖杯戦争を止めたい!こんな誰が開いたかもわからない、勝手に人を拉致してマスターに仕立て上げる殺し合いなんてどう考えてもおかしいだろ!」
巽にとって、守りたい対象は人間たるマスターだけではない。どう見ても人間と変わらないNPCを人と区別するようなことは彼にはできない。
何よりも、ここが東京でないとしても人を殺して勝ち残ることを良しとしてしまえば家族にも学友にも、バーサーカーにも二度と顔向けできない。
だからこそ、停止させた相手を殺す機会を捨ててでも対話で解決しようとする。
―――だが悲しいかな、世界が少年の切なる願いを聞き入れる理由はどこにもない。
それまで硬直していた青年が巽にはよくわからない呪文めいた言葉を口にすると、魔眼の拘束から解き放たれ自由を取り戻した。
「ランサー!」と従者の名を呼ぶと再び槍を持った男が顕現しその穂先を巽へと向けた。
これが素人の限界。青年は巽の魔眼に抗えるだけの熟達した魔術師だったのだ。
「しまった…!」
「まさか魔眼の使い手だったとはな。侮った非礼の詫びとしてこちらの最大戦力で仕留めさせてもらおう。
ああ、そういえば聖杯戦争を止める、などと言っていたか?それこそ、馬鹿げている。
一族再興の悲願を諦めろとでも?笑えん話だ。聖杯の真贋になど興味はない。この願いを叶えるに足る力があるのなら何であろうと手に入れる、それだけだ」
來野巽は魔道や神秘、そして魔術師の何たるかを知らずに育った。故に魔術師が重きを置く価値と願いを理解しきれないのは当然であり、この破談はまさしく必然である。
圧し掛かる英霊のプレッシャー。魔眼が通用する類の相手ではない。―――ではもう打つ手はないのか。否。この手にはマスターの証たる紋様がある。
令呪。聖杯戦争の戦闘代行者(サーヴァント)を統べる絶対命令権。この手にそれがあるならば、自分にも最後の武器がある―――!
「来い、いや……」
槍の男が動く。殺される。思考など一切必要なく、ただ本能のみでこの先に待つ事象を悟る。
それは、駄目だ。帰るべき場所がある。まだ為さねばならないことがある。まだ死を受け入れるわけにはいかない。
だからこそ――――――
「来てくれ、ジキル!!!」
―――未熟なこの身の助けになることを誓ってくれた、掛け替えのない友の名を呼ぶ。
魔力の奔流が周囲一帯に迸る。
槍の男、ランサーは瞬時にこの現象がサーヴァント召喚であると理解した。
先の一戦で既に魔力の消耗は甚大。されど令呪の援護を待つには遅すぎる。
ならば取る手は一つ。相手の力が分からぬ危険を冒しても先制の一撃でその命脈を絶つのみ――――――!
「なるほど、どうやらイレギュラーな状況のようだ」
甲高い金属音が一つ。ランサーの奇襲は失敗したという証左。
エーテルの光の中から聞こえる青年の声。その姿、輪郭が徐々に露わになっていく。
「ランサー、即座に奇襲を選んだ果断さは見事。だがそれならばこちらも相応の返礼をさせてもらおう」
剛剣一閃。顕現せしサーヴァント以外には視認も敵わぬ一撃がランサーの槍を高々と弾き飛ばす。
返す刀で横一閃。辞世の句を残すことさえも許されず、槍兵は首を撥ねられこの聖杯戦争からの退場を余儀なくされた。
青年が悲鳴を上げ、逃げ走っていく。サーヴァントはその姿を一瞥して背後―――レイラインによって感じられる召喚者をその瞳に映し出した。
「……ジキルじゃ、ない………?」
「サーヴァント、セイバー。真名をアーサー・ペンドラゴン。召喚に従い参上した。
問おう、君が私を呼び出したマスターか?」
―――かつて、戦争があった。
日本の首都、東京の闇で行われた七人七騎による聖杯を賭けた魔術儀式という名の殺し合い。
戦争と呼ぶに相応しい災禍を齎した英霊たちの中にその剣の英霊はいた。
災禍を止めようと奔走した魔術を知らぬマスターの少年が在った。
同じ戦争に身を投じながら出会うことのなかった二人が、ここに出会った。
【クラス】
セイバー
【真名】
アーサー・ペンドラゴン@Fate/Prototype
【パラメータ】
筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:E 幸運:A 宝具:C(EX)
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:A… A以下の魔術は全てキャンセル。 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
騎乗:B …騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【固有スキル】
直感:A …戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
魔力放出:A …武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。いわば魔力によるジェット噴射。
強力な加護のない通常の武器では一撃の下に破壊されるだろう。
カリスマ:B …軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
【宝具】
『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
生前のアーサー王が、一時的に妖精「湖の乙女」から授かった聖剣。アーサー王の死に際に、ベディヴィエールの手によって湖の乙女へ返還された。
人ではなく星に鍛えられた神造兵装であり、人々の「こうあって欲しい」という願いが地上に蓄えられ、星の内部で結晶・精製された「最強の幻想(ラスト・ファンタズム)」。聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置し、「空想の身でありながら最強」とも称される。
あまりに有名であるため、普段は「風王結界」で覆って隠している。剣としての威力だけでも、風王結界をまとった状態を80~90だとしたら、こちらの黄金バージョンのほうは1000ぐらい。
神霊レベルの魔術行使を可能とし、所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による「究極の斬撃」として放つ。攻撃判定があるのは光の斬撃の先端のみだが、その莫大な魔力の斬撃が通り過ぎた後には高熱が発生するため、結果的に光の帯のように見える。その様は『騎英の手綱』が白い彗星ならばこちらは黄金のフレア、と称される。
彼の「約束された勝利の剣」は二重の封印が掛けられていて、剣自体に二重構造のギミックがあり、「風王結界」が解除されても、まだ鞘が付いている。
「強力な武器はここぞという時でしか使用を許さない」という円卓の騎士の決議があり、「この戦いが誉れ高き戦いであること」、「敵が自分より強大である事」など13の条件が半分以上クリアされると円卓の騎士たちの間で使用が可決され、拘束が解けていく。
鞘がついた出力半分程度の状態でもアルトリアの物を遥かに上回る威力があり、アーチャーの「終末剣エンキ」によって発生した都市を飲み込むほどの大波濤を一撃で蒸発・粉砕している。最大出力は最早想像できない領域にある。
『とびたて! 超時空トラぶる花札大作戦』ではアルトリアの物と区別するため便宜上、「エクスカリバー・プロト」と名づけられている。
『風王結界(インビジブル・エア)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1個
剣を覆う、風で出来た第二の鞘。厳密には宝具というより魔術に該当する。
幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ、不可視の剣へと変える。敵は間合いを把握できないため、白兵戦では非常に有効。
ただし、あくまで視覚にうったえる効果であるため、幻覚耐性や「心眼(偽)」などのスキルを持つ相手には効果が薄い。
彼の剣を包む鞘の一つでもある。
【Weapon】
前述。
【人物背景】
円卓の騎士たちを率いて戦乱の時代を駆け抜けたブリテンの伝説的な君主であり、騎士道の体現として知られる騎士王。
善良なるものを良しとし、悪しきものを倒す、気持ちのいい正統派ヒーロー。本編では綾香を守る理想の王子様だが、同時に大人びた価値観と ニヒルな物言いで綾香を導く保護者的な存在でもある。一人称は綾香には僕で、敵には私。
前回の聖杯戦争で、聖杯入手直前にマスターから強制的に契約を破棄され、その後遺症から前回の戦いの記憶が曖昧である、と誤魔化している。
実はかなりの天然で、番外編に登場する度に拍車がかかっている。また途轍もない大食漢だが、アルトリアと違い、腹ペコキャラではない。
「騎士王」の名に相応しい英霊最高峰の剣技と、卓越した戦況把握能力、マスターの身を必ず守る優れた防衛能力を兼ね備える。
【サーヴァントとしての願い】
巽を助ける
【基本戦術、方針、運用法】
セイバーは強力なサーヴァントではあるがその分燃費に難がある。
巽は魔術回路こそ持っているが決して強力なマスターではないので主従の行動方針も併せて戦闘は必要最小限に抑えるべし。
特に宝具の解放は魔力消費が膨大な上に一歩間違えばペナルティ対象にもなりかねないため細心の注意が要求される。
戦闘中の判断はセイバーに一任するのが最適と思われる。
【マスター】
來野 巽@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ
【マスターとしての願い】
この世界の聖杯戦争も、東京の聖杯戦争も止める
【weapon】
なし
【能力・技能】
基本的に一般人だが母方の祖先が魔術師なため魔術回路を保有しており、隔世遺伝によって右眼に魔眼が発現している。
「見る」ことにより対象となった生物のあらゆる動きを停止させる能力であり、自らの力を把握していなかった時期でも趣味であるカメラのファインダー越しに「見られた」動物は妙に長く動きを止めることが多かった。
自分よりある程度格上の魔術師相手にも通用する能力だが、当然サーヴァントや極めて高位の魔術師などあまりにも抗魔力の高い相手には無効である。
【人物背景】
1991年の東京で行われた聖杯戦争のマスターの一人。マスター階梯は第七位。
世田谷の都立高校に通う高校2年生。成績も運動も中くらいで、趣味は野鳥観察と読書。
家族は両親と妹。受験を控えた巽だけが親元を離れて世田谷で一人暮らしをしている。
魔術も神秘も知らない普通の高校生の少年だったが、母方の祖父の遺品として送られてきた手帖の文章を読み上げることで、意図せずしてバーサーカーのサーヴァントを召喚してしまい、聖杯戦争に巻き込まれることになる。
バーサーカーから聖杯戦争の概要とその危険性、そして「正義の味方」として人々を守りたいという願いを聞き、巽自身も自分の街を戦火から守るためにマスターとして聖杯戦争に身を投じる覚悟を決める。
特別に悲壮な決意や超人的覚悟があるわけではないが、友人や身近な人々の住む街を守りたいという、人としてごく真っ当な正義感を持った少年。
今回の彼はバーサーカーを召喚してからアサシンに遭遇するまでの間から参加している。
【方針】
極力犠牲者を出さずに聖杯戦争を止める。
乗り気なマスターに対してはまず説得を試みる。
最終更新:2015年12月08日 01:23