今日もまた悪夢を見る。
自分のやった許されざる所業を、夢で見る。
刃を突き立てた。
襲い掛かってきたマスターとサーヴァント。
その目は欲に満ちており、綺麗とはとても呼べるものでなかった。
しかし、自分は人のことを言える立場ではない。
むしろ、その目は鏡で見る自分のようで冷や汗が出た。
淀み、捻じ曲がった意志で奇跡を願う。
それがどれだけ罪深いことか。
人として大切なモノが削ぎ落とされていく喪失感を抱きながらも、黒鉄一輝は陰鉄を取り出した。
かつては誇りを乗せたはずの刃は、今は何も乗せていなかった。
初めての殺人は命懸けだ。決して楽観視などできるはずもなく、無我夢中に剣を振るう。
手が震え、呼吸が荒く、汗がどっと出る。
自分のエゴで他者を蹴落とすその行為に、吐き気がする。
一輝は殺人を楽しむ狂気を持ち合わせていない。
当然ながら、『ふるい落とし』の過程で何度も心が折れかけ、この行為が間違いなのではないかという考えも繰り返した。
今まで積み上げてきた努力、自分を認めてくれた人達への背信。
そんなことはわかっていたはずなのに。

理だけで得れないものがある。

魔力がなければ、世界は変わらない。
自分をどれだけ変革させようとも、世界が認めてくれないのならば、意味は無い。
父親との間には決定的に埋まらない隔たりがある。
それこそ、聖杯の奇跡にでも頼らない限り、修復なんてできないだろう。
頑張れば報われる、その言葉が間違っているとは今も思ってはいないが、それだけでは駄目なのだ。
強くなるのではなく、才能がなければ振り向いてくれない。
一部の人が認めようとも、意味は無い。
現実という壁を撃ち破るには足りなかった。
肉体的にも、精神的にも追い詰められ、自分が何故戦っているのかすらわからなくなって。
その矢先に、舞い降りた黄金のチケットに手を伸ばしたのは――否、伸ばしてしまった。
平常ならば否定できたはずの可能性へと飛び込んでしまった。

そんな間違った奇跡――許してはいけないのに。

自分のエゴで誰かが泣き、譲れない願いを持った誰かが怨嗟の声を捻り出す。
到底許せるものではなかった『間違い』だった行為を、この手で生み出した。
眼前で失った命よりも、自分の願いを優先してしまった弱さが滲み出た恐怖。
ふらふらとした身体を引きずって家へと帰宅し、頭を抱え問いかける。

――これで、よかったのか?

いいわけがない。本当は殺したくなんてなかった。
どんなに強い言葉で塗り固めても、それだけは確かだ。
けれど、これ以外に選択肢なんてあったのか。
諦めて膝を屈してしまえばよかったのか。

絶対に、違う。

例え、何があろうとも。夢を捨てることだけは許容できない。
ずっと、子供の頃から見続けた憧れだったのだ。
他の何にも代えがたい願いだったのだ。
それを捨てて別の生き方をするなんて、一輝には考えられなかった。
必要なのは奇跡だ。絶対に覆らない現象を書き換える黄金盃を勝ち取る覚悟だ。
父親の言葉にだって立ち向かえる可能性が、此処にある。
ほんの少しの希望があるだけで、俯かずに前を見れるのだから。

この身を羅刹に変えてでも、願いを叶えよう。

軋む迷い、脳裏に浮かぶ大切な人達を置き去りにしてでもだ。
己を殺す。敵を殺す。過去を殺す。現在を殺す。未来を殺す。
殺して、殺して、殺して――――!
けれど、どうしても。
ステラ・ヴァーミリオンと誓ったモノだけは殺しきれない。
彼女を好きだという気持ちは、一緒にいたかったという願いは――捨てられなかった。
こんな血に塗れた手でも、まだ届くかもしれないと夢を見ている。
結局の所、黒鉄一輝という人間は何処までも優しい少年だった。
無理矢理、自分の想いに蓋をして納得をしたつもりで、走っている。
苛む痛みに気づかず、無自覚ながら気づいている事実から目を背け、剣を取る。
そもそも、この聖杯戦争に呼ばれた時点で、前に進む以外に道はない。
選択肢なんて、最初から存在しなかった。
ただ、それだけの話だった。
もう戻れないように。覚悟に重みを増やすべく、精神を鉄にして。
今日も一輝は運命の夜へと飛び込んでいくだろう。

『何も出来ないお前は、何もするな』

父親から言い渡された諦めを打倒する為にも、聖杯に縋るしかない。
賽はもう投げられた。
矛盾を抱え、勝ち上がることを誓おう。
弱っていた精神は本来の彼らしさからずれていくとしても。
少しずつ、本人も気づかぬ微々たる角度で曲がり、自分の首を絞めることになってもだ。
その先に待っているのが地獄でも、走るだけである。
戦う理由を奪われ、脆くなった精神が無視できない痛みを生ずるまで。
『落第騎士』は、地獄へと突き進むだろう。






やはり、似ている。
黒鉄一輝と櫻井戎を重ねてしまう。
ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンは内の懊悩に溜息をつく。
わかってはいても、この溜息を止めることは敵わない。
彼と同じ。それがどのような意味をもたらすのか。
袋小路の絶望、何も為せぬまま、化物へと変容していく。
詰まるところ、一輝は無念の中、死んでいく暗示だ。
それだけは、彼が最悪の結末を迎えることだけは絶対に防がねばならない。
もう、生前のような悲劇は御免である。
今度こそ、マスター共々幸せな結末を掴むべくこの剣を振るうと決めたのだから。

(となると、まずは、今の状況を打破しないといけませんね。
 同盟、不戦……私達だけで戦うというのは無理がありますし)

その過程で、必要なのはやはり一時の共闘相手であろう。
生前、行われた第二次世界大戦でも彼女の祖国であるドイツは他国との同盟を結んでいた。
それに習って、自分達も誰かと手を結ぶことが必須である。
勝ち進むにあたって、どれだけ消耗を減らしつつ相手を打倒できるか。
この初めの一歩は、やはり他の主従との接触である。
同盟とまではいかなくても、不戦であれば大助かりだ。
勿論、裏切りも考慮しないといけない為、油断は決してできないけれど有用な策である。
一時だけでも刃を向けずにすむのなら、それにこしたことはない。
策もなしに勝ち残れると思い上がるな。敵は神算鬼謀の英雄達だ、決して楽観視できる戦いなど存在しない。
だから、考えろ。考えて、とことん考え抜いて、勝ち上がる術を編み出すのだ。
ベアトリスはこう見えても、生前は軍人であり、戦場をシビアに捉える事ができる女性だ。
わんわんおなおちゃらけ美少女も彼女の側面の一つではあるが、冷静に場を見て判断できる軍人もまた、彼女の一面である。
黒鉄一輝を、こんな所で死なせる訳にはいかない。
必ずや勝利を齎す戦乙女となりて、ベアトリスは剣を取る。

(……それに、どうしても私にはこの聖杯戦争が信じ切れない。
 ああもうっ! 単純明快に戦えばいいだけならどれだけいいことか……!)

その過程で迷いは禁物だと感じているのに、どうも纏わり付く不安は一向に払拭されない。
彼が早朝の日課であるジョギングを行っている横で、ずっと悩ましくあるのは良くないとはわかっているけれど。
もしも、この聖杯戦争の裏側に何か秘密が隠されているのだとしたら。
自分達の願いを台無しにする要素が含まれているのだとしたら。
幾つものイフが重なり、最悪を迎える可能性がこの聖杯戦争にあることを視野に入れなければならない。
それでもせめて、マスターである彼だけは元の世界へと還さなくては。
一輝が戎と同じ道を歩み、終えることを防ぐ為にも、ベアトリスが目を光らせる。
この輝きが照らすのは絶望への道ではないと証明する。

――そんな彼らを見ていた主従がいたことを、ベアトリスはまだ知らない。






《あら、吹雪。何か気になる人がいたの?》
《大したことじゃないですよ? ただ、今すれ違った人といつもジョギングが被るなーって》
《偶々ね。気にしすぎは良くないわ》

駆逐艦、吹雪。そして、そのサーヴァントであるビスマルク。
聖杯戦争が始まっても、彼女達の日常は変わらず回り続けている。
鎮守府にいた時と同じく、朝は体を鍛えるべくトレーニングを。
もはや日課となったものをこの世界でも続けるのは、やはり万全を期して臨みたいが為だ。
怠惰な生活を送って気を緩めるなんて考えられない、常に努力を、心には炎を。
いついかなる時でも戦闘に移れるように、気を張り巡らせる。

《まあ、その注意深さは美徳ではあるけれど。力が入りすぎていざという時にバテたら話にならないわ。
 そういうのは私に任せなさい。貴方はただ、私に勝利を願えばいい》
《……は、はい》
《ちょっと、何よ! 信じられないの!?》
《いや、信じてはいますけど……。ただ、すごく自信満々ですごいなぁって》

微笑ましい会話を念話で繰り広げながらも、彼女達の振る舞いには油断はなかった。
今すれ違った少年だって、マスターかもしれない。
学校の隣の席に座る学友が、敵に変わるかもしれない。
見えない所で敵は潜み、戦火は燻っている。
聖杯なんていらない、それよりも元いた世界に帰りたい。
そう思っている参加者がこの世界でどれだかの数いるのだろうか。
他は全員敵であり、倒す以外に道はないのかもしれない。

《私、自分にあまり自信が持てなかったから、羨ましくて……。私も負けていられませんね》

それでも、吹雪は希望を探したい。
まだ見ぬマスター達の中に、自分と同じ考えを持つ人がいることを強く願っている。
間違ったやり方で叶える願いは、きっと自分を傷つけるだけだ。
大切な人達に背くことは、今までの自分が積み上げた努力を裏切ることは、決してあってはならない。
必要なのは奇跡ではない。
確かな道を一歩ずつ進む――直向きさなのだから。



【B-3/一日目・午前】

【黒鉄一輝@落第騎士の英雄譚】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] ジャージ
[道具] なし
[所持金] 一般的
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取る。
1:止まってしまうこと、夢というアイデンティティが無くなることへの恐れ。
2:後戻りはしたくない、前に進むしかない。
3:精神的な疲弊からくる重圧(無自覚の痛み)が辛い。
[備考]
※通知はまだ見てません。

【セイバー(ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン)@Dies irae】
[状態] 健康
[装備] 軍服
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターが幸福で終わるように、刃を振るう。
1:勝利の裏側にある奇跡が本物なのか、疑念。
2:同盟、不戦――結べるものがあるなら、結ぶ。
3:マスターである一輝の生存が再優先。

【吹雪@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] ジャージ
[道具] なし
[所持金] 少し貧乏
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界へと帰る。
1:もしも、自分と同じ考えのマスター達がいたら協力したい。
[備考]
※通知はまだ見てません。

【ライダー(Bismarck)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] なし。
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:マスターが元の世界へと帰れるように手助けをする。

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最終更新:2016年01月10日 16:09