その人は顔を隠していた。
彼が言うには真名を知られるリスクを減らすのに、顔を隠せるこの装備はうってつけだったらしい。
その人は人語を話せない。
それはこの装備の欠点であるらしい。
しかし念話があるのだから問題ないとの事。
そして、その人は自分には願いはないと言った。
■
『さて。そろそろ考えは纏まったか、マスター?』
聖杯に用意された自室。急に頭に響いた男の声。
顔を上げればそこには今まで存在しなかった妙なシルエットの者。
その姿に驚きはない。何故なら昨日この男を呼び出したのは他ならぬ彼女なのだから。
「アーチャーさん」
宇佐美奈々子は普通の少女だ。
しいて変わってる点を挙げるとすれば、市役所主導のローカルアイドル(ロコドル)と言う仕事に関わってる事くらいだ。
当然魔術などと言う彼女からしたらオカルトでしかない物とは無縁であり、何故ここに居るのかは解らなかった。
「私……」
昨日アーチャーは召喚後直ぐに自身の装備と技能を明かし(奈々子には殆ど理解出来ない内容であったが)、
次に指示を乞うてきた。自分はどう動くべきかと。積極的にか、様子見からか。どう生き延び、どう殺すのかを。
突然こんな所に連れてこられ、突然こんな事を聞かれても返答など出来る訳がなかった。
奈々子は平和な日本のごく普通の学生なのだから。
故に彼女は時間を貰った。落ち着く為の、状況を再確認する為の。方針を決める為の。
期限は丸1日。その間、アーチャーは姿を表わす事も念話を送ってくる事もなかった。
「まだ死にたくない、流川に帰りたいです」
アーチャーは涙ながらの奈々子の言葉を腕組しながら聞く。
「まだゆかりさん達とお仕事したいんです」
『……そうか、なら――』
「でも! 誰かを殺したりなんかしたくない。そんな怖いこと出来ません……」
言葉を遮らえた事でアーチャーは腕組を解く。その表情は隠された顔では伺うことは出来ない。
『ナンセンスだ。生きて帰るには戦う必要がある。それは君も理解しているはずだ』
「それでも無理なんです。考えなんて纏められないよ」
本格的に泣き出しそうな奈々子の肩にポンっと手が置かれる。顔を上げればそこにあるのは当然アーチャーの顔。
表情など出来ないはずの作り物の顔だが、奈々子にはどういう訳か笑っている様に見えた。
ただそんな風に見えただけなのか、それともゆるキャラの魚心くんと一緒に仕事をしてきた経験が活きた結果として感情を読み取れたか。
答えは本人にも解らない。
『ふむ。やはり君は【まともな人間】で間違いはなさそうだ』
アーチャーとてただ黙って姿を消していた訳ではない。たった1日とは言え奈々子の観察を行っていたのだ。
彼もサーヴァントとして召喚された以上、主は聖杯を求める魔術師であると思い込み、昨日は急がす事を言ったのだが。
観察してみればそれが早とちりであった事が見えてきた。そうして出した彼女に対する評価がこれである。
嘗て共に生活した陣代高校の面々と同じ、平和な日本で暮らす普通の人間。
それは生前自分がそう成りたいと願っても成れなかったもの。【彼女】がそうでいられなかったもの。
いや、自分の力不足で【彼女】から失わせてしまったものだ。
そう考えれば何故自分がこの宇佐美奈々子に召喚されたのか、そして「アーチャー」のクラスが宛てがわれたのか。その理由も見えてくる。
自分の願いが潰えた時の、【彼女】を護れなかった時の愛機を。炎の剣ではなく石弓を使わせる為。
つまり目の前にいるマスターを護衛対象とした、あの時の敗北という結果に対する擬似的なリベンジ、それが自分の願いだったのではないかと。
どうやら自分は思ってた以上にあの時の事を根に持っていたらしい。思わず苦笑してしまう。
『この様な状況ならば君のその反応こそが普通なのだろう。幸いここは直ぐに危険が訪れる様な戦場ではないらしい。存分に悩むといい』
「……へ?」
『君が望まないのではあれば、俺から直接誰かに仕掛ける事もしないと誓おう』
アーチャーは「直接はな」と言う言葉は伝えずに飲み込む。これは彼女の為にも言うべき事ではないからだ。
正面から撃ち合うだけが戦争ではない。こちらから出向かなくても敵の戦力を削ぐ術はある。
それも目の前のマスターに目撃される事もなく。
そういう事なのだ。
『勿論、君は今命を狙われる立場にある。向こうから仕掛けて来たのなら俺も全力で対処する必要があるだろう。そこは留意して置いて欲しい』
『君に振りかかる火の粉は全て俺が払おう。ゆっくりでいい、君は君の進むべき道をしっかり見極めるといい。後悔のないようにな』
「――……え、でもアーチャーさんは何か願いがあって」
『問題ない。俺には今更聖杯なんぞに叶えてもらう願いなど持たん』
アーチャーは腰に手を充て胸を張る。
『願いや後悔など幾らでも有った。だがそれを含めて俺の歴史だ。今更聖杯などという得体のしれない装置で変えようものなら、俺の知る皆から怒られてしまう』
先ほどとはうって変わって今度は肩を落とすような仕草をする。正にやれやれと言ってるかの様な姿だった。
「アーチャーさん……」
奈々子は何か突然良い事言った風になってるアーチャーを見て思わざる得なかった。
「キグルミじゃなければ格好つくのになー」
「ふも?」
それは茶色い毛皮にずぐんぐりとした2頭身。大きい耳とネズミだか犬だかよく分からない頭。タクティカルベストと軍用ヘルメットを装備した。
その名をボン太くん。
こんな見た目だが、アーチャーこと相良宗介の所有する数々のハイテクが盛り込まれた強化服である。
言われた事が理解できないのか首を傾げるボン太くんの仕草を見て、奈々子は此処へ来て初めて、薄くではあるが笑みを浮かべた。
「ん……アーチャーさん、ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね」
『肯定だ。こちらからもよろしく頼む』
「うん!」
【クラス】
アーチャー
【真名】
相良宗介@フルメタル・パニック!
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力E 幸運E 宝具E
【属性】
中立・善
【クラススキル】
単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Bランクの場合、魂に致命的損傷を受けても短期間ならば生存できる。
対魔術:E
無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。
【保有スキル】
騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。機械であれば大抵の物は乗りこなせる。
破壊工作:A
戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす才能。トラップの達人。ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格が低下する。
戦闘続行:A
往生際の悪さ。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
【宝具】
『ARX-7(アーバレスト)』
ランク:E+++ 種別:対人/対軍宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:10
相良宗介がアーチャーおよびライダーとして現界した場合の宝具。
アーム・スレイブ(AS)と言う名称の陸戦用人型ロボット兵器。全高:8.5m。重量:9.8t。最大作戦行動時間:100時間。
武装:ワイヤーガン、12.7mmチェーンガン、炸薬付き対戦車ダガー、単分子カッター、57mm散弾砲(スラッグ弾)。
最大の特徴はラムダ・ドライバと呼ばれる搭乗者の意思を物理的な力に変換する装置であり、
その力は理論上「対象を触れる事無くイメージのみで破壊する」「重力を無視する」「核爆発どころか放射能すら完全に無効化し防ぎきる」
といった魔法そのものとすら言える事象を起こすトンデモ装置。
しかし、それらの効果を発揮するには搭乗者のコンディションに大きく左右される為、安定感に乏しく、兵器としての信用度は低め。
強力な宝具ではあるが、当然使用には大きな魔力が必要であり、この主従では魔力不足の為令呪によるブーストは不可欠である。
また、一度呼び出せば引っ込める事は出来ず、修理や補給なども現地調達以外では不可能。
破壊された場合はそれっきりであり、再度同型機などを用意する事も出来ない。
『ARX-8(レーバテイン)』
ランク:E+++ 種別:対人/対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:10
相良宗介がセイバーおよびライダーとして現界した場合の宝具。
よって使用は不可能である為詳細は省く。
『機械仕掛けの■■(アル)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
ARX-7およびARX-8に搭載されているAI。当然ながら上記の宝具を使用すれば自動的にこちらもセットで付いてくる。
むしろ彼にとってはASの方が自身の体であり、こちらの方が宝具の真の本体とも言える。
搭乗者の補助用AIでありながら常に自由会話をし続け、ネットやTVなどで勝手に知識を増やし、周囲の人間との触れ合いで人の感情を理解し、
リラックスの為という名目で搭乗者をおちょくるなど、ユーモアセンス溢れる奇妙なAI。
何故この様なAIが作られたかについては、製作者が語らずに死亡してしまっているので正確には解らないが、
物語の終盤、彼が何を考え何を実行したのかを考えればある程度推測する事は可能。
純粋な科学技術で生み出された神秘。
ラムダ・ドライバの使用に必要な魔力は彼が肩代わりしてくれる為、ARX-7の戦闘中の魔力消費は極めて微量で済む。
【weapon】
拳銃、散弾銃、突撃銃、ロケットランチャー、手榴弾、爆薬、ナイフ、各種薬物と注射器など。取り敢えず戦争で必要になりそうな物は一通り。
『ボン太くん』
遊園地のマスコットのキグルミに数々のハイテクを盛り込み魔改造した一種の戦闘服。
ボイスチェンジャーをOFFにすると電源が落ちる欠陥がある為、装備時は「ふもっふ」としか喋る事は出来ない。
【人物背景】
飛行機事故から生還した事を切っ掛けに、暗殺者→アフガン・ゲリラ→傭兵という人生を歩む事になった少年。
本人の資質は兎も角、生きる為に傭兵として各地を転戦した後にとある組織に所属する事になり、そこでの任務で大きな転機が訪れる。
護衛任務で潜入した平和な日本の高校。戦場での生き方しか知らなかった彼は四苦八苦し何度も騒動を起こしながらも、
護衛対象の少女や「普通」の日本の学生達との関わり合いや平和な生活に充てられ、自身も「まともな人間」に成りたいと願う様なる。
だが、状況は彼に普通の生活を送らせる事も、まともな人間に成る事も許してはくれなかった。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを護り生還させる。マスターの手を汚させない。
【マスター】
宇佐美奈々子@普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。
【マスターとしての願い】
流川に帰りたい。でも誰も殺したくない。
【weapon】
なし。
【能力・技能】
なし。
【人物背景】
市役所職員の叔父さんに頼まれて(騙されて)時給は1000円でローカルアイドルをやる事になった普通の女子校生。
本当に普通の少女であり、目を引く様なルックスや身体つき等のアイドルに必要なスター性や、仕事をする上での要領の良さ等は持ち合わせていない。
しかし、その明るく真面目な親しみやすい性格は重要な才能であると言われる事も。
緊張時などで自己紹介時に自分の名前を「なにゃこ」と噛んでしまうのが持ちネタと化している。
【方針】
未定。
最終更新:2015年12月08日 01:40