「おれは、死ぬことなんてこれっぽっちも怖くないんだ」
からからとグラスに注がれたウォッカの氷を弄び、嘯く男の視界は暗闇一色だった。
彼が色のある世界の住人でないということは、腰掛けた安楽椅子の横に立てかけられた杖が物語っている。
目が視える暮らしを送ってきた者がある日突然視覚を奪われば、当分は些細な日常動作さえままならなくなる。
その点、彼の動きは細部に至るまで完璧だった。
完全に『光がない』ことに慣れている、先天性の全盲者特有の慣れがそこにはある。
「子供のころから死の恐怖なんかまったくない性格だったよ。
どんなヤツにだって勝てたし、犯罪や殺人も平気だった……警官だってまったく怖くなかったね」
生まれ持った力のおかげで。
呟いて男は、自分の掌を光へ翳すような動作をした。
当然、その行為が彼へもたらしてくれるものは何もない。
だが、心を満たしてくれる。
光のない孤独な世界を生き抜くにあたり、自分をいかなる時も助けてくれた力が、その存在を感じさせてくれる。
「そんなおれが――はじめてこの人にだけは殺されたくないと心から願う気持ちになった。
どんなゴロツキだろうが権力だろうが、路傍をうろつく黒アリみたいにちっぽけなものにしか見えなかったこのおれが……この人にしてみりゃ、おれの方こそ虫ケラ以下なんだって思い知ったのさ」
だからその出会いは、ンドゥール青年にとって劇的だった。
歩んできた人生と積み上げてきた価値観を一変させるほど、彼の前へ現れた男は……あまりにも魅力的だった。
全盲故に、どういった姿をしているのかはンドゥールには今も分からない。
しかしながら、視覚などに頼らずとも、この人には絶対に敵わないと直感した。いや、させられた。
「その人はあまりにも強く、深く、大きく、美しい……そして、このおれの価値をこの世で初めて認めてくれた。
あの人がいなかったら、おれはきっと井戸の外も知らないカエルのまま一生を終えてただろうな。
おれはずっと待っていたんだよ、あの人に会うのをさ……だからこう思う」
指を一本立てて、ンドゥールは続けた。
「『死ぬのは怖くない しかし あの人に見捨てられ殺されるのだけはいやだ』
――わかるか? 悪には悪の救世主が必要なんだよ。あの人の存在は、おれにとっての救いだったのさ」
「生憎だが、理解しかねる」
にべもなくンドゥールの台詞を切り捨てたのは、褐色の肌をした隻眼の男だった。
白を貴重とした戦装束に身を包んだ姿は聖職者のようにも見えるが、しかしその本質は殉教者のたぐいだ。
彼とンドゥールの共通項は、お互い、とある自分よりも遥かに強大な存在へ心酔していること。
しかしンドゥールの信仰と彼の信仰では、ある一点が決定的に異なっている。
「真に救世主ならば、その存在へ感謝するならば、下される死は美徳とすべきだ」
「……へえ……おまえはそう考えるのか、アーチャー」
「そう驚くことでもないだろう。それに、僕と君の思想が相容れないのは必然、起こるべくして起こった相違だ」
サーヴァント・アーチャーは聖杯を求め、マスター・ンドゥールの召喚に応じてこの架空世界へ現界した。
だがしかし、サーヴァントとして召喚に応じたことがマスターとの共鳴を意味するかといえば、否だ。
時にはまるで相容れない、相性の悪い相手と結び付けられることもある。
例えば、卑劣非道の奇策謀術を生業とする魔術師と、誇りある戦いを望む騎士道精神の持ち主のように。
とはいえ、これはあまりに極端な例だ。
ンドゥールとアーチャーは性質では似通っており、互いに互いを糾弾し、弾劾する程の悪相性を約束された主従ではない。
「異なる神を崇める者同士が、真に胸襟を開いて分かり合うことなど決してないのだから」
「フフ……ああ、そうだ。おれもおまえも、互いに違うものを崇めている」
「だが――利害は一致する。僕も君も、聖杯を名も知らぬ盆暗へ渡すことだけは度し難いと思っている」
「その通り。聖杯は……」
「ああ。聖杯は……」
おれの、
僕の、
信ずるあの方にこそ相応しい。
その想いがある限り、この主従は絶対に破綻しないのだ。
神を愛するようにおのれの主を愛しているからこそ、つまらない癇癪で聖杯を捨てることは出来ない。
「では往こうか、アーチャーのサーヴァント、リジェ・バロ」
「言われるまでもない、マスター・ンドゥール。僕の仮の契約者」
「望むのは?」
「神の所有物を脅かす不信者の抹殺。そして」
アーチャーは、盲目のマスターへとその宝具たる銃(ユミ)の筒先を向けた。
「最後は君を殺そう。それが、神の使いたる僕の使命だ」
「フフフ――こちらの台詞だよ。DIO様以外の者に聖杯は過ぎた品物だ。それはおまえも例外じゃァない」
彼らの戦いはある種の代理戦争だ。
彼らは願いを持たない。
聖杯を使って願いを叶えるなどという野心を、端から持ち合わせていない。
彼らにとっての聖杯は捧げるものだった。
持ち帰り、然るべき持ち主に献上するものだった。
そして当然。神は二人といない。
それは、ンドゥールとアーチャーの共通認識で――だからこそ、どうなろうと彼らはどちらかが死ぬ定めにある。
だが今は、大いなる大義の為に轡を並べ、歩むのだった。
【クラス】
アーチャー
【真名】
リジェ・バロ@BLEACH
【パラメーター】
筋力C 耐久A+ 敏捷C 魔力A 幸運B 宝具A++
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師では○○に傷をつけられない。
単独行動:E
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクEならば、マスターを失っても数時間は現界可能。
【保有スキル】
追い込みの美学:B
相手をより確実に殺すためにあえて受けに回り、受け流して反撃に移る技能。
追撃:D
離脱行動を行う相手の動きを阻害する。
相手が離脱しきる前に、一度だけ攻撃判定を得られる。
滅却師:A
虚と闘うために集まった霊力を持つ人間の集団の一員。
大気中に偏在する霊子を自らの霊力で集め、操る技術を基盤とした戦闘技能を使用する。
更に星十字騎士団の一員である彼は、そこに加えて『血装(ブルート)』という戦闘術も会得している。
【宝具】
『The X-axis(ジ・イクサクシス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~80 最大捕捉:1人
万物貫通の名を持つ、彼がユーハバッハより賜った聖文字「X」の能力。
武器である巨大なライフルの射程上にある全てのものを等しく貫通する。
破壊力抜群の超高濃度の霊子の塊を放つことが出来、この前ではどんな防御壁も意味を成さない。
更に閉じられた左眼を開眼することにより、自身の身体にもその能力を適用することが出来る。
即ちその身体は全てのものを「貫通」――あらゆる攻撃を透過するため、事実上の無敵状態となる。
彼が戦闘で危機に陥った時に瞬間的にしか発動できないが、三度目の開眼以降は後述の宝具が自動発動する。
『神の裁き(ジリエル)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
左眼が三度開眼することにより自動発動する宝具。
光を放ち、四対の翼を持つ異形の『完聖体』へと至る。
あらゆる攻撃を一切受け付けず、翼の穴から放たれる「万物貫通」の光で相手を貫く。
防御不能の攻撃と自動絶対防御を同時に行う隙のない形態だが、マスターであるンドゥールの魔力を物凄い勢いで食い潰す為長時間の使用は禁物である。
【weapon】
巨大なライフル
【人物背景】
星十字騎士団所属の滅却師。
左眼にXを丸で囲んだ傷痕を持つ色黒の青年。ノースリーブの軍服を着ている。
騎士団の中でも高い実力を持っており、第二次尸魂界侵攻の際はユーハバッハの親衛隊に抜擢されている。
その信仰心は一際強く、自らを彼の最高傑作であると自負している。
【マスター】
ンドゥール@ジョジョの奇妙な冒険
【マスターとしての願い】
DIO様へ聖杯を献上する
【weapon】
なし
【能力・技能】
スタンド能力『ゲブ神』。
スタンドを流体と一体化させて操る能力で、少量の水さえあればそれをそのまま操ることが出来る。
物質同化型のスタンドであるため、一般人にも視認することが可能。
本体の能力も併せて四キロ離れた場所にいる敵に対して攻撃が可能。
戦闘時には水を手の形に変化させて、爪による攻撃を多用していた。
人間の体内に入り込んで窒息させる、首をひっつかんでもぎ取るなどの応用も利く。
温度が高く、水の少ない広大な砂漠でも水を蒸発させることなく長時間戦闘を行える。水を蒸発させる炎とは相性が悪いが、砂の場合は染み込んだと見せかけて潜り込ませ、離れた場所にいるものに不意打ちを食らわせることも可能。
【人物背景】
エジプト九栄神のひとつ『ゲブ神』の暗示を持つスタンド使い。
盲目の青年で杖がなければまともに移動もできない。
しかし、四キロ先の足音を聞き分けられるほど異常な聴力と感覚を持つ。
幼少時にスタンドが発現し、全盲でありながら強力なスタンドを行使する生活を送っていた。そんな中でDIOと出会い、生まれて初めて「この人にだけは殺されたくない」と心から願った。
以降は彼に心酔するようになり、彼のことを「悪の救世主」と称し崇拝している。
【方針】
確実に、敵を殺す
最終更新:2015年12月08日 01:41