千葉龍之介は、早い段階から自分が置かれた環境に違和感を覚えていた。
毎日穏やかに繰り返される、ごく普通の学生生活。
これは自分の日常ではない。自分の日常はもっと特殊だったはずだ。
彼が抱いていたその思いは、カバンの底に眠っていた銃を見つけることで爆発した。
◇ ◇ ◇
「さて、マスターよ。お前はこれからどうする」
千葉に問いかけるのは、彼が召喚したアーチャーのサーヴァント。
その真名を、アドルフ・ラインハルトという。
27世紀の世界で、人類を救うために火星に旅立った戦士だ。
「正直、すぐに断言はできないな……」
あまり力のこもらない声で、千葉は応える。
前髪で目を隠しているため表情を捉えづらい千葉の顔だが、それでも今は動揺しているのがわかる。
「この聖杯戦争に参加させられた人間は、聖杯を手に入れるか死ぬか。そのどっちかしかないんだろう?」
「そうだ。もしかしたら聖杯自身も想定していない抜け道があるかもしれないが、少なくとも正規の
ルールでは脱落は死を意味する。
あるかどうかもわからない脱出路を探すよりは、勝ち残って生還するのを目指す方が賢明だろう」
「だよなあ……」
淡々と返答するアーチャーに対し、千葉はがっくりと肩を落とす。
「聖杯なんてほしくはないけど、俺は死にたくない。俺にはまだ、仲間たちと一緒にやらなくちゃいけないことがあるんだ」
「聖杯はいらないか……。お前にも願いはあるだろう。
でなければ、この地に呼ばれる可能性は限りなく低いはずだ。
お前の願いを、聖杯で叶えようとは思わないのか?」
「願いならある。でもそれは、俺たち皆でやらなくちゃいけないことだ。
誰かに頼んで叶えてもらうものじゃない」
千葉の願いとは、彼らのクラスに課せられた使命に他ならない。
すなわち、担任である殺せんせーの暗殺だ。
それは、自分たちでやらなければいけないことだ。
聖杯などという反則じみたカードの力で終わらせてしまっては、千葉もクラスメイトたちも決して納得できないだろう。
「俺は帰れれば、それでいい。けど……そのためには、聖杯戦争に参加してる他の人を殺さなきゃいけない。
それを受け入れることは……まだできそうにない」
千葉の肩が、かすかに震える。
彼、そして彼の仲間たちが殺せんせーを暗殺するという使命を受け入れられたのは、殺せんせーが人ならざる生物だという面が大きい。
人間を殺す覚悟は、彼にはない。
「それが当然だ。いかに特殊な訓練を受けていたとはいえ、お前は平和な国で育った子供だ。
殺人に忌避感を抱くのは、何もおかしいことじゃない」
「アーチャー……あなたはどうすればいいと思う」
「お前の人生を大きく左右する決断だ。赤の他人である俺が、軽々しく口出ししていいものでもない」
「ばっさりだな……」
「だが……」
あからさまに落胆する千葉に対し、アーチャーはさらに言葉を続ける。
「お前がどんな決断をしようと、俺はお前の命を全力で守る。
それが俺という英霊の、存在意義だ」
「そうか……」
千葉の表情が、わずかに緩む。
「別に問題が何か解決したわけじゃないけど……。そう言ってもらえると、少し気が楽になるよ。
ありがとう、アーチャー」
「礼などいい」
気恥ずかしいのか、アーチャーはあからさまに視線を外してしまった。
(厳しいところもあるけど、本質は優しい人なんだろうな。
不器用っぽいけど……。
その辺が俺と引き合ったのかもなあ……)
アーチャーの横顔を見ながら、そんなことを考える千葉であった。
【クラス】アーチャー
【真名】アドルフ・ラインハルト
【出典】テラフォーマーズ
【属性】秩序・善
【パラメーター】筋力:D 耐久:E 敏捷:D 魔力:E 幸運:E- 宝具:C
(人為変態時)筋力:B 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:E- 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。ダメージ数値を多少削減する。
科学に偏った英霊であるため低ランクとなっている。
単独行動:E
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
人とのつながりを求めたアーチャーの生き様にはそぐわないスキルのため、低ランクとなっている。
【保有スキル】
カリスマ:C
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
一軍の将にすぎないアーチャーにとっては、Cでも異常なまでの高ランクと言える。
これは本人の資質より、「部下から絶大な信頼を受けた司令官」として伝承されたことによる補正が大きい。
気配察知:C(A)
気配を感じ取ることで、効果範囲内の状況・環境を認識する。近距離ならば同ランクまでの気配遮断を無効化する。
人為変態中は、ランクがAに上昇する。
仁王立ち:B
一時的に耐久を上昇させ、攻撃を自分に引きつけるスキル。
部下を守る盾となって力尽きた、アーチャーの死に様を象徴している。
【宝具】
『嵐の予感(サンダーストーム)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
モザイク・オーガン手術によって獲得した、デンキウナギの能力。
本来は変身薬を鼻から吸引することによって人為変態するが、宝具となったことにより本人の意志のみで変態が可能になった。
変態中は身体能力が向上し、電撃を操ることができるようになる。
『涙雨に濡れた心(レイン・ハート)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:10人
対テラフォーマー受電式スタン手裏剣。
アーチャーのコートの裏にびっしりと装備された、投擲用の刃物。
電気を誘導する性質を持ち、一度刺さればアーチャーの電撃からは逃れられなくなる。
【weapon】
戦闘服
アネックス1号の乗組員に支給される服。
コート・ジャケット・ズボンでワンセット。アーチャーのものは幹部仕様として、コートにケープがついている。
普通の服よりは頑丈。
【人物背景】
治療不可能のウイルス「AEウイルス」のサンプルを入手し、ワクチンを作るために火星に向かった宇宙船「アネックス1号」の乗組員。
国籍はドイツ。第5班(ドイツ・南米班)の班長を務める。
「バグス手術」を発展させ、昆虫以外の生物の能力も人間に移植できるようにした「モザイク・オーガン手術」の成功者第1号。
まだノウハウがない中で実験台として扱われていたため、その体には自分の能力で負った傷が無数についている。
その境遇から他人とのつながりを強く求めており、表面上は冷酷な態度を取りつつも部下を思う気持ちは人一倍強い。
火星では裏切り者である第4班の計略で孤立。
部下を守るためテラフォーマーの大群を相手に鬼神のごとき戦い振りを見せるも、数の暴力に押され無念の死を遂げる。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを守り抜く。
【マスター】千葉龍之介
【出典】暗殺教室
【マスターとしての願い】
元の世界に帰りたい。
【weapon】
○エアガン&対殺せんせー弾
殺せんせーの肉体だけを溶かす効果を持つ弾丸と、それを射出するためのエアガン。
人間相手に効果は無いが、牽制や威嚇程度には使えるかもしれない。
【能力・技能】
○狙撃
誰もが認める、E組最強のスナイパー。
抜群の空間計算能力を活かし、1㎞という長距離射撃さえも難なく成功させている。
【人物背景】
私立椚ヶ丘学園中等部3年E組・出席番号15番。
強すぎる目力を抑えるため、長く伸ばした前髪がトレードマーク。
暗殺訓練によって射撃の才能を見いだされ、速水凛香とスナイパーコンビとして数々の活躍を見せる。
狙撃の腕に加え、口数の少なさや落ち着いた物腰からクラスメイトに「仕事人」と称されている。
【方針】
死にたくないが、他人を殺したくもない。
最終更新:2015年12月08日 01:42