De profundis clamavi


   われ深き淵より汝を呼べり



.

1:

 最強とか、最高とか。
そう言った称号を約束されて生まれてくると言うのは、どんな気持ちなのだろうか。
その事実を、誇るのか。それとも、重圧から来るプレッシャーで、潰されるのか?
彼女の場合は、そのどちらでもなかった。最強或いは、決戦兵器と言う名目で生まれて来た彼女は、自身の出自に寂しさを感じていた。

 『大和』、と言う名前は、この女性には相応しくないのかも知れない。
皮膚の下の血管が透けて見えそうな程白い、玉の肌。余分な贅肉など欠片も見当たらない、スラッとした身体つき。
それでいて豊満で女性的な乳房。何よりも、優艶な女性美を匂わせるその、可憐な顔立ち。育ちの良さが窺い知れようと言うものであった。
このような女性には、もっと相応しい名前があるだろう。花子と言う在り来たりな名前ですら、この女性を表す名であると言うのなら、それに恥じぬ輝きを持つに相違ない。
なのに彼女の名は、大和なのだ。そう、彼女は艦娘だから。帝国海軍に於いて、最強かつ来たるべき戦争に向けての切り札となるべき宿命を背負って生まれた大戦艦・大和の生まれ変わり、それが、彼女なのだから。

 史実における大和の存在が、徹底的に秘匿されていたと言うのは有名な話である。
国民は愚か、帝国陸軍、果ては同じ同胞(はらから)である筈の海軍からも、帳簿操作や情報統制を駆使し隠し通したと言うのは良く知られている。
そして、徹底した情報統制の末に衆目に御披露目されたこの虎の子の戦績が、実は思った程に芳しくない事も、少し歴史を紐解けば解る事だった。

 大和は、己の前身であった、大艦巨砲主義の申し子のようなあの戦艦の記憶を色濃く残していた。
遺していたからこそ、深海棲艦との戦いの時ぐらいは、華々しく活躍し、前世の無念を晴らしてやろうと決め込んでいたのだ。
だが、戦う相手が米国の艦船から未知の怪物に変貌を遂げても、大和は大和であった。
彼女はこの場においても、決選兵器と言う扱われ方をされていたのだ。決選兵器、秘密兵器。聞こえは良いだろう。
しかしその実、こう言った名称と言うのは『平時に扱うには難のある面倒くさいもの』と言った意味が暗に込められているものだ。
結局、舞台が変わろうとも、彼女の扱いは、さして変わらなかった。何時来るかとも解らない『その時』を待ちながら、海面を走る白いさざ波を眺める毎日を過ごす。
一緒に戦い、友情を確認出来る相手もいないその日々に、大和は、もう慣れた。慣れる度に、心にぽっかりとした穴が空いて行き、寂しくなる。

 艦娘とは、戦う事が第一義の存在である。
決戦兵器の名を冠した大和が自分が出張る程の戦いがないと言う事は、鎮守府は全く追い込まれていないと言う事を意味するに等しい。
それはそれで、良い事なのだ。良い事なのだが……これでは、最強と言う名前の意味合いも、廃れて来ると言う物だった。

決戦兵器、最強の戦艦。
そう言った名目で生まれて来た自分自身。戦えない『戦』艦と言う自らの在り方に思い悩んでいた、そんな時に、大和はこの街にやって来た。
名前も知らない街。辛うじて、生国である日本の街である事は解る。違うのは、この街には深海棲艦などと言う無粋な、平和を脅かす人類の敵がいないと言う事。
尚の事、これでは大和の存在など、お払い箱に等しい……と言う事には、ならなかった。
そう、彼女は知っている。自分はこれから、聖杯戦争と言う、深海棲艦が絡む代わりに、サーヴァントと言う超常存在を用いて戦う、神代の戦いに身を投じねばならない事を。
何で、とも、如何して? とも思った。この身と、授かった力は人類の敵である深海からの侵略者と戦う為のもの。彼ら以外に振るって良いものではないのだ。
初めて発揮する、戦艦大和としての力。それがまさか、このような局面で訪れようとは……。深く、深く、大和はその事を悲しんでいた。

「……貴方は、悲しくないのかしら?」

 複雑な表情で、大和は目の前を見上げた。見上げなければ、全貌を見渡せなかった。

 鋼の崖(きりぎし)のような物であった。
研磨されたステンレスを思わせる色の金属で出来た巨大な壁が、大和の目の前に広がっている。
間近で見ても解る程の重量感と、金属特有の冷たさが、彼女の身体にひしひしと伝わってくる。
この鋼こそが、大和の呼び出したサーヴァント。戦艦をモチーフにした艦娘である大和に相応しく、そのクラスはライダーであると言う。
そして奇しくも、このライダーが騎乗する物は、『ヤマト』、と言うらしい。サーヴァントは、マスターの性格や在り方に牽引されると言うが、自身の存在に呼応するように、このライダーも現れたのであろうか?

「……悲しいわよね、同じ『やまと』なんだから……」

 「……だからね……」
言って、大和はその鋼の壁にそっと触れた。濡れた氷に直に触っているかのような、そんな冷たさだった。
このヤマトには、暖かみも無い。船員達が御国の為に命を掛けて戦ったと言う熱き思いのうねりも感じない。何処までも冷たい、鋼の肌触り。

「もう、おかしな事は止めましょう、ライダー。私と同じ名前の……海に沈んだ大和を駆る貴方に、人を殺すような真似は、して欲しくないの……」

 その声は、お願いと言うよりは、最早懇願に似ていた。
鋼の壁は、黙して語らない。一陣の風が、大和を目掛けて横殴りに吹き荒んだ。孕まれた風の冷たさは、ライダーが否、と答えているように思えてならなかった。



.

2:

 街の海沿いの砂浜に、正体不明の鋼の艦船が漂着したと言うのは、大きなニュースになっていた。
地球上の如何なる金属の種類にも該当しない、銀色に似た光を放つ、巨大な船。
帆を掛ける為のポールが存在する事からも、石油や石炭で動かない、前時代的な帆船の類と断定する向きもある。
向きもあると言ったのは、これが一目見てただならぬテクノロジーで作られている、とも受けとる事が可能であったからだ。
先ず素人目を引くのが、船体の表面を走る、光の筋。電気の様なエネルギーが船体内部で生み出され、用いられている事は明白であった。
それだけではない、造船に携わるプロフェッショナルが見れば、誰でも解るだろう。これほど大きな艦船を、金属で加工出来る等、ただの技術で出来る事ではない。
高度な造船技術を以て作られた船である事は、明白である。しかし、所在が解らない。何処の国の、何処の造船所で作られたのか、一切不明。
このような艦船を生み出した所は、この地球上の如何なるところにも存在しない、完全なる身元不明艦であった。

 今や街の名物となった、このオーパーツ船を見ようと足を運ぶ地元住人や、他県の者も、どれどれと言った感じで見物しにくる者も多い。
街の自治体としては、観光がてらにお金を落としてくれる人物が大勢やって来てくれている為に、万々歳であった。
――それだけであったのならば、どれ程平和な事だったろう。

 街にやって来るのは、物好きな見物人や船に興味のある、所謂マニアだけではない。
オーパーツだ未知の文明の漂着物だ、と言う噂が立つ艦船である。中が気になり、入って見たいと言う欲求を持った人間も少なくない。
それだけならばまだ可愛い方だ。中には、船の中に在るであろうお宝を、「ちょいと失敬」と言った風に頂戴する、トレジャーハンター気取りの物盗りもいる始末だ。

 ――誰もが寝静まった、深夜の二時を見計らってやってきた、この六人もそんな連中であった。
カーライトに照らされたその顔は、一様に若い。車を運転できる事からも、大学生の面々であろう。
彼らは他県からやって来た大学生で、遊びと言ったら飲み会麻雀ゲーセン旅行と、兎に角金のかかる男達であった。
そんなものだから、バイトで金を稼いでも万年貧困、奨学金も本来の使い方をせずに遊びに溶かす始末だ。
「今月も金ねーなー」、と愚痴っていた所に、この艦船の噂を聞いたのである。
当初は他県の話だし興味もないからスルーしていたのだが、ひょっとしたら凄い値打ち物が中に転がっているかも、と言う噂を聞き、彼らは車を走らせたのだ。
今ならこの船は誰の物でもない。所持者の存在しない漂着物なのである。誰も所有権を出張していない今がチャンスとばかりに、彼らは船内に忍び込み、
中に眠っているかもしれないお宝をゲットする、そんなつもりでいたのである。

「……すっげ、本当に光ってるぜ」

 時事のニュースなどあまり見ない彼らは、一人でに船の表面が幾何学的な文様に光ると言う話を信じられないでいた。
だが、現実は彼らの目に映る光景の通り。何の動力で光っているのか一切解らないが、噂の通り、幽玄な光を船体の表面が走っている。
「まるで遺跡みたいだな……」、仲間の一人がそう呟く。確かに、そんな感じはしなくもない。いやもしかしたらこれは、船の形をした遺跡なのではなかろうか?
だったら尚の事、お宝が眠っていると言う物だ。気分はインディ・ジョーンズの映画の主人公宛らだった。
車のエンジンを切り、キーを抜き、彼らは意気揚々と船の方へと向かって行く。

 ……ベッと言う意味不明な声が、最後尾で響いた。
「転んだのかよオイ」、と思い、一番前を走っていた男が、振り返りライトを当てた。男につられて、残りの仲間も同じような行動をとる。
――一瞬、彼らは状況を理解出来ていなかった。同じサークルの仲間の一人が、身体を頭頂部から臍までを断ち切られた状態で、砂浜に前のめりに倒れていたのだ。
砂は血を吸い、トウガラシの粉の様になっている。呆然としていた男五人の内、二人の身体が、骨肉と様々な組織液を吹き散らせながらグチャグチャに吹き飛んだ。
頭上に、この無惨な事件の下手人が現れた。それは、鎌で出来た車輪とも言うべき姿をした器物で、鎌の刃の部分にカマイタチ状の風を纏っているのだ。
その車輪は高速で回転し、一人の仲間の方に向かって行った。ぷぎゅ、と言う声と同時に、彼の身体は頭頂部から股間まで真っ二つにされ、内臓を砂浜に零しながら死亡する。

 漸く状況を呑み込めた後の二人が、酷く情けない声を上げて、倒けつ転びつ、その場から逃げ去ろうとする。
大量の火薬を搭載した手榴弾を近距離で喰らったかのように、後の二人の身体が爆散した。
彼の背後には、下半身が馬の様な生物で、上半身が牛の角を携えた鬼の様な生物で構成された怪物が、絵本に出てくる鬼が所有する金棒の如き獲物を振り抜いていた。

 化物が、酷く醜い嘶きを上げた。
殺された男達の体躯の半分以下と言う矮躯の生き物が、殺された男達に殺到した。
ぐちゅり、ぐちゅり、ぶつり、がつり、と言う、意地汚い咀嚼の音が、誰もいない砂浜に鳴り響く。
男達は、死んで天国に赴く際に、果たして気付けたであろうか。この船が漂着してからの数日間、全く船の内部の様子に関する報道が成されなかった事を。
そして、この街の住人達は、気付けているのだろうか。船が漂着してからの数日間で、行方不明者の数が爆発的に増えて行っていると言う事実を。

 鋼の船は、黙して語らない。
月の光よりも明るい、謎の動力源による光が、船体を走って行く。咀嚼音が止まり、静かな波がよせてはかえす音が響くようになった頃には、砂浜には肉の残滓も骨の欠片も、全く見当たらないようになっているのだった。



.

【クラス】

ライダー

【真名】

常闇ノ皇@大神

【ステータス】

筋力A 耐久A+(EX) 敏捷C 魔力A++ 幸運E 宝具EX

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:EX(A+)
ライダー本人の値ではなく、正確にはライダーの宝具の値である。ライダー本体の値はカッコ内の通り。
ありとあらゆる、害意ある魔力的な干渉を跳ね除けるだけでなく、物理的な攻撃ですらも遮蔽する。
極めて高ランクの神性或いは、タカマガハラ由来の人物でない限りは、船に触れる事すらも出来ない。

騎乗:-
ライダーは騎乗の逸話を持たない。厳密には宝具に騎乗しているのではなく、宝具を乗っ取っていると言う形のライダーである。
そして、宝具を乗っ取ってこそいるが、ライダーはこの騎乗物を動かす事は出来ない。

【保有スキル】

無我:EX
ライダーは精確には人格を持った生き物ではなく、妖力と言うエネルギーが形を成した生まれた、力そのものである。
従って人間的な性格が存在せず、性質としては無機物のそれに近い。精神干渉をランク問わず全て無効化する。

妖怪創造:A+++
この世に二つとあり得ぬ古今独歩の闇の象徴、妖魔の絶対的君主と言われるライダーの圧倒的権能。
自らの魔力が許す限り、ほぼ無限大に妖怪を創造し、宝具である箱舟から外部に輸出させる事が出来る。
但し聖杯戦争の制限により、鬼や天狗と言ったレベルの妖怪を生み出すとなると魔力を消費。
サーヴァントに匹敵する強さを誇る、ヤマタノオロチやキュウビ、エキビョウに双魔神などを創造するとなると莫大な魔力を消費する。

致命的弱点:A+++
生前の逸話から来る、致命的な弱点。
このランクとなると、それは最早弱点と言う言葉ですら生ぬるく、それを突かれたその瞬間、因果律の定めにより消滅が確約されるレベル。
ライダーの弱点は、『太陽』とその光である。その光に晒された瞬間、ライダーはたちどころに消え失せる。
また、『太陽神』、或いはその神霊縁の英霊と交戦を行った場合でも、ライダーは敗北が定められている。

【宝具】

『希望と平和の船(箱舟ヤマト)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:- 最大補足:1000~(収容人数)
そもそもこの宝具は、神代の時代に、月に住んでいた民がタカマガハラの住民に対して与えたとされる巨大な鋼の船である。
この宝具には謎が多く、月の民が何故タカマガハラの住民達にこの船を寄与したのか、未だに明らかになっていない。
解っている事は、ライダーがこの宝具を乗っ取った事で、船内は様々な妖怪の巣窟になっていると言う事と、この内部の妖怪が嘗て、
タカマガハラの住民を残さず食い殺したと言う事だけである。ライダーは平時はこの船の内部に籠り、様々な妖怪を産みだし、外部にそれを放ち続けている。
箱舟が有する魔力は膨大、生半な事では枯渇する事はないが、スキルにもある通り、無計画にサーヴァント並の強さの妖怪を生み出した場合にはその限りでない。
非常に頑丈で、A+ランク以上の対城宝具ですら破壊する事は困難ないし不可能なレベルだが、万が一破壊されるような事があった場合には、
太陽の光を致命的な弱点とするライダーは、最早消滅を免れないであろう。

『常闇ノ皇』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~ 最大補足:1~
世界に闇と妖怪を振り撒き、悪徳と混沌の世を生み出そうとする暗黒の君主。全ての妖怪を統べる百鬼夜行の主。
ライダーは厳密には妖怪ではなく、妖力と言うエネルギーその物の様な存在で、妖怪ですらも有している筈の自我や意識が存在しない。
その姿はおどろおどろしい姿とは対極にあるような、無機的な、機械やカラクリ仕掛けを思わせるような球体と言った風情で、生物的なイメージを欠片も有さない。
ライダーは交戦状態になると自らの身体を、それこそ機械仕掛けの様に変化させ、内部に搭載された神秘と科学の融合体の様な兵装で相手を殲滅する。
但しこれらの戦闘能力は船内、或いは、夜間の外部でしか発揮出来ず、太陽の光を弱点とするライダーは日中の外部ではその戦闘力を発揮出来ない。
また伝承の通り、太陽神或いは、太陽神の庇護を受けた人物との交戦の場合でも、ライダーは因果律により敗北が定められている。

【weapon】

自身の身体の中に備わる兵装。

【人物背景】

嘗て、ナカツクニのカムイはラオチ湖に漂着した、箱舟ヤマトの最奥に君臨していた妖怪達の君主。
彼はナカツクニに漂着してから、ある男を探す為に妖怪を生み出し続け、その人物の捜索の為に魑魅魍魎達をナカツクニに放出し続けた。
これこそが、ナカツクニの異変や凶事の原因であり、常闇ノ皇は世界に起る怪異の元凶となった存在である。
最終的に、大いなる慈母と彼の戦友であり、常闇ノ皇自身が探し求めていた天神族の男の手に打たれ、敗れ去るのであった。

【サーヴァントとしての願い】

???

【基本戦術、方針、運用法】

無敵に等しい対魔力と防御性能を誇る箱舟ヤマトに籠っている限り、原則全く手出しが出来ないライダー。
しかし、日光を受けたその瞬間敗北が決定するライダーの為に、どちらかと言えば運用方法はキャスターのそれに近い。
内部に籠り妖怪を生み出し続け、外部に混沌を生み出す事が仕事のライダーである。
但し、マスターはその性質上船内に立ち入る事は出来ず、無防備な姿を強要してしまう。
単独行動スキルを持たないライダーは、マスターを殺された時点で実質詰みである為、如何に知性を有した妖怪を産みだし、彼女を守る事が肝要となるであろう。




【マスター】

大和@艦隊これくしょん(アニメ版)

【マスターとしての願い】

戦艦として活躍はしたい。しかし、このような活躍は望むべくではない

【weapon】

艦装は、装備させて貰えていない

【能力・技能】

海上での戦闘に優れている。尤も、今は発揮出来ない。

【人物背景】

決戦兵器と言う触れ込みの、大和型の戦艦の艦娘。長門型の二名よりは役に立つ

吹雪と出会う前の時間軸からの参戦

【方針】

ライダーには大人しくしてもらいたいが……

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年12月08日 02:09