やり直さなければ。
人類がここまで至ってしまった歴史を。
だれにも疑われずに繰り返される戦争を。
闘争によって世界を維持し続ける人類を。
そのための紛争の火種を撒くために人類の「敵」をも演じてきた「首領蜂」を。
聖杯戦争の舞台となる疑似的な電脳世界に降り立った『彼女』は思った。



◆ ◆ ◆



拠点となる施設にある工房。
工房といっても魔術師が構えるようなものではなく、機械系のエンジニアのそれだ。
灰色のコートを身に纏い、その内部は下着同然のきわどい恰好をしている女性がその中に佇んでいた。
目は大部分が紫色の瞳が占めており、白目はほとんどない。
不気味でどこか冷たい印象を持たせる女性であった。
ふと、彼女は自身のうなじに触れる。

「やはり、『ない』…」

ない。元々は彼女のうなじから背中にかけて存在した兵器への接続やメンテナンスに使う電線の差し込み口がないのだ。
そのことに女性型アンドロイド「エレメントドール」の一体、エクスイは戸惑いを隠せなかった。
エレメントドールとは戦闘機に装填することで戦闘機全ての兵器プログラムを管理し、武装の強化を図る戦闘用ロボット。
装填される際は身体から無数の電線を戦闘機に繋げ、コックピットとは別の収納スペースに入る必要がある。
電脳世界でのエクスイの身体は、この世界に来る前よりかは少しだけ人間味を帯びていた。

「でも、兵器の強化はできるみたいね。…それも戦闘機以外の兵器も」

エクスイが顔を上げる。
その視線の先には、巨大な影があった。マスターとなったエクスイに宛がわれたサーヴァントのものだ。
しかし、その容姿は通常の人間にイメージされる輝かしい英雄のそれではなく、ただ無機質で自我などない、兵器そのものであった。
ライダー、またの名を電光戦車。
くすんだ灰色のボディに、車体の頂上にある髑髏が特に目立っている。
髑髏の眼窩にうっすらと見える目のようなものと視線が合えば相対した者は得体のしれない恐怖に襲われることだろう。

「ライダー、こっちに来なさい」
『…………………』

キュラキュラとキャタピラを動かしながら、電光戦車はエクスイの元へ寄る。
傍らへやってきた電光戦車のボディに手を当て、かつて敵のマザーコンピューターにダイブした時の要領で電光戦車の内部へ接続する。
その時、電光戦車の中へダイブしたエクスイには『見えていた』。
機銃、火炎放射から前方の全てを焼き尽くし一掃する『ギャラルホルン』までの兵器を司るプログラムが。
ひとまず機銃を制御するプログラムを兵装に最適化し、強化してやる。

『ピピピピピ…………???』
「2、3発撃ってみなさい」

それを受けて、電光戦車は何も言わずにただ前輪の間に存在する銃口から弾を発射する。
それだけで、その先にあった工房の壁をボロボロに砕き、大人が入れる程度の穴を開けてしまった。
戦車の駆動音と共にかなりの轟音が響いたが、時刻は深夜だったために以上に気付いて寄ってくるNPCはいなかった。

「形は変わってるけれど、エレメントドールのやれることは変わってない…それどころか増えてるわね」

前回撃たせた時よりも、格段に威力が上がっている。機銃は電光戦車の武装の中でもかなり威力の低い部類であるにも関わらずに、だ。
電脳世界に来て強化する兵器に有線で接続できなくとも、武装を強化するというエレメントドールの本分は失われていなかったようだ。
本来は戦闘機にしか利用されていなかったエレメントドールだったが、ここでは戦闘機以外の兵器も強化できるらしい。

「戦争に勝つためにこのアドバンテージを利用しない手はないか」

無線で接続してあらゆる武装を強化でき、それは自分のサーヴァントの戦車にも有効。
聖杯を手に入れてそれにかける願いのあるエクスイにとっては願ってもないことだ。

「争いを繰り返して安定を保つなんてこと…あってはならないのよ…」

エクスイはあの瞬間を思い返す。
月の機械兵団との最終決戦で敵のマザーコンピュータにダイブした時のことを。
エクスイは、敵のマザーコンピュータ内で『真実』を見てしまった。
これまでの人間が歩んできた歴史を。「首領蜂」の正体を。
「首領蜂」は過去、7年間もの『正体を隠したまま味方同士を潰し合わせる軍事演習という名の戦争』に勝利した兵たちで構成された最強の部隊。
彼ら「首領蜂」の登場により、人類は戦争によって世界を維持するようになった。
増えすぎた人口、留まることなく進む環境汚染。これらの社会問題を全て解決するにはどうしたらよいか?
人類は、これらを『戦争』という形で解決してきたのだ。
増加し続ける人口と人類による環境破壊を、報復戦争という誰も疑わない形をもって抑制すること、
その為に、常に紛争の火種をばら撒き続け、時に人類の「敵」をも演じる戦争運営組織の実働部隊。
それが「首領蜂」なのだ。
そしてそれらの問題の解決のために、何も知らず戦争を繰り返し続けているのが人類なのだ。

それを知ったエクスイは発狂し、自身のパートナーであるはずのパイロットを殺害、自身も破棄された。
その過程で悩みつつも、エクスイは答えを出した。
「やり直さなければ」、と。


「ねぇ、あなたもそう思うでしょう…?ライダー」

再びエクスイは電光戦車の中…そのさらにもっと奥の中枢へ接続する。


『……』


『…………』


『……………………』


『………………………………』


『………………………………………ア』


静寂が支配していた電光戦車の中枢から、エクスイの頭にかすかな声が響いてくる。
それは何も語らない兵器であるはずの電光戦車の悲痛な叫びだった。


『…アツイ……コワイ…チガ……シニタクナイ…カアサン…カミサマ……オレハ………ニ――』


『――ニンゲ…ン……』


電光戦車。かつて秘密結社ゲゼルシャフトで量産された『それ』は生きた人間…それも負傷して戦えなくなった兵を材料として開発されていた。
電光機関の電力源にするために身体を生体パーツに組み込まれ、自律駆動を実現するために頭脳をも利用された。
ある者は家族との再会を願い。ある者は神による救済を願い。
ある者は材料にされることに憤り。ある者は耐えがたい激痛に嘆いた。
エクスイのサーヴァント、ライダー。
その本体は電光戦車という『宝具』ではなくその中に組み込まれた中身であり、エクスイはそれに気づいていた。

「争いがなければ、『あなた達』もこんな目にあう必要はなかった」

争いの切欠を断つ。そして戦争を繰り返す人類の在り方をもう一度過去からやり直すことで正す。
その願いためにエクスイ自身も、戦争へと挑むのだ。
万物の理は闘争に有るなど断じて認めない。
人類の在り方を否定する。それはつまり、エクスイは人類の敵になったことを示していた。
もはや人類の味方であったエレメントドールではいられない。
元の世界に帰還し、人類と対峙した時、彼女は自身をこう称するのであろう、「エレメントドーター」と。


【クラス】
ライダー

【真名】
電光戦車@アカツキ電光戦記

【パラメータ】
筋力A 耐久A 敏捷E 魔力B 幸運E 宝具A

【属性】
秩序・悪(暴走によって変動する可能性有り)

【クラス別スキル】
対魔力:E
魔力に対する守り。無効化はせず、ダメージ数値を多少軽減する。

騎乗:-
ライダークラスにあるまじきことだが騎乗スキルを所有しない。
厳密にはライダーは乗っているというよりも『組み込まれている』からである。

【保有スキル】
複製:E
ライダーが量産可能であることを示すスキル。
その特性から一体あたりの現界による魔力消費は非常に軽く、Eランクならば3体で本来のサーヴァント1体分の魔力消費になる。
マスターの意思で魔力が許す限りライダーを追加召喚し、戦わせることができる。

無我:A
ライダーは自我を持たず、マスターの指示に疑問を抱かずただ従う。
言葉すら発することはなく、聞くことができるのは『電光戦車』の駆動音だけである。
Aランクならば令呪なしでNPCの殺害や自害を実行してしまう。
また、あらゆる精神干渉を完全に無効化する。
しかし、人格に目覚めて暴走する例が多数報告されており、その場合このスキルは失われる。

単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。ランクBならば二日程度活動可能。

【宝具】

『電光戦車(ブリッツ・タンク)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1~50人
「禁断の決戦兵器」の異名を持つ自律駆動の戦車『電光戦車』。電光機関を動力源とする。
ゲセルシャフトで量産され、世界侵攻の切り札として運用されたライダー自体が宝具となったもの。
複製スキルで量産でき、電光戦車が一体でも残っている限りはライダーが消滅したことにはならない。
電光機関による強力な電磁波での電子機器の無力化、光学兵器による誘導弾の撃墜が可能。
電光戦車を動かす電光機関は、生体エネルギー源『ATP』を電気に強制変換する装置であり、人間の生体エネルギーが必要不可欠である。
その為、この兵器には複数人の"生きた人間"が組み込まれており、負傷して戦えなくなった兵士が主に使われた。
電光戦車はあくまで宝具であり、ライダーの本体はその『中身』の生きた人間。
前述のように組み込まれた人間達の人格が暴走し、自我を持つことがあるが、複数人の人格が混濁した状態で、理性を保っているとは言い難い。

【weapon】
  • 電光機関
電光戦車に組み込まれている特殊機関。
その正体はチベット・ツァンポ峡谷に存在していた古代文明アガルタの遺したオーパーツ。
装備することで無尽蔵に電力を引き出す事が出来る。
この強力な電力で敵の装甲を溶かし、発生する電磁波により電子兵器を一切無効化する。
他にも高圧な電気をレーザー状に放ったり、機体の周囲に電気を放電するなど、様々な応用が可能。
本来、電光機関は生体エネルギー(ATP)を変換して得られるものであり、使い続けると死んでしまうという欠点を持つが、
電光戦車は中身に負傷兵を複数組み込み、その身体をエネルギー源にすることで電力を引き出している。

  • 電光機関を動力源とした武装
機関銃、火炎放射といった対人兵装から、絶大な威力を誇るレーザー砲まで幅広く搭載している。
前輪のキャタピラで人を轢いたり頭部の骸骨で頭突きといった直接攻撃も可能。

【人物背景】
外見は髑髏の装飾がされた戦車だが、その実態は電光戦車の材料にされた負傷兵の無念、怨念といった感情がサーヴァントとなったもの。
その有り様が『電光戦車に乗っている』と曲解され、ライダークラスとして召喚された。
本体は電光戦車の各機体に内蔵されている人間(だったもの)。
動かせる肉体を持たないため、電光戦車の機体が肉体の代わりとなる。
実質的に電光戦車と同化しているため、誰もが電光戦車をサーヴァントと信じて疑わないだろう。

【サーヴァントとしての願い】
……………………………………………………。

【マスター】
エクスイ@怒首領蜂大往生

【マスターとしての願い】
やり直す。

【weapon】
  • エクスイの製造した兵器

【能力・技能】
  • 兵器に関する知識
エクスイは破棄された後に数々の軍事物資を用意して数千年前のA.D.2008年に転送した他、
巨大なロボットを製造していることから単体で相当な技術力を持つ。
また、自身にも改造を施して巨大ロボットへと変身しているように、自己改造も可能。

  • エレメントドールの兵器強化能力
エクスイはエレメントドールであり、機械に接続することですべての兵器プログラムを管理し、武装の性能強化を図る。
本来は戦闘機の性能を強化することにのみ用いられていたが、今回の聖杯戦争では戦車や艤装など、機械系のものならば全てに有効。
また、兵器に接続する際は有線で行わねばならないのだが、
今回の聖杯戦争の舞台が電脳世界であるからか、その能力に何らかの変容が生じ、無線で兵器に接続、強化が可能。

【人物背景】
弾幕STGゲーム「怒首領蜂大往生」に登場する、戦闘機の専用ナビゲータであり、知性や感情を持つ兵器強化用人型ロボット「エレメントドール」。
主人公(パイロット)のパートナーとして選択できるエレメントドールのうちの一体。
露出度が非常に高い服装に灰色のコートを羽織っている。
数世代前の旧式エレメントドールで、パイロットの安全性よりも機能及び武装面を重視して作られた。
そのため、搭乗するパイロットに対しての配慮に欠ける面が多いが、上級パイロットには大変好まれていた。

地球を侵攻しようとしている月の機械兵団との最終決戦にて、
エクスイはマザーコンピューターに飛び込みコンピューター内に負荷をかけ、敵の演算能力を落とすことでパイロットと共に勝利をつかんだ。
しかしマザーコンピューター内で月の兵器の動乱の真実を知り発狂、パイロットを殺害する。
人間に手をかけたことでエクスイは破棄されてしまうが、
その時にエクスイが流した血のようなオイルの涙は、「本当の敵は人間だったのだ」という彼女の悲しみを伝えるものであった。

【方針】
聖杯狙い。
邪魔をするものは容赦しない。

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最終更新:2015年12月08日 02:15