1942年。
 春も過ぎ去りつつある中、東部戦線において任に当たっていたルドル・フォン・シュトロハイム大佐は突如として本国に呼び戻された。 
 あまりにも不可解な帰還であった。
 シュトロハイムの身体はドイツ科学の粋を集めて機械化されている。戦力としては同じドイツ科学の粋を集めた戦車達に勝るとも劣らない。
 戦況はまだソ連の反攻を凌いだばかり、今後も彼が必要とされるのは明白だ。

 だが、シュトロハイム自身は薄々勘付いてもいた。

「シュトロハイム大佐、聖杯というものを知っているかね?」
「……知識としては」

 将軍に返した言葉は濁っている。
 彼らしくない声色は、如実に彼の心情を現しているかのようだ。 

 聖杯。
 古から伝わる、イエス・キリストの伝説。
 不老不死を齎すともされる、奇跡の杯。

 思わずシュトロハイムは、部屋を――不敬にならない範囲でだが――見渡していた。
 お伽話にしか聞こえない内容だが、締め切った執務室でわざわざお伽話を話すこともあるまい。

「何者かが聖杯を探索しているという噂も、耳にしたことがあります。
 どこから流されているのかは存じておりませんが」

 シュトロハイムは明言を避けた。総統が追い求めているということも言わなかった。
 この手の情報は嫌でも彼の耳に入ってくるものだし、扱いについても心得ている。
 かつての彼もまた、そういった「お伽話」を研究していたのだから。

「では、本日よりその噂を真実と認めたまえ。
 君にはアーネンエルベにて、聖杯探索の任が与えられることになった。
 かつて『石仮面』と『柱の男』を担当した経験を見込んでのことだ」

 ――こうなったか。

 口からため息を零さないために、シュトロハイムは少しばかりの労力を必要とした。
 お伽話に付き合わされることを不満に思っているのではない。
 むしろ、彼自身は聖杯があってもおかしくはあるまいとすら考えている。
 あの究極生命体(アルティミット・シイング)の存在を見た今、常識外の存在を否定するなど出来はしない。
 落胆はただ一つ、東部戦線を見捨てる形になったことだ。

 昨年のバルバロッサ作戦の失敗において、シュトロハイムは致命的なダメージを受けていた。
 彼自身の身体ではない。物資と技術者達の損耗である。
 単体で戦車に勝るとも劣らぬ戦力を有する身体は、一方で維持にもまた相応の技術と物資を要する「金食い虫」だ。
 冬将軍が陣取る東部戦線ともなれば、メンテナンスの負担は更に大きい。
 今までのような力を発揮できない可能性はシュトロハイム自身が予想していたし、軍上層部にも情報が届いていただろう。
 ならばどうなるか。
 可能性としてはそのまま東部戦線で戦い続け、身体の限界と共に名誉の戦死を遂げるか。
 或いは、後方に回されるか。
 シュトロハイムは誇り高きドイツ軍人として前者であってほしいと願っていたが……現実は、世知辛いものだ。

 そのような内心を表に出すことなく、シュトロハイムは二言三言交わしたのち敬礼と共に退出した。
 生身の人間では有り得ない、機械の足音を残して。



   ※   ※   ※



 その後のルドル・フォン・シュトロハイムについては記録に残っていない。
 とある不動産王はアーサー王伝説さながらの聖杯探求に巻き込まれたと言うが、ナチスから見て敵国の人間であることや本人の性分などから信憑性は薄いとされている。
 ともあれ確実に言えることは、シュトロハイムはスターリングラードの激戦を見ることもなくいなくなったというだけだ。
 彼の行方を知るものがあるとすれば、それこそ聖杯のみであろう。

 ――そう。
 聖杯のみが、彼の行く末を知る。



   ※   ※   ※



「我がナチスの科学力はァァァァァァァアアア!
 世界一ィィィイイイイ!」
「ガ…………!」

 街中にシュトロハイムの叫び声が響き渡る。
 同時に、青く輝く光の線が対峙していた男の身体を貫通した。
 もし見ている者がいれば、奇っ怪な光景だと思うに違いない。
 機械化された怪人が奇妙な叫び声を上げつつ、眼帯のようなパーツから光線を放つのだから。

 だが、対峙していた男も尋常ではなかった。
 穴を穿たれた身体をものとせず、追撃として放たれた銃弾の雨を容易く回避しシュトロハイムに迫る。
 空中で建築物を蹴り迫る男の姿に、しかしシュトロハイムは不敵に笑った。
 同時にその機械化された腕から青色の刃が現れる!

「ブァカ者がァアアアア!
 ナチスの科学は……世界一イイイイ!!」

 かつてのカーズの輝彩滑刀のごとく展開されたパーツは、その性能もまた光の流法と共通する高周波振動ブレードである!
 その切れ味は男が振りかざした剣は愚か、男自身すら両断した!

「俺の身体は我がゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇り!!
 英霊に劣るものではないわァ!」
「……少なくとも、その武器は私の宝具によるものだが」
「むッ、キャスター!」

 男の――敵サーヴァントの消滅を確認し、高らかに吠えるシュトロハイムの背後で老年の男が肩を竦めた。
 サーヴァント・キャスター。
 ルドル・フォン・シュトロハイムに従う英霊である。
 だが、先の戦いで彼が戦った様子はない――
 即ちキャスターはマスターに戦わせ、そしてマスターであるシュトロハイムが敵サーヴァントを真っ向から打ち破ったのだ。
 明らかに、聖杯戦争としてあってはならない結果である。

「武装の調子はどうだ、マスター。
 私の宝具は奇妙な武装を提案することがあってな」
「フフフ、全く問題ない。
 この身体で戦車と戦ってきた俺の戦闘データは既に万全よ。
 しかし惜しいなァ、この宝具があればあの究極生命体とも戦えたかもしれん」

 不敵な笑みを浮かべながら、シュトロハイムは武装の一部を展開した。
 それらはかつての彼には存在しなかったパーツだ。
 既に紫外線照射装置は超小型のビーム砲に換装され、新装備として腕には高周波振動ブレードがされている。
 腰部の機関砲も外見こそ変わらないが、弾丸はかつてのそれとは違う特殊弾を装填済みだ。
 明らかなバージョン・アップ。彼が受けたのは単純な改造ではない。

 見るものが見ればその異常さに気づいたであろう。
 それらが全て、宝具であるという事態に。

「恐らく腕の刃はシグルブレイドを元にしたものだろう。
 あれはガンダムに使っていた頃から耐久性に難があった、多様は控えてもらいたい」
「ならば、貴様の宝具とやらで新装備を用意することだ。
 サーヴァントが先ほどの雑魚のような者ばかりではないのだろう!」

 キャスターの宝具――『進化するガンダム』。
 それは零から新たなる宝具を生み出す、規格外の宝具である。
 事前に元となる武器を用意する必要もなければ、使用に習熟を必要とすることもない。
 何より、機械化されていたシュトロハイムの身体に新装備を換装することはキャスターにとっては容易であった。
 今のシュトロハイムは宝具人間と化しており、サーヴァントとの真っ向勝負すらも可能とする。

「随分と急くのだな」
「当然よ。聖杯探求が俺の任務……一刻も早く聖杯を持ち帰らればならんッ!
 同胞が生身の肉体をすり減らしてきたというのに、俺一人が安穏としてはおれんわ!」

 シュトロハイムは聖杯戦争に参加していながらも、見ているのは聖杯ではない。
 彼が見ているのは東部戦線だ。彼が参加しているのは第二次世界大戦だ。
 名誉の戦死の機会を奪われた男は、聖杯探求に意義を見い出すことができずにいた。

「一つ聞いておこう、マスター」

 故に、キャスターは問いを投げかける。

「仮に聖杯の力で、過去をよりよく変えられるとしたら……どう考える」
「知らん。
 俺の受けた命令は総統閣下の元へ聖杯を持ち帰ること、使うことに興味はない」
「………………」

 キャスターは口を閉ざした。
 結果的に、この問いは彼が抱く僅かな悔いに自ら触れる形になったからだ。
 そしてシュトロハイムは会話は終わりだとばかりに陣地へと戻っていく。
 結局、キャスターも従わざるを得なくなる。

(聖杯の力でより多くの人を救いたい――
 ここまで来れば単なる我欲でしかないと、分かってはいるのだ)

 キャスター……フリット・アスノの経歴はまさに英雄と呼ぶに足る。救世主と呼んでもいい。
 地球の人々を守り、ヴェイガンの民を救った。
 戦争を終わらせ、死病を癒やした。
 だがそれでも――辿った道のりの全てが正しいとは決して言い切れず、紆余曲折の中で多数の人々を失ってきたことを他ならぬフリット自身が自覚していた。

(私は全力を尽くした。自分にできる限りでよい世界を作り上げた。
 しかし、それでも……
 聖杯の力で過去を変え、もっと早く正しき道に戻れるのであればと。
 より多くの人々を救えるのであればという思いが僅かにある)

 長らくフリットは憎悪に囚われ、道を誤った。
 確かに戦争の長期化はフェザール・イゼルカントの狂気によるものだろう。
 だがフリットは個人に責任を押し付けて満足できるような人間ではなかったし、そんなことを言える立場でもなかったのだ。

(歴史を変えるということを、マスターはどう思うのだろうな)

 周りを見渡せば、和やかな時代の風景が目に入ってくる。
 用意された舞台は20世紀から21世紀のもの。フリットからすれば遠い過去の時代だ。
 聖杯はモチーフとなる時代の知識を与えてはいるが、結果として彼は己がマスターが参加していた大戦の結果も知ることになった。

(ナチス・ドイツは滅ぶ。
 それこそ聖杯の力を使わない限りは……)

 先の問いかけで口を閉ざしたもう一つの理由がそれだ。
 フリットはシュトロハイムが信奉する国の末路を知ってしまった。
 この場で使うにせよ持ち帰るにせよ、聖杯を得なければ未来はあるまい。
 だが、それを告げていいのか。
 シュトロハイムは明らかに残してきた者達に縛られている。
 最悪、ヴェイガンを殲滅するなどと息巻いていた頃の自分を生み出すような事にならないか――
 それがフリットを悩ませていた。

 自らの従僕の考えを知らず、シュトロハイムはただ前進する。
 故国の未来さえも、知らずに。


【クラス】キャスター
【真名】フリット・アスノ
【出典】機動戦士ガンダムAGE
【性別】男性
【属性】秩序・善

【パラメーター】
 筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:C 幸運:E 宝具:EX

【クラススキル】
 陣地作成:B
  魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
  "工房"を形成することが可能。

 道具作成:EX
  魔力を帯びた器具を作成できる。
  自らの宝具を活用することにより、新たな「宝具」を零から創造することさえ可能とする。

【保有スキル】
 騎乗:C
  騎乗の才能。
  キャスターとして現界したことで本来より劣化している。

 Xラウンダー:A
  未知の領域「X領域」を扱う人間の総称。
  直感スキルと同じ効果を発揮し、更に騎乗スキルの発動時に補正を加える。

 星の開拓者:EX
  人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
  あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。

【宝具】
 『進化するガンダム』
  ランク:EX 種別:対機宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

  アスノ家に伝わるメモリーユニット『AGEデバイス』が中心となる『AGEシステム』及び『AGEビルダー』の総称。
  生物の進化と自己成長を設計の基本とし、様々なガンダムを生み出してきた。
  ただし戦艦の改造や磁気嵐の撤去装置の作成からわかるように、ガンダム以外にその機能を使うことも可能。
  フリットの存在が救世主として英霊に昇華された事で、その象徴たるAGEシステムは一定のデータを取得することで新たな宝具を創造する規格外の宝具と化した。
  設計・製作は極めて早く、戦闘中に武装を更新することすら可能。
  反面、どのような武装が作られるかキャスターですら予測できない。
  更に戦闘データに合わせて作成した結果、その局面にしか対応できないような極端な武装が作られる恐れがある。
  またAGEビルダーのサイズの関係から事前に設置するための場所を確保しなくてはならない上、
  キャスターとして召喚されたためガンダムそのものは持ってくることができず、本来ならガンダムに搭載されるAGEシステムのコアユニットが無防備な状態になってしまっている。

  一応、相応の量の材料もしくは魔力があれば新たなるガンダムを製造することは可能である。

【weapon】
 なし。
 ガンダムが無い状態では戦闘能力を持たない。

【人物背景】
 信じていた正義に囚われ、殲滅主義者と化した老人。
 それでも背負う運命が過去の記憶を目覚めさせ、ようやく救世主として立ち戻った。

 なお、このサーヴァントはキャスター以外にライダーとセイヴァーの適性を持つ。
 ライダーとしての全盛期は中年時、セイヴァーとしての全盛期は少年時である。

【サーヴァントとしての願い】
 地球もヴェイガンも救ったことそのものに悔いはない。
 ないが、もっと人々を救うこともできるのではないかと、ほんの僅かな悔いを残す。


【マスター】
 ルドル・フォン・シュトロハイム@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
 聖杯の確保

【weapon】
 機械化された身体。
 各種武装や装甲はキャスターによって作られた宝具と交換され始めており、その性能はサーヴァントとの正面対決を可能とする。

【人物背景】
 ナチスドイツの軍人。
 かつては「石仮面」と「柱の男」の研究に携わっていたが、その際に機械化されて復活。
 第二次世界大戦においては東部戦線に回される。
 本来ならばジョセフと再会することもなくスターリングラードで戦死するはずだったが、アーネンエルベの聖杯探求に回されたことで様々な冒険を経たのち聖杯戦争に参加する。

【方針】
 キャスターは後方に下げ、宝具化された身体で自ら戦う。

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最終更新:2015年12月18日 18:16