その男は衰退しつつある魔術師の家系に生まれた。
魔術を学び、家を継ぎ、魔術刻印を継いだ男はしかし、常に焦燥に駆られていた。
かつては名門の一角であった家系は今や魔術協会からも侮られ子孫の未来も暗いことが約束されたようなもの。
男が恐れたのは死、ではない。魔術師とは最初に死への諦観を身に着けるもの。そのような通過儀礼はとうに済ませた。
では、何を恐れるのか?未来だ。そう遠くない将来に家系の魔術回路は枯れ果て哀れ名門であった魔術師は俗人へと堕ちるのだ。
そのような結末を許容できようはずもない。されど打つべき手はなかった、今までは。
「俺は、やるぞ」
これからは、違う。自分は手に入れたのだ、輝かしき未来へのチケットを。
聖杯戦争。期せずしてマスター候補として参加させられたことへの憤りが一切ない、とまでは言わない。
けれど、聖杯だ。あらゆる願いを叶えるとされる願望器だ。
真贋は問わない。聖杯が真に男の願いを聞き届けるのならばどんなものであろうと構わない。
「やってみせるとも。我が一門の再興、いや、根源への到達すらも聖杯ならば叶えられよう」
自らの命をベットするだけで一族繁栄への道が拓かれる、その可能性を得られるのならば安いもの。
とはいえ、当然リスクは伴う。何しろ魔術刻印の移植をまだ息子に済ませていない。
つまり男が死ねばそこで一族の未来は潰えるというわけだ。
ならば敗北は許されない。必ずこの手に聖杯を。
「…よし、集まったな」
資産家としての役職を与えられた男が購入した町外れの倉庫。
当然私有地であるその内部には今や数十人のNPCが集っていた。
彼らは男がマスターとして目覚めて以来、数日かけて今日この場所に来るよう強力な暗示をかけた者たちだ。
一見して聖杯戦争の最中における無駄な魔力消費だが、魔術師たる男が収支の計算をしていないはずもない。
「存分に喰らえ、バーサーカー。塵も積もれば何とやら。これだけ食えばいくらお前でもしばらくは戦えよう?」
凶獣。そう形容するのが相応しい暴威の化身がこの時を待ち侘びていたかのように唸りを上げてその実体を露わにした。
男に宛がわれたサーヴァントのクラスはバーサーカー。本来格の低い反英雄だが狂化によるパラメータの底上げによって三大騎士クラスとも戦える力がある。
とはいえそれも十分な魔力があれば、という話になる。男の魔術回路でバーサーカーを支えるのは不可能とまではいかずとも困難であることはすぐにわかった。
ならばどうする?決まっている。足りないものがあるならば余所から補うのが魔術師の基本。
男の魔力提供のみでは不十分だというなら魂喰いをさせれば良いだけのこと。
が、問題はあった。事が裁定者や他のマスターに露見すれば袋叩きの憂き目に遭う可能性がある。
それに街をうろつき回って手当たり次第に通行人を襲うというのは非効率であるし何より隠蔽が難しい。
そこで男は良き住人としての顔を装い少しずつ、確実に暗示をかけて自身の領域であるこの倉庫に彼らが自発的に集まるよう仕向けた。
これならばバーサーカーがどれほど派手に食い散らかそうが証拠隠滅は容易だ。人目にも決してつかない。
「随分と回り道になったが、ここからだ。俺は、必ず根源へと至ってみせる」
「ふーん、それってそこまで大事な事なの?」
あるはずのない反応。馬鹿な。声のした方向へ振り向くと二十歳前後の青年が倉庫の入り口に立っていた。
青年はカメラを取り出し男とNPCたちにフラッシュを焚いた。
「これで証拠写真バッチリ。もう言い逃れは出来ないぜ」
「…貴様、マスターか?魔術師というわけではなさそうだが……。
なるほど、どうやら魔術の心得のあるサーヴァントを引いたと見える。でなければ人避けの結界を潜り抜けられるはずもない」
「ご名答。だけどもう関係ないよ、お前らはここで撲滅するんだから。
俺は進兄さんほど甘くないから、外道には容赦しないぜ」
口調に怒りを含めた青年はバックルのようなものを取り出し腰に装着。続けてバイクの模型のようなものを手に取った。
『シグナルバイク!ライダー!!』
「お楽しみは俺からだ。レッツ変身!」
『マッハ!!』
模型をバックルに装填し、スイッチを操作すると光とともに青年の姿が一変した。
Vの字のアンテナにバイザーにも見える仮面を着け首にはマフラーを巻き、右肩にタイヤが取り付けられた白いパワードスーツだ。
音声のセンスの高さには敵ながら感嘆せざるを得ない。
「追跡、撲滅、いずれもマッハ!仮面ライダーマッハ!!」
見せつけるような派手なパフォーマンスとポージングはあからさまな挑発だった。
どのみち、工房を兼ねたこの倉庫への侵入を許した時点で生かして帰す理由などは一つもない。
サーヴァントを伴わずに現れたことを後悔させてやるまでのことだ。
「バーサーカー、指示は一つだ。……殺せ」
「■■■■■■――――――ッ!!!」
バーサーカーが男の魔術回路から躊躇なく魔力を吸い出し駆動する。
巨大な斧を実体化させマッハなる身の程知らずの戦士を破砕するべく力を込めた。
一般人ならばバーサーカーの威嚇と唸り声だけで失禁するほどの威圧だがマッハはそれだけで押されはしない。
「おっと、当たるわけにはいかないね」
『ズーット!マッハ!』
突撃するバーサーカーを前に、マッハはバックルのスイッチを連打。するとバーサーカーを遥かに超えるスピードを発揮し側面に回り込み左腕で強かに殴りつけた。
無論その程度で怯むバーサーカーではない。ダメージの一切を無視し荒れ狂う暴風の化身となって縦横無尽に斧を振るう。
『ゼンリン!』
しかし、当たらない。超速で動き回るマッハが右手に持った銃で痛烈な打撃を加えるとさしものバーサーカーも仰け反った。
すかさずエネルギー弾を連射、そのまま距離を取って新たな模型を取り出し装填した。
『シグナルバイク!シグナルコウカーン!!』
「じゃ、キャスター。後はよろしく」
『トマーレ!』
マッハが無造作に放った一発の弾丸、それを弾こうと斧で触れた瞬間、バーサーカーが時を止めたように動かなくなった。
拘束を解くためにもがく、という動作すら許されなくなったバーサーカーの全身が突如炎に包まれた。
驚きに男が辺りを見回すとローブを纏った杖を持つ青髪の青年がいつの間にかそこにいた。
「き、貴様…サーヴァント……!」
「おう、見りゃわかんだろ」
マッハがキャスター、と呼んだ青年の杖からは僅かに火が灯っている。こいつがバーサーカーを焼いたのか。
バーサーカーはいつの間にか消滅していた。身動きすらできないまま焼き殺されたのだ。
男の夢は突然現れた邪魔者によって呆気なく断たれた。
後ずさる男をキャスターが引っ掴み押し倒し、杖の一突きで膝の皿を砕いた。
「ぎがぁあああ!?」
「マスターの方針だからな、命までは取らないでおいてやる。
せいぜい消滅するまで手前の所業を反省してろ。まあ、魔術師ならそんな神経は残っちゃいねえだろうがな」
残った足が、右腕が、左腕が次々とへし折られていく。
意識を手放す寸前に男が見たのは己の魔術刻印へ杖を向けるキャスターの姿だった。
一時間後、倉庫に殺到するパトカーと救急車を遠目に確認しながらバーサーカー主従の蛮行を阻止した二人の聖杯戦争参加者が埠頭で向かい合っていた。
仮面ライダーマッハへの変身を解いたカメラマンの青年、詩島剛とサーヴァント・キャスターだ。
「両手両足全部叩き折って、ついでに魔術刻印にも傷をつけておいた。
いくら魔術師でもあの状態からじゃ何もできねえだろうさ」
「街の人たちも警察に保護されたのを確認してきたよ。
ま、とりあえずはこれで一件落着かな」
夜な夜な周辺住民に暗示を掛けて回っていた魔術師の男の所業を調査していた二人は魂喰いが行われる直前を狙ってその目論見を阻止しに来た。
キャスターが事前に用意していた魔術礼装の効果によって魔術師でない剛でも疑似的に魔術への耐性を得ていたため問題なく突入することができた。
そして先んじて突入した剛が派手なパフォーマンスとマッハへの変身で相手の注意を惹いている間にキャスターがNPCを解放しつつ剛を援護するという策だ。
「で、サーヴァント戦にはもう慣れたか?」
「おかげさまで。あんたの礼装を身に着けてから絶好調だよ。
でもサーヴァントってのはとことん化け物揃いだね、あのバーサーカーも最後の方は俺のスピードを見切りかけてたし。
あれで生身とかどういう身体構造してるのか全然わからねえ」
「んなもん当たり前だ。サーヴァント、つまり英霊ってのは人類史を築いてきた連中だ。
そいつと戦うってのはつまり、人類史そのものと戦うのと同じってこった。
オレがランサーとして現界してればサーヴァントの相手を引き受けるんだがな」
剛はここに至るまでに何度かのサーヴァントとの戦闘を潜り抜けてきていた。
競り勝ったこともあれば無様に敗北したこともある。共通しているのはただの一度も雑念を抱くほどの余裕はなかったということだけ。
今回の戦闘での軽口にしてもサーヴァントが放つ圧力に耐え、自らを奮い立たせるためという側面が強い。
しかし、いざ戦いが終わってみれば考えてしまう、考えざるを得ないこともまたある。
「なあ、キャスター……これってやっぱり、人殺しだよな?」
「ああ、そうだ。サーヴァントを失ったマスターは再契約できない限りいずれ聖杯に消される。
だが深く考えるのはやめとけ。うだうだ悩みながら戦えるほど器用な性格してねえだろ、お前。
人殺しの業だのなんだのは生きて帰ったその後に考えりゃいいんだよ」
「……やっぱあんた凄いよ」
『こんなふざけた戦争は潰す。仕組んだ奴がいるなら撲滅する。そして帰るために聖杯を頂く』
剛はキャスターを召喚した直後、反発を覚悟した上で堂々とこう宣言した。
予想に反してキャスターは剛の願いを快諾し、順風満帆なスタートを切ったと、そう思っていた。
けれど、今にして思えばあの時に考えておくべきだった、あるいは覚悟しておくべきだったのだろう。
戦争に限らず闘争とは言うなれば願いと願い、敢えて醜く表現するならばエゴとエゴのぶつかり合いだ。
聖杯戦争を覆す、という願いも突き詰めれば一つのエゴでしかなく、であれば他人の願いと衝突することは必然の事象。
そしてそのエゴを通すには結局のところ他人を蹴落とす、有り体に言えば殺す他にないのだ。
「…進兄さんやチェイスならどうするんだろうな」
知らず、共にロイミュードと戦う二人の仲間の名前が口をついて出た。
進ノ介ならば苦しむだろう。どんな理由があれ彼は人が人を殺すことを決して良しとしない。
けれど、きっと最後には覚悟を決めてトップギアで走り出すに違いない。
チェイスなら、決して口に出すことはしないと決めているが既に友人と呼んで差支えない関係になっている彼ならどうするか。
迷わないだろう。ただ愚直に人間を護るという使命に殉じて、そのために人を殺すという矛盾さえも飲み込んで無骨に、不器用に戦い続ける道を選ぶはずだ。
「じゃあ、俺が迷ってるわけにはいかないよな」
聖杯戦争に関しては、剛が魔術師ではないせいもあるだろうが、まだわからない事が多すぎる。
それでも、こうしている間に何も知らず平穏に暮らすNPCや生身の人間であるマスターたちが死んでいっているということはわかる。
父親である蛮野天十郎のような邪悪な人間に願望器が渡れば大勢の人間に不幸が訪れるという確信がある。
ならば、矛盾を抱えてでも戦い続けよう。それが如何に罪深い行いであるとしても。
何故なら人間を護ることが仮面ライダーである自分の使命なのだから。
【クラス】
キャスター
【真名】
クー・フーリン
【属性】
秩序・中庸
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具B
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として自らに有利な陣地「工房」を作成可能。
道具作成:B
ルーン魔術に関わる魔術道具、礼装を作成可能。
【保有スキル】
ルーン魔術:A
スカアハから与えられた北欧の魔術刻印、ルーンの所持。これを使い分けることにより、強力かつ多様な効果を使いこなす。ただし、効果の同時複数使用(併用)は不可。
矢避けの加護:A
飛び道具に対する防御スキル。クー・フーリンのそれは先天的なもの。攻撃が投擲タイプであるなら、使い手を視界に捉えた状態であれば余程のレベルでないかぎりキャスターに対しては通じない。ただし超遠距離からの直接攻撃、および広範囲の全体攻撃は該当しない。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
神性:B
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされ、キャスターは半神半人であるためランクが高い。
【宝具】
『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』
ランク:B 種別:対軍宝具
ウィッカーマン。無数の細木の枝で構成された巨人が出現。巨人は火炎を身に纏い、対象に襲い掛かって強力な熱・火炎ダメージを与える。
宝具として出現した巨人の胴部の檻は空であり、そのため、巨人は神々への贄を求めて荒れ狂う。
これはルーンの奥義ではなく、炎熱を操る「ケルトの魔術師」として現界した光の御子に与えられた、ケルトのドルイドたちの宝具である。
【人物背景】
ケルト、アルスター伝説の勇士。
赤枝騎士団の一員にしてアルスター最強の戦士であり、異界の盟主スカハサから授かった魔槍を駆使した英雄であると同時に、師から継いだ北欧の魔術――ルーンの術者でもあったという。
キャスターとして現界した彼は、導く者としての役割を自らに課していると思しい。
真のドルイドではなく、仮初めのそれとして――
共に在り続ける限り、彼はマスターの行く道を照らしてくれるだろう。
【サーヴァントとしての願い】
この聖杯戦争の異常を見つけ出す。
あと剛は危なっかしいので上手く助けてやる。
【マスター】
詩島剛@仮面ライダードライブ
【マスターとしての願い】
聖杯戦争の裏を暴き仕掛け人共々撲滅する。
その過程で聖杯を使う機会があれば人類を脅かすロイミュードを全滅させる…?
【weapon】
マッハドライバー炎
仮面ライダーマッハへの変身ベルト。マッハについては後述
シグナルバイク&シフトカー
仮面ライダーマッハへの変身、フォームチェンジ、能力使用に用いるミニカー型のツール。
自律行動させることもできる。
ゼンリンシューター
マッハ専用のエネルギー銃。マッハの意思に応えて手元に出現して装備するが、変身前でも使用可能。圧縮エネルギー弾を発射しての射撃のほか、銃口下部に備わった強化タイヤでの打撃攻撃も可能。
ライドマッハー
マッハの専用バイク。基本カラーは白。変身前の剛も愛車として使用する。正面から連射で一定時間物体が消滅するビームを発射し、後部からは攻撃を完全に防ぐシールドエネルギーを展開する。重加速現象にも対応している。
ルーンストーン
キャスターの道具作成スキルによって用意された魔術礼装。
現在は強化や硬化、発火といった効果を持つルーン石を所持しておりこの礼装の加護により剛は生身、変身時を問わずサーヴァントへの干渉を可能にしている。
【能力・技能】
変身せずとも高い身体能力を持ち、今も現状に満足せず鍛え続けている。
また進ノ介や特状課に先んじて事件の真相を突き止めるなど推理力も高い。
しかし最大の武器は何度試練にぶつかろうとも折れない不屈の精神力。
【仮面ライダーマッハ】
剛がマッハドライバー炎とシグナルバイクを用いて変身する仮面ライダー。
新型エンジン・NEX-コア・ドライビアを中心としたネクストシステムを搭載しており、右肩の小型タイヤにグラフィック表示されたシグナルバイクの能力を駆使して戦う。
NEX-コア・ドライビアはリミッターを解除すれば重加速現象を引き起こし発動範囲内のあらゆる生物・物体の動きをスローにする。
……のだが聖杯戦争ではこの機能に制限が掛けられており現在は使用不可能になっている。(重加速環境への適応自体は可能)
マッハドライバー炎のバックル上部のスイッチを連打することで、「ズーット! マッハ!」の音声と共に猛スピードで行動できる。
さらにシグナルバイク、シフトカーを交換することにより様々な能力を発動できる。聖杯戦争に剛が持ち込めたシグナルバイクはシグナルマッハ、シグナルマガール、シグナルキケーン、シグナルトマーレ、シグナルカクサーンの計五つ。シフトカーはシフトデッドヒートのみ。
【デッドヒートマッハ】
マッハがシフトデッドヒートを使って変身する強化形態。スピードが僅かに落ちるがパンチ力、キック力などパワーは大幅に上がっている。
当初は一定時間の経過で肩のタイヤがバーストし暴走状態に入ると暴れ出してしまう弱点があったが、剛は精神力でこの弱点を克服。
マッハドライバー炎のスイッチを連打することで意図的にタイヤバーストを引き起こし、更なる強化状態として使いこなすことができる。
【人物背景】
物語途中でアメリカから帰国したフリーのカメラマン。年齢は19歳。
アメリカ在住時に、マッハの開発者であるハーレー・ヘンドリクソン博士に適格者として選ばれ、彼の下で訓練を受けていたが、訓練を途中放棄して無断で日本に帰国、ドライブ=泊進ノ介と共にロイミュードと戦うようになる。
テンションが高く派手なパフォーマンスを披露しながらその場に登場するなど自意識過剰な面が目立つが、姉の霧子には「たった一人の大切な家族だから」と真摯に親愛の情を見せる。
一般人としてのフットワークの軽さを活かして特状課とは別の観点から事件に協力することも多い。
ロイミュードを作り出した科学者・蛮野天十郎の実の息子であり、父親の罪の証であるロイミュードを殲滅することを誓っている。
そのためロイミュード対して長らく強い敵意を向けている。仮面ライダーに復帰し味方になったチェイスに対しても当初は強い敵愾心を抱き、ある程度距離が縮まり内心友人と認めるようになった後でも素直になれず突き放したような態度を取っていた。
【方針】
聖杯戦争を根本から覆すためにまずは会場を精査する。
非道な行為に手を染めるマスター、サーヴァントには容赦しない。最悪の場合は殺害も考慮する。
最終更新:2015年12月08日 02:29