――その男は、繁華街を歩いていただけだった。
それだけだというのに、道行く人々はその男を注視せざるを得ない。
男は大声を上げているわけでも無く、肩で大きく風を切っているわけでもない。
可笑しな格好をしているわけでも、フラフラと歩いているわけでもない。
そう、その男は迷惑な行為をしているわけでも不自然な態度をとっているわけでもない。
ただ悠々と、ともすれば『この男こそが自然体で、自分たちは不自然な歩き方をしているのでは?』と誰もが錯覚してしまう様な美しい足取りで歩く男に、通行人は意識を向けずにはいられなかった。
身長は190cmを超え、その腕にはこれ以上ないほどに完成された筋肉が盛りに盛られている。
一目見ただけで“敵わない”と思わせる外見をしているこの男、しかし万人の目を惹きつけているのはそんなものではない。
ケータイに夢中な若者、恋愛に必死な男女、仕事に集中しているサラリーマン、一心不乱に英単語を詰め込む学生、彼らが作業を中断してまで顔を上げる程の本能からの警告。
――皆、この男の絶対的強者たる“オーラ”に遺伝子の底から反応させられていたのだ。
才能のあるなしに関わらず、赤子でさえ目視できるほどの強烈なオーラが男の身体を覆っている。
自然と人々が避けていく道の真中を、さも慣れたものかの様にだと悠然と歩く男――名を範馬勇次郎という。
彼を一目見た時、人間は悟るだろう彼こそが――地上最強の生物であると。
◆ ◆ ◆
――時は数時間前に遡る。
「聖杯戦争……それで、オマエが俺のサーヴァントという理由か」
「あ、あははは……そ、そういう事みたいですね……」
聖杯戦争についての記憶を取り戻した範馬勇次郎は、自らのサーヴァントたる少女と会話を交わしていた。
その少女はキャスターのクラスのサーヴァントで、真名は櫻田茜といった。
場所は超高級シティホテルの展望レストラン、勇次郎はサーヴァントとの話し合いのために個室を予約していた。
覚醒者を選別するためか生活水準はあまり変わらず、この世界でも勇次郎は莫大な財産と豪邸が与えられていた。
このレストランは個人情報の秘匿に関しては大いに信頼がおける場所であり、料理の説明を行うマネージャーも今回は断っていた。
運ばれてくる料理を食しながら意見を交わす、サーヴァントの少女は勇次郎にこそビビっているものの場所に気後れした様子はなかった。
「白亜紀の最強も現れて、倅ともヤり合って……史に沈んだ伝説の英雄たちとの闘争を夢見ちゃあいたが……
こんなオカルトじみたパーティーに招待されるとは、俺もツイてるもんだ」
「あ、あの、マスター……」
「だが解せねぇ……嬢ちゃんのナリはどう見ても今時の女子高生だ。ステータスも低い。
オマエさんを貶すワケじゃねぇが、英霊ってのはそんなものか?」
「あ、いえ、基本的には英雄そういう方々だと思います。私の場合は家が特殊だったというか……あれ? 能力の方かな? もしかしてスカーレッt……」
勇次郎の問いにキャスターはブツブツと考えこんでしまう。
始めこそ内心で年甲斐もなくハシャいでいた勇次郎だったが、自らのサーヴァントである少女を見て少し落胆の色を浮かべていた。
勇次郎には一目見ただけで相手の弱点や強さが分かる観察眼がある。
魔力というのは分からず、この少女はキャスターだというのだからその方面に秀でているのも理解はできる。
しかし、勇次郎が求めているのは強者との闘争。剣でも槍でも良かったが、魔術というのは全くの未知であり、同時につまらない戦いになりそうな不安材料でもあった。
やがてキャスターのなかで結論が出たのか、少しずつ言葉を紡ぎ始めた。
「た、たぶん、私が特殊何だと思います!
英霊なのは私の家が一国を収める王家の一家で、昔から人の上に立ったりしてたからだと思いますし……
王家にはみんな特殊な能力があって、私のはグラビティ・コアっていう重力を操る力なんですけど、それがキャスターとして認められたのかな? みたいな……
私自身じゃなくて、家柄と能力がたまたま丁度良かっただけかも知れないです……」
キャスターの思考はどんどんネガティブな方向に向かい、声も再び萎んでいった。
彼女は自身が思っているよりも人を引っ張っていく力があり、民衆には最も多くの支持を集めたことも少なくない。
一部では、ネットで軽々しく使われる方ではない真の意味での神様だと讃えられていたことさえあった。
「ふん、まあいい。 オマエが英霊足り得る人物だったというのは理解した。
オマエが特別だというのもな……他のサーヴァントが強ければ問題は無い」
「あの……そのことなんですけど、マスターはサーヴァントと戦えませんよ?」
懸念を一つ解消し、機嫌を取りもどした勇次郎だったが――その耳に信じられない一言が舞い込んできた。
「何ィッッッ」
勇次郎は思わず席を立ち上がって叫んだ。
その声は個室にとどまらず、同じ階層にいた人間全ての行動を一時中断させるに至った。
“範馬勇次郎が叫ぶ”それだけの事態に従業員たちは騒然とし、個室内にノックも忘れてオーナーが駆け込んできた。
「は、範馬様ッ どうなされましたか!?」
「なんでもない、下がれ」
「で、ですが……」
「下がれッッッ」
「は、はい!」
失礼しました!っと叫びながらオーナーが部屋を退出すると、勇次郎は先程の様子が嘘だったかの様に優雅な動作で席についた。
完全に萎縮しているキャスターに対し、話の続きを促す。
「それで、戦えないとはどういうことだ」
「あ、あの、えーっと、それはですね、サーヴァントに攻撃するには神秘性が必要で……
マスターは普通の人間なので、神秘性がないんです。
魔術師のマスターやキャスターの中には神秘性を帯びさせて戦える様にする人もいるらしいですけど、私にはそれもできませんし……
通常はマスターはマスター同士戦うっぽいです」
「……なるほど」
キャスターのたどたどしい説明に、勇次郎は一応の納得を見せた。
“マスターはサーヴァントと闘争する言葉できない”この事実は、勇次郎にとってこれ以上ない屈辱だった。
例えるなら、数日間まともに食事にありついておらず。水分も長らく取れていない死に体の身体。そんな時、顔を上げると目前に広がる『無料! フレンチフルコース試食会』の文字。当然飛びつく、が、止められる。文字の下には小さく『正装の方のみ』。そこで、自分の体を見る。そこにあるのはまるでボロ布、とてもじゃないが正装とはいえない。
今の勇次郎は喰う資格が無いと、英雄と闘争する資格がないと言われたも同然だった。
お前なんか他のマスター〈スーパーの試食〉で十分だ、そいつらで我慢しろ、と。
勇次郎はキャスターに語り始めた。
「確かに魔術師たちが魔術とやらの研鑽に費やしてきた時間は確かなものだろう。 格闘家の鍛錬にも似たものがあるかもしれん。
だからこそ、キャスターはこうしてこの聖杯戦争のクラスの一つとなり得たのだろう。
だが、ゲームなんかでもそうだが、魔法使いってのは非力だ。 魔法が使えなければザコと変わらん。
有り体に言えば――魔法使いは純度が低い」
勇次郎は心のそこから強者との闘争を求めている。
目の前に夢に見続けた英雄達がいるのだ、マスター達では我慢などできるわけがない。
――ならば、どうすればいいのか?
ボロ布でダメならば、正装すればいい。
正装が買えないならば、正装している者から奪えばいい。
単純なことだった――魔術師に協力させるか、神秘性を帯びさせられるサーヴァントを他のマスターから奪うか、もしくは聖杯に神秘性の付与を願うか。
聖杯のための闘争ではなく、闘争のための聖杯。
特に願い事のなかった勇次郎の方針は、ここで決まった。
その旨を、キャスターに話した。
「キャスター、俺の方針は決まったぜ。 オマエさんは聖杯に何を願う」
「あ、いえ、もうサーヴァントになった時点で半分叶った様なものなので、特には……
しいて言えば、国民の皆が幸せだったらいいなぁ……くらいです」
「ふん、そうか」
この後も、2人は細かい方針を詰めていった。
途中でテーブルマナーの話から刃牙の話になったり、一国の王でありキャスターの父である櫻田総一郎の話やキャスターの姉弟の話など、他愛もない会話も挟まった。
初めは勇次郎の威圧感に萎縮していたキャスターも段々打ち解け始め、普段の調子を取り戻していた。
最後にキャスターがデザートを食べ終え、食事会は終了となった。
◆ ◆ ◆
――時は再び現在。
シティホテルからの帰り道、人混みが苦手なキャスターは外では一度も霊体化を解こうとはしない。
勇次郎は辺りにサーヴァントの気配がないか警戒し、来るべき未来に少し胸を踊らせつつ夜の町に消えていった。
【クラス】
キャスター
【真名】
櫻田茜@城下町のダンデライオン
【パラメーター】
筋力E+(~A+) 耐久D(~B) 敏捷D+(~A) 魔力B+ 幸運C 宝具A++
※()内はスキル使用時。
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:E
魔術師として、自らに有利な陣地を作成可能。
自宅は常に安全な場所であった為、陣地作成のノウハウなどはない。
道具作成:E
魔力を帯びた道具を作成可能。
ものづくりなどした事が無いので、作れたとしても簡単なアクセサリー程度である。
【保有スキル】
カリスマ:B-
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。国を率いる事ができるほどの度量を備えているが、性格ゆえに普段は効果が低下している。
重力制御:A+
自分や自分が触れている物の重力を操る能力。これにより筋力・耐久・敏捷のステータスを上昇させたり、物体を飛ばす、浮遊する等ができる。
周囲の空気に急激に負荷をかけ、衝撃波を飛ばすことも可能。
視線恐怖症:C
注目される事を極度に嫌う。
人の視線や、特に記録に残る監視カメラなどに晒されると人数に比例してパラメータが低下する。カリスマのスキルが発動している時、ランクが下の視線恐怖症のスキルは打ち消される。
(勇猛:C)
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を緩和する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
【宝具】
『城下に舞う一重の花弁(スカーレットブルーム)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
正体を隠し、多くの人々を救い続けた逸話の具現。
服装が変わり、マスター以外には同一人物だと認識出来なくなる。
この姿が一般人に目撃されると、何故かキャスターの知名度補正が増していく。マイナススキルである視線恐怖症が消え、勇猛のスキルに変化する。
『家族の絆(サクラダ・ファミリア)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
キャスターの家族である櫻田家の総一郎、五月、葵、修、奏、岬、遥、光、輝、栞、ボルシチそして佐藤花を召喚する。1人~全員まで任意で呼び出しが可能。
召喚された家族はそれぞれ英霊として座にあるサーヴァントであり、全員がランクE-の「単独行動」スキルを持つためマスター不在でも行動可能。
なお、聖杯戦争の
ルールに従って召喚されているわけではないのでクラスは持っていない。
また、キャスターの能力の限界として、家族が自身の伝説で有しているはずの宝具までは具現化させることはできない。
特殊能力自体は宝具では無いため使用可能であるが、発動には魔力を消費し本人の魔力が無くなるとマスターからの供給を必要とするため、マスターの負担も大きくなる。
またサーヴァントには現実での財力は無いため、奏の能力はマスターの貯金から支払われる。
【weapon】
なし。
【人物背景】
櫻田家の三女であり、次期国王候補の1人。
国民からの人気が非常に高く、校内にはファンクラブも作られている。
王族の証として重力制御(グラビティコア)という特殊能力を持っている。
幼い頃のトラウマから人の注目を浴びることを極端に嫌い、王族用監視カメラの撤去を願っている。
トラウマのためかオドオドとしている事が多いが、見知った間柄だと気さくで冗談もよく言う。
学校では委員長も務められていて、クラスメイト達に対しては大いにカリスマを発揮している。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。強いていうなら国民の平和だが、聖杯に願うことでもないのでマスターに従う。
【マスター】
範馬勇次郎@刃牙道
【マスターとしての願い】
英霊を存分に喰らい、屠り去るために神秘性を得る。
【weapon】
肉体。
【能力・技能】
地上最強の生物。その肉体は技術を使わずとも地上最強だが、世界のあらゆる武術を極め、一目で修得する観察力もある。
強さを極めた結果オーラが尖り過ぎて雷が落ちるが無事、あらゆる生物の物理的弱点を看破できるなどの能力がある。
【人物背景】
地上最強の生物であり、世界で唯一の腕力家。通称“オーガ”。
宇宙の膨張と同じ速度で成長しており、未だに戦闘力はピークに至っていない。
戦争・紛争地に赴き、たった一人非武装で敵を壊滅させたり、合衆国と個人で契約するなど一個人で核兵器よりも恐れられている。壁やコンクリートの地面をゼリーのように砕く。
恐竜並みの巨大象を無傷で倒す他、高層ビルから落下しても傷を負わない高い技術と身体を持つ。
1年前に範馬の血を色濃く継いだ息子”範馬刃牙”との親子喧嘩に決着をつけた。
それ以来刺激が無く、暇を持て余していた。
性格は丸くなりサインをねだられた際もきちんと対応する程であるが、それに反して戦闘力は日々増すばかりである。
強くなりすぎたが故に闘争するに値する相手が少なくなったのも性格が丸くなった所以かもしれない。もう1日たりとも人を殺傷せずにはいられない勇次郎はいないのだ。
【方針】
弱者は基本的に無視。邪魔をするなら殺す。
神秘性を付与できる魔術師、それに近いスキルを持つサーヴァントを探し味方に引き入れる。
もしくはマスターを全員殺し、聖杯に神秘性を付与させる。
その場合は別の聖杯戦争に出向き、英霊と闘争する。
最終更新:2015年12月08日 02:32