少女は少年に恋をしていた。
想いを伝えたことはなく、ただ日々を一緒に過ごせればそれだけで満たされる。
そんな、ままごとのように幼く、しかし宝石のように輝く恋をしていた。
少女は少年が生きる島を守るために空へ飛翔し、そして帰ってはこなかった。



少女は僧侶に恋をした。
想いを伝えたが僧侶は仏門であるためその願いを受け入れられず、やむなく嘘をついて少女を遠ざけようとした。
僧侶を深く愛していたがゆえに、少女は裏切られたことに絶望し、怒り、僧侶を憎んだ。
少女は竜になり、僧侶を炎の吐息で焼き殺し、自らも命を断った。



少女は人間だったが、宝物を守るため竜に変身した戦士の名を冠した巨人を駆り、楽園を守るために戦った。
少女は人間だったが、裏切りの痛みに耐えられず怒りと憎しみのままに竜へと転身し、焦がれた男を自ら葬った。



少女は人間だったが、大切なものを守るために竜になった。
少女は人間だったが、大切なものを殺すために竜になった。




少女たちは、愛を求めて竜になった、人間だった。



「……では、なぜあなたは生きていらっしゃるのですか? 今までの話からすると、失礼ながらあなたも命を落としているのが筋のように思いますが」
「ええと、なんでかって聞かれると……私にもわかりませんけど」

街を見下ろす小高い丘で向かい合うのは二人の少女。
マスターとなった羽佐間翔子の前には、彼女のサーヴァントであるバーサーカー、清姫がいる。
翔子に与えられたマスターとしての知識には、バーサーカーは意思疎通のできない狂人とある。
だが、目の前の可憐なバーサーカーは翔子と問題なく会話を交わしていた。

「気がついたらなんだか見たことない世界にいて……なぜか私の身体も健康になって、お世話になったところを襲ってくる人たちと戦って……ええと、それで気がついたらここにいました」
「はあ。よくわかりませんが、とにかくあなたはその、ふぁふなー、とかいう鉄の馬の騎手である、ということなんですのね」

清姫は長く艶やかな翡翠色の髪を華やかな着物に流す、見目麗しい美少女である。
中学生の翔子と比較しても同年代にしか見えない容姿だが、れっきとしたサーヴァントであり秘めた力は強大だった。
翔子が駆る竜の名を冠する巨人――ファフナーにも劣らない、そんな直感さえ抱くほどに。

「ですが、残念なことに……あなたは私の求める“あの方”の生まれ変わりというわけではないようですわね。本当に残念です」

と言いつつ踵を返し立ち去ろうとする清姫を、翔子は慌てて引き止めた。

「ま、待ってください! もう少しだけ、私の話を聞いてください!」
「あら、放していただけますか? わたくし、申し訳ありませんが“あの方”以外にお仕えする気はありませんの。たとえ聖杯にマスターと定められた者であっても」
「えっ……あ、あの、でも……私にはあなたしか頼る人がいないんです!」
「それはわたくしの存じ上げることではございませんし」

にべもなく切り捨てられ、翔子はうう、と言葉も無い。
今度こそ立ち去ろうとした清姫だったが、俯く翔子がその手に大事そうに握り締めた一枚の髪を見て眉を上げた。

「それはなんです?」
「あ……これ、私の大事な写真です。気がついたら、なぜかポケットに入ってて」

翔子が見せた写真は、かつて翔子が仲間たちと撮影したものだった。
そこには笑顔の翔子と何人かの少年少女が写っていて、中でも一人の少年が清姫の目を引いた。

「これ……この方」
「か、一騎くんが何か!?」
「いえ、この方の部分だけ指紋は綺麗に拭き取られていますね。と思っただけですよ」

途端に上ずった翔子の反応を見れば、少女がこの少年にどんな想いを抱いているかは手に取るように分かった。
かつて清姫も身を焦がすほどに掻き抱いた感情――それは愛、恋心といった慕情に他ならない。

「なるほど、あなたはこの一騎さまという殿方に懸想していると」
「け!? け、けけけ懸想だなんてそんな! いや一騎くんのことはかっこいいし頼りになるしかっこいいと思いますけど、ででででもそんな!」
「あらあら、そんなに取り乱すなんて。可愛らしいことですわね」
「ううう……」

真っ赤になって黙りこんでしまった翔子を眺める清姫の瞳は、先程までと違って共感と親愛の情に満ちていた。
扇子で緩む口元を隠し、清姫はそっと翔子の手を取った。

「では参りましょうか、マスターさま」
「え? ……私を助けてくれるんですか?」
「ええ、気が変わりましたの。あなたは生きて一騎さまのところに帰りたいのでしょう?」
「は、はい! そうです、私は島に……一騎くんのいる竜宮島に帰りたいんです!」
「愛する方にもう一度巡り会いたいと願う想いは、わたくしも痛いほどわかります。であれば、わたくしと同じ望みを抱くあなたを、どうして見捨てることができましょうか。
 このわたくし、清姫……あなたさまのサーヴァントとしてともに戦い、聖杯を得てあなたを故郷へと送り届けましょう」

清姫は柔らかな笑顔で翔子の従者となることを承諾する。
そのついでに聖杯で自らの願いも叶えようと考えていることまでは、仮初のマスターには告げなかったが。

「わたくしのことはバーサーカーとお呼びください。真名は清姫というのですが、あまり公にするものではありませんから」
「わかりました、清……じゃなくてバーサーカーさん。よろしくお願いしますね」

こうして、羽佐間翔子は再び竜を駆る。
愛知らぬ悲しき竜とともに、故郷である楽園へと帰還するために。



少女たちは、愛を求めて竜となる。



【マスター】
羽佐間翔子@スーパーロボット大戦UX
【マスターの願い】
生きて竜宮島に帰り、一騎に会う
【weapon】
なし
【能力・技能】
天才症候群「架空構成能力」
 天才症候群とは、ファフナーに搭乗するため人工的に生み出された子どもたちが発症する特異個性。
 翔子の場合は、一言で言えば「とてつもなく強い想像力」。
 人間が本来実行できない「空を飛ぶ」という行為に(シミュレーター上で)一瞬で適応したり、痛みを受けた際にも脳にその痛みを「認識させない」ことで行動を阻害しない。
オーラ力
 地上よりオーラロードを通ってバイストン・ウェルに召喚されたことで覚醒した、あらゆる生物が持つ生体エネルギー。
 オーラ力が強いということはひいては強い生命力を有するということであり、病弱だった翔子はオーラ力に覚醒したことで持病が完治し、心身ともに健康になった。
【人物背景】
原典は「蒼穹のファフナー」の登場人物だが、クロスオーバー作品「スーパーロボット大戦UX」からの出展。
未知の生命体「フェストゥム」により侵略された世界に存在する「竜宮島」に住む少女。
フェストゥムに対抗できる兵器「ファフナー」に乗るために人工的に生み出された子どもたちの一人。
ファフナー「マークゼクス」のパイロットであり、幼馴染にして同じファフナーパイロットである真壁一騎に淡い恋心を抱く病弱な少女。
度重なるフェストゥムとの戦いの中、マークゼクスに搭載された自爆装置・フェンリルを起動。
一騎の帰ってくる島を守るため、フェストゥムを道連れに自爆し、蒼穹に散った。

が、実はフェンリルが起爆した影響で魂の道たるオーラロードが開き、異世界「バイストン・ウェル」に転移して生存していた。
バイストン・ウェルとは海と陸の間(はざま)に存在し、死した生命の魂が輪廻するやすらぎの地。
しかしそのバイストン・ウェルにも戦乱の嵐は吹き荒れており、翔子は島に帰るため、一騎ともう一度再会するため戦うことを決意する。
オーラロードを通ったことで翔子の「オーラ力」が覚醒し、内臓疾患が完全に治癒。
身体機能は完全に回復し、また最強の聖戦士であるショウ・ザマをして「あれだけの強いオーラ力」と言わしめるほどのオーラ力を獲得。
凄腕の女聖戦士として名を馳せ、地上進出を狙うホウジョウ軍に恐れられていた。


【クラス】
バーサーカー
【真名】
清姫@Fate/Grand Order
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C+ 敏捷:B 魔力:C 幸運:B 宝具:EX
【属性】
【クラススキル】
狂化:EX
 「狂戦士」のクラス特性。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
 身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。
 ――が、清姫は普通に意思疎通が可能なバーサーカーであり、命令にも忠実に従う。
 その分パラメータの上昇もないが、魔力消費も普通。つまりメリットもデメリットもない、実質的にはダミースキルである。
 彼女が狂うのは相手が恋い焦がれた僧侶安珍か、またその生まれ変わりと思い込んだマスターにのみ。
【保有スキル】
ストーキング:C
 対象への熱烈な観察力。妄執の域に至った熱視線は敵の耐久を1ランク下げるが、逆に怒りもしくは恐怖を招き筋力を1ランクアップさせる。
変化:C
 文字通り「変身」し、瞬間的に耐久を上昇させる。後述する宝具にも関わる。
【宝具】
『転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)』
ランク:EX 種別:対人宝具(自身)  レンジ:1-20 最大捕捉:100人
 炎を吐く大蛇。即ち竜としての転身。サーヴァントとして召喚された場合は、1ターンしか保たないが、その竜の息の威力は凄まじい。 
 彼女に竜種の血が混じっていたという記録はない。あるのはただ、恋焦がれた人間へのあくなき妄執だけだった。
 ……それはつまり「思い込み」だけで竜に変身してしまったという彼女の執念の現れと言えるのだが。
【weapon】
扇子から発する炎
【人物背景】
 『安珍・清姫伝説』に登場し、僧侶・安珍に恋い焦がれる少女。
 安珍が自分を裏切った(と思い込んだ)とき、深い愛がそのまま怒りと憎しみに反転し、火を噴く大蛇に姿を変えて安珍を焼き殺した。
 その後想い人を殺した悲しみからか、安珍の後を追うように入水して命を断った。
 容姿は着物をまとった儚げな美少女であり、物腰も柔らか。マスターには従順で家事全般も得意。
 安珍に騙され裏切られた(と清姫が思い込んだだけだが)ことから、何よりも嘘を嫌う。聖杯に託す願いも「嘘のない世界」。
 いわゆるヤンデレであり、使用するハンドルネームは「安珍だけは殺すガール」。
 Fate/Grand Order本編においては、第一章に登場する味方側のサーヴァント。
 主人公を安珍の生まれ変わりであると根拠なく確信しており、「旦那様」と書いて「マスター」と読む。
 あくまで助っ人のため一章ストーリークリア後は登場しなくなる――のだが、直後にプレイヤーが使用できるユニットとしてプレゼントされる。
 世界観的にサーヴァントが自分の意志で主人公についてくることは出来ないはずなのだが、これも愛の為せる業であろう。
 メル友に玉藻の前(EXTRAの青キャスター)がいる。直接の面識はないがお互いどういう性格かは理解しており、マスターに献身的な愛を捧げる共通点もあって関係は良好の模様。
 逆にエリザベート=バートリー (EXTRACCCの赤ランサー)とは険悪。双方我が強く決して退かないタイプのためか、竜蛇相打つ刺々しい関係。
 前述のとおり狂化は機能していないが、マスターである羽佐間翔子が極めて強力なオーラ力を有するため、全体的にパラメータは大きく上昇している。
【サーヴァントの願い】
「嘘のない世界」。

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最終更新:2015年12月08日 18:07