「やってくれたな」

 ステイル=マグヌスは頭を抱えていた。
 その理由は言わずもがな、己の召喚したサーヴァントの行動に対してである。
 彼が他陣営との会談場所として選定した廃工場は今や壁の所々に大穴が空き、内装は荒れ果てて見る影もない。
 辛うじて残されていた埃をかぶった機材類も戦闘の余波を受けて無残な姿となっており、その有様から、ここでサーヴァント同士の戦闘が行われたのであろうと容易く推察することが出来る。

「……バーサーカー。僕は君に、敵対行動を行うなと命じなかったかい?」
「あん? ……あー。そんなこと言われたような気もするな。よく覚えてねえけどよ」

 ステイルの召喚したサーヴァントは狂戦士(バーサーカー)のクラスだった。
 バーサーカーは基本的に意志疎通が出来なくなる狂化のスキルを持っていると聞く。
 そのため、物言わぬ獣のような存在が呼ばれてくるのではと身構えていたが――予想に反して、ステイルにあてがわれた英霊は意志の疎通が可能な、狂乱の浅い手合いであった。
 これには素直に自分の幸運を感じたステイルだったが、しかしそれが早合点だったとすぐに理解することになった。
 バーサーカーは会話に応じる。最低限の理性を持ち合わせているし、作戦を聞くだけの知能もある。
 だが、それでもこいつはバーサーカーだった。
 理性と知能を持っているからと言って、彼女が持つ狂化のスキルと狂戦士の適性は、決して嘘偽りなどではなかったのだ。

「でもいいじゃんか。ちゃんと全部勝ってんだから、今んとこはさ」
「それで問題なければ、僕はわざわざ君にこんな話はしないんだけどね」

 嘆息して、がしがしと頭を掻く。
 バーサーカーのサーヴァントは強力だが、しかしそれだけに戦闘では窮地に立たされることがままあるクラスでもある。
 それだけに、バーサーカーをサポートしてくれる同盟相手を確保しておく必要があるとステイルは踏み、行動した。
 当然大半は門前払いだったものの、中には交渉へ応じてくれる者もいた。
 しかし。現在に至るまで、ステイル=マグヌスはその全てを、自らのサーヴァントの手でご破算にされている。

「仕方ないだろ? あんな強ぇ連中目の前にして、指咥えて見てろとか拷問か何かかよ。えぇ?」

 一言に狂っているといっても、様々な形があるだろう。
 親や子を、あるいは友を殺された怒りで狂乱した者。
 大きな力の代償によって自我を失った者。
 愛や劣情の末に狂った者。
 そもそも生まれた時から理性を持たない者。
 そしてこのバーサーカーは、戦闘に狂おしいほどの執着を寄せる者――『戦闘狂』なのだ。

 ステイルが連れてきた同盟相手へ、バーサーカーは決まって容赦なく攻撃を加える。
 当然相手は謀られたと思い応戦し、敵を倒すにしろ逃げられるにしろ、どの道同盟の話は水泡と帰すわけだ。
 令呪を使って攻撃を禁じれば流石の彼女も止まるのだろうが、言うまでもなく、この序盤も序盤からそんな理由で三度限りの命令権を切るのは愚策すぎる。
 これから戦争が激化していく中で、このバーサーカーの手綱を二度までしか握れないのはあまりにも致命的だ。
 彼女はこと戦いとなれば、マスターの指示などほぼ聞く耳持たずで暴れ回る。
 それはこれまでの騒動からも明らかなことだった。ステイルは煙草に点火しながら、厄介なサーヴァントを引いたものだと自らの不運を嘆く。
 本当に、この好戦的な所さえなければ……意志疎通も可能で実力もある、理想的なサーヴァントであったのだが。

「私はさ。聖杯だっけ? そういうのは正直さ、どうでもいいんだわ」

 事も無げに、この問題児はそんなことを言ってのける。
 それが聖杯戦争のシステムを根底から否定する発言であることを知ってか知らないでか、それさえ定かではない。
 ただ、納得のできる物言いではあった。
 そう長い時間を共にしてきたわけではないが、彼女は聖杯を手に入れ、何か願いを叶えたいなどという殊勝な心を持っているようにはとても見えない。
 彼女が望んでいるのは一つ。
 そして聖杯などに頼むまでもなくこの聖杯戦争に召喚された時点で、彼女の願いは叶っている。

「私は、強ぇ連中とやり合えりゃそれで満足だ」

 ぱん、と拳と手のひらを打ち合わせ、にっかり笑ってバーサーカーは言った。
 少しは人の苦労も知ってほしいものだけどね。ステイルは苦い顔をして皮肉ったが、それで行いを改めてくれる相手ならば彼もこれほど苦労させられてはいない。
 現にバーサーカーはにやりと笑って、「そいつは無理な話」だなどと宣っている。
 こればかりはこちらが慣れるしかないのだろう。
 同盟相手についても、急いで見つけようとするよりかはもっと相応しい頃合いがやって来るまで待つべきかもしれない。
 片っ端からバーサーカーに暴れてぶち壊しにされては悪目立ちするし、危険も大きいからだ。
 彼女はその果てに戦死したとしても満足して消えるのであろうが――ステイル=マグヌスは、生憎とそうではなかった。

 彼には願いがある。聖杯の力に頼ってでも、命に代えてでも叶えたい願いがある。
 それを叶えるためならばきっと悪魔にでも、東洋の羅刹にでもなることができると自負していた。
 誰でも殺す。いくらでも壊す。それで『あの子』が救えるなら、あらゆるものは安い。

「君がどう暴れてくれても構わないけれどね。しかし、一つだけ要求させてもらうよ」
「へえ、言ってみな」
「必ず勝て。それさえ約束してくれるなら、君の好きにすればいい」

 煙草を靴底で揉み消して言うステイルの声には、十代半ばの少年とは思えないほどの気迫が宿っていた。
 それを感じ、バーサーカーは驚いたように眦を動かす。
 それを察知してか、ステイルは二本目の煙草を取り出すと火を灯し、一足先に廃工場の出口へと踵を返した。
 その仕草は、らしくないことをした――とでも言いたげなものであった。

「言われるまでもねえっての」

 バーサーカーはそれをからかうでもなく、ニヒルで不敵な微笑みを浮かべる。
 いつも逃げ腰のつまらない男かと思っていたが、今の一瞬で少しだけ評価が変わった。
 必ず勝て。もちろんそんなこと、改めて言われるまでもない。
 負け戦というのも嫌いではないけれど、やはり最後に勝ってこその戦いだろうと彼女も思う。

 魔法少女以外の敵と戦う経験はこれまでなかったが、要領で言えば同じだ。そして、魅力も変わらない。
 この聖杯戦争はかくも面白い。実に『袋井魔梨華』好みの趣向とシステムだ。こんなおあつらえ向きの催しに折角招待されたのだから、目一杯楽しむとしよう。そう、文字通り体がぶっ壊れるまで。

「そうだ、マスター。私からも一つ頼みがある」
「……、……」

 ステイルは振り向かぬままで足を止めた。
 その背中へ、やはり不敵な微笑みを浮かべて――バーサーカー・袋井魔梨華は提案する。

「全部終わったら、あんたも私の相手をしてくれよ」
「生憎だが、猛獣と相撲を取る趣味はない。他を当たってくれたまえ」


【クラス】
バーサーカー

【真名】
袋井魔梨華

【パラメーター】
筋力B+ 耐久A 敏捷C 魔力C+ 幸運B 宝具B+

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
狂化:E
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。

【保有スキル】
魔法少女:A
魔法少女『袋井魔梨華』として活動できる。
身体能力、五感、精神力が強化され、容姿と服装が固有のものへと変化する。
食事や睡眠などが不要となり、通常の毒物やアルコールの影響も受けない。

戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

【宝具】
『頭に魔法の花を咲かせるよ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
花の種を飲み込み、魔法の花にして頭に咲かせる魔法。咲かせる花の種類によって効果が異なる。
植物に優しくない環境で咲かせた花はすぐ寿命が尽き、また、即席で咲かせればその分枯れるのも早くなる。ただしこれには魔法の実を早く収穫することができるという利点もある。
花を育てやすい環境であると、魔法の使用者であるバーサーカー自身の身体能力も向上し、代謝が良くなる。水と土と太陽光さえあれば傷が治り、逆に太陽がないと治癒に時間が掛かるのだという。

【weapon】
魔法と拳

【人物背景】
戦闘能力の高い魔法少女が集結していた『魔王塾』を放逐された嫌われ者の魔法少女。
戦闘狂のケを多分に含んでおり、基本的に強い相手にはノリノリで勝負を申し込む。
人間時は袋井真理子という女性で、真理子は魔梨華と異なり気性が安定している。
袋井魔梨華は本能の求めるままに戦い、袋井真理子は発芽時間や条件、花の効果などを記録、研究し、袋井魔梨華がより戦いやすいようにサポートする、という二人三脚の体制を一人で行っている。


【マスター】
ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録

【マスターとしての願い】
インデックスを助ける

【weapon】
なし

【能力・技能】
北欧神話のルーン魔術、中でも特に炎属性の魔術に特化した魔術師。
術の行使にはルーン文字の設置が必要で、現在は防水性のあるラミネート加工したカードを用いる。
『魔女狩りの王(イノケンティウス)』や『吸血殺しの紅十字』といった術式を使用する。

【人物背景】
イギリス清教第零聖堂区「必要悪の教会(ネセサリウス)」所属の魔術師。
魔法名は「Fortis931(我が名が最強である理由をここに証明する)」。
かつてのインデックスのパートナーで、彼女の記憶を定期的に消去し続けている。
後に彼は上条当麻によって自身の誤解を知ることになるのだが、このステイルは上条と出会う以前からの参戦であるため、そのことを知らない。

【方針】
聖杯を必ず手に入れる

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最終更新:2015年12月08日 18:08