この街の高台には、「勝常寺」という寺がある。
けっこうな数の檀家を抱える、大きな寺だ。
しかしその住職は、酒好きで不真面目なダメ坊主として知られていた。
先代はあんなに立派な人だったのに、とぼやく者もいた。
だがそのような者も、いつ住職が代替わりしたのかはとんと思い出せないのであった。


◇ ◇ ◇


満月の輝く夜空を眺めながら、信楽は縁側でグビグビと豪快に酒をあおっていた。

(そりゃいちおう、俺も仏に仕える身だけどよ……。まさか寺の住職やらされるとは思ってなかったわ。
 なまじ社会的地位が高いだけに、放り出していなくなれば騒ぎになるだろうし……。
 ああ、めんどくせえ)

心の内でぼやきながら、信楽は空になった杯にまた酒を注ぐ。
ニート生活まっただ中だった信楽にとって、住職としての仕事は面倒で仕方がない。
腐れ縁の狐が作るつまみもそろそろ恋しくなってきたし、ぼちぼち帰りたい。
だが、積極的に他の参加者と交戦して脱落させていくというのも性分ではない。

(俺以外の参加者、みんな同士討ちしてくたばらねえかなあ……)

僧職にあるまじき物騒な考えを抱きながら、信楽は杯を口に運ぶ。
だが、その手は途中で止まった。

「!!」

先ほどまでの戯れ言をほざいていた酔っ払いとは同一人物と思えぬ鋭い目つきで、信楽は前方をにらみつけた。
そこには、やせ細った男と不気味な面構えの老人が立っていた。

「これはこれは。こんな夜更けに寺を訪れるとは、何かお困りかな?」

作り笑いを浮かべ、芝居がかった口調で信楽は二人組に話しかける。
むろん、この怪しい連中が寺に用があったわけではないのは、信楽も承知の上だ。

「ええ、葬式の手配をしていただこうかと。あなたのね!」

痩せた男は甲高い声で叫ぶと、すぐさま物陰へと飛び込む。

「やりなさい、キャスター!」

続いて男の口から発せられたのは、パートナーである老人への命令だった。
それを受けて、老人が両手を天に掲げる。
すると彼の背後から、いくつもの白い塊が飛び出してきた。
よく見れば、それらにはみな目と口を思わせるくぼみがある。
すなわちそれらは、キャスターである老人に使役される怨霊なのだ。

「やれやれ、仏さんを戦いの道具にするのは感心しねえなあ」

しこたま酒を飲んでいるとは思えぬフットワークで怨霊の突撃を回避しながら、信楽はぼやく。

「それじゃ、こっちも応戦させてもらおうかねえ。出番だぜ、嬢ちゃん!」

次の瞬間、信楽の背後に巨大な炎が出現する。
炎はみるみるうちに姿を変え、やがて人間の形を取る。
グレーのブレザーを身に纏い、赤々とした長髪をツインテールにまとめた少女。
一見するとか弱い学生にしか見えないが、その実態は莫大な力を小さな体に秘めた星の外からの来訪者。
バーサーカーのサーヴァント、クー子。それが信楽のパートナーであった。

「念入りに火葬して、ちゃんと成仏させてやりな」
「ん」

短く答えると、クー子は怨霊の群れに向かって回し蹴りを放った。
その脚は、彼女の髪のように赤く燃えている。

「ギィィィィィ!」

耳をつんざくような悲鳴を上げて、怨霊たちは消滅する。
今の一撃で、全体の3割ほどが吹き飛んだだろうか。
クー子は仏頂面のまま、今度は拳に炎を宿して残った怨霊たちに殴りかかる。
たかだか怨霊ごときがバーサーカーの攻撃に対抗できるはずもなく、1分も経たぬうちに怨霊は全て焼き尽くされた。

「な、なんと……」

ここまで一方的な展開になるとは思っていなかったのだろう。
細身の男は物陰から顔を出し、高熱でもあるかのように震えている。
キャスターの顔にも、明らかな動揺が見て取れた。

「くそっ! 次だ、次の手を……」
「やらせない」

ヒステリックな男の声を、クー子の静かなつぶやきが遮る。

「おじさんにあんまり負担かけたくないから、最短で仕留める。
 やたらめったらCMを入れたりしない」

なにやら意味不明なことを呟くクー子の背後に、炎で何かが形作られる。
それは、巨大な目のマークだった。
あっけにとられる敵をよそに、クー子はふわりと宙に浮かび上がる。
そしてその状態から突然加速し、キャスターに跳び蹴りを見舞った。

「ごふっ!」

あまりの緩急に対応できず、キャスターは直撃を受ける。
哀れな老人は何メートルも吹き飛び、全身を炎で焼かれてやがて消えた。

「命燃やすよ……」
「燃やしてから言うなよ」

クー子の言葉に、冷静にツッコミを入れる信楽であった。


◇ ◇ ◇


「お疲れさん、嬢ちゃん」
「おじさんも魔力供給お疲れ様。私、燃費悪いから大変でしょ?」
「なあに、このくらいどうってことないさ。おじさん、物の怪だから魔力は有り余ってるんだよね」

笑いながら、信楽はクー子の頭を撫でる。
クー子はバーサーカーではあるが、狂化のランクが低いためこのように会話が成立するのである。
もっとも、たまにわけのわからないことを口走ることもあるのだが。

「それにしても、本当にいいの? 聖杯に何も願わなくて」
「ああ、おじさんは毎日まったりと暮らせればそれでいいからね。
 聖杯は嬢ちゃんが使いな。まあ、聖杯が手に入るかどうかは嬢ちゃんのがんばり次第だけど。
 おじさんはあくまでサポート担当だから」
「がんばる……!」

鼻息を荒くしつつ、クー子は首を縦に振った。


なおクー子の願いとは煩悩と性欲にまみれたしょうもないものなのだが、信楽はまだそれを知らない。
まあ、知ったところでやっぱり肯定しそうな気もするが。


【クラス】バーサーカー
【真名】クー子
【出典】這いよれ!ニャル子さん
【属性】混沌・狂

【パラメーター】筋力:B 耐久:C+ 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:A
 (宝具使用時)筋力:A 耐久:B 敏捷:A 魔力:A 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】
狂化:E
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
Eランクなのでコミュニケーションは普通に取れるが、時折思い出したように暴走する。

【保有スキル】
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。

被虐の誉れ:B
肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/4で済む。
また、魔術の行使が無くても、一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されていく。

魔力放出(炎):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
クー子の場合、攻撃に使う部位に燃えさかる炎が宿る。

邪神型宇宙人:B
「クトゥルー神話」という形で地球にその存在が伝えられた宇宙人の一族。
本質は神でなくとも、神という認識で見られるようになった存在。
対峙した相手にクトゥルー神話の知識があった時のみ、このスキルは同ランクの「神性」に変化する。

【宝具】
『どこまでも果てしなく加熱していく炎(クロスファイア・シークエンス)』
ランク:A 種別:対環境宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
自分の周囲の大気を故郷・フォーマルハウトのものと同じ成分に変化させることで本来の姿に戻り、100%の力で戦えるようにする宝具。
元より高い戦闘能力がさらに上昇するが、魔力の消費も跳ね上がるため長時間の維持は困難である。

【weapon】
○機動砲台
クトゥグア族の基本装備。
形状には複数のバリエーションがあるようだが、クー子のものは手のひらサイズの火の玉型。
脳波によって遠隔操作され、レーザーを撃って敵を攻撃する。

○名状しがたいバールのようなもの(炎)
邪神界隈でポピュラーな武器。
クー子のものは炎属性がついており、攻撃時には先端に炎が灯る。


【人物背景】
クトゥルー神話において「生きている炎」クトゥグアのモデルとなった宇宙人と同種族の一個体。
幼なじみのニャル子とは毎日のように喧嘩を繰り返していたが、実は同性愛者でありニャル子にかまってもらいたいがゆえの行動であった。
高校卒業後はニート生活を送っていたが、惑星保護機構のエージェントとして地球に降り立ったニャル子を狙い、犯罪組織の用心棒に。
ニャル子に返り討ちにされるも、その後はコネを使って惑星保護機構に就職し地球に駐留する。
性格はマイペースで、何でも自分に都合よく解釈する癖がある。
また社会人でありながら子供のような言動が多く、「精神年齢は園児並」とも評されている。

【サーヴァントとしての願い】
ニャル子とハァハァ


【マスター】信楽
【出典】繰繰れ!コックリさん

【マスターとしての願い】
クー子の願いを叶えてやる

【weapon】
錫杖を武器として用いることがある

【能力・技能】
○変化
化け狸としての能力・その1。
「アニマルモード」と呼ばれる狸の姿の他、様々なものに化けられる。
ただし人間に化ける場合は顔や体格がいつもの姿のままであるため、「ごついおっさんが仮装している」ようにしか見えない。
むしろ、本当に仮装しているだけなのかもしれない。

○幻術
化け狸としての能力・その2。
他者に、現実と区別がつかないほどの幻を見せることができる。

【人物背景】
小学生・市松こひなに取り憑いた化け狸。
人間の姿を取っている時は編み笠と袈裟を身につけた、筋肉質のナイスミドル。
格好通り仏門に入っているらしいのだが、普段はまったく気にせずフリーダムに振る舞っている。
無職の上に酒好き、女好き、博打好きというダメ親父。
だが、たまに本気になると非常に頼りになる。
特に女性の巻き込まれたトラブルであれば、解決に努力を惜しまない。

【方針】
聖杯狙い。でも積極的に動くのは面倒なので、基本は待ちの姿勢。

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最終更新:2015年12月08日 18:12