「ひ、ヒィィィッ!!
すんません、勘弁して下さい!!」
夜の闇を明滅するネオンの光が照らし出す、娯楽を求める人々に溢れる繁華街。
その路地裏の一角で、腰を抜かし涙ながらに後ずさる黒いスーツの男がいた。
一目見て、その筋―――極道の者である事が分かる風貌だが、今の表情はそれが微塵も感じられないぐらいに情けなく歪んでいる。
その原因となっているのは、彼の周囲に倒れこんでいる、同じスーツを着た複数人の男達。
「ヒヒッ……なんや、もう終いか?
おもんないやっちゃなぁ……」
そして……その倒れこんだ男達を見下ろす、隻眼の男である。
「ま、ええわ。
暇つぶしにはなったしここらで勘弁したる……けどまたやりたかったら、いつでも来てええんやで?」
「そ、そんな事しません!
もう二度とやりません、足洗いますから!!」
好戦的に笑う隻眼の男に対し、このままではやばいという恐怖を抱き。
黒スーツの男は、必死になってその場を走り去っていった。
事の発端は、数分前に遡る。
繁華街を歩いていたこの隻眼の男と、黒スーツの男の方が偶然にもぶつかりあったのだ。
それに対して黒スーツの男が因縁を一方的につけ、共にいた仲間達と共に隻眼の男を路地裏に連れ込んだわけなのだが……
結果はこの有様だった。
袋叩きにして有り金を奪うはずが、逆にたった一人相手に殲滅させられたのである。
更に言えば、男の方は全くの無傷……どこかこの喧嘩に、物足りなさすら感じさせる様子であった。
「バーサーカァァァァァッ!!??
また何やってんだよお前はぁ!!」
そんな男―――バーサーカーの背後から、大声を上げて一人の中性的な少年が駆け寄ってきた。
彼の名はウェイバー・ベルベット。
この隻眼のバーサーカーをサーヴァントに従える魔術師。
聖杯戦争の参加者として、この地に足を下ろしたマスターである。
彼は本来、冬木で行われる第四次聖杯戦争に参加する筈のマスターであった。
しかし、飛行機を降り冬木の街へと到達した途端に彼はその意識を失い……気がついたときには、この街にいたのだ。
バーサーカーを名乗る、自身のサーヴァントと共に。
「イヒ……何してるて、見てのとおりやで。
喧嘩売られたから、おもろそうやったし相手してやったんや」
はっきり言って、予想外にも程があった。
本来ならば用意した聖遺物を使い征服王イスカンダルを呼び出す筈が、何故か現れたのはどこからどうみても強面のジャパニーズマフィアだ。
ただし能力だけを見れば、バーサーカーでありながら狂化のランクが低い為に意思疎通が可能。
パラメーターは幸運値を除けば標準的ではあるものの、逆にそのおかげでバーサーカーでありながらも魔力消費がそこまでかからずに済む。
そして使う宝具も強力と、当たりといえるサーヴァントだった。
その為、最初はウェイバーもこのバーサーカーの召還を喜び、これも自身の魔術師としての腕だと自信がついたものの……
「あのなぁ!?
お前、これでもう何度目だよ!
NPCどんだけぶちのめしてきたか、分かってんのか!?」
結論から言うと、ウェイバーは召還以来このバーサーカーに振り回されっぱなしであった。
まず、マスターの魔力を喰うにも関わらず霊体化を極力したがらない。
現界したまま、ちょっと目を離すと自分の意に沿わず好き勝手に動き回っているのだ。
気が付けば、いつの間にかカラオケボックスに入って歌ってたり、バッティングセンターで打ちっぱなしをしていたり。
挙句の果てには……如何にも過ぎる見た目と好戦的過ぎる狂気に満ちた性格故に、頻繁にこうして夜の街で喧嘩に明け暮れている始末だ。
本人は嬉々として自身に喧嘩を売る者達を叩きのめしている訳だが、ウェイバーとしては気が気じゃない。
そもそもサーヴァントと普通のNPCとでは、実力差には天と地程の差がある。
バーサーカーが軽くしばくぐらいで、そこら辺のNPCは簡単に虫の息に追い詰められるだろう。
「せやから手加減はしとるで?
NPC殺したら制裁あるっちゅうんやったら、殺さんかったらええ話やないかい。
第一、こっちは売られた喧嘩を買っとるだけや……立派な自衛や」
「だからって、幾らなんでも限度があるだろ!?
お前、もうここら辺で大分有名になってんのが分かってんのか!?」
NPCを故意に殺害したり危害を加えたりすれば、実行者の主従には制裁を課せられる恐れがある。
しかしこのバーサーカーの上手いところは、決して自分から喧嘩を仕掛けはせず、あくまで巧妙に相手から仕掛けさせているところだ。
そうすれば自衛が成り立つし、NPCにもきつい『お仕置き』を下すことこそあれど命を取りまではしていない。
曰く「つまらん罰受けて肝心の聖杯戦争がおもろなくなるんは嫌や」という事だが……
この色々な意味で狂気に満ちた思考は、流石はバーサーカーとしか言いようがなかった。
聖杯戦争の定石にのっとって慎重に立ち回りたいウェイバーからすれば、もう頭を抱えるしかなかった。
今では凄腕の喧嘩士としてバーサーカーは街でもそれなりに知れ渡っており、喧嘩を売ってくるNPCなど日常茶飯事だ。
これではその内、簡単に他の参加者にも存在を知られる事になりかねない。
いや、寧ろこのバーサーカーはそれを望んでいる節すらある。
「あぁぁ……何でこんなことに……」
「まあそう言うなや、ウェイバーちゃん……男やったらもっとどっしり構えろや。
その方が、ウェイバーちゃんの目指す名誉に箔がつくってもんやで?
それにの……こうして喧嘩をしているうちに、色々分かったこともある」
しかし。
それでいながら唯の戦闘狂ではなく知恵を働かせられるのが、このバーサーカーの喰えないところだ。
彼はこうして街中をうろつきながら喧嘩をすることで、細かい地理を頭の中に入れている。
どこに人が集まるか、どこで喧嘩が起こるか等を把握しているのだ。
更には街行く人々との『お話』の末に、色々と情報の交換をしていたりもする。
美味い飯が食える場所はどこか、情報通が集まるバーはどこか、最近街で何か変わったことはないか。
日常的な事から、社会の裏の少々込み入った事情まで。
そういった情報を満遍なく収集できているのは、流石は生前に巨大組織の組長をしてきただけの事はある。
「そりゃ……分かっちゃいるけど、さ……」
「なら、おどおどすんなや。
自分の腕を信じんなら、自分のサーヴァントを信じてみろや!
ワシはウェイバーちゃんが呼び出した自慢のサーヴァントやで……安心し。
このワシが、簡単に負けるわけないやないの」
そう胸を張って言われては、返す言葉もない。
確かに彼の言う事も一理あるし、ちゃんとそれなりには聖杯戦争の事を最低限考えた立ち回りはしている。
してはいる筈だ。
それに、何だかんだ言っても強さを信用しているのは事実……今は彼を信じて戦うしかないか。
「……わかったよ。
けど、本当に軽率なマネは控えてくれよな……こっちが気が気じゃないんだから」
「おう、分かったわ。
じゃあウェイバーちゃん、いっちょ景気づけにカラオケでも行こやないの!
臨時収入も入ったしのう、思いっきり歌ったるで」
そう言って、バーサーカーは笑顔で懐から札束を取り出しウェイバーに見せる。
その瞬間、ウェイバーは凄まじく嫌な予感がした。
臨時収入といったが、いったいどこからこの男はそれを手に入れたというのか。
「……ちょっと待て。
バーサーカー……その金、どうした?」
「ん?
さっきの連中からもらったで。
迷惑かけてすんませんって、ポンとお財布からの」
「だから何やってんだよお前はぁぁぁぁ!!??」
前言撤回。
やはりこのサーヴァントを信じていいものか不安である。
このキリキリと痛む胃の為にも、どうやら胃腸薬が必須の聖杯戦争になりそうだ。
【クラス】バーサーカー
【真名】真島吾朗
【出典】龍が如くシリーズ
【属性】混沌・狂
【パラメーター】筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:E 幸運:A 宝具:C
【クラススキル】
狂化:E
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
真島の場合はランクが低いので理性を残しており意思の疎通は可能だが、筋力と耐久力に多少の恩恵がもたらされた程度。
ただし、面白そうと感じた戦闘や喧嘩が絡んだ場合は、そちらを嬉々として優先してしまう場合がある。
【保有スキル】
カリスマ:C
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
バーサーカーのカリスマは、狂気の混じった思考をしていながらも巨大な組の長として大勢の組員を引き連れ、また彼等にもその思考が分かっている上でなお慕われている程度。
戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
バーサーカーの場合は、類希な幸運も相まってか生前に如何なる窮地に立とうとも再起してきた由来からこのスキルがついた。
心眼(真):C
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
生前、チンピラやヤクザの大群に喧嘩を売られようとも、ゾンビの集団に囲まれていようとも、瞬時に最適な反撃方法を導き出し殲滅してきたが為にこのスキルがついた。
【宝具】
『嶋野の狂犬・隻眼の魔王(ヒート・オブ・マジマ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-15 最大捕捉:80人
バーサーカーの独特かつ強烈な戦闘スタイルが昇華され、宝具と成した物。
この宝具は、戦闘中においてバーサーカーの闘志が高ぶることによって発動が可能となる。
その際の高ぶりは、闘争への歓喜でも闘争相手での怒りでも構わない……様はバーサーカーが戦闘に乗ってきたらそれで良いという事。
宝具発動時には全身から青いオーラが立ち上るようになり、筋力と敏捷性及び心眼(真)のスキルが1ランクアップする。
そして後述する宝具『分身の極み』が発動可能となる。
発動すればバーサーカーの戦闘時の能力を底上げすることが可能だが、その分マスターの魔力消耗も相応に要求される。
『分身の極み(ハイト・オブ・マッドアバター)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-15 最大捕捉:100人
生前、渡世の兄弟との激闘の最中に編み出した人間離れした絶技が昇華した宝具。
『嶋野の狂犬・隻眼の魔王』が発動している時にのみ使用可能となる。
バーサーカーの高ぶった闘志と魔力により、青白いバーサーカーの分身体を生み出す。
この分身体は敏捷性のみB・それ以外の全ランクはE-相当の独立した擬似サーヴァントとして扱われる。
ただし思考能力は独立しておらず、あくまでバーサーカーの意識に従い戦闘するのみ。
発動時にバーサーカーが持っていた武具もそのまま所持しているが、そのランクは1ランクダウンする。
【weapon】
『鬼炎のドス』
バーサーカーが生前愛用し続けてきた、黒い柄に桜の文様を散らしたドス。
このドスを生み出した刀匠は、業界において『決して彫ってはならないとされる鬼炎』を彫り込んで仕上げた後、
自ら鍛えたこのドスでもって動機不明の自害を遂げたという逸話を持っている。
その為、ドス自体に何かしらの呪いが宿っているのではないかという説もある。
『MJM56-55 Exorcist』
バーサーカーが生前、ゾンビの大群を相手に用いてきたとされる特殊改造を施した愛銃。
より速く、より派手に、より多くのゾンビを蹴散らす為に改造を施してきた最上級の性能を誇るショットガン。
弾丸は魔力によって精製される為、魔力が尽きぬ限りは弾切れを起こす心配はない。
【人物背景】
『神室町』と呼ばれる繁華街に拠点を置き、関東一円に活動してきた日本でも最大級の極道組織『東城会』。
その直系である真島組の組長として君臨し続けてきた、超武闘派極道。
素肌に直接羽織ったパイソンジャケットに、白蛇が描かれた左目の眼帯がトレードマーク。
そしてジャケットの下にある両肩には白蛇の、背中には般若の刺青が大きく彫られている。
生前は『嶋野の狂犬』『隻眼の魔王』という異名で呼ばれており、非常に好戦的かつ狂気に満ちた思考をしている。
その為に敵は勿論、自分の子分であったとしても非がある相手は容赦なく血祭りにあげる事もあったとか。
また彼に関しては様々な逸話があり、百人単位の敵をたった一人で壊滅させたという話もあれば、
とある平行世界ではゾンビをはじめ人外の化け物とも互角に戦ったという伝説まである。
本当に強い相手との本当の喧嘩を何よりもの楽しみにしており、面白いと思った相手を見つけると嬉々として喧嘩を売りに行く事もある。
かつて神室町で大量のゾンビが出現したとされる際には、目の前で組員がゾンビに殺害されたにもかかわらず
「本物のゾンビとやりあえる!がっかりさせんなや!」と笑いながら単身ゾンビの大群を狩りに行ったり、
自身より巨大なクリーチャーが一般市民に襲い掛かろうとした際には、市民を救うのではなく闘いたいが為に
「お前は俺の獲物やぁ!」と言ってクリーチャーをショットガンで殴り倒しに行くなどという噂まである程。
ただし、状況によっては狂気を感じさせない冷静な男気を見せる場面もあり、心から気に入った人間の為ならば力を貸すことを惜しまない一面もある。
本人曰く『正直者が大好き』であり、自分もまたそうだとの事。
その上でどこか気まぐれな性格でもある為、仲の良い人物からも「あんただけは読めねぇ」と言われることもあった。
また、閑古鳥が鳴いていたキャバレーを界隈ナンバー1にまで押し上げたり、建設会社の社長としてヒルズ建設等の大規模開発に着手したりと、
意外な商才を持っている。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯にかける願いそのものはない。
ただこの聖杯戦争で、強くて面白そうな相手とやり合いたいだけ。
【マスター】
ウェイバー・ベルベット@Fate/Zero
【マスターとしての願い】
聖杯戦争に勝ちあがり、魔術師としての自身の実力を周囲に認めさせる。
【weapon】
なし
【能力・技能】
平凡な魔術師としての力量だが、本院は優秀であると自負している。
しかし、研究者としての洞察力・分析力は極めて高く、書物の独解や記憶・理論の解釈と再構築という面においては非凡の才を持っている。
また、他者の才を見抜きそれを開花させ伸ばす事に関しては天才的な素質もある。
【人物背景】
時計塔においてケイネス・エルメロイ・アーチボルトの門下生として魔術を学んできた学生。
魔術師としては歴史が浅い家柄の出身だが、それを自身の努力と才能で補えるとして奮闘し続けてきた。
しかしその結果が現れる事はなく、周囲の者達からは相手にされていない。
その為に名門と呼ばれる魔術師に対しては強いコンプレックスがあり、特にケイネスとは自身の論文を巡っての強い確執があった。
そんな中で聖杯戦争の話を聞き、これに勝ち上がることで自らの実力を証明できると考える。
そして参加を決意するやいなや、ケイネス宛に届いた聖遺物を横領し、聖杯戦争の行われる冬木へと向かうのであった。
【方針】
情報を収集しつつ、他のマスターとサーヴァントの確実な撃破をしたい。
しかし、あまりに好戦的かつ自由奔放すぎるバーサーカーに振り回されることが多い為、なかなか思い通りに行きそうにない。
最終更新:2015年12月08日 18:13