『魏書』に言う。
董卓は司隷校尉劉囂に命じ、
官吏民衆に孝行でない子、
忠義でない臣下、清潔でない役人、
従順でない弟があれば記録させ、
これに該当する者があればみな誅殺し、財産物資は国庫に没収した。
そのため愛憎が互いに起こり、民衆の多くが無実の罪で死んだ。


太い男だった。

腕も、

脚も、

顔も、

体躯も、

性根も、

額に浮かぶエッジも、

恐らくはその股間のモノも、

何もかもが太い。

その太さは傍に侍る「いかにも」な恰好をした魔術師のサーヴァント―――キャスター―――と比べると殊更顕著に映った。

「主よ。」

やせぎすの従者が何かに気づき、足を止めた。一歩先んじていた主も振り返らぬままに足を止める。

「領土内に敵が侵入したようでございます。」

「………」

「……ッ」

首だけがこちらを向く。ぎょろり、と動いた太い眼に捉えられた時、キャスターは己が背に冷たいものが流れるのを感じた。

この視線には慣れない。いや、今後も慣れることは無いのだろう。主――――中華きっての魔王、董卓仲穎の眼光には。

「一組か?」

野太く、自信と威に満ちた声が狭い路地裏にこだまする。

すぐには答えられずごくり、と唾を飲み込んだ後、何とか従者が口を開き、応えた。

「は、はい。
彼奴等は我ら主従の恐ろしさを知らぬ不届き者。ここは心胆を寒からしめてから地獄に落とすために動くべきかと。」

魔王はふん、と鼻をならずと前に向き直り、ただ一言

「欲しい魔力を言え。」

そう答え、歩を進めた



失策であった。キャスターは心中後悔した。
主にはそう啖呵を切ったものの、対象に接近すればするほどキャスターの背筋から嫌な汗が吹き出してくる。
虎口とでも言おうか。まるで人を喰らう獣の口に近づいているかのようなーーーそんな錯覚が秒刻みに強くなるのだ。

対照的に董卓は望郷の念に駆られていた。どこかで嗅いだ匂いがする。近づけば近づくほどに心踊る、勇者の匂いだ。だが、これはどこで嗅いだ匂いだったか

「エフッ。」

何処であったか――――否、何時であったか。

遷都時… 否

虎牢関…否否

并州牧…否否否!!!

「エフッエフッエフッ!!!」 

そうだ、今はっきりと思い出した。この匂いは劉協を担ぎ玉座に登った日に嗅いだあの獣臭。圧倒的な「暴」の匂いーーー!!!


「き、貴様がサーヴァントだな。」

「ハハハハハハハハッッッ!!!」

猛獣以上の男がそこに居た!!

「ハハハハハ!!笑いが止まらねェ!!
骨のあるマスターについてくるのがこんな虫ケラだとはなッ!!月にスッポンでもまだ足りねェッッッ!!」

漆黒のシャツからはみ出る金棒のような腕で手を叩き。
獅子を思わせるざんばら髪を震わせながら。男はさらに嘲笑(わら)う。実に楽しそうに嘲笑(わら)う。
そしてそれはキャスターの堪忍袋の尾をいともたやすく切らせしめた。

キャスター「ッッッッッッッッッ!!!」

怒りのままに奥義を放つ……直撃したがまるで聞いた様子はない。男はポケットに手を入れたまま酷薄な笑みを浮かべている。
驚愕し、もう一度奥義を放つ……魔術の雨を浴びながら、日向を散歩でもするかのように歩いてくる。相変わらずポケットには手を入れたままだ。
焦り魔力障壁を放つ……そのままぶつかるが、意に介さない。ハンドポケットのまま歩き、体ごと魔力の壁をブチ抜く。生涯をかけた技が一つとして通用しない。
男が目の前に立つ…動揺で動けないキャスターの胸に男の手が置かれる。
手のひらを握る…カステラでも千切るかのようにキャスターの肉が霊核ごと抉られた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!?!?」

声にならない叫びをあげながら地に伏すキャスター。

「おおおっ!!」

従者がやられたことなどどこ吹く風。
まるで天まで届く黄金を見つけたような、感嘆の声をあげる董卓。
最早その目には目の前の男しか映っていない。バーサーカーの背後から現れたマスターであろう男ですら目に映らない。

「ふん。そこのデブ、我が隷属の恐ろしさに気でも違ったか?」

そんな空気を読む能力もないのだろう。
バーサーカーの主が彼と、彼の従者を、もがく虫ケラを見るかのごとくせせら笑った。
魔術師としても、人間としても三流のその滑稽さは誰にも見られてない。バーサーカーにも、董卓にも。

「ま、マスター…」

必死に声を絞り出すキャスター。救命を求めていることは差し出した手から明らかである。
この聖杯戦争においてサーヴァントとマスターは一蓮托生。サーヴァントが死ぬということは即ち自分の死にも繋がることである。
にも関わらず魔王はそれを一瞥した後、手の甲を天に掲げ、こう言った。

「令呪を持って命ずる。キャスターよ。


頭骨を抉れい。」


「!?がっ…!?」

何を命令されたのかわからぬままにキャスターの右手が胸に動いた。
刃が己の意志とは関係なく頭蓋及び脳漿を抉り取った後、その姿は黄金の粒子となって消えた。

「な、なななああっ?!」

素っ頓狂な声を上げ、二歩後ずさるバーサーカーのマスター。
聖杯戦争において常道では断じてあり得ぬ行為と、目の前の無法の量に腰を抜かす。
そんな青瓢箪を鼻息一つ吹いて一瞥したのち、ぐるんと体ごとバーサーカーに向き直った。

「バーサーカー!貴様程の男が何故こんな下らん男に仕えている!」

言葉こそ批判のそれであったが、顔には張り付くのは喜の一文字。
足先が黒ずみ、存在自体が現在進行形で消失していっている。にも関わらず魔王は全く意に介さない。気づいてすらいない。
それほどまでに魔王は目の前の悪鬼に興奮し、焦がれ、その身を欲していた。

「こんな馬鹿な事はない!!」

プライドを刺激されたことで現実に帰った男は、バーサーカー相手に狂ったようにまくしたてた。
その怒りがさらに、この類い稀なるサーヴァントの失望を買うとも知らぬまま。

「く、下らんだとお?!ば、バーサーカー!今すぐこのバカを、お、俺のことをバカにしたこいつを殺してしまえ!」

最早このような暗愚な男に興味はない。耳を傾けることさえおっくうだ。
それに目の前の男は面白い。今まであったどの政治家よりも強欲で、どの武道家よりも我儘なこの男。
バーサーカーの興味は完全に三国の魔王に移っていた。

「ほぉう…?」

「我が名は董卓!バーサーカーよ!真名はわからぬが、貴様が天下に聞こえし勇者であろうことは容易に想像できる!」

バーサーカーが目を見開く。

「董卓…。まさか、あの中華に聞こえし魔王、董卓仲穎か!?」

「その。董卓仲穎だ」

然りと頷く魔王。右手をバーサーカーに差し出し、誘った。

「バーサーカーよ!!我と主従の契りを結ぶべし!!
そして聖杯を我らが手中に収めようぞ!」

「は、はぁっ?!
おいっ!聞こえていないのかバーサーカー?!はやくこいつを…!」

唾を飛ばしながらまくしたてる青瓢箪だったが、ふと視線を感じ顔を逸らすと、バーサーカーが初めてこちらを見ていた。
顔中に皺が刻まれた深い、深い嗤顔(えがお)で。
ぞっとした。笑顔、というよりはまるでネコ科の猛獣が牙を剥いているような…そう感じた瞬間

「シュッ」

青瓢箪の視界から、全ての光が消えた。


「お気に召したかい?相国閣下」

巨岩に押し潰されたが如き、無惨な姿と化した「元」主を向こうに蹴飛ばしバーサーカーは歩み寄る。
ねじ曲がった骨が肉から突き出し、臓腑が弾け、血飛沫が舞うその光景に魔王はただ一言。

「うむ」

満足気に口角を上げ、「オーガ」と悪逆無道の契りを交わした。

「董卓よ…お前は何を聖杯に望む?」

夜の薄暗い路地に、瘴気とも言うべき邪気をまとった二人が歩く。

「漢王朝に止めを刺し、一度は栄華を極めた董卓。貴様は今一度のこの生に何を望む?」
「知れた事」

オーガの問いに、ニヤリと笑いながら魔王は答えた。

「我が望みは天下総てを己が手中とすることだ。」


「マスターであろうが
サーヴァントであろうが。
猛き兵士であろうが、
無辜の民であろうが。
男であろうが女であろうが。
その悉くを蹂躙し。財を、命を、何もかもを我がものとする。
巨凶の力を持って暴虐の上の道を辿り、聖杯を我が物とするのだ。」

調停者とやらは聖杯を手にした後、この董卓自らが皮を剥ぎ喰うてやるわ。こう付け加えて董卓は笑った。
なんという残忍さであろうか。なんという不義であろうか。なんという狼戻さであろうか。
色々な意味で最悪の解答である。あるが、余りある暴虐の性を隠さず、貫こうとするこの男は実に好ましい。バーサーカーはそう思った。

「天下…今思えばそんなものに興味など無いが、それを得る手段としては悪くねえし異論もねェ。しかし」

今は暗き天。星一つ映らぬ空を見上げた後、ゆっくりと董卓に顔を向けながらバーサーカーはにやりと笑った。

「純度が低い。」

ともすれば挑発とも捉えられるそれを、魔王は激するどころか一笑に付した。

「面白い男だ。貴様ほどの男が天下に想いを馳せぬか。
ならばバーサーカーよ。我が右腕となりし貴様は、聖杯に何を望む?」

董卓がその場に立ち止り、剣を大地に突き立て右手をバーサーカーに向って掲げた。
地は強固にに舗装されたコンクリートであるが、刀身の半ばまでやすやすと突き刺さったそれを見て、問われた男はクスリと笑いながら応えた。

「知れたこと。闘争だ。」

言いながらその場にしゃがみ、剣の傍に手刀を突き立てる。
骨材を多く含んだ高密度なそれを、まるで水分を多く含んだ泥でも扱うかのように易々とひっぺがしていく。

「ほう!!」

即答するバーサーカーに、今再び感嘆の声を漏らす董卓。
鬼は立ち上がったと同時に、周囲のコンクリートごとひっぺがした大剣を主の傍に無造作に投げ捨て言い放った。

「魔術だろうが科学だろうが構わねえ。化生だろうが何だろうが知ったこっちゃねえ。
財力だろうと権力だろうとなんだって使えばいい。
肉体で肉体を破壊する。単純でいて、SEX以上の最高のコミュニケーション…闘争を行う。これが俺の望みだ。」

「ふはっ!純粋戦士か!」

思った通りの男だ。

この男にとっては天など眼中にない。というよりもあろうが無かろうがどうでもいいと思っているのだ。

天の事なぞいざしらず。己が定めた法によってのみ動き、邪魔をする者があならば喜々として暴れ、その腕力でもって無理やり言い聞かせる。

呂布よりも純粋で、曹操のように躊躇がなく、董卓以上に絶対的な自負心を持つこの男はいたく好ましい。董卓はそう思った。

緩んだ頬を隠さぬまま、近代の土塊から剣を引っこ抜き。今は暗き蒼天に掲げた。

「では行くぞ、バーサーカーよ。我が戦の光となるがいい。」


【クラス】
バーサーカー

【真名】
範馬勇次郎@刃牙シリーズ

【ステータス】

筋力A+ 耐久A+ 敏捷A+ 魔力- 幸運A 宝具- 

【属性】
混沌・中立

【クラススキル】
狂化:-
「狂戦士」のクラス特性。本来は理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキルであるが、保有するスキルによって理性を奪えなくなっている。
故に身体的強化も望めないが、人を破壊せずにはいられない殺傷本能が狂化され、強者と認めた者に対してはどこであろうが、誰であろうが見境なく闘争を行ってしまう。


【保有スキル】
自己暗示:EX
 自身にかける暗示。通常は精神攻撃に対する耐性を上げるスキル。
 地震のような自然現象ですら己の力で止められると思い込む圧倒的自負力によりあらゆる精神攻撃、
 ひいてはクラススキルである狂化ですら一部無効にする。

無窮の暴力:A
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した暴力の果て。
いかなる身体的損傷の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

範馬の血:A
範馬一族である証。生まれながらに生物として明らかに異なる筋肉を持つ。
Bランク以上のこのスキルの所有者は、常に筋力と耐久がランクアップしているものとして扱われる。


透視:C
向き合ったサーヴァント・マスターの物理的弱点のみ透視できる。



【宝具】
『鬼の貌』:-
人智を超えたヒッティングマッスル。
ただ思いっきり力むだけであるが、生れながらの天然戦闘形体が戦場での修練を経て進化した筋肉は最早宝具の域。
発動すれば筋力、耐久、敏捷が二ランクアップする。


【weapon】
肉体

【人物背景】
主人公・刃牙の父親にして刃牙ワールドのラスボス。
彼単体で大国の軍事力を上回る戦闘力を有しているため、アメリカをはじめとした多くの国が彼に忠誠を誓っており、
「地上最強の生物」「オーガ」をはじめとした数々の異名を持つ。

【サーヴァントとしての願い】
闘争

【マスター】
董卓@蒼天航路

【マスターとしての願い】
勇次郎を受肉させこの世総てを我がものとする

【weapon】
大剣、弓矢

【能力・技能】
騎乗
多くの馬を乗りこなすことができる。
怪力
放った矢の威力で壁が崩壊したり、たたき切った人間が何十メートルも後ろにぶっ飛ぶなど常人離れした力を持つ。


【人物背景】
後漢末期の人物。
もともとは北方の諸侯の一人にすぎなかったが、袁紹・何進からの早まった招きに乗じて洛陽に入る。
入った後、逃走を図る十常侍・張譲から天子を奪還し、少帝を廃して献帝を擁立。権勢を欲しいままにし、専横を極めた。
蒼天航路では比類なき魔王としてそのカリスマ性が描かれるも、史実通り呂布に殺される


【方針】
敵対者を殺しながら優勝。

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最終更新:2015年12月08日 18:14