夕焼けに染まる町を、一台のオートバイが悠々と走っている。
 その見てくれ自体はごくなんてことのないものだが、見る者が見れば、あるいは感嘆の息を漏らしでもしたやもしれない。
 彼のドライビングテクニックには、単に粋がっているだけの走り屋とは異なった独特のキレがあった。
 華麗さではなく、鋭く速く、どこか荒々しいものを含んだ運転は文字通り疾走と呼ぶに相応しい。
 そんな激しさとは裏腹に、機械の馬を駆る青年の瞳に浮かんでいるのはどこかセンチメンタルな感情の色。
 独走の快感に浸るでもなく、ただ何か遠いものを見るような眼差しで、道行く人々の笑顔とその営みを見つめていた。

 ここはいい町だ。少なくともシンジ・ウェーバーはそう思う。
 無論のこと、ただこうして見回るだけでは町の本質など見極められはしない。
 だがそれでも、少なくとも目につく範囲にいる人々の顔には翳りがない。
 虐げられることへの劣等感も、弱者を踏みつけ上に立つことで得られるゲスな優越感も見当たらない。
 当の彼らにしてみれば、今更疑問に思うこともない日常風景。
 しかしそんな普通の光景が、シンジにとっては嫉妬してしまうほどに眩しく写った。
 この世界は所詮作り物。どれだけ羨み妬んでも、それは絵の中の世界に悪感情を向けているのとまったく変わらない。
 そう自分に言い聞かせても、納得させられるのは表面上だけだ。
 心の奥ではやはり、何故俺達だけが、という思いがぐずぐずと燻っている。

 シンジの生まれ育ったシティは、彼が物心ついた時から市民カースト制度が根付いた格差社会だった。
 金銭面をはじめとし、あらゆる面で豊かさを約束されたトップスと、それとは対照的に冷遇をされ続けるコモンズ。
 コモンズは劣悪な居住環境へ押し込められ、トップス居住区に近付いただけでも治安維持のセキュリティが飛んでくる。
 今のシティに持たざるものの安息の地はない。
 自分達の居住区に閉じ籠もっているだけでは食料も物品もろくに揃わないので、子供達が盗みを働いてくる有様だ。
 生き地獄、そんな言葉がお似合いだ。
 現状を打破するにはトップスとコモンズの双方が親しんでいる、とあるカードゲームの祭典……差別意識と制度の根付いたシティで唯一すべての市民が平等に扱われる、「フレンドシップカップ」で栄冠を勝ち取る以外の手段はない。
 その栄冠はシティの頂点――すなわち、「キング」の座を意味する。
 現キングを打ち倒してその座を奪い取ったその時、長かった雌伏の時は終わりを告げる。
 コモンズの一斉蜂起から始まる革命がシティを覆い尽くし、散々虐げてくれたトップスの連中に土を舐めさせられる。

 そう思っていた。だが、現実は無情だ。
 シンジ・ウェーバーはキングの玉座の前にすら辿り着けぬ内に、その薄羽をもぎ取られた。
 ぶちり、と。子供が昆虫の羽を千切るように、革命の道は絶たれてしまった。

(だが――俺はまだ終わらねえ。いや、終われねえ)

 この世界に生きる「シンジ・ウェーバー」は、とある孤児院に雇われている用務員だった。
 そこには親友がいて、馴染みの深い子供達がいた。……勿論、すべて偽物。NPCという舞台装置に過ぎないが。
 記憶を取り戻したのは偶然だった。
 子供達にデュエルの相手をせがまれ、自分のデュエルディスクに触れた時――自分のすべきことを思い出した。
 聖杯戦争。英霊の座からサーヴァントなる存在を呼び出して使役し、生き残りの座を懸けて殺し合う儀式。
 他の全てを犠牲にして最後の椅子に座った者には聖杯がもたらされる。聖杯はどんな願いでも叶えてくれるという。

 聖杯さえ手に入れば、もはや奴らの土俵で相撲を取ってやる必要も消える。
 優勝の栄誉に預かることもなしに、あれほど誓ってきた革命を成し遂げられるのだ。
 町で盗みを働いて帰り、その成果を自慢気に披露する子供達。
 トップスにカードをばら撒かれ、侮蔑と憐憫の目を向けられた記憶。
 シティに楯突いた仲間が捕らえられたという報せを聞いた時のあの怒りも。
 すべて過去のものになる。聖杯が引き起こす一斉蜂起の後には、コモンズの受けてきた理不尽は欠片だって残しはしない。
 シティは変わる。変えてみせる。それだけの力が聖杯にはあり、それを勝ち取る覚悟がシンジにはある。
 シンジが二輪を停車させたのは町を見下ろすことのできる丘の上だった。
 日が落ちかけている町並みは夕焼けに美しく彩られている。
 この景色を戦場に変えることにも、今の自分は微塵ほどの躊躇いを感じていない。

「待ってろよ、クロウ、みんな……俺が勝ったらもう二度とお前らに不憫な思いなんてさせるもんかよ。
 必ずトップスの連中を引きずり下ろして、俺達コモンズが笑える世の中にしてやる……だから待っててくれ」

 必ず俺は、聖杯を持ってシティに帰る。
 どんなに腐りきっていようが、シンジにとっての故郷はシティだけだった。
 あそこは本当にろくでもない場所だが、そんな泥の底のような環境を決死に生きている仲間達が待っている。
 こんな場所では終われない。皆の願いを叶え、トップスに物を見せてやるまでは――二度と失敗はできない。

「……頼むぜバーサーカー。俺のデュエルはここじゃ通じねえ。お前の力だけが頼りなんだ」
「何も案ずることはない――我が肉体は不滅なり。共に圧政者を打ち砕こうぞ」

 シンジの傍らに実体化したのは、蒼白い肌に数えきれないほどの疵を刻んだ巨漢だった。
 誰の目からしても只者ではないと窺える存在感と気迫は、シンジをしても気を抜けば怯んでしまいそうになる。
 彼こそが、シンジの召喚に応じたバーサーカーのサーヴァント。
 真名をスパルタクス……奇しくも彼と同じく、理不尽な圧政に対して反旗を翻したことで英霊となった男である。
 シンジには、この出会いは偶然だとは思えなかった。
 理性なきバーサーカーとして召喚されてもなお消えることのない圧政者への敵愾心は天晴だ。
 そしてその姿こそが、シンジに聖杯を手に入れるためならばどんな手段にでも訴える覚悟を決めさせてくれた。

「我々は皆平等。私はそれを理解できぬものを嫌悪する。君は理解できているらしい……感謝! ただ感謝!」

 拍手喝采の勢いで吼えるバーサーカーに、頷きを返してシンジは再び町に目を落とした。
 覚悟なら決まった。今の自分ならば、この平和な町を火の海にだってしてやれる。
 全ては聖杯のために。奇跡でなければ成し遂げられない大革命のために。


 ――しかしシンジ・ウェーバーは重大な事実を見落としている。


 バーサーカー・スパルタクスは決して従者ではない。
 彼は常に、いかなる時も「圧政者」の敵であり続ける存在なのだ。
 それを主人(マスター)として使役しているという矛盾。そして、シンジの革命の先にあるもの。
 トップスにコモンズの味わってきた苦痛を味わってもらうこと。それは即ち、現状の逆転でしかない。
 シンジはコモンズの平穏を願っているが、その実トップスの失脚を祈り続けている。
 彼の願いが叶うとき。それは、彼がスパルタクスの最も忌む圧政者に成り果てる時でもあるのだ。
 今はまだ、かの狂戦士は箍を外していない。
 しかし、シンジがその思想の過ちに気付かない限りは――いつか必ず、スパルタクスは彼の敵になるだろう。



【クラス】
バーサーカー

【真名】
スパルタクス@Fate/Apocrypha

【ステータス】
筋力A 耐久EX 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具C

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
狂化:EX
パラメータをランクアップさせるが、理性の大半を失われる。
狂化を受けてもスパルタクスは会話を行うことができるが、彼は"常に最も困難な選択をする"という思考で固定されており、実質的に彼との意思の疎通は不可能である。

【保有スキル】
被虐の誉れ:B
サーヴァントとしてのスパルタクスの肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/4で済む。
また、魔術の行使がなくとも一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されてゆく。

【宝具】

『疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
常時発動型の宝具。
敵から負わされたダメージの一部を魔力に変換し、体内に蓄積して貯められた魔力はステータス強化と治癒能力の増幅などに転用され、傷つけられれば、傷つけられるほど強くなる。魔力への変換効率は彼の体力が減少するほどに上昇する。
首を裂かれようが、全身を切り刻まれようが、即座に再生するので決して戦闘を止めず、痛みも全く意に介していない。もし瀕死まで傷めつけられたならば、眼前のすべてを破壊して余りあるほどの膨大な魔力を溜め込むことだろう。
蓄積につれ巨大化し始め、傷ついた部分が腫瘍のように盛り上がるようになる。最大まで高まると完全に異形化、この状態となると三画の令呪を使用しても効果がなくなり、完全に制御不可能となる。
腕は八本に増え、内三本はまるで蛸足のように骨が無く、振るえば鞭のようにしなり岩盤を一撃で粉砕。
脚は自重が二本では最早支えきれないほどの重さとなっているので、昆虫のような副脚が大量に生え、重みを分散。
頭は首にめり込み、肩口からティラノサウルスの持つような上顎と下顎が突き出し、眼球も肩と首と腹部に存在し五つに増えている。また凄まじい量の魔力を帯びているため、ただの物理攻撃によって砕けた大地の破片ですらサーヴァントへの殺傷力を帯びるレベルで魔力に侵され、回避が非常に困難。
チャージ量最大で力を解放した場合、地形を変えるほどの威力を持った光の奔流によって戦場を薙ぎ払い、一撃で周囲一帯が更地と化した。

【人物背景】
トラキアの剣闘士であり叛逆者のスパルタクス。
相手の攻撃を全て受けきってから反撃するプロレスラーのような精神構造の男。虐げられる者たちのために戦い続けた紛れもない英雄だが、戦闘中もずっと微笑を絶やさないため、敵味方問わず不気味がられ、恐れられている。
聖杯を求める確かな動機はなく、ただ戦いの場に赴くことだけを悲願する。
被虐者を救済し、加虐者に反逆することだけを志すに彼にとって、戦場こそ弱き者と強き者しかいない場所であり、常に求めてやまない苦痛と試練に満ちあふれた場所なのである。

【サーヴァントとしての願い】
???


【マスター】
シンジ・ウェーバー@遊戯王ARC-V

【マスターとしての願い】
シティに革命を起こす

【Weapon】
カードデッキ『B・F』。
モンスターを実体化させ戦わせることが可能。ただし、サーヴァント相手に通じる程のものではない。

【能力・技能】
バイクを運転できる。D・ホイールではないが、その運転テクニックをそのまま利用することは可能だろう。

【人物背景】
虐げられる仲間を救うべく立ち上がった革命家。だが、その思想はいささか歪んでいる。

【方針】
聖杯狙い

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最終更新:2015年12月08日 18:16