0066:盗賊の極意
「盗賊の極意(スキルハンター)」
片手をかざしオールバックの男がそう唱えると、魔法のように本が現れ男の手の中に納まった。
この男―—A級首の盗賊集団、幻影旅団の団長クロロ=ルシルフルは。
このゲームに参加した時点で『念能力を使用すれば心臓を潰される』という制約をかけられていたが、
戦闘を避けられそうにないこの状況で能力が使用できなければ話にならない。
そう思い一か八か試してみたところ、心臓は潰されていないようだ。
もちろん、そうなるであろうという勝算はあったが、とりあえずはセーフだ。
「……白紙か」
生み出した本をパラパラとめくるが、中には何も書かれていない。
念能力を発動させても、鎖野郎の制約が働かなかった事。
盗賊の極意の中身が白紙に戻っている事。
この二点から見て、ここは自分たちのいた世界から完全に遮断された全く別物の世界といった所だろう。
この能力は術者から能力を盗んでいるだけだ。術者と遮断されてしまえばこの能力は使えない。
体術だけでもそれなりに戦えるだろうが、能力も欲しい、出来れば強力な武器も。
宝も、人も、能力も。
欲しいから奪う。
それが盗賊だ。
欲しければ奪うまでだ。
名簿の中で知ってる限り、念能力を使えるのはヒソカのみか。
食えない男だ、ヤツから能力を盗むのは難しいだろう。
他の次元の特殊能力も奪えるだろうか?
こればかりは試してみない事にはなんとも言えない。
機会があれば試してみるとしよう。
思考を打ち切り、支給品を確認しようとしたクロロは、すぐ近くに気配を感じその手を止める。
集中しなければ気づけない程の小さな気配。
熟練したプロの動きだ。何らかの能力者である可能性は高いだろう。
なにを思ったかクロロはオールバックに固めた髪を下ろす。
そして暗闇から気配の方向に駆け抜けると、男の顔面目掛け蹴りを放った。
掃除屋
スヴェン・ボルフィードは暗闇の町を歩く。
気配を殺しながらもその足取りは速く、どこか焦りの色が見えていた。
トレインの野郎は簡単にくたばるようなヤツじゃない。
リンスもなんだかんだで、こんな状況でも上手くやり通せるだろう。
問題はイヴだ。いくら強いといってもまだ子供だ、こんな異常な状況に耐え切れるわけがない。
すぐにでも保護しなければならない。
気配を殺しながらも、さらに歩調を速め道を急ぐ。
そんなスヴェンの目の前に、暗闇から突然男が現れスヴェンの顔目掛け蹴りを放った。
その蹴りは鋭く、明らかに熟練した格闘者のものだろう。
だがこちらも、あの黒猫の相棒を務めるほどの一流の掃除屋だ。
不意打ちとはいえ、その程度の蹴りは当たらない。
スヴェンはその攻撃を、顔を反らしギリギリで避ける。
そして落ちかけた帽子を片手で押さえ、スヴェンは男を睨みつける。
見た目はただの若い青年に見える、だが先ほどの動きから戦闘慣れした戦闘者だろう。
「不意打ちとはご挨拶じゃねえか、つまりお前はゲームに乗ってるってことだな」
「…そうだ」
男は短くそれだけを答えた。
「そうか、なら容赦はしねえぜ」
スヴェンは男に向かって駆け出した。
そしてスヴェンは男と激しい格闘戦を繰り広げる。
その実力は互角。
たとえ愛用の武器が無くとも、あらゆる状況に対応するのが掃除屋だ。
格闘戦でもそれなりには戦える。
事実、目の前の男と互角に渡り合えている。
そうスヴェンは自信と確信を持つ。
だが、その均衡は徐々に崩れつつあった。
男が顔面に蹴りを放つ、先ほどかわしたはずの攻撃が頬を掠める。
続いて放たれた拳を両腕で受けるが、受けた骨がミシリと軋む。
気のせいか徐々に攻撃が速く、重くなってきている。
まるで自分の実力に合わせているような…
遊んでいるのか? そんな風には見えないが。
なんにせよこのままでは勝てない。
そう確信したスヴェンは素早く眼帯を投げ捨てる。
そして現れた瞳が青く輝く。
それは亡き友人から受け継いだ能力『予見眼(ヴィジョン・アイ)』
未来を見通す異能の眼。
その瞳を気にせず男が迫る。
――蹴り。
男が足を大きく振りかぶり、こちら目掛け鞭のようになぎ払う。
その蹴りがこちらに届く前に、素早く攻撃範囲内から脱出する。
――突き、突き。
男が拳を二発繰り出す、正確に急所を狙ったその攻撃を片手で払い、反撃の蹴りを決める。
敵の行動が手に取るようにわかる。
それは読みなどというレベルの話ではない。
見えるのだ、敵の次の行動が。
ならばどれだけ敵の行動が速かろうと、こちらはそれに合わせて動けばいい。
「なっ…!」
正確に反撃を食らった男は、後ずさり驚愕の声を上げる。
「無駄だぜ、あんたがどれだけ速かろうと、俺の目には見える」
「…それはどういうことだ?」
怯えたように男は問いかける。
「――未来が見えるってことさ」
その様子に勝利を確信してしまったのか、つい口が滑る。
「…そうか」
その答えを聞き、男はそれだけを呟き俯いた。
そして、ユラリと揺らめいたかと思うと、男の姿が闇に消えた。
次の瞬間、この予見眼が捕えた光景は、10m程離れていたはずの男が自分の腕を掴んでいる光景。
その動きは、来るとわかっていても反応しきれない程の動き。
その光景をなぞるように男は駆け、あっさりと予見した光景が再現される。
見下ろすと腕を掴んだ男と目が合った、その表情は先ほどのまでの怯えた表情は消え、完全に色を失くしていた。
そして、職業柄その男の目を自分は良く知ってる。
冷たく凍りついた殺し屋の眼だ。
これまでの全ては演技だったとでもいうのか?
折られる、瞬間的にスヴェンはそう思ったが、男は意外な行動に出た。
盗賊の極意の手形に男の手を合わせる。
それだけを行うとスーツの男を蹴飛ばし、転がる男をそのままにその場から離れた。
「…成功だ」
広げた本を見つめクロロは僅かに笑みをこぼす。
これで実証された、この世界の特殊能力も盗める。
だが術者が死んでしまえば、盗賊の極意で奪った能力は使えない。
殺してしまっては意味が無いし、あの男がこのゲームで誰かに殺されても消えてしまう。
それに生かさず殺さず、ギリギリまで追い詰めて能力を使わせるというのは骨が折れる。
だがそれでも奪う。奪えるものは全部、道具も、力も。それが盗賊、幻影旅団だ。
【茨城県/黎明】
【スヴェン・ボルフィード@BLACK CAT】
[状態]:僅かに疲労、ダメージ、眠気、予見眼使用不可
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(不明)
[思考]:1イヴを探す(ついでにトレインとリンスも)
【クロロ=ルシルフル@HUNTER×HUNTER】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(不明)
[思考]:1能力を盗む
2アイテムを盗む
[盗賊の極意]:予見眼
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最終更新:2024年08月16日 20:00