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閲覧禁止の思い出たち」を以下のとおり復元します。
  終わった。
  何が終わったかって、今まで隠していた物が見つかってしまったのだ。
  自分でも忘れるような場所に隠していたのに、どうして彼女は見つけてしまったのか。
  そもそもどうして実家ではなくうちにあるのか。どうして引っ越しのときに持ってきてしまったのか。
  当時の自分に問いたくなる、小一時間。
「ぺ、ペリドット……それは……」
「ふふふ、卒業アルバムですよね?」
「……見るなあぁーっ!」
  ペリドットが見ていたのは、小学校の卒業アルバム。
  高校ならまだしも、何で小学校のがうちにあるのか、謎だ……しかもそれペリドットに見られたというのはかなり痛い。
「これは運動会の時ですか?」
  俺にアルバムを見せてくるペリドット。
「……ああ」
  目をアルバムに合わせず答える。
「では、この走っているのはマスターですか。今の面影が残っていて……可愛いですね」
「か、可愛いとかいうなっ!」
  きっと俺の顔は真っ赤だ。
  ペリドットと顔を合わせられない。彼女の顔が、まるで昔を懐かしむ母親みたいに見える。
「それ見てていいからさ……とにかく俺は部屋にっ」
「駄目ですよ、マスターの思い出話も聞きたいんですから」
「そりゃむしろ拷問だ!」
  幼少のころの自分なんて見せつけられて、恥ずかしくないわけがない。
「初恋はクラスメイトの方ですか? たとえばこの子とか」
「っ! な、何をいきなりっ」
「何となくですよ。ふふふ」
  くそっ、なんか見透かされている気分だ。
  確かに俺の初恋は同じクラスの……って、何恥ずかしいこと思い出してるんだよ。
  あー、調子狂う。とりあえずお茶を飲んで一息。
「卒業文集……マスターのはこれですね?」
  お茶を盛大に吹いた。
「頼む、読まないで、この通り」
「将来の夢、ですか。大工さんになりたかったんですね」
  これなんて羞恥プレイだ? 俺何か悪いことしたのか? つーか読むの早いよペリドット。
「もう駄目だ、俺恥ずかしくて死ぬ」
  その場にひざまずく。
  だが、そんな俺をペリドットはいつもの笑顔で見つめて……。
「こうしてみると……私はマスターのこと、何も知らなかったって思い知らされます」
「世の中には知らなくていいこともあるんだよ……」
「でも、私はマスターのことたくさん知りたいです。だから他のアルバムも是非」
「駄目、俺が教えたくない。だからそれ返せ!」
  ペリドットからアルバムを取り返そうとするが、胸にしっかりと抱かれたそれは俺の手をかすめてしまう。
「どうしても、嫌ですか?」
  寂しそうな笑顔。俺が弱い顔の一つ。
「ほんの少しでもいいんです。形になっているだけでも、マスターの思い出を私にも共有させていただけませんか?」
  ……これまた俺が最も弱い、ペリドットのおねだり。
「……べ、別に、いいけどさ」
  そして、意志が弱いと痛感させられる瞬間。
  ホント、この顔されるとどうもなぁ。
「では、マスターの思い出を聞かせてください。まずはこの運動会のから」
  で、気づいたらいつもの顔で笑っているペリドット。
「うっ……くそぉ……」

  お茶を何杯飲んだかは分からない。
  それだけ長い時間、俺はペリドットに思い出話を話すハメになった。
  結局すべての卒業アルバムを引っ張り出す羽目になり、ことあるごとにペリドットの質問攻め。
  今年一年の羞恥すべてを出し切った気分だ。マンツーマンで自分の過去を晒すのがこんなにも恥ずかしいとは。
「ありがとうございます」
「……うん」
  ペリドットと顔を合わせられない。
  彼女の笑顔を見るだけで、きっと俺の顔はレッドアラートになる。
「マスターと出会えなかった時間を、少しでも埋められて……私は幸せですよ」
「そういうこと言うなよ、恥ずかしいんだから……」
  俺の言葉に、ペリドットは笑顔を返してくる。
  そして一言。
「これからの時間は、ずっと共有していけるといいですね」
  ……そうだな。
  口には出さなかったが、その言葉にはまったく同意だ。
  お互いがそう望むなら、俺が墓の下に行く瞬間まできっと……。
「……ペリドット、今度どっか旅行にでも行くか」
  思いつきで、そんなことを言ってみた。

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