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朝の散歩道~鈴蘭~

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匿名ユーザー

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  休日の朝、いつもの散歩道を歩く。不健康な生活をしていると、朝のすがすがしさが身にしみる。
  身体が乾いていたのかな。
  適度に湿度を含んだ空気が身体に染み渡るようで、細胞の一つ一つが目覚めていくことを実感する。

  「目が覚めたようですね」

  連れ立って歩く彼女に声を掛けられる。

  「ああ、生き返るようだよ。土と水から離れては生きていけないっていうのは正しいね。
   仕事に追われる毎日っていうのも、考え直さなきゃならないかな」
  「マスターのいいようになさって下さい。私は何があっても、どんな時でも
  マスターを信じてついていきますから」
  「君がいてくれるだけで、それだけで僕は大丈夫って思えるよ」
  「まあ、朝から口説いていただけるのですか?」
  「いやいや。あ、ほら、鈴蘭が咲いてるよ。小さい花が並んでる。朝露が雫を垂れる姿っていうのもいいね」

  春なんだなぁ。子供の頃はよく見かけたものだけど、最近は見なくなったな。環境のせいだろうか。

  「可憐な姿でも毒を持っていますから、生き物には有害なんです。でも、あまりに可愛らしくて生き物の興味を惹いたのかもしれませんね。
  自分の身を守るために毒を持ったのでしょうか」
  「見てる分にはいいのだけれどね。綺麗なものや、柔らかそうなものとか、美しいものには触りたいって思うのが人だからね」
  ふと、ペリドットが僕の顔を見上げる。

  「そうなのですか?」
  「ん? なにが?」
  「綺麗なものや、柔らかそうなもの、美しいと思ったものに触りたくなると言うことです」
  「ああ、そうだと思うよ。『触欲』なんてことを言った人もいたな」
  「マスターもですか?」
  「そうだね。僕も同じだよ」
  「でも、マスターは私に触れてくれないのですけど……」
  「……あ、あっちにも綺麗な花が咲いているようだ」


  「生真面目なんだから……」

  と、彼女の呟きが聞こえたような気がしたが。僕は足早にその場を離れた。


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