宝石乙女まとめwiki

紫の月

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匿名ユーザー

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「綺麗な月だね、殺生石」
「アメジスト……」

 月に見とれていた彼女に話しかける。
これだけ近付いていたにも関わらず気づいていなかったようだ。

「今夜はブルームーンというらしいよ」
「そう、それで何の用かしら」
「『有り得ないこと』という意味だそうだ」
「……」

殺生石に構わず話を続ける。

「本来、青い月なんて有り得ない……だからブルームーンが有り得ないことと言うのなら、人間は愚かだね」
「貴女は見たことがあるのかしら?」
「あぁ、紅い月も蒼い月も……私たちは宝石乙女。その存在だって有り得ない物だからね」
「人間は自分たちの理解しうる世界が全てだと思う、傲慢な生き物ですもの」
「なら何故キミは今、人間と馴れ合い生きているんだい? それこそ有り得ない」

突然の問いかけに殺生石が黙る。
彼女のプライドを傷つけただろうか?
殺生石の力は“コチラ”につけば大きな力になる。
なるべく機嫌を悪くさせないように――

「貴女には妾が人と馴れ合っている様に見える?」

――瞬間。
木々が騒めく。
猛烈な毒気に辺りが歪む。

「貴女がそう思うのなら、あの人間も信じて疑わないであろう」
「せっしょうせ……」
「侮るなアメジスト。妾はかの白面の者が宿りし岩、その化身ぞ。
 身体は許しても心までは許さぬ」

そうだ。
封じられたとしても、彼女はあの、白面金毛九尾の狐。玉藻の前その者なのだ。

「へぇ……流石は九尾、私もビックリの殺気だ」
「勘違いするな。妾はあの薄汚い女狐などではない。
 あくまでその化身、殺生石じゃ」
「私にはそこに何か違いがあるのかはわからないが」
「……だが玉藻の前の残した恨み、憎しみ、この世全てを覆い尽くすかの様な毒……総てこの身に伝わっておる
 何度か名のある和尚が封じにもきた。だが妾の気を鎮められるものなど人間におるはずもなし」
「……」
「気をつけろアメジスト、妾の毒は人形にも効くぞ」

大したものだ……。
この女、食えないとは思っていたがよっぽどの猫かぶりだったらしい。
勧誘どころかとっくに“コチラ”側の宝石乙女だったか……?

「それは怖い。別に私は喧嘩をしにきた訳じゃないよ。
 まぁキミが誰とも組まないということも苦しいくらいわかったからその毒を収めてくれ」
「ふん、お前は気に入らん。今夜の月もお前がいては石ころにも劣る」
「ふー…… 月長石とは仲良くしてやってくれ。あいつは私の様には考えていないからな」
「……」
「それじゃあ帰ろうか。……ん?」
「あーアメジスト」

帰ろうとした矢先、蛋白石が現れる。
殺生石の毒気に当てられて全く気付かなかった。
というかこの辺り一体丸っきり異界……だ、った?

「あら、蛋白石。まだ起きていたの?」
「んー……物音がしたから起きたのー。殺生石は何してたの?」
「空をご覧なさい。この月の前では突然の不法侵入者でも良い話し相手になってしまいます」
「わーホントだ。きれー」

……スゴい変わり身だ……さっきまで私のこと邪魔とか言ってた癖に。
ある意味乙女らしいと言えば乙女らしいか。ていうかいつの間に毒を……。

「それじゃ私は帰るから。電気石にもよろしくね、蛋白石」
「あ、え? えと、うん。バイバイ」
「またいつでもいらっしゃい。今度は昼間にでもね」

生憎昼間は寝てるんでね。
ってそれを知ってて言ったんだろうか。
……まぁもうここにはあまり来ないだろう。
月長石には殺生石にあまり近付かないように言っておこうか。

 身体に残る毒気を祓いながら夜空を飛ぶ。
なるほど、今夜の月は金色だったか。

――殺生石の毒界(セカイ)からみた月は、それはそれは美しい、禍々しい紫の月だった

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