うちのマンションの近所には、ちょっとした雑木林がある。何でも売れ残りの土地らしく、今も買い手はつかないとか。まぁ、子供たちの遊び場としても人気はあるし、このままでいいのかも知れない……いや、あたしとしては勘弁して欲しいところもあるけれど。
「ママー、ミンミンさんどこぉ?」
「ママー、ミンミンさんどこぉ?」
「んー? ミンミンさんはソーダじゃちょっと難しいかなぁ」
「えー……」
麦わら帽子に虫取り網とかご。かごの中には、蝶やバッタが数匹入っている。
夏服姿のソーダがあたしの顔を見上げてくる。ちなみに、この虫取りグッズは天河石のマスターさんからもらったものだ。
「じゃあ、肩車してあげるから。ほら、そこにいるよ?」
さっきからあたしの背後でうるさい鳴き声を上げてるセミを指差す。といっても、ソーダには見えないかな。木の模様に紛れているし、何しろソーダの身長の何倍も高いところにいる。
「えへー、たかいー♪」
ソーダを肩に乗せ、立ち上がる。女のあたしがこんなことするというのもなんだか不思議な話だけど、体重の軽いソーダならこれぐらいはできる。
しかし……。
「そ、ソーダ、あまり網振り回さないで……顔に当たる」
「えーとぉ……ママー、ミンミンさんどこー?」
木を目がけて振るうも、セミがいる方向とは全く違うところにばかり向かっていく網。しかもさっきから柄の部分が頬や額に……けっこう痛い。
「も、もう少し右だよ、右。あとあまり大きく振らないで……」
「みぎぃ? んー……」
自分の手を見て考え込むソーダ。左手にお茶碗を持つような仕草を見せて……どうやら理解したようだ。
「右ーっ」
……行き過ぎだった。ついでに、頬にまた柄が当たる。
「あれぇ?」
「……もう少し、左」
「左ぃーっ」
先ほどよりは……それでも、まだ遠い。ついでに、今度は額に命中した。しかも、この狙いが定まっていない網に対してセミは余裕だ。まるで何ごともないかのように鳴いている。
「……はい、ここで真っ直ぐ振って」
これ以上は許して欲しいので、今度はあたしが移動する。
「えいっ」
あたしの言うとおり、真っ直ぐ網を振る。力強く。……鼻の頭に、柄が当たった。今のはかなり痛い。軽く足下がふらついてしまう。
軽く……のはずだった。だけど、頭頂がソーダを肩車しているおかげで高くなっていたあたしは、その拍子にバランスを崩した。
「あっ!」
その瞬間、見上げた先。
網の中で飛び狂うセミが、目に入った。
「えー……」
麦わら帽子に虫取り網とかご。かごの中には、蝶やバッタが数匹入っている。
夏服姿のソーダがあたしの顔を見上げてくる。ちなみに、この虫取りグッズは天河石のマスターさんからもらったものだ。
「じゃあ、肩車してあげるから。ほら、そこにいるよ?」
さっきからあたしの背後でうるさい鳴き声を上げてるセミを指差す。といっても、ソーダには見えないかな。木の模様に紛れているし、何しろソーダの身長の何倍も高いところにいる。
「えへー、たかいー♪」
ソーダを肩に乗せ、立ち上がる。女のあたしがこんなことするというのもなんだか不思議な話だけど、体重の軽いソーダならこれぐらいはできる。
しかし……。
「そ、ソーダ、あまり網振り回さないで……顔に当たる」
「えーとぉ……ママー、ミンミンさんどこー?」
木を目がけて振るうも、セミがいる方向とは全く違うところにばかり向かっていく網。しかもさっきから柄の部分が頬や額に……けっこう痛い。
「も、もう少し右だよ、右。あとあまり大きく振らないで……」
「みぎぃ? んー……」
自分の手を見て考え込むソーダ。左手にお茶碗を持つような仕草を見せて……どうやら理解したようだ。
「右ーっ」
……行き過ぎだった。ついでに、頬にまた柄が当たる。
「あれぇ?」
「……もう少し、左」
「左ぃーっ」
先ほどよりは……それでも、まだ遠い。ついでに、今度は額に命中した。しかも、この狙いが定まっていない網に対してセミは余裕だ。まるで何ごともないかのように鳴いている。
「……はい、ここで真っ直ぐ振って」
これ以上は許して欲しいので、今度はあたしが移動する。
「えいっ」
あたしの言うとおり、真っ直ぐ網を振る。力強く。……鼻の頭に、柄が当たった。今のはかなり痛い。軽く足下がふらついてしまう。
軽く……のはずだった。だけど、頭頂がソーダを肩車しているおかげで高くなっていたあたしは、その拍子にバランスを崩した。
「あっ!」
その瞬間、見上げた先。
網の中で飛び狂うセミが、目に入った。
「ママぁ、ごめんね」
気づいたときには、駆けつけてきてくれた爆弾岩さんに膝枕されていた。首に下げたかごを見てみると、中にはしっかりとセミがいる。
「……今度からは、あまり網を振り回さないように」
「はぁい……」
まぁ、セミを捕まえられたのが唯一の救いか。この鼻の頭の痛みも勲章になるということだ。
「それにしても、ソーダと一緒に虫取りだなんてねぇ。貴女、虫嫌いなイメージあるけど」
こちらを見下ろし、微笑む爆弾岩さん。
「子供のころは、男の子と一緒にけっこうやりましたから」
「へぇ。ちょっと意外ねぇ」
だから、あまりきつく叱ることはしないんだけど、ね。さすがに最後のは本当に痛かったけど……なんか、ソーダが自分の小さなころに見えてきてしまう。
「あーっ、ピョンピョンさんだーっ」
「……え?」
あー、ちなみにカエルは例外。昔から苦手だったから。
気づいたときには、駆けつけてきてくれた爆弾岩さんに膝枕されていた。首に下げたかごを見てみると、中にはしっかりとセミがいる。
「……今度からは、あまり網を振り回さないように」
「はぁい……」
まぁ、セミを捕まえられたのが唯一の救いか。この鼻の頭の痛みも勲章になるということだ。
「それにしても、ソーダと一緒に虫取りだなんてねぇ。貴女、虫嫌いなイメージあるけど」
こちらを見下ろし、微笑む爆弾岩さん。
「子供のころは、男の子と一緒にけっこうやりましたから」
「へぇ。ちょっと意外ねぇ」
だから、あまりきつく叱ることはしないんだけど、ね。さすがに最後のは本当に痛かったけど……なんか、ソーダが自分の小さなころに見えてきてしまう。
「あーっ、ピョンピョンさんだーっ」
「……え?」
あー、ちなみにカエルは例外。昔から苦手だったから。
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